最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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おまたせしました。

ゼノブレイド3のクリアとか、モルガン祭とか、古戦場とかしてたらこんな時分になってました。

すまん!!!


監獄島

 

 

 一か月前

 

 

「────」

 

 アルヴィースは左腕を上げ、その手のひらからエーテルを解放する。

 青い光が眩く。これはアルヴィースが持つ記憶の一部を光情報に変換し、出力しているものだ。

 この光を頭上から浴びることで、彼が見た過去の光景を見ることが出来る。

 

 予言の儀式。

 

 皇主と予言官の2人きりで行われるこの儀式は、ハイエンターの永き歴史の中で幾度も繰り返し行われてきた。

 ハイエンターに迫る苦難への警告。それを受け取った歴代の皇主はその光景を吟味し、見極め、種族の発展に繋げてきた。

 

 

「これは……っ!?」

 

 

 ソレアンも皇主の座についてから何度か未来視を見ている。だからこそ今回の未来視には驚かざるをえなかった。

 

 未来の景色が途中で()()()()()()()のだ。

 

 まるでテレビに映る映像をぶつ切りしたかのような漆黒が、突如として目の前に広がり、微かに音だけがソレアンの耳に残るだけ。

 こんなことは初めてだ。初めてだが……確かに見えた未来もある。

 

 

「今の光景は……!?」

「そう遠くない未来であるかと」

「メリアが居た……! メリアが見知らぬホムスの者たちと共に機神兵と戦っていた!」

 

 

 ソレアンは先程の映像と聞こえた音を思い出しながら、噛み締めるように言葉にしていく。

 

 

「はい」

「あのホムスの振るう剣はもしや───そして、あの場所と最後に耳にしたあの音は───」

 

 

 それは間違いなく監獄島で起こる戦いの光景。だが、不気味なことも多い。

 モナドを持つ者が相対する機神兵。だが、不可思議なことにその存在はまるで靄がかかったように不明瞭だ。

 辛うじて、ホムスの少年が発したであろう叫び声がその存在と種別を告げるのみ。

 

 そして戦いの決着を見ることなく、視界はブラックアウトし……最後は身体の内に響く鈍い音でもって締めくくられる。

 

 

「未来視は兆し。意志の力で変えることもできましょう」

「うむ……いずれにせよ見極めが肝心だな」

 

 

 ソレアンは未来へと思いを馳せる。

 たとえそれが自身の死を暗示するものだったとしても、彼はハイエンターを統べるものとして、一族を守るために最善の未来を選び取らなくてはならない。

 

 そう。モナドを持つホムスと機神兵に相対する。その未来が正しいものであると判断できた時には、たとえおのが命無くなろうとも彼は選びとるのである。

 

 それがたとえ何者かに操られ、辿り着いた果てにあるものであろうとも。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は強制しない。代償も求めない。選ぶのはそなただ」

「……僕は」

 

 

 シュルクたちはメリアとそれに付き従う親衛隊を連れて監獄島へと侵入していた。

 目的は機神兵に襲われる未来が見えた皇主ソレアンを救うこと。

 

 エルト海の浮遊島にある封印を解き、黒い島を登った彼らは”その時”が訪れる前に彼の元へと辿り着くことが出来た。

 もう既にエルト海に機神兵……フェイスたちが侵入していたものの、ソレアンが解放した存在の力が彼と、皇都アカモートを守っていたがために間に合ったのだ。

 

 ソレアンが解放したものは監獄島に囚われていた原初生命たちと、太古の昔に絶滅した巨人族の一人であるザンザ。

 

 彼こそが神剣モナドを創りし存在であり、巨神が未来視を通してシュルクと引き合わせたかった存在。つまりはシュルクたちが追い求めていたものだった。

 

 彼らはそこでモナドの《枷》の存在を知る。

 

 モナドの人が斬れないという特性。今それを解放すべく、シュルクは剣を振るう。

 

「─────今こそ枷を解き放とう」

 

 ザンザを封印していた歯車のような拘束具は金色の光の粒子となって消し飛んだ。そして、その光は瞬く間に監獄島全体を包み込み───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『させるかよォ!』

 

 

 ───その槍の到来によって瞬く間に霧散した。

 

