テニスの王子様の言うとおりっ   作:ヘビとマングース

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37 オーラ

 体ごとラケットを吹っ飛ばされて、両手両足を投げ出して倒れたまま動かなかったかと思えば、起き上がった時には大きな変化がいくつかある。

 コート内の空気が変わった。

 きっかけは間違いなく宮瀬悠介。そして彼につられるようにして生き生きし始めた越前リョーマのプレーなのだろう。

 

 明らかに攻撃のリズムが速くなった。

 荒唐無稽、変幻自在、理解不能のプレーで次々に技を繰り出す仁王は相変わらず好き勝手に動いてコート内を所狭しと駆け回っている。さっきまでと違うのは、打ち出される技の数々を悉く悠介が打ち返していることであった。

 悠介が攻撃を防ぎ、隙を窺って、待ち構えていたリョーマが前へ飛び出して攻撃する。

 それが彼らの新しい形になっていた。

 

 繰り返し打ち込まれる“ドライブB”が次々に決まっていく。

 常人よりも広範囲のディフェンス力を誇るジャッカルが必死に拾いに行くものの、仁王の動きが邪魔になることもあれば、しつこい攻撃に翻弄されて拾えない打球も出てくる。

 

 とにかくひたすらに悠介の防御、リョーマの攻撃。それだけとも言えるが数分とかからずに驚くほどの爆発力を発揮し、会場にあった空気を一変させている。

 見るからにハイペースですぐに限界を迎えそうな速度だ。特にリョーマの苛烈な攻撃は鉄壁を誇るジャッカルのディフェンスを食い破るとはいえ、いつまでも続くものではないと思わせる。

 

 構うもんか。そんな強気をプレーに感じた。

 ますます威力を増す“ドライブB”をコートの端に叩き込み、リョーマは思い切り拳を握る。

 

「ゲーム宮瀬・越前! 2-5!」

「しゃあっ!」

「おっ、おおっ、おおおぉ……!」

 

 観客席が爆発するようにわっと歓声を上げると同時、思わず拳を突き上げて跳んでいた金太郎もまた大声を発する。

 一喜一憂する後輩、また大勢集まった観客も面倒だと感じていそうな顔で、財前は黙ったまま表情をぴくりとも動かさなかったが、食い入るようにコートを見ているのは違わない。

 

 ついに来た。

 押し寄せる感動はその光景を待ち望んでいたからなのだろう。

 今大会で名を知られたダークホース。ついに反撃開始かと多くの人が期待していたのだ。

 

「やっとかコシマエ! ゆーすけェ!」

「むしろよう立て直せたもんや。あのまま行かれててもおかしなかったのにな」

「なに言うとんねん財前! 野球はツーアウト満塁から! 男やったらこっからやろーが!」

「これはテニスや、アホ。ランナー溜めて一発逆転ホームランなんかあり得へん。少々の気付きでメンタル保てるほど楽な展開でもないしやな」

 

 試合を見ていて財前には気になることがあった。否、彼だけでなくその場に居た者なら誰もが気にしていただろう。

 変化の兆しは明らか。悠介とリョーマ、二人の体から微弱な輝きが放たれるかの如く、柔らかに動くオーラによって包まれている。揺蕩うように、一本のラインが二人を繋いでいるのは遠目から見ても間違いなかった。

 

 あれが何であるのか、それが問題だ。

 何であったとしてもあれがあるからこそプレーが変わり、攻勢に転じたのである。

 悠介が仁王の攻撃に反応し始めたのもまたあれのせいなのか、はたまた別の要因なのか。

 

 冷静に思考し、思いつくものはある。だが確信を得られない財前は更なる考察を求め、恥を忍んで他力を頼ることにした。普段の彼ならば見ず知らずの他人とわざわざ関わろうとはしない。それだけ彼を気にしていたということでもある。

 頼るならば迷わず近くに座っている乾へ視線をやり、意見を問うた。

 

