前に書いていた「デート・ア・ライブ イレギュラーブルー」のリメイクというよりリユース作品を書きたくなったので書きました。よろしければ見ていただけるとありがたいです。m(*_ _)m
修正記録
※2023年3月29日 サイド形式の廃止
……夢を、見る。
この世のものとは思えない、美しい白い花に囲まれ、何かの遺跡のような大理石の柱があちこちに聳え、少し緑がかった空には星が瞬く世界。
そこに、その少年はいつも棒立ちの状態で居る。
少年は初めて見るはずの世界に驚いた様子を見せず、その視線の先には……
「……また、会ったね」
現実の世界の人々と比べるのすらおこがましく感じてしまうほど、美しい少女が居る。
その少女は幻想的なこの場所に合った白いドレスを纏っており、少年に向かって可憐な笑顔を浮かべる。
艶やかな黒の髪はほのかに白く光っており、光の帯をいくつも垂らした純白の服を纏ったその姿は、まるで神話に出てくる……精霊を連想させる美しさで、少年の視線を釘付けにした。
「────お前、は」
そこで、少年は
この夢の世界では、少年は体の自由が効かず、毎回同じ行動を……言葉を少女に放つ。
そして、少女は決まっていつも。
「────残念だけど、教えられないんだ。……知られるわけには、いかないから」
今にも泣き出してしまいそうな程、涙を溜めた瞳で、少し掠れた声で、少年に返答する。
少年はそんな少女のことが気になるのか、手を伸ばそうとするが……
そこで、少年の視界が真っ白に染まり────
「────っ!?!?」
瞳をカッと見開き、ベッドの上で少年……
蹴飛ばされた布団は天井に一瞬張り付き、すぐさま重力に従って再び蒼の体の上に落ちてくる。
「……また、あの夢かよ」
深い溜息と共に一言呟き、ベッドから降りた蒼は下の階へ向かい、リビングの端に近づき冷蔵庫の下の段から冷凍食品のチャーハンを取り出す。
次に、蒼は冷蔵庫の横にあったレンジに体を向け、冷凍チャーハンを中へ放り込みレンジ横のボタンを操作し加熱を始める。
レンジから加熱音が鳴り、数分の暇が出来たのでその時間を有効活用するために、蒼はクローゼットへと歩き、その中にしまってあった服へと着替え始める。
今日は始業式の日であり、蒼は高校二年生になる。
通っている学校は都立雷禅高校という都内でも有名な方の高校であり、家が近いからという単純な理由で受験したのだが思ったより倍率が高く、文字通り死ぬほど苦労することになった。
後々知ることになったのだが、雷禅高校には最新のあらゆる設備が整っており、その上校舎も真新しいため入学希望者が多く、倍率が高いらしい。
「──よし、着替え終了。そんじゃ、お楽しみの新作冷凍食品を……」
着替え終わった瞬間、丁度いいタイミングで加熱が終わる。
レンジからチャーハンを取り出し、テーブルまで運んでから封を開ける。
チャーハンの香ばしい匂いが蒼の鼻腔をくすぐり、早く食わせろと言わんばかりに腹が鳴る。
置いておいたレンゲで、チャーハンを掬い口に入れる。
「──お、けっこう旨いな」
店のものより少し油っこすぎる気がするが、それでも旨い。
ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
再びレンゲでチャーハンを掬い、口に入れる。気付けば、袋の中には米粒一つ残っていない。
「ご馳走様でした、っと。さて、片付けて学校へ直行すっか」
手を合わせ一礼すると、残った袋をゴミ箱に捨て、レンゲを流し台に放り込んで玄関へと歩き、事前に置いてあった鞄を右手で持ち上げる。
……が、蒼はやり忘れていたことを思い出し鞄を置き直すと、仏間へ向かう。
「……行ってくる。親父、お袋」
仏間に着いた蒼の目線の先には、蒼の身長ほどの大きさの開いた黒箱……仏壇があった。
仏壇には、二人の男女が肩を寄せて抱き合っている写真が置かれており、幸せそうに満面の笑みを浮かべている。
そこに眠るのは、数年前に事故で亡くなった蒼の義両親。
捨て子だった蒼を、一生懸命に、愛情を注いで育てた、恩人。