 

「ぐおおおおおおお!!!??」

「ザンザ!!」

 

 

 ザクッ、と。

 黄金の槍がザンザの胸を貫いた。あまりの激痛に耐えかねたのだろう。ザンザは驚きとともに苦悶の声を上げる。

 シュルクたちは振り向き、その槍の持ち主へと目を向ける。そこにあったのは空中で下卑た笑い声をあげる仇の姿だった。

 

 

『流石は盟主さまの槍だぜ。どうやら間に合ったみてぇだなァ?』

「黒い顔つき!!」

「! あれがシュルク殿の故郷を襲った者か!」

 

 

 そこにいた全員が己が武器を構える。同時に、アイゼルたち近衛騎士の面々は皇主とメリアを守るために陣を張った。

 

 

「俺たちがここに来るのを知っていたのか!?」

『はぁ? ザコが何勘違いしてやがんだ? 俺たちの目的はそれそこのデクの坊よ!』

 

 

 ラインの問いかけにそう返した黒い顔つきは胸を貫かれたザンザを指差す。彼の体は不自然な程腐食が進行しており、命の灯火は既にその体には無い。

 いくら致命傷とはいえ普通こうはならない。彼の体に刺さった槍が作用した結果であることは明らかだった。

 

 

『モナドに余計なことされちゃ面倒なんでな。殺りにきたらお前らがいたってわけよ。───なぁ!?』

 

 

 黒い顔つきは顔を上げて呼びかける。

 奴の上空。付き従う無数のゾードのさらに後ろから、その機神兵は返答とばかりに急加速して近づいてきた。

 

 

「白い顔つき!?」

 

 

 これまで見たことの無い新型だ。

 機体は全体的に細く、ゾードや黒と比べると大きさもやや小さい。

 力強さは感じられないが、その分機動力に優れた機神兵なのだろう。それは先程見せた加速が証明している。

だがそれを差し引いてもこの機神兵は異様だった。

 

 

(何故奴は武器を構えない……?)

 

 

 ソレアンとメリアを守るため、警戒を厳にしつつもアイゼルは思う。

黒い顔つきには爪状の刃が、後ろにいる無数のフェイスは手にハンマーのような鈍器を携えているのに、この白い顔つきは二本の剣らしきものを腰に帯刀したままだ。

 というか、そもそも敵意らしきものがアイゼルたち親衛隊メンバーには感じ取れなかった。

 

 確かに黒から放たれている殺意は本物であり、それに感化されるようにこの場には張り詰めた空気が充満している。

 だがあの白い顔つきの、その周辺だけが少し浮いているように見える。根本的な存在さえも違うような、そんな感覚があった。

 

 

(もしや、本気で皇都には手を出すつもりがないのか? ……あのザンザという巨人族の死さえ確認できれば退くというのか、本当に?)

 

 

 そうであるのならばここで見逃すのも”あり”だ。

 

 彼らが今戦っているのはシュルクが見たというソレアンに災いが降りかかる未来を回避するためだ。

 親衛隊にとっての主目的は皇主とメリアを無傷で帰還させること。だがそのためにはまず、ソレアンの意志を尊重する必要があった。

 

 そもそもの話、彼が監獄島に赴いたのは迫り来る機神兵を撃退してアカモートを守るためだ。それが果たされなければ彼を連れて帰ろうとしても彼自身が拒むだけ。

 だからアイゼルたちはメリアを連れた上で機神兵と戦う必要があった。彼女を危険な戦場へと連れていくことになると確信しながらも、そうせざるを得なかった。

 

 だが敵の戦略目標がザンザにあると分かり、戦わない道を選べる状況になった。相手はもう既に目的を達成しつつあり、それで彼らが退いてくれるのであればこちらの戦う理由もなくなる。

 正直、始祖ハイエンターが封じていた巨人族の生き残りの生死など彼らにとってそれほど重要ではない。

 落とし所としてこれ程妥当なものはない。

 

 

(警戒は緩めない。緩めないが……今はこちらから手を出さず、様子を窺うのが最善か)

 

 

 だが、そんな風に状況判断ができるのは彼らが機神兵からまだ何も奪われていないハイエンターであるが故だ。

 

