博麗神社。
外の世界にて忘れ去られた存在──妖怪や神などの幻想が行き着く最果ての楽園、幻想郷の一角。
失われた神秘や怪異を受け入れ、護る化生の最後の砦。
現実に追われた哀れな空想を内包し、体現する妖怪たちの理想郷。
そんな幻想郷の最東端に位置する博麗神社は、とても重大な役割を負っている。
幻想郷は外の世界とは完全に乖離された世界だ。
幻想郷全てを囲むように展開する『博麗大結界』によって、幻想郷は神秘を体現する楽園として存続し続けられる。
『外の世界の常識』と『幻想郷の常識』を隔てているのだ。
そして博麗神社──もとい、そこに住む博麗の巫女により、この博麗大結界は保たれている。
この博麗の巫女がいなければ、幻想郷は今すぐにでも外の世界の常識に飲み込まれ、幻想郷も、そこに住む全ての存在も消え失せてしまうことだろう。
そうなれば本当に、『神秘』がこの世から消え失せてしまう。
博麗の巫女は幻想郷だけでなく、幻想郷の住民全ての命さえ背負っていると言っても過言ではないのだ。
さて、それほどまでに重要な役割を持っている今代の博麗の巫女こと博麗霊夢。
何事にも動じないマイペースな性格であるはずの彼女は今、人生で最大の窮地に立っていた。
それはいつもどおり、朝遅くに起きて寝ぼけ眼を擦りつつ、日課の掃除のため竹箒を片手に境内に繰り出したときのことだった。
「アヘえええええええええ♥♥」
おっさんだった。
顔の老け具合や頭のハゲ具合、見事なまでのメタボ腹、所々に密集するように生え、自らの存在を自己主張するかのような体毛。
最低でも40は超えているだろうというおっさんが、境内で、M字開脚で、ぱんつ一枚で、アヘ顔晒していた。
博麗霊夢は考えた。
もしやあれは妖怪の類ではないのかと。
妖怪退治は博麗の巫女のもう一つの仕事でもある。
この幻想郷には妖怪や神など超常的存在だけではなく、普通の人間も人里と呼ばれる集落に住んでいる。
博麗の巫女は幻想郷に存在する他の存在と比べて圧倒的に非力な人間を護る役割も兼ねているのだ。
そも妖怪や神とは、人間の『畏れ』や『信仰』によってその存在を保持することができる。
その存在の元である人間がいなくなってしまったら、自らを畏れ、敬う存在がいなくなり、妖怪や神も消えてしまうのだ。
つまり人間を保護することは遠まわしに妖怪を守っていることにもなる。
故に、幻想郷を護る存在である博麗の巫女は妖怪を定期的に、殺さない程度に退治し、人間を守護しているのだ。
しかしそれは逆説的に言えば、博麗の巫女にとって人間とは危害を加えてはいけない存在ということだ。
つまり、目の前のこのおっさんが妖怪でなく人間だというのなら、力ずくで今すぐ10分の9殺しにするという手段がとれないのだ。
博麗霊夢は歴代の博麗の巫女と比べ勤勉とは言えない少女だが、そこまでの基本的なルールを破るほど破天荒でもなかった。
だから博麗霊夢にとって、目の前のおっさんが妖怪ではないのか、という推測は一種の願望にも近いのだ。
「んほおおおおおおおおおお♥♥♥」
しかし、そんな彼女の願い空しく。
目の前の、白目を剥いてダブルピースでアヘ顔さらしてるこのおっさんは正真正銘の人間だという結論に達した。
どうやってその答えに行き着いたのか。
勘、である。
博麗霊夢は異常に勘が良い少女だった。
『なんとなく』や『とりあえず』で選択した結果が間違っていたことはない。
だから今。彼女は『なんとなくこのおっさんは人間な気がする』という答えを、彼女自身が出してしまった。
彼女は自身の勘の良さを把握している。彼女は非常に頭を悩ませた。
何に、と言われれば、答えるまでもなく。
「んひいいいいいい♥♥♥しゅごいにょおおおおおおお♥♥」
淫語まで混ぜてきたこのおっさんの処遇についてである。
博麗霊夢は今すぐこのおっさんを殺したかった。
正直この姿で神社にいること自体が不快だし、喘ぎ声が気持ちわるいし、存在自体が生理的に受け付けなかった。
しかし博麗の巫女として、このおっさんを殺すことはできない。故に彼女は殺すという選択肢を渋々取り除き、どうやってこの場から退かすか、ということを考える。
「んほおおおお♥♥おっきいよぉぉぉ♥♥とんじゃうううううううう♥♥♥」
心なしか燦然と輝く純白の白ブリーフが隆起し、一部分が黄ばんでいる。
それを見て多大な吐き気を催しながらも、なんとか堪えて──手に持った竹箒をぶん投げた。
「んあああああああ♥♥チクチク♥♥チクチクしゅごいいいいいいいい♥♥♥いたいの、きもちーよぉぉぉ…♥♥」
どうやらこのおっさんはM属性だったようである。しかも『ド』がつく。
まあ、こんな場所で開脚アヘ顔ダブルピースしている時点で被視姦願望があるマゾヒストであることは用意に想像がつく。
ブリーフの黄ばみが広くなっていくおっさんを前に、とうとう博麗霊夢はこのおっさんを物理的に排除することに決めた。
とはいえ殺すつもりではない。簡単な霊擊を打ち込み人里までぶっ飛ばしてやろうというのだ。
博麗霊夢は天才だ。努力嫌いな彼女は努力をしなくとも並大抵のことは全て出来た。
人間を殺さず、ここからかなり距離のある人里までぶっ飛ばすなど、彼女にとっては朝飯前だった。
着地はどうするのか、彼女は少し考えたが──なんとなく大丈夫な気がしたので、無視した。
多分お人好しな半人半獣の教師がなんとかするのだろう。この豚を。
博麗霊夢は、ありったけの霊力をかき集め──人間大の大きさの霊擊を構成し、おっさんに向けて放った。
「──あああああああああああああああああああああ♥♥そんなしゅごいの、そんな♥♥♥らめ♥♥♥我慢できにゃいの♥♥♥♥いぐっいぐっいぐぅぅぅ♥♥♥♥いっぢゃううううううううううううううううううううううううううううう♥♥♥♥♥」
そんな絶頂声を吐き出しつつ──おっさんは星になった。
あと数秒もすれば人里にたどり着き、そして通報され逮捕されるだろう。
あの豚は人の世に出していいものではない。
そんなことを考えながら。
博麗の巫女のルールを投げ捨てつつも、目の前の脅威を排した博麗霊夢は、額の汗をぬぐいつつ、日課の境内掃除にとりかかるのだった。
──翌日。
「ごしゅじんしゃまぁ♥♥きのうのがわすれられないの……♥♥♥おねがい♥♥♥昨日のあれ、もっとしてほしいのおお!!♥♥♥あれがないとわたしぃ…わたしぃ…♥♥♥だめぇ♥♥♥考えただけでこーふんしてきちゃったよお……♥♥♥はやくう♥♥♥もうがまんできないのおおお♥♥♥♥♥♥」
昨日と全く同じローテーションの後、昨日と全く同じタイミングでドMマゾヒストオ○○ー全裸豚を見つけた博麗霊夢は。
考えるより先に、本能のおもむくままに行動に移した。
── 夢 想 封 印
「あへええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
博麗神社の境内に、白濁液が飛び散った。