蒼は生まれてすぐに生みの親に捨てられたようで、飛来家の家の前に放置されており、外出先から戻った際に玄関先に居た蒼を拾って育ててくれたのが今の両親になる。
ただ、名前だけは生みの親が決めてくれていたらしく、捨てられていた蒼が着ていた服のポケットに紙が入っており、『蒼』という名前らしき文字が殴り書きで書かれていたらしい。
……故に、蒼は生みの親を憎んでいなかった。
────名前を考えてくれた。なら好き好んで捨てた訳では無い。
そう、考えていたから。
「っと、そろそろ行かねーとな」
合わせていた手を離し、蒼は小さく「行ってきます!!」と再び言ってから玄関まで歩き革の靴を履く。
その際自身の、生まれつき白いメッシュがかかった黒髪に寝癖が無いかを靴箱にかけてある鏡で入念に確認した後、扉を開けて学校へ向かう。
「……えー、俺の教室は……お、二年四組か。……ん?殿町も五河も同じクラスじゃねーか、ラッキー」
家から歩いて十数分後。学校に着いた蒼は真っ先に廊下目掛けて走り、掲示板に張り出されている自身のクラス表を見て歓喜する。
実を言うと、蒼には友人と呼べる人が少ない。この学校で友人という存在は居ても二人ぐらいである。そんな二人が同じクラスに居ると分かれば誰だって喜びたくもなるだろう。
「おっす、久しぶりだな飛来!!!」
掲示板を眺めていた蒼に、後ろからハキハキとした声がかけられる。
声の方に振り向いた蒼の視線の先には、ワックスで逆立てられた髪と筋肉質の体が特徴的な少年……蒼の数少ない友人の一人である
「お、殿町か。おはよう、今日も元気だなお前」
相変わらず元気そうな殿町の様子に言うと、殿町は得意げにフフンと鼻を鳴らした。
「まぁな、こちとら鍛えてますし。ってかお前は相変わらずほっそいな……ちゃんとメシ食ってるのか心配になるな」
殿町が自身の肉体と蒼の肉体を交互に見て、蒼の肉体の細さを気遣うように言う。
蒼自身はそこまで痩せているとは思わないが……毎度言われていることなので気にしないことにした。
「安心しろって。毎日三食きっちり摂っているから問題ねーよ」
「それならいいんだが……」
「朝昼夜インスタントか冷凍食品に追加で惣菜で買ってきたサラダ。パーフェクトな食事だろ?」
「いや全然パーフェクトじゃねーだろ!?欠けまくってるぞ栄養が!!!!」
蒼が語った日々の食生活に驚いたのか、殿町が後ずさりながら頭を抱える。
そんなオーバーリアクションをする殿町に対して、蒼の口からは自然と小さな笑みがこぼれていた。
「……お前今までよく生きてこれたな」
「ほんとにそうだよな……俺もなんで生きてんのか不思議に思えてきた……」
殿町の呆れたような声に、蒼は顎に手を当て悩むような仕草をする。
……蒼は一人暮らしをしているのにも関わらず、あらゆる家事が苦手である。
皿を洗えば皿を全て割り、洗濯をさせれば服が全てカビたり、料理を作らせれば食中毒待ったナシのゲテモノ料理が完成するなど……極端に、壊滅的だった。
故にそれらは全て機械に任せてきた蒼だったが……荒っぽい使い方をしていないのに、結構な頻度で機械も壊れてしまい出費がとんでもないことに。
「お、五河じゃねーか……!!?おい飛来!?あれ見ろ!!」
「ん?」
殿町が驚いた顔をしつつ何処かに指を指し、その方向へ向くように催促してきたので、蒼は言われるがまま殿町の指す方へと顔を動かす。
そこには、青髪の中性的な顔立ちの少年……蒼の親友の一人である
「……誰だ、アイツ」
「ウチの高校が誇る超天才、
……ってかお前知らないのかよ、もうちょっと周りの物事に興味持とうぜ?」
五河に話しかけている人が誰か分からず呟くと、そんな蒼に再び呆れるように溜息混じりに解説を挟む。
「てかそれよりも、だ!!!!なんであいつが話しかけられてんだよ!!?鳶一って永久凍土とか米ソ冷戦とかマヒャドデスとまで呼ばれてんだぞ!?どうやって取り入った!?」
先程までの軽い雰囲気から一転し、突如殿町が嘆くように頭を抑え叫び出す。余程鳶一が五河に話しかけていたことが衝撃的だったらしい。
「……ひでぇ言われようだな、その天才サマ」
「それだけ塩対応ってことなんだよ!!!!