 恋人や故郷の仲間たちを殺され、家族を奪われた者たちからすれば、未だ武装していない機神兵も他の機神兵と同じだ。

 いつもいつも自分たちの生活を脅かし、同胞を殺していく仇たち。それを前にして冷静でいられるほど彼らは完璧ではない。

 そもそも彼らが完璧であったのなら復讐の旅など始めない。

 

 

「機神兵!」

 

 

 

 駆け出すシュルクをアイゼルは止められなかった。その猶予すらもなかった。

 

 当然だ。彼らは敵を追って巨神を旅してきた。だからこそ目の前に仇がいるのなら、進んで火蓋を切って落とす。

 

 

「僕はお前たちを許さないッッ!!!」

 

 

 たとえ勝ち目がないかもしれないと、この攻撃が効かないかもしれないと薄々分かっていても、この感情の流れは、意志の力が乗せられた剣は止まらない。

 

 

『待ちなさい! あなた方と戦うつもりは───』

「お前達はフィオルンを───フィオルンを返せ!!」

 

 

 白い顔つきへと放ったその一撃によって、戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『調子にのんじゃねぇって言ったろーがよ! 小僧!』

「うぅ゛っ!?」

 

 

 シュルクの全身を使った縦の斬撃。それは横合いから現れた黒い顔つきの爪によっていとも簡単に受け止められ、逆にシュルクが弾き飛ばされる。

 

 

「シュルク!」

『弱ぇ、弱すぎるぜぇ!』

 

 

 シュルクを吹き飛ばした黒い顔つきはすぐさま追撃の体勢に入る。

 それを防ぐようにダンバン、カルナ、ラインが立ち塞がるが。

 

 

「だぁっ!」

「ぐぅぁ!」

 

 

 モナドの援護がない彼らの攻撃は通用しない。

 カルナの射撃は予測され、クロスさせた腕の装甲によって弾かれる。

 ラインとダンバンの同時攻撃による足止めも、刃が通らないため意味がなく、軽く蹴るだけで容易く蹴散らされてしまった。

 

 

「アイゼル、援護を頼む!」

「はっ!」

 

 

 物理攻撃は通用しない。しかしエーテルによる攻撃なら一定の効果がある。

 それをマクナで体験していたメリアはアイゼルと共に黒い顔つきに向けてアーツを放つ。

 白い光の奔流と氷の刃が黒い顔つきへと殺到する。その力により黒は一歩後ろへと押し出される。

 

 

『小娘が!』

 

 

 しかし所詮はその程度。黒は標的をメリアへと変えてすぐさまその爪で襲いかかる。

 

 

「やらせるかよ! ガラン!」

「あぁ、陛下は私が!」

 

 

 メリアとの間に入ったのはダミルだ。彼は彼女と彼女の傍にいるソレアンをガランに任せると、その盾を突き刺してエーテルの波動を発生させる。

 

 

『チィ───!』

 

 

 それは攻撃を受け止めるためのものでは無い。エーテルを運動エネルギーに変換し、攻撃を妨げるような方向へと動かし、流すためのものだった。

 黒い顔つきの切り上げは彼の横を掠め、宙を切る。

 

 

「切り裂け、レイザーウィンド!」

『邪魔くせぇ』

 

 

 体勢の崩れた所へホグドがアーツを打ち込むが、やはり怯むだけで効果がない。

 顔つきの装甲は並の機神兵のそれとは違う。これはコロニー9が誇る対空砲の一撃を易々と受け止められるだけの強度を持つ。破壊し、ダメージを与えるには少なくともホムスの持つエーテル砲台以上の出力が必要だった。

 そんなことはアイゼルたちも分かっている。だからこそ、()()()()で攻撃をする必要があった。

 

 

「かかった! 凍てつけ、アイススプレッド!」

 

 

 アイゼルの初撃で黒い顔つきへ氷のエーテルを付与し、ホグドの追撃で風のエーテルを充満させる。

 そしてそこへ、さらに氷のエーテルアーツを叩き込めば、反属性エーテルの衝突によるエネルギーの増大とその連鎖反応によって黒い顔つきの体はたちまち凍りつくだろう。

 

 

「メリア様!」

「あぁ!」

 

 

