テニスの王子様の言うとおりっ   作:ヘビとマングース

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校内ランキング戦
8 青学テニス部お世話係


 後になってわかったことだが、あの人はテニス界では有名人だったらしい。

 “サムライ”越前南次郎。

 どこからともなく颯爽と現れたプロテニスプレーヤーで、世界を相手に37戦して全勝。数々の興奮と熱狂を生み出したのに突然引退を表明して惜しまれながら消えた生きる伝説。

 故障説など色々な憶測があったものの、本人からの詳しい説明やコメントは無し。

 もっとおもしれー奴を見つけた。

 ただ一言、そう言って表舞台から姿を消した。

 

 そんな人が居たことにも驚きだけど、こんなに近くに居ることも驚きだった。しかも異様に強い一年生の父親だと言われてさらに驚く反面、そう言われると確かにって納得もある。

 才能やセンスが全てとは思わない。でも確かに父親譲りのものはあって、その上毎日喧嘩するみたいにテニスで勝負してたらそりゃ上手くもなる。

 

 幸か不幸か、俺もそこに巻き込まれてしまった。

 息子の越前リョーマに強制的に連れられて出会って以降、有り難いことに気に入ってもらえたようで早く来いもっと来いって家と寺にお邪魔してる。

 

 「おいおい宮瀬君、プレー中に色々考えてるだろう。君は気を使いすぎ。もっと楽しみな。無我夢中。君がテニスを見ている時、テニスもまた君を見ているのだ」

 

 たまに何を言っているのかわからないけどプレーしてみるとよくわかる。

 この人はすごい。

 元プロだからすごいんじゃない、この人だからすごいんだ。

 

 何度か対戦してみても一度たりとも勝てない。調子の善し悪しが激しい自覚はあるけど、いつになく集中している時ですら1ポイントさえ取れなかった。

 打ったボールが自然とあの人のところへ引き寄せられていくみたいなのだ。

 何をどうしたらそんなことができるのか知らない。でも事実、打ち返したボールが俺の考えに逆らって南次郎さんの下へ向かう。あれはまぐれじゃない、あの人の意思とプレーによって起こされた現実だ。

 まさか超能力とかではないと思うけど、そう思ってしまうくらい衝撃的な光景だった。

 

 「古臭ぇ考えかもしれねぇが、結局何やるにしても根本は同じだ。気持ちだよ気持ち。特に楽しんでる奴ってのは強くて厄介なもんさ」

 

 ある時、南次郎さんが言っていた。

 越前……リョーマの方がお母さんに呼ばれてるとかで居なかった時、煙草を吸いながらいつもより少しだけ静かに、妙に雰囲気のある感じだった。

 夕暮れ時で空がオレンジ色。夕日に照らされてなんだか異様にかっこよかった気がする。

 

 「俺だってそうさ。現役は短ぇがそれなりにやってりゃ窮地に立たされることもある。観客は素直なもんだからよ、今回こそ無理か、もうだめだって顔しやがるんだ。そんな時に大逆転して俺が勝ってみろ、こいつら全員大騒ぎして喜ぶぞ。そう思うだけでわくわくしてきて楽しくなるんだ。そしたらその気持ちがプレーにまで反映される」

 

 興味深い話だった。

 過去の栄光を話したがるような人ではないからプロ時代の話をする機会は少ない。それよりもどんな女性が好きかとか水着の好みとか恋バナしようぜとかの方が多い。息子が嫌そうにしているのも気にしないから教育に悪そうだな、なんて思いながら一応相手をしている。

 そんな時とは違って、珍しく聞き入ってしまう内容だ。

 

 「君が頑張り屋なのは認めるが、悲しいかなスポーツの世界ってのは頑張れば結果が出せるところじゃない。運とセンスと努力、必要なもんはまあ色々あるだろうが俺はそこに楽しむ気持ちってのも大事だと思ってる」

 「楽しむ、ですか……」

 「技がどうとかミスをしないとかいちいち考えなくていい。間違いなんて大いに結構! 一度頭の中が真っ白になるくらい必死にやってみりゃいいのさ」

 

