素晴らしい世界へ鬼島津   作:syunin

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前とそんな代わってない。


二話:戦の申し子、異世界へ行く

 

 「ちゅうことは、おいは死んだちゆうことか」

 

 「そういうことになるわね」

 

 「なっほどなあ」

 

 

 青色の美しい髪を揺らしながら女神【アクア】から放たれた言葉に、豊久は考え込む。

 己が死んだというのは納得できる。

 槍衾に飛び込んだのだ、死ぬのが道理だろう。

 しかし、目の前にいる珍妙な存在を見つめていると……

 

 「どーにも、物狂い(いかれ)か獄卒が化けた姿にしかみえんなあ……」

 

 そりゃそうだ。

 南蛮にもいなさそうな青い髪に、日ノ本では見ることはない短くてひらひらとした着物。

 しまいには自分は異世界の神だといい始めたら、よほどの物狂い(いかれ)かと思うのも無理はない

 むしろ、物の怪や豊久を騙す地獄の獄卒とかの方が豊久にとっては信憑性のある話だ。

 そう考えていると、まだ女神らしい威厳をどうにか保っているアクアが口を開く。

 

 「それなら、あなたが亡くなった後の島津のことでも教えてあげましょうか」

 

 「そげなこといわんでもよか」

 

 豊久はきっぱりと言い放ち、アクアを困惑させる。

 

 「え?」

 

 「あの段でん、すでに公は()()()が時ばかせいで脱しておられたはずじゃ」

 

 「公さえ薩州に帰られたなら決まりきっちょる」

 

 

 

 「島津は徳川(とくせん)家ば滅ぼした」

 

 

 

 「何十年、何百年かかったかは知らん。じゃっどん必ず島津兵子が滅ぼした」

 

 「エェ……」

 

 きっぱりと言い放つ豊久に、アクアは思わず漏らした。

 

___あんな絶望的な状況でよく何の疑いもなく言えるわね……

 

 こういう子なんですという言葉は、どこぞの第六天魔王のものである。

 そして、あながち間違えてない(・・・・・・・・・・)のが恐ろしいところだ。

 とりあえずは話を進めなくてはならない。

 そう思い、目の前のわけの分からない人間に取り繕うのも面倒くさいと早々に投げ出したアクアは、手早く説明を始めた。

 

 「あなたには、とある世界に赴いてほしいのです」

 

 「ほう、なんじゃ」

 

 初めから変わらぬ声色で返す豊久に、アクアは本題を切り出す。

 

 「そこは、ゴブリンやオークと呼ばれるモンスターが跋扈する世界。そこであなたには、魔王と呼ばれるものを倒してほしいのです」

 

 「ごぶりん?おぉく?」

 

 ここにきて豊久の声色が変わる。

 

 「あなたには、(あやかし)とか、物の怪とかって言ったほうが分かりやすいかしら」

 

 「なっほど、頼光(ライコウ)んまねをせえちゆうこっか」

 

 アクアの言葉に豊久は合点がいったようだ。

 頼光……源頼光(みなもとのよりみつ)といえば、大江山の酒呑童子をはじめとする数々の怪異を討伐したことで知られる生粋の妖怪キラー。

 豊久にも何か感じるものがあったのだろうか、それっきり黙り込んでいた。

 

 「そうか、その手があったか……」

 

 「なんけいったか」

 

 「いえ、なにも」

 

 やけに早口で答えるアクアに、怪訝な表情を浮かべる豊久。

 それに気づいてかどうか、アクアは目をそらし下手な口笛を吹いていた。

 

 「まあよか、そけおくれ」

 

 「えっ」

 

 「そんいせかい(・・・・)ちゅうとこに行って、頼光越えをすっともよかじゃろう」

 

 そう言った豊久に、アクアは満面の笑みでまくしたてる。

 

 「そう!?いやー助かるわーじゃあ早速チート選びましょうかあなた日本の武士だしやっぱ日本刀がいいでしょこれなんか」

 

 「必要なか」

 

 そう軽く言い放つ豊久。

 

 「え?いやあったほうが絶対便利だし」

 

 「そんげなものいらんちゆうとる。そのちぃとちいうものが何かはしらんが」

 

  そういった豊久は、自分の太刀と小手、そして___

 

 「こん太刀と脇差に種子島、そいに丸に十文字があれば十分や」

 

___島津の家紋、丸に十文字を指さしにんまりと笑った。

 

 その姿に、アクアはあきれながらも言葉を続ける。

 