 アーツを放ったアイゼルは直ぐにメリアへと合図を送る。

 足止めし、時間さえ稼いでしまえば必殺の一撃を放つことなどハイエンターにとっては造作もない。

 テレシアさえも一瞬のうちに消滅させるエーテルの奔流。それを放つため、彼女は杖にエーテルを充填させていく。

 

 だが忘れてはいけない。メリアたちが複数であるようにフェイスたちもまた複数だ。敵は黒だけでは無い。

 奴の仲間が、必殺の一撃を放とうとするメリアを放っておくわけが無いのだ。

 

 

「いかん! メリアッ!!」

「───ッ!」

「メリア!」

 

 

 いちはやく飛来するソレに気がついたダンバンがメリアを庇う。

 直後、2人がいた場所に何か赤い光を帯びたものが突き刺さった。同時に彼らを襲うように()()から衝撃波が飛んでくる。

 

 

「この槍は……!」

 

 

 アイゼルは、メリアがいたところに突き刺さったその槍を見て持ち主を察する。

 槍から伸びる腕を目で追いかけ、彼は黒い顔つきとの戦いに横槍を入れた者の名を叫んだ。

 

 

「貴様もいたか、青い顔つき!」

『───』

 

 

 青い顔つきの左腕は僅かに凍りついていた。黒へと放たれたアイゼルのアーツを庇ったのだろう。

 だが、風のエーテルで増幅したにしてはダメージが少ない。というか、現在進行形で氷は溶けており、ダメージが回復しつつある。

 アイゼルはその原因に直ぐに思い当たった。

 

 エーテル吸収能力。

 

 奴の左腕にはそのような機能が備わっている。

 モナドが使えないこの状況下で頼りとなるハイエンターのエーテルアーツは、奴によって完全に防がれるだろう。

 

 

『はッ、ハイエンターごときが甘ぇんだよ!』

「危ない!!」

 

 

 黒はこれまでの反撃とばかりに爪を振るう。前にいたダミルとガランは、後ろに控えるメリアとソレアンに攻撃が来ないよう受けに入ったが、威力を抑えきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

 

『ホント、モナドがねぇと弱ぇよなぁ。てめぇらは……。あ? ダンバンさんよぉ!』

「貴様、何者だ! なぜ俺の名を呼ぶ!」

『わからねぇのか? これでも!』

 

 

 黒い顔つきは両手の爪で十字に切りつけ、飛び上がる。

 そして先の十字切りを避けたダンバンに向かって急降下し、その爪を突き出す。

 

 

「こ、この技は!?」

 

 

 ダンバンはその一連の動作から繰り出される技に強い既視感を覚えていた。その後に来る爪による追撃も、彼なら敵を見ずに避けられる。

 何度も競い合った戦友が放った”それ”とあまりにも瓜二つだったから。

 

 

「まさかそんなはずは!?」

「ダンバン!」

「ダンバン殿! くっ───邪魔を!」

 

 

 黒の集中攻撃に合うダンバンを援護しようとラインとホグドが駆けつけようとする。だがしかし、ホグドの前には青い顔つきが立ちはだかる。

 

 

『お前たちの相手は私だ』

「貴様の弱点は知れている! ホグド!」

「分かりました! ヒーリングアクア!」

 

 

 アイゼルとホグドが合わせてアーツを放つ。

 青い顔つきのエーテル吸収能力には限界がある。マクナでは吸収したエネルギーをエーテルシリンダーに充填し、交換することでその許容量を上げていたが、今回は第3の腕も無ければ換えのエーテルシリンダーも無い。

 故にエーテルによる波状攻撃をしかければ、容易く容量限界に達するとアイゼルは判断した。

 

 

『甘い』

 

 

 だがしかし、その推測はあまりにも楽観的に過ぎた。

 確かにアイゼルの言う通り今の青い顔つきにはマクナ時程のエーテル貯蔵能力はない。だが、貯蔵能力がないだけで放出する機能は存在する。

 

 即ち、攻撃への転用。

 

 吸収されたエーテルは腕を伝い、槍の刃先へと凝縮していく。次第にそれは水の力を得て、アイゼルたちへと向けられる。

 

 

『返上する』

「不味い、ホグド!」

「しまっ───」

 

