TS吸血鬼眷属は百合の造花を咲かせたい   作:どや!俺の小説はプリティでエエやろ!

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眷属/3

「映画見に来て寝るとかありえねー」

 

 映画館から出て直ぐのパスタ屋で食事を摂る。16時半を過ぎたところでギリギリランチに滑り込めた。施設内に映画館があると、やっぱり楽でいい。

 

「寝てないけど」

「ここ。よだれの跡ついてんじゃん」

「カルボナーラ美味しいね」

 

 外なのに崩れた口調で話すクールなユウさんをいつ諌めるか考えつつ、まあここ最近疲れてたみたいだしもう少し泳がせてもいいかと結論づけてパスタを巻く。イタリアではスプーンを使って巻くのはお子ちゃまですよーって聞いたことがあったけど、知らないことにした。利便性こそ正義。

 

「もう。……魘されていた、ようだったから」

「魘されてよだれが出る?気のせいだよ。楽しかったよ、もちろん、えーと……カッコよかったし」

「キミね、もう少し練った感想は出せないの?」

 

 ユウの口調はもう戻っていた。3年の月日は僕だけじゃなくてユウにも成長をもたらしている。高校のときはすぐに気が緩んで地が出てしまっていたけど、指摘せずに戻るということは流石は明日から大学2年生ということなのだろうか。

 正直なところ、それもどうなんだという思いもある。演じることが日常になると、それは凄くよくないことなんじゃないかって心配とか。僕は嘘をつく息苦しさを覚えなくなって、悪夢を見るようになったから。そういうことが起きないか、非常に心配である。

 

 それにしても、魘されていた、か。

 最近は見ることも減ってきたと思っていたけど、不快なものはいつ見ても不快だった。ユウ増殖事件は昔は頻繁に起きていたことを鑑みると、結構頑張れてるのかなと自分を褒めていたけど、魘されていたってことは知らない内に傷口が広がっていたのかもしれない。反省。

 1年前に自己暗示を模索して、3年前にユウが突然女の子になったということにして記憶を誤魔化しているけど(ユウ的には事実である。なんとびっくり)、それが精神に負荷をかけてしまったことは流石に理解した。しかし嘘は自分につくものじゃないことを学べたので良しとする(32回目)。日常的に罪悪感に苛まれると生き辛いので結局継続するしかないと思う。

 もしくはエイプリルフールか。3年前の健全な僕の精神を揺り動かしたせいで不健全な今の僕の脳天直撃、とか。これだったらどうしようもない、ユウが原因だ。はは、愛い奴め、と思うことにする。

 どちらにせよ心のケアはとても大事ということを今更ながら確認できた。ユウとの映画鑑賞の時間をふいにするのはもったいない。あとお金も。

 

「跡。拭いてあげるよ」

 

 カルボナーラを平らげつつ僕が多大な学びを得ていると、クールモードのユウがハンカチを掲げて襲いかかってきた。心拍数を努めて抑える。

 

「え、ちょ、いいよ」

「良くないよ。ほら、じっとして」

 

 頬をむにっとされる。いや、むにっどころの力ではないなこれ。気分は蛸かひょっとこか。ユウが笑っているからいいけどね。

 

「ふふ、何その顔」

「はひっへ、ほはえは」なにって おまえが

「痛い?流石にかわいそうだね。こうしてあげる」

 

 むに地獄から解放されると、そのままシャツの首を掴まれてぐいと力を入れられる。

 ハンカチで拭く、という目的には必要ないくらいには顔が近くなったところで、漸くごしごしされた。いいって言ったのに、優しいなあとはならない。どうせなんかあることを僕は知っている。

 

「ふーっ」

「……っ」

「痛くなくなった?ねえ」

 

 拭き終わったところに息を吹きかけられた。ほら、みたことか。照れさせようとしていることが丸わかりです。

 なんだそのニヤニヤ顔は。男ならそうなるだろ、誰でも。元男なのにそんなこともわからないのか。わかってるからか、了解。

 

「耳、赤くなってる。照れてるところもかわいいね」

「男は可愛いと言われても別に嬉しくない」

「ふーん。嘘つき」

 

 痛い。イチャイチャするという至福の時間に急に懐を刺された。割と本気で今の僕には効いたので、復讐を敢行することにします。

 

「え、睫毛なが。可愛い」

「そう、ありがとう」

「……ペペロンチーノのニンニク臭いよ」

「おい!お前……っ!」

 

 いや、臭いよそれは。

 

 

 

 

 

 例の悪夢は、死にたいかを聞いて撤収するのが習わしになっている。

 これについてだが、基本的に夢なんてものは自分で見るものだと思うので、僕の脳が僕の心を理解していないという、まあ……なんともお間抜けな話になってしまっているのを心配に思う。そんなに僕はバカなのだろうか。

 仕方がないので、脳にもわかるありがたいお言葉を授けようと思う。ハートは胸の内にある派閥ではないので、二度手間になるが仕方ない。

 ユウの心は当初のものとは明らかに違うものを求めている。日々の無聊を慰めるからかいから、僕からの視線、欲求の確認にシフトしていった。遊びから仕事になった、という表現が正しいかもしれない。糧にしているのだ。

