進藤ヒカルの妹   作:あきと。

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第四話

 

あれから二ヶ月、季節は春。

進藤ヒカリ、中学三年生。

 

中学生最後の年、人生一度きりのこの時間。

学校での思い出や受験。将来を考えないといけないこの時期に、私は……進藤ヒカリは人生の分岐点にいた。

 

「ヒカリ、本気なの?」

「うん」

 

夕飯の後、ダイニングに座る私の前にはお母さん。そして、お父さんもいた。

 

「はぁ、いつか言い出すんじゃないかと思ってたけど。まさか、こんなに早いなんて」

 

お母さんは、やれやれと頭を抱える。

今現在、私は両親に進路について自分の考えを伝えていた。

 

「お父さん、お願いします」

 

そして、私は二人に向けて頭をさげる。

 

「今年のプロ試験が終わるまで、囲碁の勉強に集中させてください」

 

そう、私は今年高校受験を受けないと直談判していた。

 

「ヒカリ、分かっているの? 今年を逃すということは、周りの子たちよりも一年遅れる事になるのよ。言葉にするのは簡単でも実際は大変なの」

 

お母さんが心配そうな表情を浮かべる。

 

「でも、お兄ちゃんだって高校には行かなかったよ」

「確かにヒカルも最初のプロ試験で合格したけど。あの子は二年生の時に受けたのよ。三年生になって、しっかり中学も卒業して。でもヒカリは……」

「うん、分かってるよお母さん。でも私、本気なの。お母さんもプロになる事は応援してくれてる。そうでしょ?」

 

お母さんは、私が院生になってからずっと応援してくれている。それは、私自身が一番分かっていた。

 

「そうよ、でも……。高校に行きながらじゃ駄目なの? 高校に行きながらプロを目指してる子だって。いいえ、プロの中でも高校に通っている子はいるんでしょう?」

「ヒカリは、もし今年受からなければどうするつもりなんだい。受かれば高校には行かずにプロとしての生活を送るんだろう?」

 

お父さんは真剣な眼差しで私の答えを待つ。

 

「……その時は、来年受験して高校に通うよ。一年遅れても頑張るから。中学もちゃんと卒業する。我儘なのも、迷惑かけちゃうのは分かってるよ。でも……」

「プロの碁打ちとして生きていきたい……って事だね」

「うん。私は、少しでも早くプロになりたいの」

 

自分の気持ちを素直に吐き出す。

プロになりたい。高校には行かずに、プロとしての一歩を踏み出したい。

それが、私の理想だった。

 

実際、手応えはある。院生になってからの今の私の戦績に黒星はないのだから。

 

「……分かった」

「お父さん!」

「いいじゃないか、ここまで本気なら。それにヒカリの人生だ。好きにさせてあげたい」

「…………はぁ、分かりました。本当にお父さんはヒカリに甘いんだから」

 

お母さんも、最後は諦めたように首を縦に振ってくれる。

 

「でも、約束よヒカリ。今年受からなかったら、ちゃんと高校には行く事。もし在学中にプロになれたとしても、ちゃんと高校は卒業しなさい」

「お母さん。ありがとう!」

 

私は、勢いよく立ち上がってお母さんに抱きついた。

家族が応援してくれる。それが、本当に嬉しかった。

 

「もう。これじゃまるで、プロ試験が受験みたいじゃない」

 

私の頭を撫でてくれる。その手は心地よくて、すごく暖かかった。

 

 

両親に認められてから、最初の研修日。

私は今日から、院生一組に上がる。

 

「おはよう、進藤さん」

「福井さん。おはようございます」

 

私の前には、一組で先月の成績も一位だった福井さんがいた。

 

「ようこそ、一組へ。今日はよろしくね」

 

私が一組になってから最初の相手。それが、この福井雄太さん。

お兄ちゃんが院生の頃からの仲みたいで、同様に、私にも気さくに接してくれていた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

いきなりこんな人が相手なんて、篠田先生も意地悪な事するなぁ。

 

周りの他の院生たちも、そんな私たちの様子を碁盤を前にしながら窺っていた。

 

「なぁ、進藤って先月も負けなしだったよな」

「うん。今のところ全勝みたい」

「けど、あの福井さんが相手だぜ? 二組と一組とじゃ全然違う」

「二組の身としては、勝ってもらいたいって気持ちもあるけどね」

 

聞き取れないくらいの小声の会話が私たちに向けられている。

 

「ヒカリちゃん! 次の研修日の手合いは私とだよね。楽しみにしてるね!」

「蒼葉さん……」

 

隣に座る蒼葉さんは、はっきりと聞こえる声で私に言う。

先月も蒼葉さんの戦績は、黒星は一つだけ。相手は福井さん。

蒼葉さんもまだ、福井さんには偶にしか勝てないらしい。

 

「うん、私も楽しみにしています」

 

そんな彼女との対局は、次回の研修日に予定が組まれていた。

 

「みなさん、それでは対局を始めてください」

『お願いします』

 

準備ができ、篠田先生の号令で一斉に対局がスタートした。

 

(私が先手。行きます、福井さん)

 

私は、プロになる為全力を尽くすと決めた。

そのためには、福井さんも超えなくてはならない壁である事に変わりはない。

 

そして、私は一手目を繰り出した。

 

十七の四、右上隅……小目。

 

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