五等分の料理人   作:マスターM

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撮影

勉強会から数日後。

 

「どうです、俺の作ったパイ!店長のにそっくりだ!」

ケーキ屋の厨房で、上杉はオーブンから焼き立てのアップルパイを取り出した。

 

「ランクアップして給料上げてくださいよ!」

自信満々の上杉に店長がパイを一切れ手に取り、「食べてごらん」とさしだす。店長の手から一口かじった上杉は、あまりの不味さに吐き出しそうになった。

 

「おぇえ・・・なんか生っぽい・・・。これは三玖のこと馬鹿にできねぇな・・・」

「厨房に入れるのは、まだまだ先だね。あ、そうそう。上杉君、もう帰っていいから」

「えっ!?まさか・・・クビ!?」

「いや実はね・・・」

『『『おはようございます!!』』』

帰っていいと言われた上杉はクビかと焦る。店長が説明をしようとした時、従業員達が一斉に挨拶をし、店長と上杉がそちらを向くと・・・。

 

「おはようございます。皆さん今日はよろしくお願いします」

紫水がいた。

 

「東雲!?何故此処に?」

「ん?店長さんから聞いていないのか?」

「今説明しようとしていたところです」

「成程。いいか上杉、今日午後から映画の撮影に店を貸すことになっている。だからクビとかじゃないから安心しろ」

「そうか。ん?なら何故東雲が来るんだ?」

「店長さんから晴彦さん経由でアドバイザーを依頼されたからな」

「そういうことか」

紫水がいる理由を聞き上杉は納得した。

 

「失礼しまーす!今日はよろしくお願いしまーす!」

説明が終わった瞬間、ドアが開いて撮影スタッフが顔を覗かせた。

 

「映画がヒットすれば聖地としてファンが押し寄せるに違いないよ。他の店舗に売り上げを勝つ為に撮影で使うパイには店名の入ったピックを挿し込もう・・・」

(見習いたいハングリー精神・・・)

上杉が真顔で見守っていると、女子高生役らしい制服姿の女の子達が入って来た。

 

「わー、おいしそうー♪」

「よろしくお願いしまーす♪」

もれなくキラキラの芸能人オーラを漂わせている。

 

「あー!!」

女の子の一人が大声をあげて紫水を指さす。

 

「あの人って東雲紫水さんじゃない!?」

「本当だ!まさかこんな所で会えるなんて!!」

そう言い紫水に近づく女の子達。

 

「あ、あの東雲紫水さんですよね?」

「ええ。私が東雲紫水ですが」

「やっぱり!私ファンなんです、握手とサインそれと写真いいですか?」

「私もいいですか?」

「いいですよ」

女の子達は紫水のファンの様で握手とサインと写真撮影をお願いすると、紫水は快く了承し、握手とサインにツーショットや複数人との写真撮影に応じた。

 

(逆じゃないのか・・・?)

その光景を見て上杉はそう思い、さっさと帰ろうとする。

上杉が厨房を出た時、ドアベルが鳴ってドアが開いた。

 

「よろしくお願いしまーすぅ・・・」

「あっ!?」

入って来たのは、衣装の制服の上にダウンジャケットを羽織った一花だった。

 

「ん?一花も一緒だったんだな」

「シスイ君!?どうしてここに?」

「アドバイザーの依頼でな」

「ああ、そう言う事か」

紫水も一花に声をかけると、上杉は兎も角紫水がいる事に驚く一花。いる理由を言うと一花は納得した。

 

「え、中野さんって東雲さんと知り合いなの?」

「う、うん」

「いいないいな。下手な俳優よりイケメンで料理上手な東雲さんと知り合いなんて」

女の子達達が紫水と親し気に話す一花に知り合いかと聞くと一花は肯定し、羨ましがられた。

 

「それじゃあ撮影を始めるよ」

監督の掛け声で撮影が始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーン37の4、アクション!」

カチンコが鳴り、演技が開始した。

 

「ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです~」

髪を上の方で二つ結びにした一花が、ほっぺにぷにっとひと指を当てて小首をかしげる。脇役のいかにもアホっぽい女子高生タマコが一花の役だ。

 

