目覚めたらそこはワイバーンの巣でした   作:天寧霧佳

8 / 12
008 アルファエンバークリスタルワイバーン 1

おかしなワイバーンだった。

体から生えている水晶から、クリスタルワイバーンであることは分かったが、自分がどこから来て、どの種族なのか、自分から話そうとはしなかった

 

とは言え、勿論そんなことに興味はなかった。

彼にとって、彼女が何であれ、そんなことはどうでも良かった。

なら、何故助けるような真似をしたのか。

今考えてみると、分からないことでもある。

 

ただ、彼はそのワイバーンを見てみぬふりをすることが、どうしても出来なかった。

自分が今まで、ずっとそうされてきたから。

周りが、今までずっとそうだったから。

 

もしかすると……。

周りから見た自分はこんなにも情けないものであり。

か弱い存在だったのだろうか。

 

その恐怖もあった。

そして同時に、彼は彼女に別の言いしれぬ感情を抱いたのだ。

 

彼女が彼を綺麗だ、と形容したように。

彼もまた、そのワイバーンの金色に輝く姿を見て、同じ想いを抱いたのだ。

それは自覚していたことではない。

その時に、明確にそう感じていたわけではない。

 

だが、思い起こすとやはり。

そのワイバーンは、美しかった。

 

怪我をしているということは本当だった。

足の骨が片方、折れている。

これでは自然で生きていくことは難しい。

それは巨体を持つワイバーン族であろうと、別例ではない。

 

だが、彼は彼女を庇い、そして保護した。

自身の巣で休ませ、食事を与えた。

彼女は、それに抵抗はしなかった。

ただただ不思議そうに自分を見上げる金色のワイバーンに、彼は言った。

 

「……傷が癒えたらここを出て帰るんだ。お前には、お前の一族がいるのだろう」

 

しかし、そう言われた金ワイバーンは、目を伏せて視線を反らせてから口を開いた。

 

「……私には、私の一族などおりません。私は一人で生きているのです」

「一人で……? ハッ、笑わせる」

 

罵るように吐き捨て、彼は巣の入り口に座り込んだ。

 

「足を折って動けなくなっている輩がそんな台詞を吐くとはな。笑いも出るわ」

「これは……」

 

金ワイバーンが、折れた足を隠すように体を動かす。

 

「…………」

「黙っていては分からん。何者かにやられたのか?」

 

問いかけを受け、彼女は俯いてから言った。

 

「……貴方には感謝をしています。こうして私は、身を隠せているのですから」

「隠している? 何からだ?」

「砂漠の、エンバークリスタルワイバーン一族からです」

「へぇ……お前はエンバークリスタルなのか」

「…………」

 

また黙り込んだ彼女に、しかし怪訝そうに問いかける。

 

「何故同族がお前の足を折る? そんなことは聞いた試しもない」

「貴方こそ、こんなところでどうして一人で……? 砂漠からはだいぶ離れています」

「俺はエンバーだが、砂漠の一族とは無関係だ。子供の頃から一人で生きてきた」

「一人で……?」

 

驚いたように顔を上げた金ワイバーンに、彼は小さく笑って答えた。

 

「ああ。仲間や家族などくだらないものは、俺は持ち合わせていない。俺は、俺のことを自分で全てできる。これからも必要などない」

「貴方は、とてもお強い方なのですね」

 

金ワイバーンが少しだけ笑う。

その煌めくように笑顔に、彼は戸惑ったように目を逸らした。

そして歯を噛んで言う。

 

「……フン。弱いお前に言われても、嬉しくも何ともないわ」

「私にも、そんな強さがあったらな……」

 

彼女は小さくそう言って、息をついた。

 

「気に入らない者がいたら焼き尽くせばいい。噛みついて引き裂けばいい。喰らえばいい。俺は今までそうしてきた。お前もそうすればいいだけの話よ」

「…………」

「エンバーの力は飾りか? 炎を吐け。牙を鳴らせ」

「私は……」

 