……決めた。俺、今度からあいつのことセクシャルビースト五河って呼ぶわ。そんで一発驚かしてやる」
そう言いながら殿町は恨みを込めるように握り拳を作り、手のひらに打ち付けパンと乾いた音を鳴らす。
「……南無三、五河」
蒼は可哀想なあだ名を付けられてしまった友に合掌し、殿町と共に友の元へ向かう。
「とうっ!!」
「げふっ!?」
五河の後ろに立つと早速、殿町が腕を振り上げ平手打ちを五河の背中に叩き込む。
いきなり痛みが走ったせいだろう。五河が情けない悲鳴を上げる。
「ってぇ、何しやがる殿町!!」
痛そうに平手打ちを食らった背を擦り、背後に居る蒼達の方を向く五河。
「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」
五河の背を叩いてスッキリしたのか、清々しい顔で腕を組み、殿町は笑った。
「セク……なんだって?」
「セクシャルビーストだってよ。お前がさっき話してた子、鳶一折紙っていう超天才の塩対応っ子みたいでな、そんな子に話しかけられてたお前にこいつ嫉妬してたぜ」
「おい飛来!!余計な情報付け加えんな!!」
「いでぇっ!?」
殿町の言動に疑問を抱いていた様子の五河だったので、蒼は殿町を指さしことのあらましを教える。しかし明かされたくないことも言ってしまったのか、殿町が蒼の背を五河と同じように叩き、情けない悲鳴を上げた。
「ははは……久しぶりだな、飛来。ちゃんと飯食ってるか?」
「おう、久しぶりだな五河。ってか最初に俺に聞くのがそれかよ……」
苦笑を浮かべる五河と軽く挨拶を交わすも、最初に聞かれた内容が食事のことであったため蒼は五河と同じく苦笑してしまう。
「だって……なぁ?」
その言葉と共に、五河が同意を求めるように殿町へと視線を送る。
殿町は大きく首肯し、五河の言いたいことを代弁するかのように話し出す。
「うんうん。そりゃあ、この前の体重測定でお前痩せすぎって言われてたしな。てかさっきも冷凍食品と惣菜のサラダしか食ってねぇって言ってたしな。心配するだろフツー」
「ウッ……ハイ、全くもっておっしゃる通りでございます……」
胸によく突き刺さる正論を並べられ、何も言い返せなくなった蒼は痛む胸を抑えながら、認めたくはない自分の非を認める。
「……で、鳶一の話に戻るんだけどよ。五河お前、鳶一と知り合いなのか?」
「いや、知り合いじゃないし……向こうからいきなり話しかけてきたというかなんというか……」
「……塩対応っ娘がよってくる香水でも撒いたのか?」
「「そんな香水ねぇよ!!!!」あったら欲しいわチクショウ!!!!」
「だよなぁ」
ボソリと呟いた言葉に2人からツッコミを入れられ、蒼は自身の呟きが聞こえていたことに対して驚きつつ頷く。
「……てか第一、『恋人にしたい男子ランキング・ベスト358』で52位の五河が、『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』の三位に話しかけられるなんて有り得ねー……」
「おい待て殿町、今なんて言った?恋人にしたいランキング?」
「なんだ、五河お前知らないのか?去年開催してたランキングなんだが、お前は匿名から一票入って52位だぞ。
「……?なんか中途半端じゃないか、ベスト13って」
「あ!!?ランキングで思い出しちまった!!!!おい飛来テメェ!!!!」
「ん?」
五河の問いかけを遮ってまで殿町が自身を呼んだことを訝しみつつ蒼は呼ばれた方へ向くと、突如殿町が机をバンと叩いて立ち上がり蒼をビシッと指さし。
「お前一体女子にどんなことしてんだよ!!!!お前五票入ってダントツでトップ突っ走ってたんだぞ!!!!」
「……は?」
唐突な事実公表をする。
いきなりその事を知らされた蒼は現実を受け止め切れず固まってしまう。
「理由もありえねぇぐらい多いぞ!!!『耳元でテンプレ囁いて欲しい』『これは良夫』『若干ヤンデレっぽそうだがそこがいい』エトセトラエトセトラ……お前マジで何しでかしやがった!?」
「え、本当かそれ?飛来お前……」
「……あー」
訴えかけるような殿町の言葉に、若干の心当たりがあった蒼は納得すると同時に。