「眼鏡さん。あれ、なんやと思います?」

「あ、ああ……状況からして、世界のトッププロに度々見られるダブルスの究極、“同調(シンクロ)”。あれに近いものを感じる。だがそれそのものとも思い難い特徴が……」

「俺が気になったんもそれですわ。理屈はわからんけど、感覚的には宮瀬君が指示もせんと一年坊を動かしてるみたいな」

「確かに。“同調(シンクロ)”はお互いが得られる情報・感覚・思考の共有ができる超集中状態。ダブルスが下手でわがままな越前では、いくら宮瀬を信頼していてもできるはずがない」

 

 情報を整理するためとはいえ、結構辛辣だな。周囲で聞いていた青学テニス部員たちは乾の言動に驚きつつ、一方ではなるほどとも理解する。確かにあの越前リョーマがダブルスの究極技を使用するのはどこか納得し難い。練習時の姿を見ていたせいか皆が同意していた。

 だからこそ考察できるとも言える。乾は相手が他校所属の財前であろうと気にせず、自分の思考を確定させるために言葉を紡いだ。

 

「おそらく発動のきっかけは宮瀬と越前が拳を合わせた時。ならば、二人の感覚が合わさったというより、宮瀬が一方的に越前に合わせるつもりで動くことを決めたんだろう。仮にそうだとして、宮瀬の感覚・思考が越前に流れ込み、宮瀬は自分で得た情報だけで越前に合わせているんだとしたら納得できる」

 

 時間が経つごとに洗練されていく気がする。

 相変わらずリョーマのプレーはわがままで自由気ままに見え、動き辛いと思うこともなく、自分が思う通りに動いているように感じられた。

 それでいて悠介とのペアでダブルスが成立しているのも確かであり、今となってはわざわざ悠介が大声で指示することもない。

 

 二人を繋ぐオーラの糸。やはりあれが要なのは確実だ。

 強気の“ドライブB”がまたしてもポイントを取り、連続でゲームを奪取する。

 熱くなっているリョーマが吼え、おもむろに悠介へ駆け寄ってバチンと手を合わせた。

 

「“同調(シンクロ)”ではなく“連結(コネクト)”とでも言うべきか。分析と情報処理に長ける宮瀬なりに、攻撃の決め手となる越前を動かすための策を考えたんだろう」

「おお~っ! つまり新技ってことやな! やるやないかあいつら!」

「そう簡単なもんちゃうわ。言うなれば一方的な“同調(シンクロ)”。一見すると強そうにも見えるけど宮瀬君の負担がでかい。多分諸刃の剣やな」

 

 嫉妬ではなく純粋な心配だ。財前は冷ややかな声でそう呟いた。

 喜んでいた金太郎だけでなく青学の面々まで詳細を求めて顔を向けてくる。解説役など普段ならば好まないが、今だけは別として口を開いた。

 

「一年は宮瀬君の持っとる情報をもらってるから恩恵がある。でも宮瀬君は全部自力や。あの状態で得られるもんはなんもない。相手がどう動くか自分で考えて、自分で後輩動かして、プレーも今まで通り自分でやって、仲間は強くなってるかもしらんけど結局自分は変化なし。それでもめちゃくちゃ集中してないとあの状態は保たれへんやろうし、極限まで自分を苛め抜いとる」

「うーん……? つまり?」

「コシマエ君は多少楽になってるけど、宮瀬君は倍以上疲れるわけや」

「マジか⁉ めっちゃ大変やん!」

「苦肉の策なんやろうな。他人に奉仕することで得られる強さか……難儀な性格しとるなぁ」

 

 財前が寂しげに嘆息する反面、ぽつりと呟く声は歓声の中でもなぜかよく聞こえた。

 

「だけどあれが悠介をきっかけに発動したものなら、きっと誰に対しても使える。誰と組んでもダブルスとして成立させられるのが彼の強みだから」

 

 認める発言をしたのは彼の師匠とされている不二だった。焦る様子も見せずにコート内で奮闘する悠介を笑顔で見守っている。

 財前と金太郎の視線が、訳知り顔の彼へと向けられた。

 

