デート・ア・ライブ 蒼シュヴァリエ   作:蒼京 龍騎

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お久しぶりです、蒼京龍騎です。
こっち先にかけたので投稿します。


白銀を纏うは一人の少年

「な……?」

いきなりの事態に、士道はただ狼狽した。

先程謎の少女と出会ったり、空飛ぶ集団により殺されかけたかと思えば……次は白銀の鎧を纏った何かが現れ、士道の横で静かに佇んでいたのだ。

何度も起こる不可解な出来事に、士道の脳はパンク寸前になるものの……それでも士道の視線は、少女の次にその白銀へと釘付けになった。

所々が蒼く発光している角張った白銀の鎧。それは顔を含めた全身を余すことなく覆っており、その様相は、まるでどこかのSFアニメに登場するパワードスーツのようだ。

しかし、その装甲には何らかの原因で破損したのを継ぎ接ぎにしたような溶接痕があちこちに見られた。そんな鎧の背にはロケットの推進部のような部品があり、その左右には別々に銃のような巨大な武器が取り付けられている。

だが、士道がその鎧で一番気になった点は────形こそ大きく違うものの、名無しの少女の纏う鎧と、どことなく雰囲気が似ている気がしたことである。

そんなことを考えている士道をよそに、突然目の前の騎士がくるりと士道の方へと向きを変えたかと思えば、角張った装甲で覆われた右腕を伸ばしてきた。

腕は士道の額の前で動きを止め、中指と人差し指を除いて手を開き。

「いっっっっだっ!?なにしやがる!?」

親指にくっ付けていた中指を強く弾き、強烈なデコピンを硬直していた士道の額へと放った。

額に走る強烈な痛みに、士道はしばし悶絶した後に怒声と共に白銀を睨む。

「……おい」

「……え?」

しかし騎士から、聞き覚えのある声で小さな呟きが聞こえたことで怒りがすぐさま引っ込む。

直後、騎士は体をわなわなと震わせ。

「五河テメェ!!!ここで何してんだよ馬鹿野郎が!!!」

ビリビリと、士道の耳に強く響く怒声を発する。

士道はその怒声に驚き一瞬萎縮するも、すぐに気付く。

「……その、声は……」

先程の怒声で、自身の苗字を呼ばれたことで、はっきりと分かった。

二年もその声を聞いているのだ、聞き間違えるわけが無い。

士道は乾いた口をゆっくりと開き、問いかける。

「────飛来、か?」

「……ああ、そうだ」

問いかけに、騎士改め……飛来は大きく頷いた。

そう答えられたことによって、士道の頭の中でいくつも疑問が浮かびあがる。

何故そんな鎧を纏っているのか。先程の集団と少女を見ても驚いていないのか。何故────今この場に居るのか。

幾つも疑問が頭に浮かぶせいで、言いたいことの整理がつかず、声を出せずにただ飛来を見つめて固まってしまう。

「……貴様、何者だ」

だが、少女は違った。

突如現れた飛来を警戒しているのか、大剣の先を飛来へ向け、威嚇するように睨みつけて冷たい殺気のようなものを放っている。

しかし、飛来はそれに怯む様子を見せず、少女の方へと向き直ると士道のことを指さして高圧的な態度を取り始める。

「お前に答える義理はねーよ。ただ一つ言っておくが、俺はこの死にたがり馬鹿を拾いに来ただけだ。お前と今戦う気は全く無い」

「……なに?」

どこか苛立った様子の飛来の言葉に、少女は士道の時と同じく意外そうな顔をした。

が、その時。

「そこの少年!!!今すぐそこから離れなさい!!!!」

士道の後ろから、そのような叫び声が聞こえた。

いつの間にか先程の集団が士道達を取り囲み、その全員が手に持つ武器のようなものを構えている。

「チッ、ASTの奴らめ……めんどくせぇ時にしゃしゃり出てきやがって……」

鬱陶しそうに、苛立った様子で飛来が集団を見上げつつ呟いた。

近づいてきたことではっきりと見えるようになったのだが、その集団……蒼の言葉から察するにASTと呼ばれる者らの全員が全身に見慣れないボディスーツを纏い、手には見たことも無い形状の銃らしき武器を握っている。

