引っ越し in モンハン   作:蟹男

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モンハンだからってモンスターを倒す必要は無いと聞いたので。


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殆どの荷物を片付け終え、すっかり広くなってしまった自分の部屋を眺め一人呟く。

 

「この場所とももうお別れか……寂しくなるな」

 

田舎から出て来てから早数十年、私の青春はずっとこの部屋と共に有った。窓から差し込む夕日に照らされた室内を見ていると、何故だか初めて都会へやって来た時の不安と期待が蘇ってくる。私も年を取った物だ……。

 

「リーダー、片付けは順調ですか?」

 

「おお、ハラッド君。来てくれたのかい?わざわざすまないね、こんな所まで」

 

ガチャリとドアを開け一人の男性が姿を表す。かつては初々しく必死に私達の後を付いて来るだけだった少年も、今やギルドナイトとして立派に活動している。我が事の様に嬉しく、とても誇らしく思う。

 

「でもリーダーは止めてくれよ、ハラッド君。私はもうあのチームは解散したんだから只の一人のハンターだよ」

 

「いえ……例えどこに行こうと肩書が何に変わろうと、あなたは僕が尊敬するリーダーです。思い出すなぁ、僕が調子に乗っていた時にリーダー……コスタさんが言った言葉。実ほど、首を垂れる――」

 

「稲穂かな。……な、なんか照れ臭いね!早く片づけを進めちゃおうか、いざ処分するとなるとどれを処分していいか分からなくてさ……」

 

『いるもの』『いらないもの』とそれぞれ書かれた二つの箱を前に並べる。物の価値をあやふやなままにしておくといつまでも片付けが進まない、ハッキリさせるのが手早く終わらせるコツなのだ。

 

「ええっと……ギルドカード!これは要るよね?」

 

「それは要りません。なぜならあなたは、これからはただのハンターでは無くこれから行く所の筆頭ハンターになるんですから」

 

「そうなの?私が筆頭か……なんだかむず痒いね。あ、じゃあこれはどう?双眼鏡。こう見えて方向オンチでさ、これが有ると一安心」

 

「これも要りません。どうせ役に立ちませんから」

 

納得は出来ないがそう言われては仕方が無い。渋々それらを『いらないもの』の中に放り込む。

 

「そうかい?君がそう言うのなら……あ、そう言えば受付嬢の子にこんなの貰ったんだ。見てよホラ、マフモフフード!懐かしいよねぇ。装備が無い昔は良く着けていたけどさ、私暑がりだし別に無くても――」

 

「必要です。コスタさん――冬を、お舐めにならないで下さい」

 

「そうか、寒い所なんだね……分かったよ。しかしそうなると……」

 

持って行こうと考えていたクーラードリンクや風呂上がりの冷たい飲み物などを整理し、荷物から外していく。だがハンターとしての仕事に必要な物は流石に置いて行く訳にはいかないだろう。

 

「あ、これは必要だよね?音爆弾。モンスターを追い払うにはやっぱり――」

 

「絶対に止めて下さい!雪崩が起きます!」

 

「雪山だね!?雪山なんだね!も、もうハッキリ言ってくれ。私はどこに行かされるんだい!?」

 

「……ポッケ村です。最近は結構寂れて来ていますけどまだ村人たちは居ますから」

 

ポッケ村。確か雪山の近くに有る村だったか?一度だけ依頼で行った事は有るが寒いとはいえ良い所だ。だがまだ嫌な予感は消え去っていない、何だ?一体何を見落としているんだ!?

 

「ね、ねえ。ポッケ村にわざわざ何しに行くんだい?もう全盛期の過ぎた私の様なハンターが行ってもする事なんて無いんじゃないかな?」

 

「やる事なら沢山有ります。そ、それこそ幾らでも……うぅっ……」

 

「な、泣いているのかい?一体あそこに何が有るの!?」

 

「最近、あの辺りでモンスターが増えているんですよ。だから誰かが行って退治しないといけないんです。ですが、先ほども言った様に村自体が寂れていてこっちから派遣しないと数が足りないとの事で……」

 

雪山という場所は言うまでも無く生存するには厳しい環境だ。それ故にそこに住む生き物は数が少ないが、生き残っている個体はもれなく強い力を持っている。

 

「で、でも私に筆頭なんて務まらないよ!?絶対向こうに住んでいるもっと力のあるハンターがなった方が良いって!」

 

「あなたが一番強いんですよ!上から数えても、下から数えても!」

 

「……がんばれぇ~!負けんな~!力の~限り生きてやれ……うぇ~ん……」

 

一体どうしてこんな事になってしまったんだ!?私はどこにでも居る普通のハンターの筈なのに……!

 

「あなたが!あなたがギルドマスターに消臭玉なんか投げつけるからいけないんだ!」

 

「アレかぁ~!受付嬢の子達がマスターの加齢臭が酷いって噂話をしていたから、良かれと思ってぇ~……!」

 

夕日の差し込む部屋の中、大の男二人が只々泣きじゃくっている。小さな善意が巻き起こしたにしてはあまりにも大きな騒動、私はどうしてこんな目に合わなければいけないのだろうか。

 

 

 

 

 

――彼らはまだ知らない。これから行く先に何が待ち構えているのか、それらにどう立ち向かっていくのか。この日を境に大きく揺れ動いて行く彼の人生、その道程は果てしなくそして険しい。今はまだその第一歩を踏み出したばかりなのだ。

 




(ネタが出てくる限り)続く!
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