「……ちっ、勝手に解釈してんじゃねーよ……
心当たりはねーな。女子に直接聞け」
と、聞こえないほど小さい舌打ちと文句を垂れてからから返答する。
「なんだよー、教えてくれよモテモテ飛来さまー」
「うるせぇ誰がモテモテ飛来様だボケ」
「おうっ!?」
ふざけた態度で何度も頭を下げている殿町に若干腹がたった蒼は、その脳天目掛けて軽いチョップをかます。
────キーンコーンカーンコーン。
面白おかしく話していた三人だったが、その終わりが訪れた。
蒼達に授業の準備を急かすように、聞きなれた授業の予鈴が鳴り響く。
「おっと」
「お、もう時間か。五河、とっとと自分の席行った方がいいぜ」
「了解。それじゃ、また後でな」
そう言い、五河が蒼と殿町から離れ自分の席へ向かい机に鞄を置いた……が。
「「……うっそーん」」
蒼と殿町が同時に声を上げる。
なんとも奇遇なことに……五河の席は先程話題に上がっていた天才少女、鳶一折紙の隣だったのだ。
五河もその事に気がついたようで、隣に美しい姿勢で座っている鳶一のことを見て固まっていた。
しかし数秒後にはハッと何かに気づいたように動き出し、椅子へ座り視線を黒板へと移す。
それに合わせるように教室の扉がガラガラと音を立てて開き、そこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓に立つ。
「タマちゃんだ……」
「ああ、タマちゃんだ」
「マジで?やったー」
周囲がその女性の登場に喜ぶようにざわめき出す。
「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます、
そう言いながら、社会科担当の岡峰珠恵教諭……通称タマちゃんが頭を下げる。その際サイズが合っていない眼鏡をかけていたのか、ズレた眼鏡を慌てて両手で押さえる。
こうしたドジっ子なところや、この学校の生徒と比べても同年代にしか見えない童顔と小柄な体躯、のんびりとした性格という多彩な要素を持ち、生徒から絶大な人気を誇っている先生である。
「……?」
不意に、左から何かに見られているような感覚を覚え、ちらりとその方を向く。
「────あ?」
窓の外に、紫のメッシュがかかった長い黒髪を揺らす少女の姿が見えた。
魔法使いのように、何かに跨って空中に浮かび、蒼のことを凝視していた。
「……疲れてんだな俺」
大きく首を振って、見えたものを否定する。
空に少女が浮かんでるなんて事象は……蒼の思いつく限りでは『一つしか』心当たりが無かった。
見間違いだと思いつつ、蒼は一度目を擦ってから再び窓の外を見る。
すると、少女の姿は既に消えており周囲にも少女の姿は見えず、蒼は見間違いと処理して正面に向き直る。
「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」
「殿町と同じく。割り勘でいこうぜ五河ー」
朝の一悶着から三時間後、始業式が終わり帰り支度を済ませ帰宅する生徒らがちらほらと現れ始めた中、鞄を肩がけにした士道の親友である二人、殿町と飛来が話しかけてきた。
昼前に学校が終わることなんて、テスト期間以外では滅多にありえない。
友人とどこへ昼食を食べに行くか相談しあっているクラスメイトの姿が、ちらほらと見られる。
士道は二人の提案に頷きそうになったが、「あ」と声を漏らして思いとどまる。
「悪い。今日は先約があるんだ」
「なぬ?女か」
「……え、マジかよ」
「あー、まぁ……一応」
「なんと!!」
「ウソダドンドコドーン!!!!」
殿町が両手をV字に掲げて片足を上げたグリコみたいなポーズになり、飛来はどこかの雪山で土下座をしていそうな人の言葉を出してうなだれる。
「一体春休みに何があったっていうんだ!!あの鳶一と仲良くお話しするだけじゃ飽き足らず、女と昼飯の約束だと!?一緒に魔法使いを目指すって誓い合ったじゃねぇか!!!」
「ソンナァ……イツカニカノジョガ……ウソダ……ソンナノウソダ……」
「いや、誓い合った覚えはないし彼女なんて居ないんだが……ていうか、女っていっても