 きっとそこだろうな、というターニングポイントはある。高校3年生の夏まで、ユウは仲のいいゴミグループ……失礼、そこで関係が切れるゴミたちと一緒に学校を過ごしていた。

 そのときの僕は学校生活までユウに付きっきりになるのは違うと思っていたから、学校ではあまり一緒に居なかった。そこに居れば歪んだ空気に気づいたかもしれないと思うと、間違いだった訳だが。

 話はとてつもなくシンプル。ゴミの誰かが好きだった男をユウが取って棄てた。ユウの諸々を知っている僕はそれがあからさまな嘘だとわかったけど、他の人からは違うように映ったらしい。

 羽鳥柚華を演じてどれだけ取り繕ってもやはりボロは出る。女の子同士の会話が下手だったのも致命的だったのだろう。元々羽鳥柚華時代からあんまりうまく付き合いができてないとかもあったかもしれないけど、それは一旦棚に上げておく。

 惚れた腫れたに振った棄てたのそういった地獄のような問答の末に、ユウは孤立した。そしてそれを見た僕は反省し、学校でも一緒に居るようにしたのだ。

 

 それだけなら青春のひとコマ、苦い経験をあんなこともあったねと笑えるようになったのかもしれないが(笑えるのか?)、残念ながら現在進行系で不健全になっている。正直、僕は嬉しい気持ちもあるけど。

 ユウの心は埋まらない承認欲求を抱えることになった。理由はどうあれ女の子からも持ち上げられて、男からは引く手数多。そこから転落しても、一旦上がったクオリティ・オブ・承認は中々戻せない。

 僕がユウの立場でもそうなりそうだし、まあそうだろうなといった感想しか浮かばないけど、かわいそうとも思う。

 まあ、そこからだ。僕へのからかいに味を求め出すようになったのは。恐らくだけど、柚華として見られることにも苦手意識を持ったんだと思う。実際活発な女の子から見た目に合わせたクールキャラに転身したし。クールというか王子様チックだし演技の出来は変わらないけど、心の出来はクリーンになった。

 柚華ではなくユウとして承認欲求を満たすしかもう道はない、と来れば後は転がり落ちるだけ!ということだった。ユウにとっての僕の価値はワンランクアップし、ユウの人間性はワンランクダウンした。

 そして、バカは今日まで蓄積している。今日のむに地獄からのふー天国なんて外でやったらアウトオブアウトなことだし、もうなんか頭おかしいんじゃないかというレベルのこともたまにするようになった。

 

 話は戻るが、死にたいと思ってはい死ねますか、ということなのだ。答えは否。わかりきったことを聞くなよ、といった心地である。

 ユウの僕への依存は日増しに強くなってきている。1日僕が居なくなるだけでおかしくなってしまいそうな空気を感じる。相互に作用しはじめている僕のぐずぐずの承認欲求は、そう警鐘を鳴らしている。

曲がりなりにも世界に一羽だけの親鳥になってしまったのなら、餌をあげなきゃいけない。そういう気持ちで日々を戦っていることにする。

 というか僕の男心も最高だって叫んでるし、どうやってからかうかとかユウが考えてると思うだけでご飯3杯はいけるし、控えめに言って最高だった。

 

 唯一、僕の脳が提示する死というプリミティブな意見に賛同できる状況があるとするなら、ユウが僕を好きになった場合だろうか。

 想像してみる。結果、僕は自殺していた。秒で死んだ。ここに至るまでに様々なことをやらかした僕の欠片ぽっちの良心が、それだけは無理だと叫んでいた。

 別にからかうのはいい。それで承認欲求が満たされてユウとして人生を豊かに生きていけるのなら、それもひとつの薬になる。ただ、異性として好きになることは絶対にあってはいけないと思う。だってそれは、この世界から羽鳥悠が消えることに他ならない。

 羽鳥悠は異性愛者だ。女性を愛する男なのだ。それは羽鳥悠としてそうあるべきで、今までもそう。身体に引っ張られて精神が女性になる、なんてことがあるなら話は別だけど、3年も経って起きないことは早々に起きない。

 男性を恋愛対象として見れないことを一度真剣に相談されたこともある。それは羽鳥柚華として生きようと努力した過程で、どうしようもなく折れた結果だった。

 女性同士に理解のある女性を相手にする、という羽鳥悠としても羽鳥柚華としても50点の回答を一応の着地点としてその話は閉じたけど、誰かを好きになることに悩んでいるのが現在のユウということは変わっていない。

 だというのに、僕がユウを好きという僕の僕による僕のための理由のせいで、万が一ユウの心を揺らしてしまったとしたら。羽鳥悠がこの世界から消えてしまうような結末が起きたなら、今のユウを形成する嘘をついた僕だけが生きることには耐えられないだろう。

 ならなんで嘘をついてるかって?人を幸せにする嘘ならいいって、みんな言うからだ。そう責任転嫁していきているけど、悪夢の件からも僕の限界をちょくちょく超えていることは確実だった。

 

 初恋、2回失恋してる人間なんて僕以外にどれくらい居るんだろう。その人には国語を教えてあげたい。

 

 あーあ、死にたい。うーん、死ねない。

 

 僕が女の子だったらよかったのになー、なんて。

 女の子になって苦しんでいる(ユウ)の居る世界で、軽率に最低なことを毎日思う。




まだTSしてなくてすまない…
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