「聞こえなかったの!?早く離れなさい!!!!!そいつらは危険よ!!!」

その中で、リーダー格と思わしきポニーテールの女性が士道に視線を送り、再度士道に対して怒声を飛ばしてきた。

士道はその言葉の意味が分からず呆然とするが……ふと視界に、見覚えのある顔が映ったことで我に返った。

「鳶一……折紙?」

「五河……士道?」

そう。その集団の中には……今朝士道に話しかけてきた天才少女、鳶一折紙の姿があったのだ。

鳶一も士道に気が付いたようで、士道の名を呼んだ。

そして、ポニーテールの女性と顔を見合わせ何かを話すと士道の方へと顔を向けた。

「空間震警報が出ていたはず。何故外へ出ているの」

「えっと……俺は……ッ!!!」

若干の困惑を含んだ鳶一の質問により、士道は幾度もの非現実的現象に襲われたことで忘れかけていた目的を思い出す。

そうだ、自身は琴里の安否を確認するためここまで来たのだ。

「鳶一!!!ここに来るまでに白いリボン着けたツインテールの女の子見なかったか!?俺の妹がまだ外に────」

「た、隊長!!!霊力反応がもう1つ……<鎧獣>(ガイスト)です!!!」

士道は鳶一に向かって叫ぶものの……それと同時に、集団の一人が士道の言葉を遮り、焦った様子で叫んだ。

「なんですって!?折紙戻りなさい!!!<鎧獣>が来るわよ!!!」

「っ、了解。申し訳ないけど、話は後。今はとにかく早く避難して」

言いながら、鳶一は士道の問いかけに答えず、隊長と呼ばれる人物から飛ばされた指示に従い集団の中へ戻ってゆく。

「お、おい待て!!!まだ話は────」

士道は声を荒らげ、鳶一を引き留めようとしたが……その直後。

 

 

ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!

 

 

「────!?」

獣の咆哮によく似た轟音が、町中に響き渡る。

「クソッ、やっぱ来やがったか!!!!」

「……ッ!!ヤツか……!!!」

忌々しげに、飛来と少女がどこかを見ながら呟いた。

士道は二人が何を見ているのか気になり、自然とその視線の先を追い、そして……ビルの上に立つそれ(・・)を見た。

 

────それは、一体の巨人だった。

 

濁った白の輝きを放つ結晶で構成された体を動かし、ギロリと士道らの方を、同じく結晶で作られた目で睨む、家一つ程の巨体を持った……巨人。

「────は?」

再び、士道は抜けた声を出した。

これで非日常的な光景を目にするのは何度目だろうか。と、嫌な程冷静になっている頭が士道自身に向かって疑問を投げかけた。

感覚が狂っていることを自覚しつつ、巨人の方を見続けていると、集団が先に動き始めた。

「総員、全弾発射!!!!」

隊長の声に合わせ、全員が銃の先を一斉に巨人に向け、躊躇なく引き金を引く。

銃からレーザーのような光弾が打ち出されると共に、ミサイルも発射され、それらは巨人に向かって直進する。

しかしその巨人は、そんな巨体では到底できないであろう素早い動きでミサイルや光弾を躱すものの、躱し切れなかった弾幕が当たり結晶が飛び散る。しかし剥がれた箇所から新しく結晶が生え、何事もなかったかのように動きを止めず、士道の方に迫ってくる。

────いや、違う。確かに人型は士道らの方には向かっているが、その憎しみに満ちた目は少女を捉え、少女に迫ろうとしているように感じた。

「……どいつもこいつも、私をそんなに殺したいのか……」

「……っ!?」

嘆くような、先程より弱々しい声が少女から漏れたのを、士道は聞き逃さなかった。

少女の方を向くと、少女は今にも泣き出してしまいそうな顔を……士道に剣を向けた時と同じ顔を作り、剣を持つ手を震わせていた。

その表情を見た士道の心臓が、命の危機に瀕した時よりも大きく跳ねる。

少女の正体を知らない士道でも、その少女がとてつもなく強大な力を有していることは理解できていた。

だが、それを理解したからこそ浮かぶ疑問があった。

 

なぜ────そんな力を持っている少女が……

 

なんで、こんな顔を、するのだろう?

