絶対にマスターを堕落させたいカルテシアVS一般ラノベ主的マスター   作:織葉 黎旺

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屍欲目

 

 

「………………」

 

 どこか居心地が悪いような感覚で、ゆっくりと目を覚ます午前六時。どこからか視線を感じる、と隣を見れば、正座した聖女がこちらを見つめていた。

 

『………………』

 

 ハイライトの消えた深紅の瞳には、思考も人格も映っていない。寝惚けたエクレシアだろうか、それとも白聖骸だろうか──と呆けて眺めていれば、彼女がぼそりと呟く。

 

『…………久々の─────』

 

「え?」

 

『久々の、娑婆(しゃば)の空気じゃ』

 

 ふわあ、と間の抜けた欠伸を一つして、聖女は微笑んだ。

 

 

 

 *

 

 

 

『大体のう、四日に一回しか出てこれないこのシステム、バグ過ぎじゃろ。ハンバーグ美味しっ』

 

「いやまあ、それはそうなんだけど。ありがとう」

 

 昨日バイトだったし、朝食は炊いただけのご飯と冷凍のハンバーグなのだが、喜んでもらえる分には悪い気はしない。表情をコロコロと変えながら、()()聖女──クエムは食事と会話を続ける。

 

『現代世界のご飯は美味しいのう、芋粥とは大違いじゃ。腹ぺこ娘が食いすぎるのもわかる』

 

「それはどうだろうな…………」

 

 たぶん、芋粥であってもエクレシアはバクバク食べると思う。食べること自体が好きなのだ。

 

『まったく、近頃の聖女は』

 

 八十数代も前だとやはり、ジェネレーションギャップとか色々あるのだろうか。しかもくっついた聖女、そもそもは揉め合ってるし。なんか元凶以外は記憶飛んでるっぽいから平和そうだが。

 

『うむ』

 

 おかわり、と白米を要求された。はいはいとよそって渡してやる。

 

 

『ふう、馳走になったのじゃ』

 

「お粗末さん」

 

 食器をシンクに沈めると、カルテシアは意味ありげにチラチラとこちらを見る。

 

「……どうかしたか?」

 

『いや何、腹も膨れたことだし少し散歩にでも出たいと思うてな』

 

「ああ。いいぞ、うろちょろしてきて」

 

『あ〜主殿と共に繁華街に繰り出したいのう〜』

 

 あいにく、今日は何の予定もない。嘆息し、出かける準備を始めた俺を見て、カルテシアは口角を歪めた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

『人が多いのう』

 

「お前が来たいって言ったんだろ」

 

 平日とはいえ、都心の繁華街はそこそこ混み合っている。ある程度彼女の希望に沿って、適当に店に入ってウィンドウショッピングしたり、カードショップを見たり、衝動と誘惑に負けてパックを剥いて爆死したりと色々しているうちに、夕方になっていた。

 

 

「さて、あと一軒くらいかな。なんか見たいところあるか?」

 

『そうさなあ──』

 

 悩ましげに小首を傾げて、彼女は言った。

 

『星か魚が見たいのう』

 

「なんだその二択は」

 

『なんだとは何じゃ。この前てれびでみたぞ、()()()の定番といえば()()()()か水族館じゃと』

 

「まあ、それはそうかもしれないが……別にデートじゃないだろ?」

 

 きょとんと瞳を丸くしたカルテシアが、『これだから、恋人の一人もいない主殿は困るのじゃ』と嘆息した。

 

『今日の妾たちをみれば、百人中九十九人は()()()と答えるぞ? 其方みたいに経験のないうぶ子だけが、自覚もなしに首を傾げるのじゃ』

 

「自覚も何も認識がないよ。俺、傍から見たら一人でうろちょろしてるだけだし」

 

『ハァー、他の女が聞いたら呆れて引っ叩いとるぞ。其方の辞書に真心と思いやりの文字はないのか? はしゃいどるこっちが馬鹿みたいじゃろうが』

 

「うっ……確かにそれは、ごめん」

 

『はー、()()()()()のない主を持つと疲れるわい。癒されたいのう、綺麗なものでも見て癒されたいのう〜』

 

 カルテシアがちらちらと大型商業施設の方を見つめる。上階には水族館もプラネタリウムもある。

 

「とりあえず、星でも見るか」

 

『ふふ、そうじゃな。ああ、チケットは一枚で構わぬぞ?』

 

「しかしそれだと座れないかもしれないだろ?」

 

『あるじゃろここに、特等席が』

 

 そう言うとカルテシアは、とんとんと俺の膝を叩く。「……静かに天体観測させてくれよ?」と返せば『それはもう、主殿の態度次第じゃな』と彼女が笑った。

 

 









マスター……ラノベ主人公なので女性の機微に鈍感


クエム……初代聖女。現代日本に蘇り、聖女のお役目とかから解き放たれた反動で結構奔放。無邪気。
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