士道が妹の名前を出すと、殿町と飛来は安堵したかのように大きな息を吐く。
「んだよ、驚かすんじゃねぇよ」
「全くだ。俺らをさし置いて先に大人の階段登ったのかとヒヤヒヤしたぜ」
「お前らが勝手に勘違いしてたからだろうが」
「でもま、琴里ちゃんなら問題ねぇだろ。俺らも一緒に行ってもいいか?」
「ん?ああ、別に大丈夫だと思うけど……」
と、士道が言った途端に殿町が士道の机に肘を乗せて、耳元に口を寄せひそひそと話し出す。
その話を聞くように、飛来も殿町と同じ体勢になり耳を傾けてくる。
「なぁなぁ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」
「は?」
「いや、別に他意はねぇんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」
「……やっぱ却下だ。おまえ来んな」
「……殿町……お前ロリコンだったのか……」
士道は半眼を作り、やけに近かった殿町の頬を押し返す。
先程の言葉に飛来も引きぎみになり、蔑むような視線を殿町へと送っていた。
「そんな!!お義兄様!!!」
「お義兄様とか呼ぶな気持ち悪い」
士道が眉をひそめると、殿町はよっこいしょと体を起こして肩をすくめた。
「はは。ま、俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃねぇよ。都条例に引っかかんねぇ程度に仲良くしてきな」
「おまえはいっつも一言余計だな」
頬をピクつかせながら言うと、殿町は意外そうな顔を作る。
「だっておめ、琴里ちゃん超可愛いじゃねぇか。あんな子と一つ屋根の下とか最高だろ」
「実際に妹がいれば、その意見は間違いなく変わると思うがな」
「あー……それはよく聞くな。妹持ちに妹萌えはいないとか。やっぱ本当なのか?」
「ああ、あれは女じゃない。妹という名の生物だ」
士道がきっぱり断言すると、殿町は苦笑した。
と、談笑していた士道と殿町だったが、ちらりと飛来の顔が士道の目に写る。
「ははは……」
飛来は殿町と士道を交互に見て笑っていたものの、どこか元気がないように思えた。
……思い返すと、琴里の話をし始めた時には既に飛来の顔色が少し悪くなっていたような気がした。
────直後。
「……ッ!?」
「なっ!?」
「お!?」
唐突に、ガタッと机が揺れる音と共に……飛来が苦しげに胸を抑えて机に突っ伏した。
「おい飛来!?どうした!?」
いきなりの事態に士道は、慌てて飛来に顔を近づけそう聞くも、返ってきた返事は……
「……チッ……こんなめでたい日に、かよ……クソッ、タレ……」
苦しげに、小さな声で飛来が放ったその言葉の意味がわからなかった士道は、胸を抑えて悶える飛来をとにかく保健室へ運ぼうと腕を伸ばす……が。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────────────
「…………ッ!?」
唐突に鳴り響いた、窓が震えるほど大音量のサイレンに動作が止まる。
「な、なんだ!?」
殿町が窓を開けて外を見ると、サイレンに驚いたのか、鴉が数羽空にバタバタと飛んでいた。
教室に居た生徒たちも、全員会話を止めて目を丸くしている。
と、サイレンに続くように、聞き取りやすくするためか、言葉を一拍ずつ区切るようにして機械越しの音声が響いてきた。
『────これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します────』
瞬間、静まり返っていた生徒らが一斉に息を飲む音が聞こえた。
────空間震警報。
30年前に突如発生し、ユーラシア大陸に致命的な被害をもたらしたその災害が訪れようとしていた。
皆の予想が、確信に変わる。
「おいおい……マジかよ」
殿町が乾いた声を発する。
しかし、士道を含めこのクラスに居る全員は顔に緊張と不安を浮かべているものの、比較的落ち着いてはいた。
恐慌状態に陥り、パニックを起こす生徒の姿は無い。
この街は30年前に空間震によって深刻な被害を受けているため、士道たちは幼稚園の頃から、嫌になるほど避難訓練を繰り返し行っていたのである。