 「チートあったほうが楽なのに……まああなたがいいならいいけど、少しだけサービスしとくわね」

 

 そう言い、気を引き締めるアクア。

 その瞬間、豊久の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 

 「さあ勇者……いえ、日本の武士(もののふ)よ。あまたの勇者候補から、願わくばあなたが魔王を打ち倒すことを祈っています」

 

 アクアの言葉とともに、魔法陣の光は一際強くなり、豊久の身体が浮かび上がる。

 

 「さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう」

 

 「すげ大層な謳い文句じゃな」

 

 豊久が興味なさげに呟く。

 

 「さあ___

 

 

 

___旅立ちなさい。島津家の家紋にふさわしい戦いを見せてくれることを期待しています」

 

 

 

さらに強くなる光にも気にせず、豊久は笑みを深める。

 

 「応、まかせちょれ」

 

 まるで散歩にでも行ってくるような声色で放たれた言葉。

 しかし、その眼は決して笑わず___

 

 

 

 ___まさに、戦場に向かう薩摩隼人にふさわしい、決意の炎の揺らめきがあった。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「……行ったわね。にしても怖かったなぁ」

 

 一人残されたアクアがつぶやく。

 戦国の世を駆け抜けた武士を目の当たりにして、さすがの駄女神もある程度の緊張感は持っていたらしい。

 

 「しかし、源頼光かぁ。それもありだったけどなぁ」

 

 豊久が呼び出されたのには理由があった。

 わざわざ平成の世から戦国時代まで遡り、著名な武士を呼び寄せた理由。

 それは、単純に魔王が未だ倒されないからであった。

 今まで送り出してきた者達は、いくら強力な武具を持たせたとはいえ元は平和な国の出身。

 それなら、戦乱の世から引っ張ってくればいいと考えたのであった。

 しかし、それこそほかに著名な人物はたくさんいた。

 その中で豊久が選ばれた理由とは。

 

 「でも、あまり有名すぎるのも駄目なのよねぇ」

 

 詰まるとこ、その知名度にあった。

 それこそ、源頼光は神格化され、神社に祭られているため、呼び出したらどんな影響があるかわからない

 その点豊久は著名とはいえそこそこマイナーでもある。

 そんな微妙な理由で選ばれた豊久の胸中は知れず。しかし、駄女神にそんな考えは及ばず。

 

 「俵藤太とかでもよかったかも。まあもう暫くは会うことはないでしょうしどうでもいいか。さて、次の人はっと……ぷくく。なにこの死因」

 

 つまるところ、駄女神は面倒なことは後回しにしたのである。

 

 しかし、女神であれど天命には踊らされるのか。

 

 豊久との再開は、割とすぐ果たされることになる。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 駆け出し冒険者の街、アクセル。

 その街角に、豊久は送り出された。

 

 「異世界ち言うてどげんもんかて思うたが、意外と日ノ本と変わらんな」

 

 そう言いながらあたりを見渡す豊久。

 さて、戦場にたどり着いたと思ったものの……

 

___特に戦火が伸びちょっ様子もなし

 

___そこまで困窮しちょっわけでもなかとな

 

 街の様子を一瞥し、そう考えた。

 ともすれば、準備の時間はそれなりにある。

 ひとまずは、これからどうするかを決めるために通りがかる初老の人に声をかけた。

 

 「そこんじじどん、魔王ち呼ばるっ者を斬りに来たんじゃが、なんかそんげな組織はあっとじゃろうか」

 

 薩摩弁のきつい豊久に、初老の男は狼狽する。

 

 「ひでぇ()()()だな……どっからきたんで」

 

 一瞬豊久の顔に怒気がはらむが、こちらには何の情報もないため素直に答えることにした。

 

 「日ノ本、薩州」

 

 その言葉を聞き、やはりかとうなずく初老の男。

 

 「聞いたとこもない場所だな……まあいい。要するに冒険者になりに来たってことなら、この通りをまっすぐ行ったところにギルドがあるからそこの御(脱文?)入ってる。どうせ金は持ってないんだろう」

 

 そう言い、お金の入った袋を豊久に渡した。

 

 「こいは……ありがとうごわぁた。大切に使わせてもらう」

 

 そう言い、深々と頭を下げる豊久に初老の男は笑う。

 

 「いいってことよ。……あんたみたいのは何度も見たことあるが、どれもつんえいやつばっかだったからな。先行投資ってことよ」

 

 さらに続ける。

 

