テニスの王子様の言うとおりっ   作:ヘビとマングース

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ストリートダブルス大会・承
24 シリアス


「大会……出ますよ」

 

 なんとなく間を作ってしまった俺に代わって越前が答えてくれた。

 この場合のダブルスの大会っていうのは当然、一番近い日取りで開催されるストリートダブルス大会のことなんだろうと思う。

 返答は合ってたみたいで橘さんはにこっと笑った。

 

「そうなんだ。面白そうだから見に行くね」

「ふうん。勝手にしたら」

「こらっ、愛想のない奴だな。もうちょっと言い方を考えなさい」

 

 珍しく返事をして会話に加わったと思ったらこれだ。

 一応俺が同じ学校の先輩なわけだし関係者なわけでハラハラドキドキする。

 

「好きにしたらいいことでしょ」

「そうだけど言い方の問題なんだよ。ありがとうございますくらい言えんか」

「別にお礼言うほどのことじゃないし」

「過去にひどい裏切りでも遭ったのか? 何をどうやったらここまで人に冷たくできるんだ」

「先輩よりマシでしょ。ちょっとしたことでいつまでもビビッてうだうだしてるんだから」

「言い方っ」

 

 まったくこいつは……。

 今は橘さんがにこにこしてくれてるからどうにかなってるけど、いつ「なにこいつ?」とか言われてもおかしくない言動だ。そしてその時に謝るのは間違いなく俺だ。

 堀尾たちが気にかけてくれててよかった。でなければこいつに友達ができるわけがない。

 少しはその強気な性格を見習った方がいいかとも思ってたのに、その態度を見るとやっぱりそんな気持ちにはなれなかった。ツイストサーブはともかく俺には真似できそうもない。

 

「二人は仲良いんだね」

「そう見える? この感じ」

「痛いっス」

「うん。っていうかそうとしか見えないかな」

「なんか不満なんだけど」

「何?」

 

 折檻のつもりでほっぺたを引っ張ってるのに睨んでくる。本当に負けん気が強い。俺は自分の性格を直さなきゃならないと思ってるけど、それでもこいつを参考にするのは難しい。

 仲が悪いより良いと思われる方が有難いからまあいいのか。

 橘さんは気を悪くしてないみたいでそれだけが救いだ。

 

「練習場所が必要ならここにおいでよ。どうせ暇な人が集まって遊んでるだけだから、君たちが居ると良い刺激になるだろうし」

「いいの?」

「もちろん。誰でも使えるフリーの場所だよ」

「それもそうか。ありがとう」

 

 俺たちにとっては有り難い提案だ。

 部活は基礎を大切にするし個人のプレーを練習する場面が多い。ダブルスとしての完成度を上げるなら自主練は不可欠だ。でもいつもの越前家のコートじゃ、俺と越前と南次郎さんの三人だし、あの人なら二人がかりでも対応できるかもしれないし、越前のお母さんが参加してくれるなら話は別だけど……やっぱり同年代の色んな人と対戦できるってのは良いことだと思う。

 

 大会経験がある越前はともかく、俺は圧倒的に実践経験が少ない。これを機に部活の公式戦前に慣れておくのは悪いことじゃないはずだ。

 素直に甘えることにして橘さんに頭を下げる。彼女はいえいえと手を振った。

 

「不動峰中の橘さん、ってさ……」

 

 気になることを確かめようとして、聞いていいものかどうか一瞬迷った。

 何を聞こうとしたのかわかったみたいで橘さんが頷く。

 

「そうだよ。兄さんが居るの」

「あぁ、そうか、やっぱり……」

「安心して。スパイするつもりはないから」

「いや、別にそれはいいんだけど」

 

 乾先輩とデータ班が騒いでいた通りだ。不動峰中に九州から全国レベルの選手が転校してきた。偶然にもその妹さんと出会えたらしい。

 こっちもスパイするつもりはない。というよりその必要がなさそうなだけなんだけど。

 

「ねぇ、君も青学レギュラーなんでしょ? すごいね」

「あ、いや、俺は……一応そうなんだけど、違うっていうか」

 

 その話題になるとついどもってしまう。まだ上手く呑み込めてない。

 きっと変な奴に見えたことだろう。ひょっとしたら自慢の一つもした方が自然な反応だったのかもしれない。

 その証拠に、橘さんは突然きょどり出した俺を不思議そうに見ていた。

 

「まあまあ、とりあえず座りなよ。それから話そう」

「あー……どうも。そんなに大した話はできないけど」

 

 言われるがまま隣に座る。断れないのは俺のダメなところの一つだ。

 ただ、別に隠すような話もないし、喋るのは構わないだろう。

 そう思ったのがストリートコートで自主練を始めるきっかけになった。

 

 

 

