目覚めたらそこはワイバーンの巣でした   作:天寧霧佳

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011 アルファエンバークリスタルワイバーン 4

アルファが倒れた。

それは一目瞭然のことであり。

そしてそれは、対峙していたヘアー、ライトニングワイバーンの二頭の勝利を意味していた。

白目を剥いて崩れ落ちたアルファの首元から口を離し、ヘアーは天に向かって咆哮した。

 

いつしか、散り散りに逃げていたワイバーン達が集まってきていた。

砂漠を多数のワイバーンが埋め尽くす。

ヘアーの咆哮に呼ばれるように。

アルファという脅威を伏した彼の力の前に、皆ひれ伏すように。

 

ライトニングワイバーンが足を進める。

彼はヘアーの脇に立つと、体から白い煙をあげているアルファを見下ろした。

そしてくぐもった声で小さく言う。

 

「……殺せ」

 

弾かれたように少女は顔を上げた。

しかし言葉を発しあぐねている彼女を横目で見てから、彼は続けた。

 

「ヘアーよ、殺すのだ。結局は言葉ではなく、力でねじ伏せた。お前の、我らの勝利だ」

「そんな……」

 

少女はやっと、しゃっくりのような声を上げた。

そして喉を引きつらせながら言う。

 

「そんなの駄目……駄目だよ……」

「ならどうしろと言うのだ」

 

ライトニングワイバーンが重苦しく続けた。

 

「お前は、この凶暴なワイバーンを生かして、これからまた何も起こらないと、そう言うのか? 証明できるのか? それを、ここで我らを見ている全てのワイバーンに」

 

そんなことは。

そんなことは……。

できない。

 

少女はそれを自覚して、口を閉ざした。

それほど、自分達を見つめるワイバーンのおびただしい数の目は語っていた。

 

『殺せ』

 

と。

その敵を殺すのだ。

とどめを刺すのだ。

すべての目がそう言っていた。

ヘアーが息を吸い込んで、四肢を踏み固める。

少女は転がるようにヘアーの背から地面に降りると、アルファと彼の間に割って入った。

そして両手を広げる。

 

「駄目……駄目だよヘアーさん!」

「どけ。もはや説得の余地はない。その者は敗者として焼かねばならん」

「そんな……ヘアーさんはそんなことを望んでない! そうでしょ? ヘアーさん!」

 

ヘアーは少女を青く輝く目で見下ろした。

そして、静かに言った。

 

「どくのだ。お前は良くやった。だが、これが自然の摂理だ」

「…………」

「敗者は強者に破れて命を落とす。落とさねばならない。そうでなければ、誰が納得するというのだ。だから、儂は殺らねばならん。其奴を、我が手にかけねばならん。力で斃したのならば、もう逃れる方法はない」

 

アルファに殺された、沢山のブラッドクリスタルワイバーン達。

そして、被害を受けたトロピカルクリスタルワイバーンの一族。

砂漠に住むすべての者達。

アルファの力に恐怖し、戦い、逃げて来た者達。

 

そうだ。

私は、説得出来なかった。

力でねじ伏せただけだ。

それは説得ではない。

暴力だ。

 

少女はその事実に気が付き、両手を下ろした。

彼女の大きな目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。

彼女は泣きじゃくりながら、掠れた声で言った。

 

「それでも……私は、私は、ヘアーさんにこの人を殺してほしくないよ……」

「……どけェ……」

 

そこで背後からくぐもったうめき声がして、少女は慌てて振り返った。

アルファが白目を剥きながら、血反吐とともに言葉を絞り出す。

 

「こんなチビザルにかばわれるほど……俺ァ落ちぶれちゃいねェ……」

「…………」

 

アルファは、まだ殺気を発していた。

その淀んだ空気に、少女がヘアーの方によろめいて数歩下がる。

 

「クソがよ……折角、強くなれたと……思ったのによ……」

「アルファさん……」

 

少女が震える声で彼を呼ぶ。

アルファは自嘲気味に笑うと、少女に向かって言った。

 

「誰も助けちゃァくれなかった……誰もいなかった……なら、自分が強くなるしかねェ……だから俺ァ……」

「…………」

「殺れよ……てめぇらの勝ちだ……」

 

