目覚めたらそこはワイバーンの巣でした   作:天寧霧佳

9 / 12
009 アルファエンバークリスタルワイバーン 2

「へぇ……? 言われはないねえ……」

 

馬鹿にしたようにヘラヘラと笑った次の瞬間、彼の表情が豹変した。

口から豪炎を吐き出し、目の前のワイバーンに浴びせかける。

噴出された炎を真正面から受けてしまい、不意打ちを食らったエンバークリスタルワイバーンは、燃え上がりながら空中を旋回して墜落していった。

 

「貴様……!」

 

ワイバーン達が喚き始める。

その言葉を吹き飛ばす勢いで、彼は怒鳴った。

 

「ここは俺の縄張りだ! 誰であろうと、俺の縄張りで勝手はさせない! 通りたければ俺を殺してみせろ!」

 

彼の発する圧に気圧されたのか、エンバー達が空中を一歩下がる。

彼は鱗を陽の光にきらめかせながら、真っ青な目を爛々と輝かせて言った。

 

「俺が……相手をしてやる。かかってこい。砂漠のエンバーとやら!」

 

 

よろめきながら空中を飛び、金色のワイバーンは森を抜けた。

まさか……まさか。

彼は、一人で向かっていったのではないだろうか。

そんな不安が胸を押しつぶす。

今まで見たどんなワイバーンよりも優しい目をしていた。

 

そう。

自分を隠し、育ててくれた父や母よりも。

何よりも優しい目で、こちらを見ていたのだ。

その目を思い出し、彼女は最悪の想像をしてしまったのだった。

 

多数のエンバーワイバーンに囲まれては、流石に、嬲り殺されてしまうだろう。

そんなことは嫌だった。

ならば、自分が身を捧げればいい。

自分が殺されればいい。

彼は、もともと無関係なのだ。

この件とは全くの……。

 

歯を噛んで、必死に翼をはためかせる。

間に合って。

お願い……。

 

しかし、森を抜けた先で彼女が見たのは、想像と全く違う光景だった。

 

「え……?」

 

小さく呟いて、空中で静止する。

見渡す限り、墜落したワイバーン達の山だった。

全員飛膜や体を燃やされて、無惨な様相になっている。

 

そして。

その先で彼女が見たのは。

 

真っ青な目を輝かせた、空中に燐と浮かぶ巨体。

はぐれエンバークリスタルワイバーン。

一頭で、全てを相手してなおまだ空に浮かび続ける、傷だらけのワイバーン。

 

彼の姿だった。

 

口から炎の息を吐き出しながら、彼は墜落したワイバーン達の中に降り立った。

よく見ると、エンバー達は死んではおらず、致命傷ではあるが、生きている様子だ。

 

その一頭の頭を踏みつけると、彼は押し殺した声で言った。

 

「ワイバーンの争いは、力が全てだ。だから俺は、弱い貴様らに告げる」

 

風が吹いた。

彼女の体を、心までを吹き飛ばすような風が。

 

「今この時より、弱い貴様らは全て、俺の配下とする! 俺は、貴様らワイバーンを統べる者、『ヘアー』だ!」

 

咆哮。

空気をつんざき、大地を震わせ、全てをうならせるその『声』はまっすぐに彼女の胸を突き抜けた。

 

その瞬間、彼女はすべてを理解した。

彼の心を、すべて受けとった。

それは、まぎれもない、嘘偽りのないただ一つの真実であり。

抗いようもない、絶対的な『力』を示していた。

 

私は。

私は、この方に出会う為に産まれてきたんだ。

そしてここに来て。

出会った。

 

金色のワイバーンの目が潤む。

咆哮を続けるその声は勝どき。

エンバークリスタルワイバーンの、新たな長が生まれた瞬間であり。

ワイバーン族の戦いが始まった狼煙でもあった。

 

 

そのワイバーンは、あまりにも巨大だった。

翼竜と言うには異質すぎた。

砂漠の砂を踏みしめ、体中から血を流しながらも、それは絶叫のような雄叫びを上げた。

 

死屍累々だった。

無惨に焼かれ、踏みにじられたブラッドクリスタルワイバーン達が、砂漠のそこかしこに転がっている。

 

「クキャキャキャ! ギャハハハ!」

 

狂った様相で喚き笑い、アルファは一歩前に踏み出した。

それだけで、彼の上空を飛んでいたブラッド達が一歩下がる。

地面に降りて対峙している、ブラッド達の長が押し殺した声を発した。

 

「バケモノめ……!」

「あぁ? 負け犬の遠吠えなんて聞こえねえなぁ?」

 

体をもたげ,彼はブラッドの長の眼前まで近づいた。

そして鼻先がつくほどの距離まで顔を近づけ、焦げた息を吐く。

 

