「本当にいいのか?」
「ああ」
期末試験当日の屋上に紫水と上杉はいた。上杉の手には五月から借りたスマホを持っていた。
「勝手ですが、お願いがありまして。今日をもって、家庭教師を退任します」
電話の相手は五つ子達の父親マルオだった。
「知ってますか?二乃と五月が喧嘩して、家を出て行ったことを」
『初耳だね。もう解決したのかい?』
「はい」
『それならいい。では・・・』
「それだけですか?何故喧嘩したのか気になりませんか?あいつらが何を考え、何に悩んでるのか知ろうとしないんですか?」
と、そこで上杉はへらっと笑い、
「ってすみません、雇い主に向かって生意気言って・・・あ!もう辞めるんだった」
いかにもわざとらしく言うと、怒りをぶつけるように怒鳴った。
「少しは父親らしいことしろよ!!馬鹿野郎が!!」
そして通話を切る。
「頑張れよ・・・」
壁に背中をあずけ、雲一つない青空を見上げ笑みを浮べる。
「一花・・・二乃・・・三玖・・・四葉・・・五月・・・。お前等五人揃えば、無敵だ」
「やれやれ。折角の高額バイトを自ら手放すとはな・・・。そんな上杉に提案だ。晴彦さんの展開しているチェーン店のケーキ屋でバイトしないか?」
「お、助かる。それより東雲はどうするんだ?」
「次の土曜日が今年の勉強会最後だな。晴彦さんから『折角の高校生活なんだから12月24日~1月3日は休め』って言われたからな。暫くは専念することにする。ああ俺の口からはあいつ等にこの事は言わねえよ」
「助かる」
そして2人も期末試験に臨む。
期末試験が終わって数日が経った土曜の午後。
リビングに集まった五つ子達は期末試験の成績表を手にしていた。
「これはひどい・・・」
五月は『国51/数29/理70/社28/英37/合計215点』
「あんなに勉強したのにこの結果かー」
一花は『国36/数51/理45/社21/英41/合計194点』
「あらためて、私達って馬鹿なんだね」
三玖は『国42/数47/理43/社73/英26/合計231点』
「二乃、元気出して」
四葉は『国38/数19/理29/社31/英30/合計147点』
「アンタは自分の心配しなさいよ・・・」
二乃は『国28/数30/理47/社31/英52/合計188点』
「だが最初を思い出してみろ。全員で100点に比べたら今は1人で100点以上取れてるだろ?」
「それは、そうだけど・・・因みにシスイ君は?」
「今回も全教科100点だ」
「ホント紫水は規格外よね。一緒に働いてみて勉強と仕事の両立の大変さを実感したわ」
紫水はおやつのケーキを仕込みながら会話に加わる。
「俺はこの後仕事があるから後は頑張れよ」
ピンポーン
紫水が言い終わるとチャイムが鳴った。
「あれ?」
モニターホンの前に立っていた五月は四人に振り向いた。
「・・・上杉君じゃありませんでした」
少しして、スーツを着た白髪頭の男性が「失礼いたします」と入ってきた。
「おや東雲様。いらっしゃいませ」
「はい。お邪魔しています」
入って来たのはマルオの秘書である江端だった。
「なんだー江端さんか」
一花が親しげに言う。
「お父さんの運転手はお休み?」
「本日は臨時家庭教師として参りました」
なんの気ないに三玖が聞くと、江端から思いがけない返事が返ってきた。
「そ、そうなんだ・・・」
「江端さん、もとは学校の先生だもんね」
ぽかんとした姉妹の中から、四葉が戸惑いがちに言うと、一花が続く。
「アイツ、サボりか」
「体調でも崩したのかな・・・」
ムッとする二乃に心配する三玖。
そんな五つ子達の反応を見ていた江端が、コホンと咳払いして切りだした。
「お嬢様方にお伝えせねばなりません。上杉風太郎様は、家庭教師をお辞めになられました」
五つ子達は一瞬、頭が真っ白になった。
「旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験で契約を解除なされました」
「え・・・それって・・・フータローくん、もう来ないの・・・?」
信じられないという顔の一花。四葉と五月は、呆然としたまま言葉もない。
三玖はめまいを覚えたように放心状態だ。
「上杉様はご自分からお辞めになられたと伺っております」
江端の言葉を聞いて五月がスマホを取り出すが、上杉は中野家への侵入を禁ずると言われ三玖が出て行こうとするが江端が手で制した。
「臨時とはいえ、家庭教師の任を受けております。最低限の教育を受けていただかなければ、ここを通すわけにはいきません」
理路整然と説かれては、五つ子達も従うよりほかない。
テーブルを囲んで勉強を始めた5人。
スラスラと問題を解いていくが最後の一問で全員の勢いが止まる。
「はっはっは・・・その程度も解けないようであれば、特別授業に変更いたしますよ」
一斉に前のめりになる五つ子達。それを見て微笑むと、江端が紅茶を淹れにキッチンに入る。
「最後の問題今のあいつ等には難問でしょ?」
「ええ、その通りでございます」
「江端さん。貴方は誰の味方ですか?」
「それは東雲様の考えている通りですよ」
「そうですか・・・。あ、紅茶はこっちがこのケーキにあうと思います」
「流石東雲様ですね」
2人はケーキと紅茶を入れたカップをトレイに乗せリビングに戻る。
「おや、どうなされました?」
五つ子達がテーブルを離れて立ちはだかっている。
「江端さんもお願い協力して」
姉妹を代表して一花が一歩前に出て、真剣な眼差しで言う。
「・・・大きくなられましたな」
江端は口元を優しく緩ませ、しみじみと言った。
「俺も協力するぞ」
紫水も笑みを浮べて言う。