 あまり考えもせずに頷いてしまう。

 確かに、色々教えてくれる先輩たちにもよく言われる。お前は考え過ぎるからもっと力を抜けばいいのにって。

 

 「要はバカになれってことだ。なまじ頭が回るだけに考え過ぎる。いっそのこと大怪我上等で勢いつけて思いっきり走ってみればいい。そうすりゃ今までバカみたいにひたすら続けてきた努力も実を結ぶってもんだ」

 「バカみたいって……」

 「そういった事情もあってだ。君はこの中で誰が好みだ? ん?」

 「答えてもいいですけど、息子とその従姉が軽蔑してますよ」

 

 いつも通りの態度は置いといて、真剣に考えてみる必要があるのだと思う。

 俺は、先輩に教わってとにかく練習して強くなるってことが目的になっていて、レギュラーになるのが目標とは言っているけど、それが本気かと詰め寄られたらきっと答えに困る。

 

 自分があまり競争とか勝負に熱くなれないのはわかってる。だからかもしれない。近い感じがする不二先輩に憧れて、あの人みたいなすごいプレーヤーになりたいって思ったのは。

 結局あの人と俺では色々違い過ぎるってことに気付くわけで、同じようにはなれないと知ったから別の完成形を目指すことになったんだけど。

 

 俺たちの共通する目標は“本気で勝負する”なんていうものだったりする。

 バカみたいに思われるに違いない。

 自分でもわかってる。勝ち負けに拘る気持ちが薄いとか、自分が勝った影響や相手が負けた場合について想像してしまうとか、そのせいでどこかでブレーキをかけてしまう自分が居るとか。良くないことなんだろうと思いながらどう変わればいいかもわからない。

 俺はまだ、自分の本気がわからずにいる。

 

 

 

 入部から少しした頃から、宮瀬悠介を頼る部員は次々に増えていった。

 青学テニス部にマネージャーは居ない。身の回りのことは自分たちで行うように、との考えが伝統的に受け継がれており、例年テニス部の勇姿を間近で見ようと志願する生徒が後を絶たないが、部活動の雑務は部員の手で。慣例は常に守られ続けている。

 そんな状況下において、率先して周囲に気を配る悠介はいつからかマネージャー兼任と囁かれるようになっていた。

 

 雑用をこなしていれば自然と部員との関わりが増える。

 先輩、同級生、そして今は後輩も含めて、最も多くの人間と関わっているのだろう。

 厄介な先輩を上手く動かす手腕を認められ、付けられたあだ名が“猛獣使い”。中でも落ち着きのない部員は率先して悠介に関わることが多かった。

 

 「あ~腹減った。なあ宮瀬、なんか食い物ねぇか?」

 「賞味期限一日切れた焼きそばパンならあるよ」

 「おっ、いいねぇ。一日くらい大丈夫だろ。くれ」

 「はいよ」

 

 着替えを終えて、すでに準備を終えている桃城がまだ部室を出ようとしない。

 大食漢である彼は毎日のように持参した弁当を食べ、購買で大量にパンを買い込み、周囲が呆れるほどに食べる。それでも部活前に腹が減ったと言うのだから大変だ。

 当然のように声をかけられて、悠介もまた当然のように自分のロッカーの中を確認した。そしてこんな時のために用意してある食料を賞味期限の危ない物から彼へ放って寄越すのだ。

 

 「俺も小腹空いたぁ~。ユースケなんかある? 甘いのがいい」

 「カステラありますよ」

 「賞味期限は?」

 「三ヶ月先まで大丈夫」

 「ちょーだい!」

 「はいどうぞ」

 

 がっしと無遠慮に菊丸が背中に飛びついてきた。首に腕を回されてぎゅっと抱きしめられ、日常茶飯事であるため突然の衝撃にも驚かない。慣れている悠介は冷静な表情を崩さなかった。