 「代わりに、この街にモンスターが攻めてきたら守ってくれよな」

 

 そう言った初老の男に、豊久は顔を上げる。

 

 「そいじゃ、おいはぎるどちいうとこに行ってくる。あいがとじじどん」

 

 「じいさんじゃねえっての……がんばれよ」

 

  そういう初老の男に、豊久は笑顔を返し歩き出した。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 所代わり、そこは冒険者ギルド。

 受付の前に立った豊久は、適当な女性に話しかける。

 

 「ここがぎるどちうところか。ぼうけんしゃちいうのになりにきたんじゃが」

 

 そう言う豊久に、受付嬢は営業スマイルを携えながら答えた。

 

 「冒険者の登録ですね。おひとり様千エリスになります」

 

 「これでよかか」

 

 そう言い、豊久はお金の入った袋を渡した。

 

 「確認します……大丈夫ですね。それでは登録について説明させていただきます」

 

 受付嬢は続ける。

 

 「冒険者とは、要するに何でも屋みたいなものです。モンスターの討伐や土木工事の手伝い、街の掃除などを行う者の総称で技術・技能を生かした各職業についてもらいます」

 

 「なるほど」

 

 豊久はあまりわかってない。

 それに気づいてか、受付嬢はさっさとステータスを見ることにした。

 

 「それでは、まずはこの冒険者カードに触れてください。あなたのステータスやレベルが表示され、適した職業に就くことができます。また、モンスターを倒すことで経験値が得られ、レベルアップすることによってスキルを覚えるポイントを得ることができます」

 

 「そん、れべるとかすきるとかようわからんが触れればよかか」

 

 八割方理解してない豊久にうなだれかけるが、何とか豊久に冒険者カードに触れてもらう。

 

 「……ありがとうございます。それでは……って、すごいじゃないですか!?」

 

 受け取った冒険者カードを見て思わず叫ぶ受付嬢。

 

 「ま、魔力はからっきしですが、ほぼすべてのステータスが平均値を超えています!なぜか知力も!これならソードマスターにもなれますが……って、あれ」

 

 「何かようわからんが、馬鹿にしちょるんなわかった」

 

 あちらこちらで田舎者だアホの子だと馬鹿にされいい加減にしてほしいと思う豊久だが、受付嬢の動きがとまったことに気づく。

 

 「職業の欄が、すでに埋まっている……?」

 

 「ほう、なんちかいちょる」

 

  受付嬢の言葉に、聞き返す豊久。

 

 「何でしょうこれ……武士(もののふ)?」

 

 そう言う受付嬢に、豊久は自分のことをここに送り出した女神のことを思い出す。

 

___少しだけサービスしとくわね

 

 「あん女神、粋なことをする……」

 

 豊久はつぶやいた。

 

 「そいでよか。じゃあ早速だが仕事をくれ」

 

 そう言う豊久に、受付嬢は返した。

 

 「そ、そうですか……それじゃあ、まず小手調べにジャイアントトードの討伐なんてどうですか」

 

 「じゃいあんととぉど?」

 

 首をかしげる豊久に受付嬢は続ける。

 

 「簡単に言えば大きなカエルです。その巨体で押しつぶしてきたりしますが、動きも鈍重なのでちょうどいいと思いますよ」

 

 「おおきな(かわず)か、ならそいで行こう」

 

 そう言い、豊久は受付嬢から冒険者カードを受け取った。

 そのまま踵を返し外へ出ようとする豊久に、受付嬢が声をかける。

 

 「それでは、冒険者ギルドへようこそトヨヒサ様。スタッフ一同、今後の活躍に期待しています!まずは、ジャイアントトードの討伐、がんばってくださいね」

 

 その言葉に、にやりと笑いながら豊久は返す。

 

 「応、まかせい」

 

 そして、建物の外へ出て行った。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 外をでて、街中を走りだしりながら、豊久は思う

 

___この世界のことも魔王のことも何も知らん

 

___こいが夢か(うつつ)かなんも分からん

 

___じゃっどん俺は、突っ走ることしか知らん

 

___なら、走るまで!!薩摩隼人らしく!!

 

___親父殿(おやっど)の子として、恥じぬよう突っ走るまでよ!!

 

 島津家久が子、島津中務少輔豊久。

 二度目の生を駆けるは、何がために。

 今、丸の十文字が、異世界に掲げられようとしていた。

 

 





 九州の友人、ありがとう。

職業:武士の効果

・薩摩弁がどうにか聞き取れるレベルになって相手に伝わる

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