 

「……消えろ、消えろ。一切、合切……消えてしまえ……っ!!!!!」

そう言いながら、少女は不思議な輝きを放つ剣を空に向ける。

疲れたように、悲しむように、少女が剣を振り下ろす。

瞬間────風が、吹き荒れた。

「ッ!?伏せろ五河!!」

「……っ、うわ……ッ?」

飛来の怒号と共に凄まじい衝撃波が周囲へ襲いかかり、太刀筋の延長線上に居る巨人目掛けて斬撃が飛んでゆく。

空を飛んでいた人達もその射線上にいたようで、慌ててそれを回避し、その場から離れていった。

斬撃は見事巨人に直撃し、その顔を削り取ったものの……巨人は動きを止めず、士道の近くに居る少女に迫ろうとする。

このままでは、士道はこの後起こる少女と巨人の戦いに巻き込まれるだろう。

「あ……っあ……」

当然、士道はその場から離れようとする。

……しかし、士道の体は恐怖で竦んだのか、逃げようとする本能に逆らって固まってしまっている。

「やべぇこっち来やがった!!!おい五河ずらかるぞ!!!」

そんな士道に、救いの手は差し出された。

固まっていた士道の手を掴み、足と背から青白い粒子を吹き出し地面から若干浮かび滑るように加速を始めた飛来が士道をその場から引き離した。

飛来に引っ張られながらも、ちらりと少女を見れば、既に剣を振り回し、巨人は腕を叩きつけ、戦いを始めていた。

士道の居た場所も斬撃によって削り取られており、あと少し逃げるのが遅れていたら巻き添えを食らっていたことだろう。

「た、助かった……」

安堵の一息を吐き、硬直していた全身から力を抜く。

────しかし、その一瞬が命取りだった。

気を抜いた士道は、遠方で起こっている戦闘の余波によって拳一つ程の大きさがある瓦礫が飛ばされ、自身に向かってきていることに気付かなかった。

「……ん?」

ヒューという風切り音が聞こえた時には、既に時遅し。

「ぐえっ!?」

ゴン!!!という鈍い音と同時に頭に瓦礫が直撃し……士道の意識はあっさりと闇に沈んだ。

 

 

 

 

「────状況は?」

真紅の軍服を肩掛けにした少女は、艦橋に入るなりそう問いかけた。

「し、司令!!!大変です!!!」

艦長席の隣に控えている男が、普段ならこの場で綺麗な敬礼をしながら返事を返すものの、今回は予想外の事態でも起こったのか焦り切っており手をばたばたと震わせている。

「落ち着きなさい」

「おうっ!!!」

司令と呼ばれた少女は、鬱陶しいと言わんばかりに冷たい声色と共に男のすねをつま先で蹴る。

しかし男は苦悶……ではなく、恍惚としたような表情を浮かべると、先程までの慌てぶりが嘘のように落ち着き姿勢を正す。

「さて、状況を説明なさい」

艦長席に座った少女が改めて言うと、男は手に持ったタブレット端末のような板を見ながら口を開く。

「はっ。精霊(・・)出現と同時に攻撃が開始されました」

「AST?」

「いえ。ASTだけではなく、(くだん)の……」

「……<鎧獣>(ガイスト)ね」

AST。対精霊部隊(AntiーSpiritーTeam)