 

 直撃は避けた。だが、槍に纏われた水の力。波が解放され、その衝撃がホグドの意識を刈り取った。

 ホグドはそのまま壁に叩きつけられ、ピクリとも動かない。

 

 

『そろそろ引導を渡してやらァ!』

 

 

 そうこうしているうちにダンバンとラインは追い詰められてしまう。

 

 

『逝ねやぁ!』

 

 

 黒い顔つきは頭上にあるエーテル砲の砲身を二人に向けていた。

 グランショットと呼ばれるエーテルレーザーを放つそれは、地面を伝播して地上にいる全ての障害を排除できるほどの威力を持つ。

 ダメージを被るのは彼らだけではない。

 

 だからこそ、彼はそんな状況を見過ごせなかった。見過ごせるはずがなかった。

 

 なぜなら彼は、娘を持つ父親なのだから。

 

 

『───何ぃ!?』

「やらせはせぬぞ、機神兵!」

 

 

 その行動こそが、彼の未来を決定付けさせる一打だった。

 皇族であり皇家に伝わる杖の現所有者であるソレアンにしか使用できない監獄島の装備。それは現時点で唯一、機神兵に対抗出来る武器であった。

 

 そんなものの存在を敵が無視するわけが無いのだ。

 

 

『やらせはせん』

「ぬぅ……! これまでも防ぐというのか!」

 

 

 青い顔つきは、黒とソレアンの間に流れる数本のエーテルの稲妻、その全てをもぎ取るように左手の平に包み込み、自身のエネルギー源へと還元していく。

 

 そしておもむろに槍をソレアンへと向け───。

 

 

『ふん───っ!』

「────」

 

 

 ───溜め込んだエーテルの、その全てを彼へと向けて放出した。

 

 

「陛下ああああっ!!!」

「父上──っっ!!!」

 

 

 機神兵にさえも致命傷を与えかねないその力が、槍の先端で収束し、エーテルの槍となってソレアンの体を貫いていく。

 そして、無慈悲にもその勢いのまま彼の体を吹き飛ばし、ザンザの亡骸へと縫い付けた。

 

 シュルクとメリアは、お互いの間を吹き飛んでいくソレアンの体を目で追いかけ、叫ぶことしかできない。

 

 

『そうよ、このたった()()()でさぁ。弱すぎるぜぇ、お前らはよぉ!!』

「陛下──。僕は───また───ッ!」

 

 

 シュルクは無力感から項垂れることしかできない。

 未来を視て、それを変えようとここまで来たのに。

 目的も果たせず、仲間たちを危険に晒し、モナドの秘密を知るザンザを殺させてしまった。

 

 機神兵が、いつも彼の前から全てを奪い去る。

 

 憎しみと怒りが彼の頭の中で増大していく。

 だが彼にはそれを目の前の仇へと振るう術がなかった。”枷”のかかったモナドでは、奴らに対抗することが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モナドを継ぎし者よ』

 

 

 最高の展開だ。

 

 見計らったようにザンザは喋り出し、演じる。

 まるでその行き場のない怒りと憎しみのはけ口を与えるかのように。

 巨神の意志とシュルクの意志が重なるように。

 

 これでいい。これがいい。

 こう動かすことこそが彼の望みだった。

 シュルクの心が怒りに流れれば、少し呟くだけで後は自力で辿り着く。

 

 

「ザンザ……。

 機神兵──。僕らは──お前たちに食われるだけの存在じゃない!!」

 

 

 モナドの”枷”が解き放たれる。

 

 ”人”という文字を映し出し、光に包まれて形を変えていく。

 

 モナドはもはや”機”を斬るだけの剣ではなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モナドの形が変わった……!? 気をつけろ黒。アレはもはや我々の知るモナドでは無いかもしれん』

『新参者がごちゃごちゃ言うんじゃねぇ。あの小僧とダンバンは俺が殺る!』

『待て!!』

 

 

 黒い顔つきは青の忠告を無視してシュルクたちの前へと躍り出た。

 

 憎い仇。

 

 そう思うほどにモナドの光は強くなる。

 シュルクは『(エンチャント)』の光を仲間たちへとばら撒き、自ら突貫する。

 