「タマコ!そんなこと言ってる場合じゃないよ」

「え~、なんの話です~?」

「それ、呪いのリプライだよ」

「送られると死んじゃうっていう・・・」

「う~ん・・・タマコには難しくってよくわからないです~。それより、ケーキを食べるのです~」

撮影スタッフの後ろから見学していた上杉は、唖然として一花の演技を見ていた。

紫水は映画スタッフの為のデザートを作っている。

 

 

 

 

 

一旦出番が終わった一花は、上杉をバックヤードに引っ張り込んだ。

 

「なんだよ、タマコちゃん」

「フータロー君・・・恥ずかしいから、見ないでくれるかな?」

壁ドンして、羞恥心でいっぱいの顔を上杉に向ける。

 

「恥ずかしがるようなら、やるなよ」

「・・・皆には誤魔化してるけど、貯金が心許なくてね。シスイ君のおかげで色々と抑えれたけど、食費や光熱費やら、思ったよりかかるんだもん。だから、どんな小さい仕事でも引き受けるって決めたんだ。あの子達の為にも、私が頑張んなきゃ」

一花の長女としての覚悟が、上杉にも伝わってくる。

 

「だから止められても・・・」

とすまなそうに言い淀む。

 

「その努力を否定するつもりはない」

思いがけない上杉の言葉に、一花は俯いたままハッとした。

上杉は一花から目を逸らして、けれど心は真摯に向き合っている。

 

「それに、家庭教師を続けるチャンスを作ってくれたお前には感謝している。だがお前ならもっと器用にできるだろ。拘束のかわりに実入りの少ない女優の仕事にこだわらならくてもいいんじゃないか?」

一花が反論しようと顔を上げた時に、スタッフに呼ばれ小走りで戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「う~ん♪おいしいです~♪」

アップルパイをパクッとほおばった一花が、うっとり目を閉じる。

 

「はーいカット!いいね!」

監督の声がかかった。

 

「今のもいいけど、もう2パターンやってみようか」

「はい!」

上杉は観葉植物のプランターに身を潜め、演技中の一花をジト目で観察していた。

 

(あのぶりっ子姿、あいつ等にも見せてやりたいぜ・・・)

そこにアップルパイを取りにスタッフが来た。持っていたアップルパイにはピックが刺さってなく、上杉は自分が作った失敗作のアップルパイと知りサーッと血の気が引いた。

 

「う~~ん♪おいしいです~~♪」

「いいね!」

一花は両手でほっぺを包み、弾ける様な笑顔になり、その笑顔を上杉は瞬きも忘れ見つめていた。

 

「次で最後。アクション!」

「うう~~~ん♪おいしいです~~~♪(この味間違いなくシスイ君のだ)」

「いいねぇ!最高!」

最後のアップルパイは紫水作で自然な笑顔を引き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後店での撮影が終わり、紫水は映画スタッフ・店舗スタッフに用意したデザートのケーキやパイなどをテーブルに並べていく。

 

「皆さんお疲れ様でした。ささやかですがお召し上がりください」

「おいしそう!」

「東雲さんのデザートを食べれるなんて」

「あ、明日からダイエットすれば大丈夫・・・」

紫水のデザートに主に女の子達から歓声があがる。

 

「いやーあの時は気付かなかったけど、東雲紫水君と思い出した時には驚いたな」

「あはは・・・あの時は失礼しました」

紫水は一花の所属する芸能プロダクションの社長の織田と話していた。

 

「君には俳優として芸能界デビューしてほしいけど・・・」

「すみません。今は自分の店に集中したいので」

「心の片隅にでもおいててもらえればいいよ。私も君の料理のファンなのだからね。君の料理が食べられなくなるのは寂しいからね」

「ありがとうございます。何時でもよろしいので、ご来店の時をお待ちしております」

織田は紫水に俳優としてデビューしてほしいが、自身も紫水の料理のファンの為。心にとめといてくれればいいと言い、紫水は礼を言い来店を待っていると言う。

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