精霊を狩り精霊を捕らえ精霊を殺すために機械の鎧を纏った、人間以上怪物未満の現代の魔術師(ウィザード)たち。

とはいえ……そのレベルでも、精霊に太刀打ちできていないのが現状だった。

それほどに、精霊の力は、計り知れないものだった。

────だが最近になって、そんな精霊でありながら精霊を殺そうとする存在が明らかとなった。

……<鎧獣>。全身が謎の結晶で構成された巨大な人型の精霊。

精霊の出現の少し後になんの予兆もなく出現し、人や街を狙うことなくただ精霊のみに攻撃する謎の精霊。

現在外見や能力の異なる数体が確認されているが、精霊であることに変わりは無いためASTの駆除対象となっている。

「────確認されているのはAST十名に<鎧獣>一体。現在一名が<鎧獣>と共に精霊を追撃、交戦しています」

「映像出して」

司令の言葉に呼応するように、艦橋の大モニターに、リアルタイム映像が映し出される。

繁華街から通りを二つほど隔てた広めの道路の上で、二人の少女と<鎧獣>がそれぞれの得物を振りながら交戦しているのが確認できた。

少女らが武器を打ち合うたびに光が散り、地面が割れ、建造物が崩壊する。

とても現実とは思えない光景である。

「やるわね。────でも、ま、精霊相手じゃどうしようもないでしょ。ましてや<鎧獣>が居るから足手まといでしょうね」

「確かにその通りですが、我々が何もできていないのもまた、事実です」

「…………」

司令は無言で足を上げると、ブーツの踵で男の足を踏み潰した。

「ぐぎっ!!!」

男が、この上なく幸せそうな顔を作るのを無視して、司令は小さく息を吐いた。

「言われなくても分かっているわ。

────見ているだけ、というのにも飽きてきたところよ」

「ということは」

「ええ。ようやく円卓会議(ラウンズ)から許可が下りたわ。────作戦を始めるわよ」

その言葉に、艦橋に居たクルーたちが息を呑むのが聞こえる。

「神無月」

司令は軽く背もたれに体を預けると、小さく右手を上げ、人差し指と中指を、タバコでも要求するかのようにピンと立てた。

「はっ」

男は慣れた手つきで懐から棒付きのキャンディを取り出すと、丁寧に、素早く包装を剥がして司令の隣に跪き「どうぞ」と、司令の指の間にキャンディの挟ませる。

司令はそれを口に放り込み、飛び出している棒を上下にピコピコ動かす。

「……ああ、そういえば肝心の秘密兵器(・・・・)は?さっき電話に出なかったのだけれど。ちゃんと避難しているでしょうね?」

「調べてみましょう────ッ!?」

男が手元の端末を弄り、画面に何らかの映像を表示したが、現れた映像が余程衝撃的だったのか無言で固まってしまう。

「どうかしたの?」

「……い、今映像を出します!!!」

男は深刻な表情をしながら再び端末を弄り、映像を大モニターに表示した。

『────ッ!?』

瞬間。艦橋の雰囲気が張り詰めたものへと一変する。

画面には、頭部から血を流し横たわる少年と、その隣には────白銀の鎧を纏ったそれ(・・)が映っていた。

「<シュヴァリエ>!?何故今になって……いや、それよりも!!!気づかれる(・・・・・)とマズイわ!!!回収急いで!!!!早く!!!!!」

司令は少年の横で跪く白銀の識別名……<シュヴァリエ>の名を叫び、先程までの余裕を崩し大慌てでクルーに指示を飛ばす。

もし彼の……秘密兵器の秘密が知られれば、今までの<シュヴァリエ>の行動からして、命が危うい。

クルーたちも司令の怒声により慌ててキーボードを操作し始める。

「……なんで四年(・・)も姿をくらまして……こんな最悪のタイミングに現れるのよ……!!!!」

司令は口に入ったキャンディを、湧き出る困惑と怒りを誤魔化すように噛み砕いた。

 

 

 

 

「五河!?おい!!!しっかりしろ!!!!……クソッタレが!!!!」

悪態を吐きながら、蒼は目の前に横たわる五河に呼び掛けを行う。

しかし、瓦礫の当たり所が悪かったのか頭から血を流し、目を覚ます様子は無い。

「……チッ、<シア>!!!!」

『お呼びでしょうか、マスター』

自分では五河の現状を解決できないことを悟った蒼は舌打ちすると、誰かを呼ぶように叫ぶ。

直後、蒼の脳内で幼い少女の無機質な声が響き渡る。

「スキャンモード起動!!五河の体に異常がねぇか調べろ!!!」

『了解しました。頭部装甲展開、スキャンモード起動します』

無感情な返事の後に、蒼の纏う鎧の頭部が変化する。

装甲がずれ、内部からレドームのような平べったい円状の物体が現れると、蒼の視界に五河の体についての詳細なデータが表示されてゆく。

しかしその全てに目を通せるわけではないので、解析が終わるまで数秒待つと、ピピッと軽い電子音が鳴った。

『……スキャン完了。頭部に強い衝撃が走ったことによる気絶状態と診断。また、脳の一部血管の僅かな損傷を確認、現在出血はしていない模様』

「頭部への強い衝撃……脳への損傷……<シア>!!一番近ぇ病院、頭に詳しい医者がいる所で絞り込め!!!」

『現在地より北北東、1763メートル離れたHKS病院を総合評価により最適と判断』

少女の報告により五河の状態を知った蒼は、更に近場にある病院を頭に詳しい所に限定し調べるよう命令すると、すぐさま少女の声が回答する。

蒼には医者の父が居たため、普通の人よりは怪我の対処に手馴れている。

故に、蒼は自分で処置するには危険と判断し、近場の病院を条件付きで絞り込ませた上で調べさせたのだ。

「だいたい2キロか……そこなら空間震の被害もねぇから普段通りやってる……な。

……スラスター全開で50メートルまで近づく!!!五河に慣性制御機能全開!!!霊力残量は気にしねぇで、とにかく一切揺らすんじゃねぇ!!!」

『了解』

命令を終えた蒼は、五河の怪我が悪化しないように早く向かいたいと焦る気持ちを抑えつつ、ちらりと視界いっぱいに映るモニターの右端にあるSRA(SpiritualーRemainingーAmount)というスマホのバッテリー残量のような表示に視線を向ける。

