コレはポケットモンスターの世界ではありふれた出来事

ポケモンの世界に転生しただけの人間が、パートナーと一緒に生きただけの話

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息抜きに昔書いてあった作品を投稿します。
この話は去年から既に書き始めていた話ですが、途中まで書いてたらリアル事情が忙しくなって止めていました。合間にちまちま書いていたんですが、漸く書き切れたので投稿します。

また今作は私の拙い文章ではありますが、やや過激な描写があるのでそういうが苦手な方は閲覧注意です。


雪原のオーダイル

気がついたら俺はポケモンの世界に転生していた。

物心ついたのは5歳の頃だった。

 

目の前の奇妙な生き物達に驚いて尻餅をついた事を覚えている。

 

俺が生まれた場所はガラル地方のフリーズ村だ。

 

カンムリ雪原というガラル地方でも辺境の地で俺は生まれ育った。

 

年寄りばかりで若者が少ない場所で子どもは貴重な存在だ。

年寄り達からはよく可愛がられてた。

 

俺は原作のゲームの主人公の様に、年頃になればポケモンを貰い、ガラル地方を旅する為に村を出るつもりでいる。

 

その意思を親に伝えた時は、少し悲しそうにしていたが、この世界ではある程度の年になると旅に出るのが恒例だ。

そして旅を終えるといつしか自分に合った仕事を見つけて何処かに腰を落ち着けるのが定例らしい。

 

別にチャンピオンになりたい訳じゃない。ただ純粋にポケモンと一緒に旅をしてみたかった。

 

俺はいつか自分の元に来るポケモンにワクワクしていた。

そして、俺の両親がそれぞれの自分の持っていたポケモンからタマゴが見つかった。

 

「この子が貴方のポケモンよ」

 

そのタマゴを俺に託された。

大事すると心から思った。

タマゴを貰った俺は、それからというもの常にタマゴを気にかけて生活していた。

何が生まれるのか?

どんなポケモンなのか?

それが楽しみで仕方なかった。

その寝る間も惜しんでタマゴを見続けて、何をするにもタマゴが気になって、そんなポケモンのタマゴを見守り続ける生活はしばらく続いた。

 

両親はそんな俺を微笑ましく見守ってくれていた。

 

ある日、タマゴを見守り続けて寝落ちした俺は、目が覚さますと見守っていたタマゴが割れていた。

 

「ワニィ?」

 

割れたタマゴに対する反応をする前にその鳴き声に驚く。

 

鳴き声がした方向を見るとそこには

 

「ワニノコ?」

 

水色の肌と黄色い模様をした大顎ポケモン『()()()()』がいた。

 

そのワニノコがタマゴから生まれたポケモンだった。

 

そして、その時ちょうど()()()()()()()()()

 

それは前世の記憶。初めて『ポケモン』というゲームを触り、プレイした時の記憶。

 

プレイしたのは『ポケットモンスター銀』だった。

第二世代と呼ばれる世代。

俺はそこから『ポケモン』を知ったんだ。

その時、初めて手に取った御三家のポケモンがワニノコだった。

 

当時はまだ子どもだったのでよく分からずにテキトーにプレイしていた。

ワニノコだけでとにかく戦っていた。

途中まではなんとか上手くいっていたが、3人目のジムリーダー『アカネ』のミルタンクが倒せず、何度も挑んでも倒せないので、次第につまらなくなった。レベル上げもぜずに途中で諦めて投げ出してしまった。

 

そしてしばらくして第三世代のルビー・サファイアが発売しても、俺は買わずにそれ以降のポケモンには触れてこなかった。

 

再びポケモンというコンテンツに戻るキッカケはSwitchを買ったついでに遊ぶソフトとして『ポケットモンスターソード&シールド』を購入したのがキッカケだった。

ただ気まぐれだったのに、いつの間にか何十時間もやり込んでいた。そして中古の過去作のポケモンシリーズを大人買いした。

仕事をして、時間が出来たらポケモンをプレイする。

そんな日々を過ごしていた。

過去作を一通りプレイしてとりあえず殿堂入りまでクリアして、遂にはアニポケも見始めて、俺はすっかりポケモンというコンテンツにハマっていた。

 

そんな日常を過ごしていく内にふと思った。

 

()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

今度こそ上手くやりたい

今度こそあのワニノコで戦い抜きたい

 

ただのゲームなのにそんな事を考えていた。

 

そんな思いを引きずって、いつの間にか人生を終えていた。

どんな死因だったのかは分からない。何があって死んだのかはもう忘れてしまった。

でも、只々苦しかったのは覚えてる。

 