更に皆を安心させる要素として、この高校には全生徒を収容規模の地下シェルターが備えられている。
「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」
「お、おう、そうだな」
「殿町は先に行っててくれ、俺は飛来を……!?」
殿町が頷いたのを確認した士道は、空間震のいざこざで忘れかけてしまっていた飛来が気になり視線を向けるが……既に飛来は机から立ち上がっており、先程までの苦しさが無くなったのかけろりとしていた。
「悪ぃな二人とも、心配かけた。俺は大丈夫だ」
「え……で、でも一回保健の先生に見てもらった方が……」
「……無茶してんじゃないよな……?」
「安心しろって。偶に起こる無害な発作だからよ」
士道と殿町の言葉に、飛来は笑顔で言葉を返し緊張をほぐそうとしたのか二人の肩を軽く叩いてくる。
「それよか早く避難しようぜ?もう皆避難してるしな」
「「あ、ああ……」」
飛来のことが心配ではあるものの、本人が大丈夫と言うのなら大丈夫だと思った士道は、殿町と飛来と共に走らない程度に急いで歩き、教室から出て廊下に出来た溢れんばかりの生徒らの行列に並ぶ。
と────士道の視界に、一人だけ列とは逆の方向……昇降機に向かっている女子生徒の姿が映る。
「鳶一……?」
そう、スカートをはためかせながら廊下を走っていたのは、あの鳶一折紙だった。
「おい!何してんだ!!そっちにはシェルターなんて────」
大声を上げて、鳶一を制止しようと士道は呼びかけるも鳶一は一瞬足を止め、「大丈夫」とだけ言い残し再び駆け出して行った。
「大丈夫って……何が」
「五河、鳶一ならほっとけ。忘れもんでもしたんだろ、すぐ戻ってくるさ」
「そう……だよな」
士道は怪訝そうに首を捻るも、飛来の一言で納得し大人しく列に並び直す。
空間震警報中に取りに行くほど大事なものは……携帯か財布等だろう。空間震警報が発令されても、すぐ空間震が起こる訳では無い。あの速さならすぐに戻ってくるだろう。
「お、落ち着いてくださぁーい!!!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!!!おかしですよ、おーかーしー!!!
おさない・かけない・しゃれこうべーっ!!!」
と、突然、廊下に生徒を誘導している岡峰教諭の大声が響いてきた。
同時に、生徒たちからくすくすという笑い声が漏れ始める。
「……自分より焦ってる人見るとなぜか落ち着くよな」
「あー、なんとなくわかる気がする」
「ミートゥー」
士道が苦笑すると、二人も似たような表情を作って返してきた。
実際に、タマちゃん教諭の頼りない様子に、生徒らは不安と緊張が解されているように見える。
「────あ」
そこで、士道はあることを思い出しポケットを探り携帯電話を取り出した。
「ん、どうしたよ五河」
「なんだ、愛しの彼女からのメッセージでも来たのか?」
「いや、ちょっとな」
適当に言葉を濁し、士道は携帯の着信履歴から『五河琴里』の名を選んで電話をかける。
が────繋がらず。何度試してみても、結果は同じだった。
「……駄目か。ちゃんと避難してるんだろうな、あいつ」
琴里が電話に出ないことを心配し、ボソリと呟く。
まだ中学校を出ていなければ大丈夫なのだが……問題は、もう既に学校を出てファミレスに向かっている場合だった。
あの近くにも公共のシェルターがあるため、普通に考えれば問題はないのだが……どうしても、士道は湧き出てくる不安を抑えきれなかった。
警報なんぞ意に介さず、まるで忠犬のように士道を待っている琴里の姿が、なんとなく想像できてしまったのである。
脳裏に、琴里が朝に行っていた「絶対だぞー!!!」の言葉がエコーがかかったように何度も響く。
「ま、まぁ空間震が起きても絶対約束とは言っていたけど……さすがにそこまで馬鹿では……っと、そうだ、あれがあった」
確か、琴里の携帯はGPS機能で位置が確認できるようになっていたはず。
携帯を操作すると、画面に街の地図と、琴里の位置を示す赤い点が出現する。
「────ッ!?あんの、馬鹿……ッ!!!」