 靴紐をぎゅっと結んで、立ち上がる前に緊張の一瞬。

 いよいよ始まる。初めての大会、その初戦。観客は超満員。

 手の内をさらけ出すことを拒んだ乾は大会に出ないと言ったが自分は違う。むしろ全てさらけ出してこいという意図なのだろう。データを取られることなど気にせず、勝敗すら気にせず、後先考えずに思いっきり戦ってこいと背中を叩かれた。

 

 ふーっと深く息を吐いた。

 ラケットを持って立ち上がる。

 すでに準備を終えてコートを見ているリョーマの背を見て悠介が声をかけた。

 

「越前」

「ん?」

「俺と組む以上、攻撃の主力はお前で行こうと思ってる」

 

 そういえばと思い出して改めて伝えた。

 部活よりも自主練が彼らのチームワークを高める時間として重宝されていた。その中で様々な話し合いをして、時には喧嘩のように軽く言い合いをして、少なからずイラっとした後輩に肩でぶつかられたこともある。その中で大まかな作戦は決まっていたはずだ。

 それでも改めて伝えるのは覚悟が決まったからなのだろう。

 

「自分でもまだよくわからないし、なんかふわふわしてるけど。でもさっきの試合見て、何か掴みかけた気がするんだ」

 

 顔つきが違った。確かに何かを受け取ったらしい。だがそれはまだ本人にも自覚できていない状態で悶々としている。

 この試合をすればその何かが掴めるかもしれない。

 悠介は珍しく期待していたようだ。

 

「俺が情けなくても勝ち負けに拘れなくても、お前を勝たせれば証明できるだろ」

「証明?」

「他人の真似してばっかの俺だけど、間違いじゃないって。これが俺の強さだって」

「ふうん。いいんじゃない?」

 

 あんたがどう思ってようと俺は負ける気ないけど。

 そう思いはしたが敢えて伝えず、にっと口角を上げたリョーマが先導する。コートへ入っていくと不敵な態度で対戦相手に対峙して、悠介と共に肩を並べて立った。

 

 ネット越しに顔を合わせた二人は他校の三年生であるらしい。その二人のデータも持っているようで悠介はわずかに表情を曇らせる。

 試合前の緊張感が漂う中で、二人ともが余裕綽々の笑みを浮かべていた。

 小柄で細身のリョーマはもちろん、彼らは悠介にも注目しているように見える。

 

「おうおう、シリアスだーね」

「くすくす。緊張しないで楽しもうよ」

 

 唇がにゅっと伸びた男、柳沢(やなぎさわ)慎也(しんや)

 額に赤ハチマキ、両手にグローブの優男、木更津(きさらづ)(あつし)

 どちらも聖ルドルフ学院のテニス部員だ。全国出場のために全国から選りすぐりの選手を集めているという噂がある学校である。中でも彼らは部活動にはほとんど顔を出さずスクールに通って技術を磨いているという強化組に属していたはず。

 初戦から厄介な相手だ。だがかっこつけてしまった手前、負けるわけにはいかない。負けてしまうと間違いなく不機嫌になるだろうリョーマに何を言われるかわからない。

 

「お前裕太の友達だーね」

「え? ああ、ルドルフの人たちですもんね」

「俺たちのこと知ってるんだ。流石青学」

「結構やる奴とは聞いてるけど油断しないだーね。勝つのは俺たちだーね」

 

 しっかりと宣戦布告をしてからネットを離れていく。けれども彼らはどこか楽しそうで雰囲気が柔らかく、不思議と威圧感は感じない。

 一呼吸置いてから位置につくため、悠介はリョーマに声をかけようとした。

 

「だーね……」

「おいやめろ。聞こえたらどうする」

 

 どうやら特徴的な口癖が気になったらしく、アヒル口を作って真似をしている。

 慌ててリョーマの首根っこを掴んでぐいっと引っ張り、ネットから離れた。

 

「あの二人、他所からルドルフに来た強化選手だ。コントロールが抜群でスタミナがある。長期戦になればなるほどテンションが上がるとか」

「ゆうたって誰?」

「ん? 元々青学に居てルドルフに行った同級生で……」

「何?」

「や、これ言われるの嫌いだったなって思い出して。とにかく俺の友達。たまに会ってテニスするけどライジング上手くて強いよ」

「へぇ」

「って裕太君の話はいいんだよ! 今はあの二人!」

 

 試合が始まろうとしている。いつまでも悠長に話してはいられない。

 

「ルドルフのマネージャーもデータテニスが得意らしいけど、流石にお前のデータは取られてないはずだ。まあ、今日の試合で取られるだろうけど」

「別にいいよ。思いっきりやっていいんでしょ?」

「ああ。ここで勝てなきゃ意味ないし……出し惜しみはしない。狙うのは優勝だ」

「珍しい。本物?」

「本物だよ。変わろうとしてんの」

「はいはい」

 

 話し合いもほどほどに身構える。

 練習ならしてきた。文句もあるがプレーの形はすでにある。

 悠介とリョーマの準備を待って、試合開始のコールが響いた。

 

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