そして俺は改めて生まれたばかりのワニノコと向き合う。

 

俺はワニノコを抱きしめた。

 

「今度は…上手くやってみせるからな…」

 

「ワニィ?」

 

抱きしめられたワニノコは不思議そうに俺を見つめているが、俺は構わずワニノコを抱きしめる。

 

俺はこの時、確信した。

俺がこの世界に転生したのはきっとこのポケモンと出会う為だったんだと。

なんの確証も根拠もないが、心からそう思えた。

 

それからというモノ、俺はワニノコと一緒だった。

ご飯を食べる時、お使いをする時、何をするにも一緒だった。

周りを大人はそれを微笑ましく見守っていた。

特に村の年寄り達はよく俺とワニノコにお菓子をくれた。

俺もワニノコも遠慮せずに食べていたから少し太った事あった。

太った事を指摘されてワニノコと一緒に落ち込んだ事もあった。

そして少しでも痩せる為に外で運動する様になったら、運動し過ぎて疲れて雪の上でワニノコと寝ていたら、それを見つけた両親にこっ酷く怒られた。

 

その光景はこの世界では当たり前の事なんだろう。人とポケモンが一緒に過ごす日常。それがこの世界では常識だ。

でも、俺はワニノコと暮らす毎日がとても新鮮で充実して楽しかった。

 

そんな日常を過ごしながら俺は成長していき、遂にフリーズ村から旅に出る時が来た。

 

よく世話をしてくれた親や老人達は寂しそうにしていたが、それでも俺はもう一度ワニノコと旅に出たかった。

 

前世の時はゲームのデータ上のワニノコと一緒だったが、今回はちゃんと実物のワニノコと一緒だ。

 

「やってやる!」

 

心強いパートナーが入ったモンスターボールを抱えて俺達は再び旅に出た

 

 

 

ガラル地方にはジムチャレンジという伝統がある。

 

ガラル地方の全てのジムを巡り、最終的にチャンピオンに挑む

 

俺も例に漏れずにそれに挑戦した。

 

 

 

 

 

 

そして挫折した

 

はっきり言って俺にはポケモントレーナーとしての()()()()()()()

この世界のポケモンバトルはゲームの様に簡単ではない。

バトルの最中では瞬時に最適解を判断してポケモンに命令する必要がある。

ゲームの様に余裕がある訳じゃない。

だからバトルの最中は俺は何を指示したら良いのか分からず、パニックになって拙い指示ばかりしてしまっていた。

 

だから俺は最初のジムリーダーであるヤローさんに勝つ事が出来ず、一つのバッジも手にする事なく俺のジムチャレンジは終わった。

 

悔しくて仕方がなかった。

俺は初めて自分の不甲斐なさに腹が立った。

才能が無い事よりも、バトルに負けた事よりも

 

「ごめんな…ワニノコ…」

 

バトルに負けて傷だらけになったワニノコを思い出してワニノコの入っているモンスターボールを撫でる。

一番悔しいのはワニノコを傷つけてしまった事だ。

俺の拙い指示の所為でワニノコは負わなくていい傷を負った。

俺が未熟な所為でワニノコに辛い思いをさせてしまった。

 

そんな自分が腹が立って仕方ない

 

でもだからといってまだまだ俺達は始まったばかりだ。

この悔しさをバネにしよう。

この悔しさを忘れない様にしよう。

もうワニノコが無駄な傷を負わない為に

 

俺自身が強くならなくちゃならない

 

脱落した俺は、もう一度再起を図るべくカンムリ雪原に帰る事にした。

 

一度家に帰って、一からポケモンバトルを勉強しよう。

もっとワニノコと接して共に成長しよう。

そう思って、俺はワニノコをモンスターボールから出した。

 

「ワニィ?」

 

バトルという訳でもないのに急にボールから出されて、少し不思議そうにしていた。

相棒をボールから出して一緒に歩く。

それは前世でやっていたアニポケのサトシのやっていた事だ。

ふと俺も真似をしたくなった。

もっとワニノコを知りたいから。

一緒に歩いて行きたいから

 

「一緒に行こう」

 

「ワニィ!」

 

俺の意図を察してくれたワニノコは俺の隣を歩いていく。

俺もワニノコの歩幅に合わせて歩いていく。

少しずつでもここから始めよう。

まだ俺とワニノコの旅は始まったばかりだ。

 

俺とワニノコはガラル鉄道から降りて帰路に着いた。

 