すぐさま、士道は画面をそのままに携帯を閉じてポケットに突っ込み、列から抜け出しその場から駆け出した。
琴里の位置を示す点は……約束のファミレスの前で停止していたのだ。
「お、おいッ、どこ行くんだ五河!!!」
「何してんだ!?戻ってこい五河!!!」
「悪い!!忘れ物だ!!先行っててくれ!!!」
二人の声を背に受けながら、列に逆らい昇降口まで出る。
そのまま靴を履き替え、士道は転びそうなほど前のめりになり外へと駆け出した。
校門を抜けて、坂道を転がるように駆け下りる。
「……っ、こんなんなったら、普通避難するだろうが……!!!」
ぜんりょくで全力で走りつつ、士道は叫んだ。
士道の眼前に広がるのは、人の気配がしない、嫌なほど静かな街。
誰かがそこにいた痕跡だけを残して、人間の姿だけが無い。まるでホラー映画のワンシーンだった。
この天宮市は、三十年前の大災害以来、異常なほど空間震対策が施されている。先にも言った避難訓練の件もその対策の一環であり、公共施設の地下にはもちろん、一般家庭のシェルター普及率も全国一位だ。
それに……最近空間震が頻発していることもあったからか避難は迅速であった、というのに。
「なんで馬鹿正直に残ってやがんだよ……っ!!!」
先程突っ込んだ携帯を取り出し、走るペースを落とさず携帯を開く。
琴里を示す点は、やはりファミレスの前から動いていなかった。
「帰ったらデコピン乱舞の刑に処してやる……!!!」
そう決意しながら、ファミレスを目指して足を動かし続ける。
だが、人間である士道はいつまでも走り続けられる訳では無い。
足が痛みだし、手の指先が痺れる。
乾いた喉が張り付き、目眩がする。
だが、士道は止まらなかった。危険や疲労は無視し、ひたすら琴里の元へ走る。
────と。
「……っ、────?」
顔を上方に向けた士道の視界の端に、何か動くものが見えた。
「なんだ……っ、あれ……」
眉をひそめ、士道は目を凝らす。
空に、人影のようなものが四つ浮いている。
だが、それを気にする暇は無くなった。
「うわ……ッ!?」
進行方向の街並みから強烈な光が発生し、士道は思わず目を覆う。
続いて、耳をつんざく爆音と凄まじい衝撃波が指導を襲う。
「んな……っ」
反射的に顔を腕で覆い、足に力を入れた士道だが、大型台風の如き風に煽られ後ろに倒れてしまった。
「ってぇ……一体なんだってんだ……
────は────?」
目を擦りながら身を起こし、視界に映った景色に……絶句する。
────消えていた。士道が目を瞑るまであったはずの街が、跡形もなく。
「な、なんだよ、なんだってんだよ、これは……ッ」
繰り返すように、呟く。
何の比喩でも冗談でもなく、隕石でも降ってきたかのように、いや、なにか得体の知れないものに消し去られたかのように、削り取られていた。
そして、遠目のため細かい所までは見取れないが……
「なんだ……?」
クレーターの中心には、玉座のような物が一つと。
「あの子……なんであんな所に」
その玉座の肘掛けに片足を乗せた、奇妙なドレスを纏った少女が一人ポツンと立っていた。
朧気ではあるが、その少女は長い黒髪に、不思議な光を放つスカートを着けているのを見ることは出来た。女の子であることに、恐らく間違いはないだろう。
そんなことを考えていると、少女が気怠そうに首を回し、士道の方へと顔を向けた。
「ん……?」
士道に気付いた……のだろうか。遠すぎてよく分からず、士道は首を傾げるも、少女は士道の方を向きながら動きを続けた。
ゆらりとした動作で、玉座の背もたれに生えている棒を握ると、『それ』をゆっくりと引き抜く。
『それ』とは……幅広の刃を持った、巨大な剣だった。
星のような、幻想的な輝きを放つその刃を、少女が大きく振りかぶるとその軌跡をぼんやりとした輝きが描いていった。
そして……
「い……ッ!?」
少女が士道の方に向けて剣を横薙ぎに振り抜いた瞬間に、士道の手から力が抜け、体がガクンと下に下がる。
「────な」
先程まで士道の頭があった場所を、刃の軌跡が通り過ぎる。
その直後、士道の耳に雷が落ちるような音が後方から聞こえた。