「もうスペシャリストだよ、悠介は」

「なるほど……越前と心を通わせたから使えたというわけではないのなら、あれは宮瀬個人の技だと考えられる。それならば別の人間と組んでも使用可能なのも利点か」

「悠介が大変なのは間違いないだろうけど、彼の場合、誰かのために頑張るっていうのは案外辛いことじゃなかったりするからね。今の悠介は強いよ」

 

 その言葉を証明するように、或いは背中を押されたかのように、悠介は次の一手が読めないはずの仁王の攻撃を次々拾っていく。

 理屈ではない。一打ごとに凄みを増していく彼はますますコート上を支配しようとしていた。

 これまで積み重ねた努力と変化を求める姿勢。今日手に入れたばかりの羨望。全てを自分の物にした上で完成を目指している。

 

 なるほど、と納得した。

 珍しいくらい興味を持っていた理由を悟った財前は前傾姿勢になって試合を見守る。

 おそらく感覚的に彼だと見出したのだろう。きっと悠介に憧れているのだ。

 

 

 

 押し寄せる攻撃を正面から受け止め、チャンスを待つ。

 当たり前と言えば当たり前の戦法だが彼を相手にした場合のみ、恐ろしいほど困難な道となる。

 見る度に変わるフォームから繰り出される理論を無視した超人技。一度は見たことがある技ばかりとはいえ他人のそれを巧みに組み合わせ、あらゆる角度から襲ってくる。

 玉のような汗が吹き出し、体が悲鳴を上げていた。それでも対応しようと動く。

 

 悠介はコート内にある情報を全て把握しようとしていた。

 ぎょろぎょろと絶えず両目が動き、思考は形を成さないほど高速化して流れ、本来ならば見落とすだろう些細なものでさえ大量の情報が集められる。

 必要なものだけを一瞬で拾い、あり得ない展開は一息で捨て、即座にパートナーへ伝える。

 

 全てが意図的。彼の思うままにリョーマを動かそうとしている。

 リョーマに決めさせるために自分はどう動くべきか。必要なものだけを渡して、自身しか持ち得ない情報を頼りに自らも走る。

 

「な~んか、楽しくなってきた!」

 

 ボールへ一瞬にして接近し、右手でラケットを持つ仁王が振りかぶっている。

 動作の一切を取りこぼさずに注視する。彼の癖は、使える技は、現状における選択肢は。一秒とかからずに脳裏を流れていく情報と予想に基づいて悠介は動こうとしていた。

 ドカッと強烈なインパクト。ボールがガットに触れると同時に動き出している。

 

「お前が強くなったから!」

 

 地面に触れると同時に本来とは逆方向に跳ね上がる打球。ツイスト回転のボールを跳ね上がりで素早く捉えて、変化の出だしを潰すようにして打ち返す。

 仁王は次にどう動く。ジャッカルの立ち位置は。隙ができる箇所はどこなのか。

 

 再び仁王がボールを打つ。今度はラケットを握るのが左手になっていた。

 大袈裟なスイングと素早いスピードボール。狙いは予想通り。そしてそこには、事前に位置についていたリョーマが居る。

 向かってくる打球を優しくラケットで受け止めて、ふわりとネット際へ落とすドロップショットが繰り出された。当然の如く打ち返そうと仁王が反応するのだが、触れる前に何かに気付いた彼が眉を動かす。

 

 危なげない仁王の返球をリョーマが前へ跳びながら打ち返し、頭上を高く越える打球がラインを叩いてからコートの外へ出ていった。

 初めて見せる“ムーンボレー”。フォームは崩れていたが鋭い一打だ。

 ジャッカルがボール一個分届かない位置へ完璧に決め、得点したことがコールされる。

 

 彼らの身に起きた変化を正確に知る者は居ない。ただもしやと考えるプレーだった。

 仁王は薄い表情とは裏腹にますますやる気を滾らせる。

 