一目で既に半分以上減っていることが分かり、その上には36%と何かの残量が表示されていた。

「……クソッ、これじゃ着いたとしてもその後がヤベェな……こんな時に足引っ張りやがってクソ燃費め……その後はめんどいが徒歩で戻るしか────」

────ピーッピーッピーッ!!!!!

「……ッ!?次はなんだよクソが!?」

自身の纏う鎧に文句を垂れていた蒼の耳に、突如甲高い電子音が連続して鳴り響く。その直後、視界に『警告、現座標より上空に膨大な魔力反応を検知』と表示される。

「んだと!?……って何もねぇじゃねぇか!?ついにイカれたか!?」

咄嗟に上空を見上げるが……ただ真っ青な空が映るだけで何も見えず、蒼は怒りに身を任せ喚き散らかす。

『報告。上空に戦闘艦クラスの魔力反応を検知。視覚情報に検知なし。スキャンモードによる対ステルス用サーチ開始……対象の座標把握及び外見の擬似的視覚化完了。モニターに表示します。』

しかし、慌てる蒼とは対照的に冷静な少女の報告が入った直後。視界が一瞬黒くなった後に元に戻ったかと思えば────

「……はっ?」

蒼の視界いっぱいに、何か巨大なものが映った。

その先鋭的なフォルムは、まるで何かの船のようで、しかし船と言うにはあらゆる要素が欠落しているような、そんな船が蒼の直上にあった。

この世界の非日常を知る蒼も、そこまで巨大な船を見たことはなく、予想外の光景に固まってしまう。

『判別完了。<ラタトスク>の新型戦艦<フラクシナス>と思われます』

「……は?<ラタトスク>?

……噂だけの存在じゃ無かったのか?」

少女の声が、噂程度にしか認識されていない組織の名を出したことで、すぐさま聞き返した。

────<ラタトスク>。世界にとっての厄災である『精霊』を救おうとする集団。

蒼はその噂を、とある伝手(・・・・・)で聞くこととなったのだが……まさかそんなイカれた集団が実在するとは思ってもいなかった。

故に、蒼は聞き返した。それが本当にあるとは信じられず。

『はい。どうやら実在していたようです。

現在組織体制、支援している企業等を調査中……』

しかし、少女は無感情な声色で、蒼の望まぬ答えを出した。

────同じ人間が、被害者側であるはずの人間が、救いようのない怪物(精霊)を救おうとしているなどと。

「……ふざけんじゃねーぞ……クソが」

自らが味わった苦痛を思い出しながら、蒼は溢れそうになる怒りを、歯を食いしばり、拳を握りしめて耐える。

……そのせいで、蒼は五河の身に起こっている異常に気付くのが遅れてしまった。

「……っ、バカか俺は!!!イラついてる場合じゃねぇ!!!五河は……ッ!?」

唐突の事態の連続で、すっかり五河のことを放置してしまっていたことを思い出した蒼が、五河の伏せている方に目を向ける。

そこでようやく、気付いた。

……浮いていた。五河の体が、何かに引っ張られるように。

「ッ!?しまっ……」

反射的に、蒼は腕を伸ばし五河を引き留めようとするが……それより先に、五河の体が一瞬ブレたかと思えば、一瞬にして、その場から五河の姿が消える。

「────消え、た……ッ!!<シア>!!!!」

五河の姿が消えた蒼は一瞬戸惑い呆然としてしまうが、すぐさま気を取り直して指示を飛ばす。

『調査切り上げ。現在生体反応追跡中……反応消失、追跡不能。ですが────』

「────どこのどいつか知らねぇし……」

少女の報告を遮り、蒼は空を見上げ、鎮座するその船を睨む。

少女の声は行方を掴めないと言ったが、今この現状から考えて……五河はあそこにいる。

そんな確信めいた思考が、蒼を動かした。

「五河に何する気かも知らねぇが……

────ブッ潰してやるぜクソッタレがッ!!!!」

跳躍と同時に、装甲各所から大量の青白い粒子を吹き出させ、蒼は怒りのままに空の船目掛けて加速を始めた。




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