「……は──?」
後ろを見た士道は、目を見開き停止する。
士道の後方にあった家屋や店舗等、あらゆる建造物が、一瞬で同じ高さに切り揃えられていた。
「ひっ……!?」
士道は先程頭を下げていなかったらどうなっていたかを悟り、怯えるように細い悲鳴を上げる。
理解の範疇すらとうに超えた恐怖が、心臓を締め付け鼓動を早める。
「じょ、冗談じゃねぇ……っ!!!」
抜けた腰を引っ張るようにして後ずさる。一刻も早く、少しでも遠くに、この場から離れなければと、士道の本能が本人の意思に関係なく体を動かす。
だが。
「──おまえも……か」
「……っ!?」
酷く疲れたような声が、士道の上から響いて動きが止まる。
いつの間にか────クレーターの中央に立っていた少女が、目の前に居た。
「あ────」
意図せず、声が漏れた。
年齢は士道と同じくらいだろうか。
膝の辺りまで伸びている黒髪に、愛らしさと凛々しさを兼ね備えた皇女の如き貌。
水晶のように透き通った瞳。纏うは、布か金属か不明な素材で織られ、継ぎ目やスカート等が光の膜で構成されたドレス。
そしてその手には、少女の身の丈か、それ以上はあるだろう大剣が握られている。
「────、────」
一瞬の間。死への恐怖や、呼吸すら忘れ、士道の視線は少女に釘付けになった。
────少女の、暴力的なまでの美しさに。
「──君、は……」
呆然と、声を発する。
目の前に居るのが女神だとして、その神を自身の声で呼びかけ冒涜したことで、喉を切り裂かれることすら考えた上で。
少女は、ゆっくりと視線を下へ下ろす。
「……名、か」
心地の良い声が、大気を震わす。
しかし。
「────そんなものは、ない」
どこか悲しげに、少女は言った。
「────っ」
そのとき。士道と少女の目が初めて交わった。
それと同時に、目の前の名無し少女は、ひどく憂鬱そうで──今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、剣をカチャリと音を立てつつ握り直す。
「ちょっ、待った待った!!!」
少女の剣の音を聴いたことで、戦慄が蘇る。士道は必死に声を上げた。
だが、少女はそんな士道に不思議そうな視線を送る。
「……なんだ?」
「な、何しようとしてるんだよ……っ!!」
「それはもちろん──早めに殺しておこうと」
当たり前のように言い放つ少女に、顔を青くする。
「な、なんでだよ……っ!!」
「なんで?当然ではないか」
物憂げな顔を作りながら、少女は続けた。
「────だってお前も、私を殺しに来たんだろう?」
「は────?」
予想外すぎる返答に、士道は口をポカンと開けた。
「……っ、そんなわけ、ないだろ」
「────何? 」
士道の放った言葉に、少女は驚きと猜疑と困惑が入り交じったような目を向けてきた。
だが、少女はすぐに眉をひそめると、士道から空へと視線を移す。
士道もつられて視線を少女の向いている方に移すと────
「んなっ……!?」
限界まで目を見開き、息を詰まらせる。
何しろ、空には奇妙な格好をした人間が数人飛んでおり──その手に持っていた武器から士道と少女目掛けてミサイルのようなものをいくつも発射してきたのだ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ────!?」
思わず叫びを上げてしまう。
「────、──────!!!!!!」
「…………?」
その時だった。士道の後方から、聞き覚えのある声が響いたのは。
直後、士道らに迫っていたミサイルは……後方から飛んできた光弾と銃弾のようなものに撃ち抜かれ、空中で爆発した。
反射的に顔を腕で覆うと、熱を帯びた爆風が士道に襲いかかった。
「────チッ、こんなとこで何してんだよアホンダラ……!!!!!」
「……え……?」
士道のすぐ隣から、その声は聞こえた。
腕を退かして、声の方を見ると────
────白銀の騎士が、そこに居た。
いかがだったでしょうか。
三人称視点で文章作るのが久しぶりでだいぶ難航しましたが、多分ほとんど違和感なくできているはず……それでは次回まで( ゚д゚)ノシ サラバジャー