 先輩ではあるが大家族で育った彼は甘えるのが上手い。子供のような無邪気さは周知の事実で、包みを破って取り出した一口サイズのカステラを口の中へ直接放り込んでやる。本人もそれを望んでいたようで嫌がるどころか喜んでいた。

 

 「ん~うんまぁ」

 「英二も桃も食べ過ぎるなよ。練習前なんだからな」

 「ほーい。心配性だなぁ大石は」

 「大丈夫っス! 俺食ってすぐ動いても吐かないんで!」

 「やれやれ……それに、賞味期限にはちゃんと注意しておけよ」

 「もっちろん! でも一ヶ月くらいなら全然平気っスから、こういうのは」

 

 部員の中でも一、二を争うわんぱくな二人が大石に注意されていた。優しい口調で言われたせいか笑顔のままで立ち振る舞いは変わらず、相変わらず従う気はなさそうである。

 菊丸が背中に張り付いたままだったが悠介は気にせず視線の先を変えた。

 

 準備を終えて部室を出ようとする部員へ声をかけた。

 レギュラーだけが着用を許される青と白のジャージを着用し、髪が邪魔にならないよう頭にはバンダナを巻いて、フシュ~と独特の吐息が耳に残る。

 悠介にとって海堂(かいどう)(かおる)は二年生の同級生、かつクラスメイトでもあった。怖がられることも多い彼だが交流することに躊躇いはない。

 

 「海堂、テーピングは?」

 「いらねぇ」

 「あっそう。海堂ファンの子が差し入れ持ってきてくれたんだけど食べる?」

 「部活前に物は喰わねぇ」

 「あーやっぱり。じゃあこれも多分桃のとこ行きそうだけど」

 「勝手にしろ」

 

 つれない態度で出ていって先にコートへ向かったようだ。

 彼の練習量は部内においても抜きん出ている。異常なほどの体力作りと自主練習は聞いただけの生徒を震え上がらせるほど。誰よりもストイックで勝利に貪欲。付き合い辛くて先輩や同級生ですら恐れるほど気難しい。平然と話せるのは悠介と桃城の二人だけだという噂すらあった。

 

 「あいつは冷てぇ奴だなー。せっかく差し入れなんてしてくれてんのにさ。普通ないぜ?」

 「自分の食事メニューも自分で考えてるみたいだしな。余計な物食べたくないんだろ。それに関してはお前は食べ過ぎ。もっと冷たくなって差し入れを断れるようになれ」

 「これが全部パワーになってんだよ。太ってねぇんだからいいだろ?」

 

 からから笑う桃城に呆れながらも海堂を見送り、自身も出ようと悠介は動く。

 特に意味もないというのに菊丸は離れないが一向に構わない。

 自身のラケットを持った悠介が顔を上げた時、ちょうど着替えを終えたばかりの先輩を見る。

 

 「タカさん、ラケット俺が持ちますよ」

 「え? いいよいいよ。そんなことしなくたって自分で運べるから」

 「いやアップ前に持たれると厄介なんで。離さなくなるし言うこと聞かないし」

 

 じとりとした目で見られたのは三年生の河村(かわむら)(たかし)だった。

 体格が優れていて得意のパワーを突き詰めようとさらに体を鍛えた努力家だ。ラケットの一本を持てないはずもなく、本来ならばそんな気遣いをしなければならない外見には見えない。部室に居た一年生が不思議そうに見守る中、何を言いたいかを理解した河村本人が苦笑し、黙って見ていた桃城と菊丸までうんうん頷いていた。

 

 「あははは……それは、本当にごめん。でもほんとに大丈夫。言ったってどっちもちゃんと俺なわけだからさ。この程度のコントロールは……バーニングッ!!」

 

 河村が突然大声を発して学年を問わず、大勢の部員が肩を跳ねさせる。

 普段温厚な彼がラケットを持った際に豹変するのはすでに周知の事実である。そもそもは自分を鼓舞するための気合いであったのだがいつしか別人格のように扱われ、日頃の優しさと穏やかさが嘘なのではないかと囁かれるほど衝撃が強い個性だ。