その時だった。

 

大きな音と共に大量の雪が上から降りてきた。いや、正確には()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

急に来た災害に呆然としていた俺は、その大量の雪に呑み込まれた意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いっ…たぁ……」

 

気がついたら俺は何処かに投げ出されていた。

先程の大量の雪は雪崩れだろう。その雪崩れに巻き込まれて流されたのだろう。

今世では雪との付き合いが長いとはいえ、雪崩れという自然現象にはなす術がない。

 

辺りを見渡すとそこには

 

「…()?」

 

海があった

 

俺のいた場所は駅からすぐ出た場所。つまりフリーズ村の近くだ。

フリーズ村から海に行くにはかなりの距離がある。

とんでもない所まで流されてしまったようだ。

しかも運の悪い事に普段はこの地域は温暖な気候なんだが、今は猛烈な吹雪が吹いていた。

この辺りは気候が変わりやすい。だから何処かでジッと待っていれば、いつかは天候が落ち着くかもしれない。

 

何が原因で雪崩れが起きたのかは分からない。

体のあちこちに激痛が走るがなんとか生きてる。

怪我は大した事はない。

幾つか擦り傷があるが、擦りむいているだけで骨は大丈夫だ。

 

「ッ!ワニノコは⁉︎」

 

俺は急いで懐にしまっていたモンスターボールを確認するが、ボールの中にはワニノコはいない。

そうだった。俺はついさっきアニポケのサトシの真似をしてワニノコをボールから出していたんだ。

だからワニノコは先程の雪崩れに流された可能性が高い。

 

「クソッ!」

 

今更になって自分の浅はかな考えに腹が立つ。

ボールにさえしまっておけばワニノコと離れる事はなかった。

だが既に起こってしまった事はいくら嘆いても仕方ない。

とりあえず今はワニノコの捜索だ。

 

「ワニノコー!何処だー!!」

 

まだ雪が降っているが辺りを捜索する。

辺りには雪崩れによって倒れた木々が散らばっている。

雪崩れによる被害にあったポケモンも何体かいる。

少し可哀想だが、構っている暇はない。

まずはワニノコを探さないと

 

「…ワニノコ…何処だ…」

 

痛い

寒い

雪と風に体温を奪われて手足が冷たい。

歩く度に足に痛みが走る。

声を出すとガタガタと震えて中々まともに喋れない。

それでも辺りを捜索する。

他の人を頼ろうにも周りに人は見かけないし、1人で探すしか無い。

 

「………ワニィ……」

 

その微かな鳴き声を聴いた瞬間、俺はその鳴き声の方向に走った。

アレは確かにワニノコの鳴き声だ。

間違える筈がない。何せワニノコが生まれてからずっと一緒にいるのだから。

走る事で冷たい足に激痛が響く。だが無視した。

痛みに喚く事なんて無駄な時間を過ごす暇はないから。

 

鳴き声のした所に到着した。

辺りを見渡してもワニノコの姿は見えない。

 

「下か!」

 

俺はすぐに雪を掘った。

スコップは持っていないので手で掘るしかない。

下の雪を必死で掻き出す。

ただでさえ冷たいのに、雪を触れれば当然俺の手は更に冷たくなる。

手袋をしていても冷えた手に力が入らない。

それでも無理矢理動かして雪を掻き続ける。

 

「見つけた!」

 

無我夢中に雪が掻き出して、ついにワニノコを見つけた。

見つけさえすれば後はワニノコの周りの雪を退かす。

手作業なので少し時間がかかったが、何とかワニノコを救出出来た。

 

「ワニノコ!」

 

ワニノコを抱きしめて様子を確かめる。

ワニノコの体は酷く冷たかった。

長い間、雪の中にいたんだ。凍死してもおかしくない。

 

「ワニノコ…しっかりしろ!」

 

俺はすぐに自分の着ていた防寒着をワニノコに覆い被せる。

正直寒いがそんな事は言ってられない。

このままではワニノコが凍死してしまう。

一刻も速くどこか安全な場所に行かないと俺もワニノコも死んでしまう。

 

少しでもワニノコに暖かくなってもらう為にワニノコを抱っこする。

ワニノコを抱っこした状態で辺りを捜索する。

正直歩くのが辛い。でもワニノコには死んでほしくない。

その一心で俺は歩き続けた。

 