「おい、まさか本気で負けようって思ってんじゃねぇよな……! 流石に遊び過ぎだ」

「戻れよジャッカル。任せときんしゃい。上手くやってやるから」

「お前に任せらんねーから俺は――!」

「さあ、次つぎィ」

 

 ジャッカルの不満は仁王によって呆気なく受け流された。

 プレーはさらに続けられる。

 変化と成長はまだ途中。ここからまだ進化する可能性が残っている。それを見ないことには終われないだろう、そう思っているのだ。

 

 サーブが終われば当然の如くラリーが続く。

 仁王はありとあらゆる攻めを行い、悠介を抜こうとしていた。多種多様の技を使い、技を使わずに普通の打球を織り交ぜ、フェイントを交えて敢えて取らずジャッカルに打たせるなど、徹底して手段を選ばない。パートナーの動揺は大きいが彼自身は笑っている。

 その悉くを悠介が拾った。意固地とも思えるほどにリョーマには触れさせず、仁王の攻撃は全て自分が拾うという決意が感じられる。

 

「全部返すか。疲れるぜよ」

「ハァ、あなたを止めれば、ダブルスとしてはこっちが上だ……!」

「本当にそうか? あぁ、そうかもな。ジャッカルだし」

「俺じゃねぇ⁉ お前がこっちのこと考えねぇからだよ!」

 

 オーラが揺らぐ。不思議な動きだ。規則性はないのだが、本当に協調性の象徴なのだろうか。

 もっと知りたいと思う。

 攻撃を全て読まれて、疲れているだろうに一打も逃さずに拾い上げるのは、彼の地力がそもそも優れていたからか? それともオーラが発現したからなのかもしれない。

 

 彼のみならずオーラを纏って強くなるテニス選手は存在する。各々が独自のオーラを持ち、強くなる形はそれぞれ異なるも、何かしら一分野に秀でている可能性が高い。

 その極致が、彼も知識として知る“無我の境地”という領域らしい。

 

 少し前まではただなんとなく面白そうだという直感的な理由だった。今はすでに違う。

 オーラを纏うプレイヤーはこの程度では済まない。ここからもっと強くなる。それは予想であると同時に期待でもあり、敵としての願望でもある。

 今、決断が必要だ。追い詰められた人間が真の力に目覚めるのはバトル漫画の定説。

 悠介の更なる成長を求める仁王が迷わずに決めるのは何ら不思議ではなかった。

 

「よし、もっといじめよう」

 

 リョーマのスマッシュが、ジャッカルの手がボール一個分届かない位置を穿つ。

 長いラリーが終わり、悠介が大きく息を吐いた。しかし集中力は途切れていない。自己主張することのない緩やかなオーラは、主張しないからといって弱いわけではなく、その静けさが強みなのだろうと感じさせる凄みがある。

 今はまだ感じ取れる人間は少ないはず。仁王は確実にその一人だ。

 

 プレーが再開されると仁王が早速動いた。

 狙いは当然悠介。彼自身も狙われることを承知している。

 反応できるか否か。判断材料だ。仁王は手加減することなく左腕でラケットを振るった。

 

「こういうのはどうだ? “スネイク”×(かける)“レーザービーム”」

 

 その攻撃はこれまでと違っていて、誰もが理解できるくらいに異様だった。

 超高速パッシングショット“レーザービーム”が、“スネイク”の軌道で襲い掛かる。視認するのも難しいスピードボールが大きくカーブを描いてネットを越える光景は、観客として見ている分には美しさすら感じるが、対面する当人にしてみれば堪ったものではない。

 誰もがそう思った。思っていなかったのはその当人だけだ。

 

 大きく弧を描き、拾わせるためではなく得点するために打たれたボールに素早く反応し、一度のバウンド直後に悠介が触れる。

 ここしかないという動作で追いついたかと思えば、完璧なタイミングでのライジングショット。

 すぐに視線を上げて、そう来なくてはと喜ぶ仁王と目を合わせた。

 