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 

 モナドの形状変化とともに伸び上がった光の刀身が、黒いフェイスを切り刻まんと近づいてくる。

 殺意に半ば呑まれつつも、黒はこれが”やばい”ことを確かに感じていた。

 安易に装甲では受けない。己が信ずる武器で対応する。

 

 

『!』

 

 

 そして、刃と刃が触れ合い黒は理解した。この剣を受け止めようとしてはいけないということに。すかさず流す方向へと指を動かす。

 

 

『こいつは……!?』

 

 

 受け流したあとの爪は、表面が融解していた。裏の刃は欠け、節々から高電圧の電気が漏れ出している。

 

 不味い。

 

 モナドが顔つきに対しても効果を発揮するようになったことが、これで明確となった。もうシュルクの攻撃はまともに食らってはいけない。掠めてもいけない。

 刃が触れたその瞬間から、その部位は破壊されていく。

 

 

『惚けているな! 追撃が来るぞ!』

『───っ、雑魚どもがぁ!』

 

 

 モナドの力が証明されたことで、さらに彼らにとって最悪だったのはシュルクの仲間たちが息を吹き返したことだった。

 彼らの刃ももはやなまくらでは無い。10数名の攻撃が2機へと殺到する。

 

 

「疾風刃!」

「ボーンアッパー!」

「絶刀!!」

 

 

 ダンバン、ライン、アイゼルの物理アーツが放たれる。

 黒はもう一方の爪でダンバンの攻撃を受け止めるが、紫の光が纏われた刃はそれを押し返した。

 青の方も同様だ。アイゼルの攻撃は槍でなんとか防いだものの、装甲で受けたラインの素手の攻撃が、機神兵の巨体を僅かだが浮かび上がらせる。

 

 切れ味はさすがにモナドほどでは無い。だが確実に威力が増大していた。

 

 

『ならば!』

「くっ!」

 

 

 青い顔つきが左腕を振るう。モナドがエーテルを操る神器である以上、その力にもエーテル吸収能力は例外なく作用する。

 

 

『自身の力で沈むがいい!』

「シュルク!!」

 

 

 吸収されたエーテルは即座に槍の先へと充電される。

 次第に機神兵の槍にはプラズマのような光が散り始め、最終的にエーテルの刃を形成した。

 モナドの刃に物理攻撃は効かない。だが刃を形成しているエーテルに対抗できれば鍔迫り合うことができる。

 

 

「はああぁぁ!!」

『しまっ───!』

 

 

 対抗できれば、だが。

 ”枷”が外れたモナドの出力は、もはや監獄島のエーテル砲台のそれをゆうに越えていた。たとえその力の一端を吸収して同じように刃へと転換したとしても、競り合うことはまず不可能。

 

 槍の先に展開された雷の刃は切り裂かれ、そのまま槍を一刀両断し、更にはそれを握る青い顔つきの右肘から先の腕までも消し飛ばした。

 

 

『オイオイオイオイ!! 話が違うだろうよぉ!』

「───!」

 

 

 切りつけた後の隙、そこへ黒い顔つきは爪を振るうが、それは既に視られている。届かない。

 

 

『一体モナドになにをしやがった!?』

「───っはあああああああ!!!!」

 

 

 驚きの声を上げることしか出来ない黒にシュルクのカウンターが入る。

 全てを怒りに任せ、増幅させたモナドの刃で黒の左腕の全てをもぎ取った。

 

 

『こ、小僧ぉ!』

 

 

 腕を失い、バランスを崩した黒い顔つきはそのまま転倒してしまう。もう彼にはジリジリと近づいてくるシュルクに対抗する策は存在しない。

 

 

「思い知れ! これがフィオルンが、陛下が受けた痛みだあぁっっ!!」

 

 

 必死に立ち上がろうとするが間に合うわけが無い。シュルクは容赦なくトドメの一撃を構え、振るう。

 

 

『やめなさい──っ!!』

「なっ!?」

 

 

 だがその刃は黒へとは届かない。その間に静観を決め込んでいた白い顔つきが割って入ったからだ。

 だが、モナドの刃はもはやその程度の妨害では止まらない。突撃してきた白い顔つきの力を跳ね除け、そのままその装甲を切り落とす。

 そして、その奥にある顔つきの真実が、今顕になった。

 