「もっとデケェ声で喋ってくれねえとなぁ? 聞こえねえんだよなぁ!」

「……ッ!」

 

牙を噛んだ長とアルファが睨み合う。

 

「若頭……!」

 

空中を飛ぶブラッドクリスタルワイバーン達が口々に叫ぶ。

 

敗北。

 

それは、紛うことなき、揺るがない事実。

ブラッドクリスタルワイバーンの群れは、アルファに負けた。

そして、長が殺されれば、それは「事実」として確定する。

 

アルファの勝利。

 

それはもはや、確定した事実だった。

片翼が焼け落ち、動くことができない長ブラッドを見下ろし、アルファは汚らしい声で嗤った。

 

「へへ……ヒャヒャヒャ! 声も出ねえか? 所詮その程度なんだよ! 貴様ら『ワイバーン』一族はなァ!」

「何が望みだ……!」

 

長ブラッドにそう言われ、アルファはニヤケ顔で足を振り上げた。

そして彼を踏みつけ、地面に叩きつける。

巨大な足に踏みにじられ、呻いた彼を見下ろして、アルファは怒鳴った。

 

「ワイバーン一族の支配! それこそが俺の目的だ!」

「ぐ……支配だと……?」

 

苦しそうに声を上げた長を強く踏みつけながら、彼は周りを見回して怒鳴った。

 

「今この時より、貴様らブラッドクリスタルワイバーンは俺が支配する! その始まりの儀として、こいつを処刑する! 弱きワイバーン達! よく見ているがいい!」

 

空中に豪炎を吐き出すアルファ。

その炎の勢いに、ブラッド達は近づくこともできなかった。

唖然としているワイバーン達を見てから、アルファは長ブラッドの前に顔を近づけ、大きく息を吸い……。

 

次の瞬間、吐き出された水の濁流に吹き飛ばされ、地面を転がった。

完全に予想外だったのか、アルファは目を白黒とさせながらすぐに立ち上がり、叫んだ。

 

「な……何だァ?」

 

倒れた長ブラッドクリスタルワイバーンを庇うように、白銀のトロピカルクリスタルワイバーンが地面に降り立つ。

彼女を先頭にして、次々にトロピカル達が飛来した。

 

「お前……!」

 

長ブラッドを横目で見て、トロピカルの姫が押し殺した声で言った。

 

「助太刀に来たのではありません……! 逃げるのです!」

 

少し離れた場所で、アルファが巨体を動かし、起き上がろうとしている。

 

「時間がありません。全滅する前に、早く!」

「く……!」

 

傷ついた体を引きずりながら、長ブラッドが翼を広げる。

そして彼は叫んだ。

 

「全軍、森まで下がるんだ! 急げ!」

「へェ……? 伏兵とはな……」

 

森に向かって撤退をはじめたワイバーン達を見て、アルファの顔からにやけた表情が消えた。

彼は鉄のような無機質な目で、周囲を見回した。

傷ついたブラッド達が撤退をしていき、それを守るように、トロピカル達が少しずつ下がっていく。

 

「気に入らねェなァ……」

 

首の骨をゴキゴキと鳴らして、彼は空気をつんざく勢いで咆哮を上げた。

撤退していたブラッド、そしてトロピカル達が体をすくませるほどの咆哮だった。

 

「てめェらは俺に負けたんだ……何勝手なことしてくれてんのかなァ?」

「早く森に……!」

 

トロピカルの姫が叫ぶ。

その声をかき消す程の大声で、アルファは怒鳴った。

 

「なら! 皆殺しだなァ!」

 

アルファの巨体が宙を待った。

そして、飛び立とうとしていたトロピカルの姫の真上に一瞬で移動する。

鉤爪が、彼女の細い首をへし折ろうと迫り……。

 

一瞬後。

飛来した青白い閃光が、アルファの体を貫いた。

 

「ッが……!」

 

くぐもった悲鳴を上げ、電撃の直撃を受けたアルファがよろめく。

空中から二撃目の閃光が走った。

それはまたアルファの胴体をつき抜け、地面に突き刺さって炸裂した。

巨体が重低音を立ててまた地面に倒れる。

 

「……何が……」

 

呆然としている姫トロピカルクリスタルワイバーンの横から、押し殺した声がした。

 

「お前も早く下がれ! 儂らがおさえている間に!」

「ヘアー様!」

 

ワイバーン達を守るように立ったヘアーが雄叫びを上げる。

彼の頭上には、ライトニングワイバーンが翼をはためかせて浮いていた。

 

「暴れ足りないであろう。我らが相手になるぞ! アルファ!」

 

ヘアーの声が、大地を突き抜け響き渡った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。