金ワイバーンは目を伏せて、寂しそうに言った。

 

「私は、アルファです」

「……は?」

 

彼はそれを聞いて、数秒停止した。

そして喉を鳴らして笑い始める。

 

「ハハハ! こんなに弱いアルファがどこにいる! 嘘をつくのも大概にしろよ! 面白い冗談を言う」

「冗談ではありません」

 

彼女は体を起こし、真っ直ぐに彼を見た。

その透き通る瞳に見つめられ、息を呑む。

言葉を止めた彼に、彼女は続けた。

 

「私は、エンバー一族から産まれた、アルファエンバークリスタルワイバーンです。ですが、私にはアルファとしての戦闘の力はなかった……受け継ぎきっていなかった、突然変異のようです」

「本当……なのか?」

「はい」

 

目を伏せて、彼女は言った。

 

「父と母は、それを知りながら、隠して私を育ててくれました。しかし先日……一族に、私がアルファであると見抜かれてしまい、二人は殺されました」

「…………」

「私は命からがら逃げ、ここに墜落したのです。足は、他のエンバー一族に折られました」

「……なら何故俺を見て逃げなかった? 俺も、お前に酷いことをするかもしれなかったんだぞ」

 

彼の言葉に、小さく笑ってから金ワイバーンは答えた。

 

「だって、貴方はとても『綺麗』だったから。今まで見た、どのワイバーンよりも、ひときわ強く」

「…………」

「話しすぎましたね……夜明けには出ていきます。私を匿っていることが分かったら、貴方まで父と母のように殺されてしまう。ですが、体が動きません……もう少しだけ休ませてください」

 

うずくまった金ワイバーンに、彼は言葉を返すことが出来なかった。

自分をアルファだと言うこのワイバーンは、とても弱そうに見えた。

だが、嘘をついている感じはどこにもなかった。

そこには悲しい現実を受け入れている心であり、静かな「諦め」の感情が読み取れた。

 

ゆっくりと折れたらしい足を見る。

砂漠からここまで、傷を抱えて逃げてきたそうだ。

 

何故だ。

 

彼は、心の中でそう思った。

 

何故、アルファというだけで狩られなければいけない。

何故、同じワイバーンにこんな事ができる。

こんな。

こんな風に。

自分も一人で見捨てられて、吐き捨てられて。

 

こんな風に、生きていたのか。

 

「……ああ」

 

考え込んだ後、一言、彼は肯定した。

吹きすさぶ風に、砂が混じっている蒸し暑い夜だった。

 

 

ワイバーン達の咆哮が、森に響き渡ったのは、夜明け間際のことだった。

大地を揺るがし、空気を切り裂くその怒りの声は、森中に響き渡り、動物達を一気に目覚めさせた。

混乱した鳥達が夜明けの空に一斉に飛び立つ。

 

眠りから一気に現実に引き戻されて、弾かれたように顔を上げた金ワイバーンは、しかし巣の中に彼が居ないことに気づいた。

そして青くなる。

 

「まさか……」

 

呟いて、足を引きずりながら立ち上がる。

 

「駄目……」

 

視線の先には、おびただしい数のエンバークリスタルワイバーン達。

自分を追ってきた、追撃の手が映っていた。

 

 

彼は、空中でエンバークリスタルワイバーン達と対峙していた。

先頭にいた赤い翼竜が、歯を鳴らして怒鳴った。

 

「何だ貴様ァ! そこをどけ! どこの一族だ!」

 

ギャアギャァとエンバー達がざわめき立つ。

彼は、しかし落ち着き払った様子で周囲を見回して口を開いた。

 

「ここは俺の縄張りだ。お前らこそ何だ?」

「我らは邪悪なるアルファの根を絶やすために動いている! 貴様のような野良ワイバーン風情に縄張りを主張される言われなどない!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。