 

「ヒト───。────人間!?」

 

 

 顔つきの中心に搭載された一人の少女。その正体が明かされる。

 

 

「まさか───」

「フィ、フィオ『うおおおおおおおおお!!!』──っ!?」

 

 

 だがしかし、それを噛み締める時間は与えられない。

 シュルクがその名を口にするよりもはやく、彼らの間に横槍が入ったからだ。

 

 右腕を損傷し、中破した青い顔つきがフィオルンとの間に立ちはだかる。

 

 

『目的は果たしました! 撤退してください!』

「なっ───!?」

 

 

 それは未だ真実を確認できていないシュルクたちにとって絶望とも言える宣言だった。

 まだ半信半疑だが、今目の前で生きているフィオルンが、またどこかへと去ってしまうという予感。不安が、シュルクの手に持つ赤い剣を再起動させる。

 

 

「邪魔を、するなあああああ!!!!」

『───私にも、譲れないものがある!!』

 

 

 衝突するモナドと青い顔つきの左腕。

 怒りにより増幅された光の刃を青い顔つきは片っ端から吸い込んでいく。

 だが、この状態は長くは続かない。吸収する力が膨大すぎて顔つき自身の機体が持たないうえ、排出口の役割をしていた右腕がないからだ。

 故に叫ぶ。

 

 

『殿は私が務めます! だからはやく!』

『───っ、了解。帰投します』

「待って───! 

 ───そこをどけええぇぇ!!」

 

 

 白い顔つきが離れるにつれ、力はさらに強まる。

 そこで限界が来た。

 

 

『ぐうぅぅぅぅおおおおおおおお!!!』

 

 

 左腕とモナドとの接触点。行き場のないエーテルが生み出した不安定な力場が、モナドの力の増大により爆発する。

 そして、それに連鎖して無理やり機体に押しとどめていたエーテルたちが反応を起こし、内側から顔つきを破壊していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラン、と。

 

 

 左腕は完全に抜け落ちた。機体の上半身にはエーテルの伝導回路があったのだろう。連鎖反応による過剰負荷で焼き切れており、身体中からバチバチという音が響く。

 顔から流れるように全身へと張り巡らされていた赤い光の線も寸断された。瞳はチカチカと点滅するだけだ。

 さらに左腕を中心とした爆発により、胴体には大きな穴が開き、背中にあるはずのその”部品”が見えてしまっていた。

 

 

「───っ、あれはまさか────!?」

 

 

 仮面によっても隠しきれないその()を見てメリアは崩れ落ちた。

 それだけで彼女には全てが察せられたからだ。

 

 

 カラン、ともう一度装甲が落ちる音がする。

 

 

「お前は───っ!?」

「カイン────なの、か?」

「……」

 

 

 さらけ出されたその口から返事は聞こえてこない。虚ろな目がただただメリアを貫くだけだ。

 

 

『───』

『───』

「ッ!? 待てっ!!」

「ゾード!?」

 

 

 二機のゾードがカインを抱えて連れ去っていく。損傷した白と黒が戦域からの撤退を完了したためだ。殿の務めは終わっている。

 

 

「カイン、待て! なぜそなたがそこに!? なぜ、なぜそなたが父上をっ! 私をっ!」

「フィオ、ルン───」

 

 

 遠くで動く白い点と、どんどんと遠ざかっていく青い機体はその呼び掛けに何も答えない。

 誰も彼もが驚きに包まれたまま戦いが終わる。

 

 

 残るのは雨音に包まれた静寂だけだった。

 

 

 

 

 






結構な難産回でした。
原作を拾いつつ、自分のやりたいシーンを挟むのが難しい!
原作のテンポが良すぎるんだ……。

しかし、改めて考えますと、機神兵を斬る”機”と、物語終盤のあれを斬るために浮かび上がるあの文字のことを知ってると、ここで”人”の文字がモナドに浮かび上がるの怖すぎますね。


ゼノブレイド3は執筆中のいい刺激になりました。無理なく拾える要素もいくつかあったので、使っていきたいですね。

これからも亀更新ですがよろしくお願いします。



これは、始まりなんだよぉ!
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