海岸沿いをしばらく歩くと洞窟が見えた。

急いで洞窟に駆け込む。

何とか冷たい吹雪をしのぐ場所を見つける事が出来た。

だが

当然と言うべきか、その洞窟には沢山のポケモン達がいた。

ゴドラ、ボスゴドラ、セキタンザン、テッシードといった屈強な野生のポケモン達が一斉に俺の方を見た。

ナワバリを荒らされたと思われたのか、一斉に威嚇してきた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁー!!」

 

俺はそのまま洞窟を諦めて一目散に逃げた。

震える足を無理矢理動かして、みっともなく逃げる。

情けない悲鳴を上げながらワニノコを抱えて俺は洞窟から逃げた。

 

アテもなく逃げて、逃げて、逃げた

 

今にして思えば、俺はこの時逃げずに隠れたりしてやり過ごせば、後の事は回避出来たかもしれない。

 

 

 

 

 

 

俺はこの時に逃げた所為で残っていた体力を使い果たしてしまってぶっ倒れていた。

 

「………」

 

必死になって逃げたおかげで振り切る事は出来たが、方角を見失った。

最初にいた地点なんてもう分からなくなった。

あまりにも絶望的な状況に声すら出ない。

 

脚はまだ動いているがもう感覚が無い。

ワニノコを抱っこしている腕も、指が一つも動いてくれない。

方角も分からずアテもなく歩き続ける。

限界など既に超えていた。

 

だから倒れるのは時間の問題だった。

 

一瞬意識が途切れて、気づいたら雪原に横たわっていた。

 

ここまでかな?……また死ぬのかな……俺……

 

眠気が襲ってくる。

雪の上で寝るのは絶対にダメだと子どもの頃からキツく言われてた。

だが眠気に抗おうにも体が動かない。意志が働かない。

俺は眠気に逆らえず、そのまま眠ろうとした

 

「ワニィ!」

 

何度も聞いたその鳴き声にハッとする。

眠気が一気に吹っ飛んだ。

ワニノコが目覚めたんだ。

腕の中でワニノコが動いてコッチを見てる。

 

良かった…目を覚ましたんだ…

 

状況は何も変わらないが目を覚ましてくれただけで救われた。

防寒着を着せた甲斐があったようだ。それともワニノコ自身の生命力が強いのか、まあ理由はどうでもいい。

とにかく死の危機から脱したんだ。今はそれを喜ぼう。

 

「…あれ?」

 

いつものようにワニノコを撫でようとしたのに()()()()()()()()

 

「ワニワニィ…?ワニィ⁉︎」

 

いつものように撫でない事を不思議に思ったのかワニノコは俺の顔を見て驚いた様子だった。

 

「ワニワニワ⁉︎ワニィ!」

 

ワニノコは俺の腕から出て俺の体を揺さぶる。

 

やめてくれ。今はもの凄く眠いんだ

痛くて寒いし、眠りたいんだ

起こさないでくれ

 

「ワニィ…」

 

ワニノコが悲しんでいる様だ。

涙を流している。ついでにワニノコの腹から音が鳴った。

ワニノコはどうやら腹が減っている様だ。

 

そうだった。思えば駅に乗った時から何も食べてないじゃないか。

食糧も多分雪崩れに流されたんだろう。

少なくとも俺の周りには俺の荷物は無かった。

 

しまったな…荷物も探しておくべきだった…

 

そんな後悔をしてると、俺も空腹感に襲われた。

何も食べていないのは俺も同じだ。

腹が減った。()()()()()()()

ワニノコを探すのに無茶をした所為なのか体力が全然残っていない。

 

死にたくないなぁ…

 

まだ生きていたい

まだ死にたくない

まだ…まだ…まだ…

 

俺は…

 

「ワニィ…」

 

ああそうだった

 

()()だったらあるじゃないか

 

()()()()()()

 

俺は残る全ての力を使ってワニノコを掴んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワニノコが生まれて初めて見たのは“彼"だった

 

その人間は泣きそうな顔をしながらワニノコを抱きしめた。

ワニノコには何故“彼"がそんな行動したのかがよく分からない。

 

それからもワニノコはその人間と一緒に生活した。

食べる時も、寝る時も、遊ぶ時も

いつも一緒にいた。

ワニノコは楽しかった。

人間と一緒にいるのが楽しかった。

 

いつしかその人間はポケモントレーナーとなり、ワニノコをパートナーとして旅に出た。

 

ワニノコにとっては何でも良かった

その人間と一緒にいられるなら

 

そこからは楽しくとも辛い日々だった

 

