「二乃?」
期末試験まであと一週間ちょとしかない土曜日の午後、自宅で休憩していた紫水のところにキャリーバッグを持った二乃が訪ねてきた。
「紫水急にごめん。少しの間泊めてくれない?」
「いったいなにがあった?」
二乃が急に泊めてほしいと言い紫水が理由を聞く。
今日は家庭教師の日で、二乃と三玖の諍いから二乃が上杉が作ったプリントを引き裂き、怒った三玖を上杉が抑えている間に、五月が二乃の頬を叩き二乃も叩き返して言い争いになった。二乃が五月に言った「ドメスティックバイオレンス肉まんおばけ」がとどめとなった。
プルプルプルプル
聞き終えた紫水の携帯に着信がきた。
「すまん電話だ。ちょっと待っててくれ」
「ええ」
二乃に一言言い紫水は電話に出る。
「はい東雲です」
『シェフ、ジューンです』
「ジューンさんどうかしましたか?」
『申し訳ございません。風邪をひいてしまったようで・・・ゴホゴホ。本日休ましてもらってもいいですか?』
「それは大変ですね。わかりました。風邪が治るまで休んでください。店の事は気にしなくても大丈夫ですよ」
『ありがとうございます。それではお言葉に甘えて休ましていただきます』
「はい。お大事に」
電話はジューンからで風邪をひいた為休ましてほしいと言うと、紫水は店の事は気にしなくてもいいから完治するまで休むように言うと電話を切る。
(今日の営業どうするかな・・・)
ああは言ったがジューンが抜けた穴は大きく、悩んでいる紫水の目に二乃が映る。
「(そうだ二乃の力を借りるか)二乃泊める代わりに少し店を手伝ってくれないか?」
「お店を?」
「ああ。実は今の電話洋食班班長のジューンさんからで風邪をひいたみたいで休む事になったんだ」
「洋食班班長?」
「ああ。この店は俺をトップにその下に洋食班班長のジューンさん。和食班班長の関さん。中華班班長の劉さん。そしてホールスタッフ責任者の川島さんが並び、その下が各従業員とわかれている」
「成程」
二乃にジューンが風邪で休むので店を手伝ってほしいと言うと二乃は班と言う言葉に引っ掛かり、紫水がそのことについて説明すると二乃は納得した。
「どうだ?引き受けてくれるか?」
「泊めてもらうのだからいいわよ」
「よし!」
紫水が聞くと二乃は頷き、紫水はガッツポーズをした。
「よし二乃には取り敢えず洋食のレシピと仕込みマニュアルを渡すから目を通しといてくれ」
「わかったわ」
「ディナーのピーク前から入ってもらい、食材や器具の場所を覚えてもらい、動線の確認を頼む。今から下に降りてコックコートを用意するから更衣室で着替えて控室でレシピとマニュアルを確認しといてくれ」
「わかったわ」
紫水と二乃は下の店に行き、白のコックコートを二乃に渡し、着替えた後に控室に案内しレシピとマニュアルを渡した。
「これが洋食のレシピと仕込みのマニュアルだ。レシピを優先に覚えてもらい、仕込みの方は目を通す程でいい」
長い髪を後ろで纏めた二乃にレシピとマニュアルを渡す紫水。
「へー結構本格的なレシピなのね。しかもハンバーグだけでも、チーズ、デミ、和風、豆腐に付け合わせも数種類選べるなんて。パスタの種類も多いわね」
「洋食は1品物が多いからな。いけそうか?」
「ええ。大丈夫よ」
レシピを確認した二乃は種類の多さに驚いた。
「後1時間ほどでキッチンに入ってもらう。その間に目を通しといてくれ」
「わかったわ」
そう言い紫水は先にキッチンに向かってジューンの休みと助っ人の事を説明した。
1時間後紫水は二乃を連れキッチンに入った。
「皆今日急遽手伝いに入ってくれる中野二乃さんだ。腕は保証する、皆フォローをお願いします」
「中野二乃です。本日はよろしくお願いします」
紫水が二乃を紹介すると、二乃は頭を下げた。
「中野さんには今日洋食班に入ってもらいます。マチェスさん中野さんの事お願いします」
「
洋食班副班長のマチェスに二乃の面倒をお願いすると、マチェスはそう返した。
「マチェスさんよろしくお願いします」
「ああ。よろしく」
二乃はマチェスに挨拶をする。
ピーク前に入ったおかげで二乃は遅れずに済んでいるが・・・
(凄い速さでオーダーが飛んで来る・・・。組み合わせも多くついて行くので精一杯・・・。紫水は・・・)
二乃は次々に入ってくるオーダーに圧倒され食らいつくだけで精一杯だ。そんな中チラリと紫水の方を見る。
(凄い覇気・・・何時もの料理している時はまだ本気じゃなかったのね)
自分の店の為本来の覇気を纏う紫水に二乃は圧倒される。
(負けられないわね)
無意識に二乃の覇気も強くなり、手際がより良くなる。
(成程シェフが連れてくる程の逸材だ。シェフやジューン班長にも迫る覇気だ)
二乃の覇気に真っ先に反応したのはマチェスだった。
(ほう。二乃の奴覇気が強くなったな。いい刺激になったようだな)
紫水も二乃の覇気に反応した。
「ハンバーグ、デミのきのレモ1つとチーズInのジャーマンが1つです!」
ホールからオーダーが届き二乃が真っ先に動く。
(冷ます必要があるキノコのレモンマリネを先に用意して、ハンバーグを焼く前にじゃがいもを揚げて、油をきっている間にジャーマンポテトを完成間際にさせてハンバーグを焼く)
二乃はする事を思い浮かべ動く。
フライパンにオリーブオイルを引き、みじんにんにくを入れ弱火で炒め。香りがたったら、縦横半分の薄切りエリンギ、石づきを切り落として手でほぐしたしめじとまいたけを加え中火で炒め、全体がしんなりしたら、しょうゆを加え馴染ませ火から下ろす。中身をボウルに移し、粗熱が取れたらレモン果汁を加え混ぜ合わせ、ラップをかけ冷蔵庫で冷ます。
一口大に切ったじゃがいもを油で揚げ、油をきっている間にフライパンにオリーブオイルを引いて熱し、1cm幅に切ったベーコンを入れて軽く炒め、繊維にそって薄切りにした玉ねぎを加えてさらに炒めしんなりしたら、じゃがいもを加えて炒め、じゃがいもに焼き色が付いたら、塩こしょうで味を整えて完成。
じゃがいもを加える前にフライパンに薄く油を引いて、ハンバーグを焼く為に温めておく。
中火にしてハンバーグをのせ、約3分間、焼き色がつくまで焼き弱火にして裏返す。おちょこ3分の1程度の水を入れ焦げないように注意しながら、10分程度蒸し焼きにする。竹串で中央部分を刺して、透明な肉汁が出てきたら完成。
デミグラスハンバーグにはデミグラスソースをかけたらデミハンバーグの完成。
チーズInハンバーグには別の器に温めたチーズを添える。
キノコのレモンマリネをハンバーグと別の器に盛りつけ、細かく刻んだイタリアンパセリを散らしたら完成。
ジャーマンポテトはハンバーグと同じ器に盛りつける。
「デミのきのレモとチーズInのジャーマンのチェックお願いします」
二乃が紫水にチェックをしてもらう。
「・・・大丈夫ですサーブを」
「はい」
チェックをして大丈夫だった為サーブに出した。
その後も二乃は数をこなす程に手順を最適化させ店に貢献した。
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