 どうやら次の行動が読まれているのは嘘ではないらしい。

 驚きなど皆無。俄然力が入る。

 照準はすでに定めていて、漲った力を左腕に集め、スイングと共に解放する。

 

「“かまいたち”ד火”דナックル”――!」

 

 相手に触れさせない急降下弾道、燃え上がる火炎のような苛烈な威力、着弾後、どこに跳ねるか予想できない不規則攻撃。全て掛け合わせて最強の一撃に仕上げる。

 本当に返せるのか? 期待する仁王は片時も目を離さなかった。

 

 悠介は前へ出てボールを打ち返そうとした。

 彼のスイングと同時、打球は不自然なほど急降下してラケットを避け、地面に触れると異常なスピンで一度ぎゅっと沈み込む。

 その直後、銃で発射されたかの如く撃ち出された。

 狙いは悠介の背中。仁王の想像した通り、隙だらけの背後へ凶弾が迫る。

 

「ドンっ」

「いや予想通り――!」

 

 突如として彼の背中を押して割り込み、構えたラケットを盾のようにボールを受け止めて、強烈なスピンを手で感じたその瞬間にスイング。

 かけられた回転を利用して、ボールが急加速して打ち出される。

 相手コートに背を向けた状態で、高く弧を描いた打球が落ちていくと、バウンドを待って打ち返そうとジャッカルが待ち構えていた。だがボールは地面に触れた瞬間、強烈なスピンで急加速して弾むとコートから出ていく。

 

 フォームも何もない、ただ勢いよく打ち返しただけに見えて、その光景を描くための一打。

 図らずも仁王が唯一予想しなかった人物によって打ち返された。

 それでいて、おそらくはここまでを読み切った上で防御を考えずに反撃に転じたのだ。

 

 悠介の背後に立ったリョーマの顔には笑みがあった。

 ラケットで肩をトントンと叩き、わかりやすいよう仁王へ目を向けて呟く。

 

「まだまだだね」

「う~ん、辛辣ぅ」

 

 これ見よがしな挑発を受けても余裕は崩れず。挑発的に笑い返した仁王にリョーマは上機嫌な様子で視線を切り、すぐそこにあった悠介の背中をバンッと叩いた。多少痛そうにしたものの、文句を言う余裕はないようで黙って振り返る。

 自分たちを包み、繋げるオーラに二人も気付いていた。

 劇的な瞬間は自分たちの力で作れる。確信を得たことでさらにテンションが上がっていた。

 

「なんでか、ダブルス上手いみたいに見えてるぞ。越前」

「こういうの言いたくないんだけどね。先輩のおかげですよ」

「敬語復活?」

「さあね。ま、考えときます」

 

 ちょっとしたプレーの切れ間に一息つく。

 深く息を吐いた悠介は集中力が途切れていないとはいえ、いつになく大汗を掻き、テンションが高いせいでわかり辛いが疲弊が見え隠れしている。長期戦が危険であることは目に見えていた。

 ここから先は1ポイントたりとも相手に与えたくない。最短で勝ちにいく。それが多くを語らずともわかっていた二人の共通認識だ。

 

「俺のイメージを体現しろ。俺より強くて上手いお前なら、イメージできても実践できない俺とは違って、俺の理想を現実にできる」

 

 さっきのプレーがまさにそれだ。回転を我が物として利用する様はまるで不二のよう。相手の予想を裏切るのは仁王、そして正確に死角を突くのは跡部のよう。

 悠介の理想を今この場で体現できるのは本人ではなくリョーマだ。彼のイメージを余さず正確に受け取った彼こそが最強の盾となり、同時に矛となり得る。

 

「限界があるのはわかってる。だから、この試合だけでいい。ぶっ倒れるまで全部この試合に注ぎ込むから」

 

 悠介とリョーマが目を合わせる。

 らしくもない強い眼差しと決意にぞくりとして、全身が武者震いした。

 

「勝ちにいくぞ」

「トーゼン」

 

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