旅をして色んな景色を見るのは楽しいが、野生のポケモンとのバトルは苦手だった。

トレーナーの腕が悪かったのであろうが、ワニノコ自身もバトルという行為自体が好きじゃなかった。

 

だからなのか、ポケモンバトルでは連戦連敗だった。

 

ワニノコは正直悔しかった。

負けた事がではない。“彼"はワニノコが傷つく事で悲しそうな顔を浮かべていた。

ワニノコはその悲しい表情が嫌いだ。

そんな顔など見たくもなかった。いつもみたいに笑った顔が見たかった。

 

だからこそ「強くなりたい」とワニノコは思った。

 

もう二度と“彼"の悲しい顔を見たくないから

 

故郷に帰って鍛え直そう。

ワニノコと“彼"はお互いに誓い合う。

 

“強くなる"その事を誓った

 

 

その矢先に事故が起こりワニノコは意識を失った。

 

大きな雪崩れに呑まれたワニノコと“彼"は離れ離れになった。

 

冷たい雪がワニノコの動きを封じて身動きがとれない。

雪にどんどん体温を奪われてワニノコの意識は朦朧としていた。

 

「…ワニィ」

 

力を振り絞ってなんとか声を出せたが、小さな鳴き声しか出せない。

その鳴き声を最後にワニノコは再び意識を失った。

 

 

 

 

 

次にワニノコが目を覚ますと“誰か"に抱えられていた。

暖かい服を被せられて温めてもらっていた。

 

その“誰か"はワニノコのトレーナーである“彼"だった

 

それを理解したワニノコは嬉しかった。

探して見つけてくれた事

あの冷たい雪から助けてくれた事

自分も寒いのに暖かい服を自分に被せてくれた事

 

命を救われたと理解した。

 

「ワニィ!」

 

“彼"を呼ぶと“彼"は嬉しそうな顔をしていた。

ワニノコは知っている。

“彼"が嬉しそうな顔をするといつもワニノコの頭を撫でてくれた。

ワニノコは“彼"が撫でるのを待っていると、いつまで経っても“彼"が頭を撫でてこない。

 

「ワニワニィ…?ワニィ⁉︎」

 

不思議に思ってワニノコは“彼"の顔を覗いてみると、唇が真っ青になっていた。

そしてよく見ると“彼"は雪原の真っ只中で倒れ込んでいた。

ワニノコは今の状況の悪さを漸く自覚した。

 

「ワニワニワ⁉︎ワニィ!」

 

ワニノコは必死に“彼"を起こそうとする。

小さな体を精一杯使って“彼''を揺さぶる。時には叩いたりして目を覚まさせようとする。

 

だが何度も揺さぶっても、何度も叩いても、“彼"から反応は無い。

 

「ワニィ…」

 

ワニノコは“彼"が死んでしまったと思い泣いてしまう。

 

「…ワニノコ」

 

“彼"の声がワニノコの耳に響いた。

その声にワニノコは一瞬だけ嬉しそうにしていたが、ワニノコはすぐに本能的に察してしまった。

 

“彼"はもうすぐ死んでしまう事をワニノコは察した

 

俺を食べろ

 

ワニノコは彼の言った意味が分からなかった。分かりたくなかった。

 

「腹が減ったら食べればいい」

 

(いつものように腹が減ったらよく食い意地が張っていてくれたらいい)

 

「苦しいなら泣けばいい」

 

(そして精一杯泣いたらまたいつものように笑ってほしい)

 

「頼む…生きてくれ…」

 

(“俺"はいなくなってしまうが、それでもお前だけは生きてほしいから)

 

お前が“俺"の生きた証だ

 

“彼"はそれだけ言ってその生涯を終えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワニノコは“彼"を連れて歩く

 

ワニノコの力では既に死体となった“彼"を持ち上げられない。なので“彼"を引きずりながらワニノコは歩いていた。

 

無論そんな事をしていたら他の野生ポケモンに遅れをとる。

きのみを取ろうにも必ず野生のポケモンに遅れをとる。

 

食べ物を碌に食べていないワニノコは腹が減って仕方がなかった。

だが、それでもワニノコは“彼"を見捨てられなかった。

「……ワニャァ……」

そう言ってワニノコは“彼''を引きずって行く。そして“彼"の死を悼むように、静かに泣き出した。

更に吹雪が増していく

自然に憐憫の感情など無く、ただただ彼等を追い詰めていくだけ

 

状況はまったく良くならない。むしろ悪化の一途を辿っている。

 

そんな事はワニノコも分かっている。

 

分かっていても“彼"を捨てる事など出来なかった。

 