 “バーニング状態”と名付けられたその時の河村は、やけに雄々しく、無駄に大声で、なぜか英語を多用する超ハイテンションで周囲を困惑させた。

 

 「ヘイヘイヘ~イ! 心配すんなよ悠介ちゃーん! それじゃさっさと練習に行くぞ! オラオラカモーン! グレイトォ! バーニングッ!!」

 「たまに思うんですけど、うちで一番すごいのって実はあの人かもしれませんよね」

 「にゃはは。タカさんどんどん二重人格みたいになっちゃってるからにゃ~」

 「ぷぷぷ。でもあれがなきゃ始まったって感じしねぇよな。むしろやる気になるんだよ」

 

 異様なテンションで駆け出す河村が蹴破るように扉を開けて外へ出ていく。ああなってしまうと今度は落ち着かせるのが大変だ。

 ドン引きしている一年生たちに後でフォローしておいた方がいいかもしれない。そう思いつつ練習開始前の苦労を考え、悠介が小さく嘆息した。

 

 部員を気にかけてばかりもいられない。

 そろそろ自分も行こうと悠介が必要な物を持って動き出そうとした。しかしその矢先に、今まさに出ていこうとする背中を見て思わず声が出る。

 

 「あっ。不二先輩、それ何ですか?」

 「ん? 普通のスポーツドリンクだよ」

 「小脇に抱えてるのは?」

 「青汁かな」

 「アレでしょ!? やめてくださいってそれ! 味もそうだし体に何かしらの害があったらどうするんですか! 早く捨てて!」

 

 ばたばたと慌て出した悠介がすぐに駆け寄り、部室を出ようとする不二からドリンクボトルを奪おうと手を伸ばす。しかしやんわりした態度で押し返されて止められてしまった。

 この時、事情を知らない一年生がきょとんとした顔で見ていた一方、二・三年生は顔を青ざめさせて沈黙しており、何も言わずに悠介を応援していた。

 アレは怖い。アレは恐ろしい。できることなら手の届く場所に存在してほしくない物だ。

 

 「平気だよ。結構おいしいし、体は何ともないから」

 「よくないですって! 絶対!」

 「でもせっかく作ってもらったからさ。悠介もどう?」

 「いりません! っていうか飲みたがる人居ませんよ! 危ないから!」

 「そうかな。これはこれで慣れると癖になる味わいがあるんだけど」

 「それはあなただけです……とにかく、飲んだ人が気絶しかねない物は人体に悪影響ですから、平気に思えてもやめてください。見てるだけで怖い」

 

 にこにこする不二は何も恐れていない様子だった。それがまた恐ろしい。

 悠介が必死に訴えていると、唐突に肩に手を置かれる。それだけで嫌な予感がした。振り返りたくはなかったが無視するわけにもいかずに、恐る恐る振り返って相手を確認する。

 室内だというのになぜか逆光を感じた。いつになく威圧感を増した乾が立っている。

 

 「実は新作の予定があるんだが――」

 「やめましょ? もう自首しましょ?」

 「自首なんて人聞きの悪い。ただの栄養ドリンクだよ。みんな成長期だから、体の成長と健康を意識した自作のドリンクがあるんだ。一年生のみんなも――」

 「ほんっとやめましょう。お願いですから勧めないで。その内テロ容疑とかで部活全体が活動禁止になりますよ。不良とかより万倍性質悪いですから」

 「そこまでじゃないだろう。無暗に後輩を怖がらせるのはよくないぞ」

 

 どの口が言うんだ、とは思ったが素直に言うのは危ない。試してみろとでも言って現物を出されたら死刑宣告に等しい。今日の部活動に参加できる保証はなかった。

 ぐっと意見を呑んだ悠介に同意するよう、多くの部員がそそくさと部室を出ていく。

 異様な雰囲気を感じ取って、詳細は知らないとはいえ、その空気を感じ取っていた一年生たちは自然と乾に逆らわない方がいいのだと認識する。

 