動くことも出来ない、傷ついたワイバーン。

ヘアーは、しばしの間その姿を、深い悲しみをたたえた目で見つめていた。

やがて彼は、大きく息を吸い……。

 

 

アルファは、エンバークリスタルワイバーン、ヘアーの手によって斃された。

その知らせはワイバーンの谷中を駆け巡った。

自分達を脅かす敵がいなくなった。

家族を失ったブラッドクリスタルワイバーン達は、悲しみ、苦しみの中生きていく。

そして、新たな生命が生まれていく。

 

ヘアーの巣の中で、少女はメジョベリーを齧りながら空を見ていた。

朝焼けの陽が昇るところだった。

 

「……こんなに早く起きて、大丈夫か?」

 

そこで、少女の脇で座っていたヘアーが言った。

少女はヘアーを見上げて、小さく笑った。

 

「うん。ここから見える太陽、すごく綺麗で」

「そうだな……」

 

砂漠の方角から、太陽が昇ってくる。

 

「自然は残酷だが、美しい。不思議なものよ」

「ヘアーさん、私、アルファさんを説得できなかった」

 

少女は、自分の足を体に引き寄せて、膝に顔を埋めた。

 

「私は、何も出来なかった」

「お前は、立派に儂を救ってくれたではないか」

 

ヘアーはそう言って、少女の顔の前に鼻先を持ってきた。

 

「お前がアルファの炎を割ってくれなかったら、儂は危なかった。感謝している」

「感謝だなんて……それに、あの時は無我夢中で……」

 

左手の灰色の鉱石を見る。

手を振ってみるが、あの時のような輝きを発することはなかった。

何なのだろう。

これは。

そう思った時、ヘアーが言った。

 

「あの時、アルファの首にも、お前の手にあるような石を見た」

「うん……」

「おそらくこれが、アルファの異常な力の正体だ」

 

ヘアーは何度か咳をして、喉の奥から、少女が一抱えするほどの石を吐き出した。

それは緑色に輝いており、所々が飛び出して刺々しい見た目になっている。

そして、地面に当たる……と言う瞬間に、重力に逆らってふわりと浮いた。

 

「え……?」

 

目を丸くしてそれを見る。

 

「これは……?」

 

小さく呟き、指先でつついてみる。

不思議なその石は、緑色の光を内側から放っているようだった。

 

「アルファの首にあった石の中から出てきたものだ」

「何だろう……何か、懐かしいような……」

 

少女は光る石を撫でて微笑んだ。

 

「…………」

 

そんな少女の様子を見下ろし、ヘアーは重く言った。

 

「アーティファクト……」

 

顔を上げた少女に、彼は続けた。

 

「我々はそう呼んでいる」

「アーティファクト……? それって?」

「どこから現れたのかは分からない。誰が掘り出したのかも分からない。ずっと前から存在していたとも言われる。それは、生き物に力を与えるそうだ」

「じゃあ、これがアルファさんを……」

「そうだと考えてもいいだろうな」

 

ヘアーはそう言ってから、また緑色のアーティファクトを飲み込んだ。

 

「あ……」

「これは、誰も見つけられぬところに捨てよう。その時まで、儂が預かっておく」

「……うん!」

 

頷いた少女に、彼は小さく笑って言った。

 

「はは……変な奴よ」

「そう……かな?」

「だが、嫌いではない」

 

彼が言葉を続けようとして、息を止める。

不思議そうに彼を見上げた少女に、ヘアーは

 

「しっ……」

 

と小さくそれを打ち消して止めた。

ヘアーが温めていた卵が揺れていた。

内側から。

 

「これって……もしかして……!」

「ああ。やっと産まれるか……!」

 

固唾を呑んで見守る二人の前で、卵は内側からつつかれ、少しずつヒビを広げていた。

そして少しして少女と同じくらいの大きさの、小さな黒いワイバーンが顔をのぞかせる。

ちょうど目が合ってしまい、少女はびっくりした顔のままその小さなワイバーンを見た。

 

丸い目が丸い目を見つめる。

そして、小さなワイバーンは首を傾げて少女に小さく鳴いた。

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