文字通り生まれた時から一緒にいた家族だから

 

そんな家族を捨てる事など出来ない。

 

だが現実は非情である。

 

吹雪が止んでも寒気がワニノコを襲う。

自然は猛威を振るい続け、野生のポケモン達はワニノコを助ける事など有りはしない。

 

一日経ってワニノコは限界を迎えた。

 

極度の疲労と空腹で、ワニノコはすぐ側の“肉"に手を伸ばす

その“肉"を噛もうとした瞬間にワニノコは“彼"の最期の言葉を思い出した。

 

『生きてくれ』

 

その遺言の意味を言葉でなく心で理解し、その遺言を果たす為に、生きる為にワニノコは()()()()()()

 

 

噛んだ瞬間に感じたのはまず不快感だった。

味など気にならない。

圧倒的な不快感がワニノコを襲った。

肉が硬く骨があって食べにくい。

それでもワニノコは()()()()()

 

その不快感ごと噛んで、砕いて、呑み込んだ

 

食べた物を体内に取り込んで、少しでも体内のエネルギーに変換する。

 

ワニノコは本能的に生き残る為の手段を取っていた。

それは『進化』

 

“彼"の肉から摂取した僅かなエネルギーを全て進化の為のエネルギーへと変えて、ワニノコはアリゲイツに進化した。

かなり特殊な事例だが、ポケモンが必要なレベルに達して自分の意思で進化する事もある。

今回がその事例だ。

そしてこの進化にはちゃんとした意味がある。

それは他の野生のポケモンと渡り合う為には、()()()()()()()()()()()()

 

単純な力が必要だ

 

ワニノコはアリゲイツとなった後も“彼"を食べ続けた。

 

残さないように

血の一滴も

肉片も

骨もカケラも残さない

“彼"という存在の一切を無駄にしない為に

 

悍ましい不快感を何度も何度も噛み殺して食べ続ける。

そして先程と同じ様に食べたエネルギーは進化へのエネルギーに回す

 

そして先程までワニノコだった“アリゲイツ"は、“オーダイル"へと進化した

 

かつてワニノコだったオーダイルが我に返ると、“彼"は完全にいなくなっていた。

 

「オオオオオオォォォォダァァァイィィィィ!!!」

 

その結果の意味をオーダイルは理解を拒んだ。

理解を拒んだオーダイルは暴走し周囲に当たり散らす。

その顎で木々を噛みちぎり

その腕で岩を砕き

その咆哮で自身の存在を周囲を威嚇する

 

無論、突然降って湧いて出た余所者をその地に住むポケモンが歓迎する訳もない

 

多くの屈強なポケモン達がオーダイルを襲った

多くの困難がオーダイルを襲った

 

だが、それらを全てにオーダイルは勝った。勝ち続けた

 

生きる為に──生きる為に

 

“彼"の存在を無駄にしない為に

 

 

オーダイルは今も今日という日を生きる為に勝ち続ける

 

 

 

 

 

 

 

その日からカンムリ雪原には「凶暴な傷だらけのオーダイルがいる」とガラル地方で噂になるようになった。

そのオーダイルは伝説のポケモンにすら匹敵する強さで、カンムリ雪原の頂点として君臨していると。

 

後に当時のガラルチャンピオン『ダンデ』を倒した新しいガラルチャンピオンがそのオーダイルを捕獲し、後のガラルトーナメントで大暴れする事はまた別の話。

 

 




こんな背景を背負った固定シンボルポケモンとかあの世界には一体くらいは存在すると思うんですよね

余談というか蛇足ですが、オーダイルが主人公の家に帰らず野生に返ったのはちゃんと理由があります。
主人公の死は後にオーダイルがバックなどの遺品を家に届けているので両親は主人公の死を知っています。ですが流石にオーダイルに食べられたとは思っておらず周りからは事故死という形で落ち着いています。
一時期はオーダイルも主人公の家に滞在していたのですが、主人公を食べた事がトラウマとなって、オーダイルは情緒不安定になって次第に暴れ回る様になります。
その時オーダイルを止めようとした主人公の両親に怪我をさせてしまったりしているので、オーダイルは「自分は此処にいてはダメだ」と結論して野生に返ったという経緯があります。
本当はそこまで描写するつもりでしたが、長くなりそうなんで裏設定としてここに載っけておきます。


レジェンドアルセウスやってて思ったんですが、ポケモンの存在するあの世界は優しい世界では決してなく、現実の様に残酷で怖い世界じゃあないのかと個人的には思うんです。

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