 「この話はまた後で。とりあえず練習に行こう」

 「ちょっと待ってください、手伝いませんよ俺。いや、手伝った方がいいのか……? 一人でやらせると危ないんだからむしろ俺が入った方がいいんじゃ……いや海堂だ。海堂を呼んだ方が」

 「僕も手伝おうか?」

 「だめ! あなたが入ると乾先輩が増長するでしょ!」

 「残念」

 

 苦笑する不二の隣で頭を抱える悠介がうんうん唸っている。

 見慣れた光景に思っていたが改めて見ると日常であってほしくはない光景だ。

 息を殺して見守っていた桃城と菊丸が大きく息を吐き出す。

 

 「ふ~っ、あっぶねぇ。あそこに突っ込んでいけるのは宮瀬しか居ねぇからな」

 「うんうん。これは何が何でも止めてもらわないと。俺たちのためにも」

 「正直前のことは思い出したくないっスからね……」

 「あの乾の楽しそうな顔、倒れていく仲間たち、口の中に広がる……ああっ、思い出すだけで気持ち悪くなってくる!?」

 「ふ、二人とも落ち着いて。乾もあれでふざけているわけじゃないんだからさ。俺たちのためを想って作ってくれてるわけだし、そこまで言うのは」

 

 特定の部員が悪く言われる状況を快く思わないらしくフォローに回った大石が苦笑すると、二人の視線は驚くほど冷たく彼に突き刺さる。次いでわざとらしくため息をつかれた。

 気持ちはわからなくもない。そのせいであまり大々的に庇うこともできなかった。

 

 「大石副部長……あれはほんとにテニス部全体で会議開いた方がいいと思いますよ。部長も飲んだことないから野放しにできるんですって。飲んだら絶対止めます」

 「大石だって飲んだじゃんかよー。乾ダメだぞ、止めないと」

 「う、うん……まあ、その、わからなくはないけど」

 

 すぐに陥落し、大石が同意するのは早かった。菊丸はすかさずほら~と唇を尖らせている。

 彼らを一瞥した悠介も表情が優れず、不二に連れられてひとまず部室を出ることにした。

 

 「あ、先輩。勝負しましょ」

 「顔見てすぐがそれなの? 早くない? 本気で戦闘民族なの?」

 「違います」

 「真顔で否定されんの妙にイラッとするなぁ」

 

 部室を出てすぐに今しがたやってきた越前リョーマに絡まれた。

 近頃は毎日がこれだ。せがんでくるから居残り練習までして、飽きるくらい一緒に居るのにも関わらずまるで満足せずに、顔を合わせれば息を吐くように勝負を挑まれる。むしろ彼の相手をし過ぎているのではないかと心配してしまうほどなのに本人は一向に気にしていないようだ。

 

 当然のように拒否する悠介は早く着替えろと彼の背中を押してやり、反抗的な態度で文句を言われながらも見送ってやる。

 日常がさらに騒がしくなった気がした。悠介は再び大きく肩を落とす。

 

 「校内ランキング戦も目の前なのに、なんか最近前より大変な気がする」

 「ふふふ。楽しそうだね悠介」

 「楽しくありませんよ。みんな好き勝手やるんだから……まだ持ってるじゃないですか!? なんで大事そうに持ってるの! 早く捨ててください!」

 「だってもったいないし。特に問題ないから僕が飲めばいいかなって」

 「だめ! 没収!」

 

 ついに悠介がボトルを奪い取った。

 不二があぁと残念そうな声を漏らしたものの、やけにテンションの高い彼を見られたから気分は悪いどころか良い。面白がっているのは間違いなかった。

 じとりとした目を向けられても不二は上機嫌そうな微笑を崩さない。

 

 「楽しそうですね」

 「うん。とても」

 「そうですか……何よりです」

 「悠介も楽しそうだよ」

 「その前に疲れてますよ。あーあ、乾先輩またはしゃぎそうだな」

 

 疲れた顔をしていても言うほど嫌がっていないのは、おそらく不二しか気付いていなかった。

 

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