最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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書き留め放出。

前回から一気に書き、分断した後編になります。


そして因果は動き出す

 

 

 

「聞いたかい? ”彼”、生きてたって」

 

 

 アカモート。その皇宮にある一室でアルヴィースはそう問うた。

 

 

「……えぇ、不愉快だわ」

 

 

 返事をするのはハイエンターの宰相を務めるロウラン。彼女は柔らかな微笑みを浮かべるアルヴィースとは反対に、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 原因は明白である。

 

 追い出したはずの虫が、機神兵に乗って帰ってきた。

 

 

「まさか生き延びていたなんて。未来視には映らなくなったのではなくて?」

「あぁ。僕も彼も、あの事件が起こってから”彼”を視ることはなくなった。そして彼が視た”大きな流れ”に映り込むノイズもまた消え去った」

 

 

 ハイエンターの政治に介入し、アルヴィースと協力して色々と楽しみながら”その時”に有利に事を運べるように準備をする。

 それが三聖であるロウランに課せられた使命だった。

 

 そんな彼女に、十数年前アルヴィースを通して巨神の意志が伝えられた。

 

 ハイエンターの未来に陰りあり。原因を調査し、問題となる人物、団体の速やかな排除という新たな命令が下されたのだ。

 

 彼女は命令を受けてすぐに動き出した。

 巨神の未来視に干渉できる存在などそうそういない。未来を変えるには彼が導き出した演算の先へと行くか、未来を知った上でその”流れ”のファクターとなるものを熟知していなければいけない。

 

 つまり、その者は巨神を既に超えた埒外の存在か、巨神復活という彼ら使徒の最終目標を予め把握している存在であるということだ。

 

 だから探し出すのはそう苦ではなかった。

 

 ハイエンター最強の戦士と名高い槍使い、カイン。

 

 皇家の何千年もかけたかわいい抵抗、その結晶たる王女メリアのお付の騎士でありながら、彼女と対立するはずの巨神教の中枢に、いつの間にか入り込んでいた男。

 

 こいつだ、とロウランはすぐに気が付いた。

 

 なぜなら、奴が巨神教に近づいてからの動きが、完全に自身を狙い澄ましたものであったから。

 案の定、研究所へと誘ってみたら、丁寧に仲介人を立て、間接的に断りを入れてきた。

 

 その気づきが確信に変わった時、安堵すると共に戦慄したものだ。

 

 

「奴は完全に私たちの存在に気づいていたわ。しかも私の研究室の存在やその成果まで把握していた節があった。本当に怖かったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことね」

 

 

 油断していたと認めざるを得なかった。

 こんな奴が本当になんの前触れもなく、突発的に出現し自分を脅かしてこようとは。

 

 今振り返れば焦りすぎたのかもしれない。

 三聖のロウランたる者が強硬手段に走りざるを得なかったとは。

 おかげさまでなんの情報も抜きとることが出来ず、さらには死体の確認もできなかった。

 最終的に未来視への影響が取り除かれたことで彼を暫定的に死亡扱いにしたが、それも今となっては悪手であった。

 

 あそこでもっと冷静に対処していたら今のような事態は起こりえなかったかもしれない。

 

 

「全く……。貴方の責任でもあるわよ。肝心な時に皇都にいないなんて」

「仕方ないだろう? 僕は”ホムス”だ。君と違って同じような姿でずっと、なんてことはできないんだから」

 

 

 当時のアルヴィースはホムスの生態を再現するため、ある種の休眠状態に入っていた。予言官という役職は空席で、ロウラン一人で全て対処しなくてはいけなかったのは不運だったと言える。

 だが彼の登場を待っている余裕はなかった。それほどまでにロウランは追い詰められていたのだ。

 

 事実、こちらの動きを察知したカインによって、ロウランの肉体は一度崩壊させられている。

 巨神により与えられた不死の力という初見殺しのアドバンテージがなければ、カウンターを決められてロウランの方が負けていたかもしれない。

 

 

「で、どうするんだい? 未だ”大きな流れ”の内にはあるけれど、今回のように、その過程のいくつかが視えなくなってる。何か手を打たないと」

「用意はあるわ。ただ確実性には欠けるし、別のプランだと時期が悪い。……業腹だけど、最悪あいつの力を借りることも考えてるわ」

「へぇ」

 

 

 珍しい、とアルヴィースがいたずらっぽく呟くのを無視し、ロウランは頭の中で策を巡らす。

 奴が機神界にいるのであればロウランが直々に手を下すことは難しい。来たる大戦で相対することになればやりようがあるが、まだ時間がかかる。

 こういう時身分というのは邪魔だ。テレシアなどに頼らず、自らの手で直接処理するのが一番確実なのだが……。

 

 

(まぁとりあえずはこの”駒”を使うことにして様子を見ましょう)

 

 

 それにしても。

 

 

「つくづく面白い巡り合わせだわ、身震いしちゃう。

 ……あなたが育てあげた兵士の実力、見せてもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 何故だ。何故なのだ。

 

 あの監獄島の戦い以来、頭の中ではその言葉ばかりが浮かび上がっては消えを繰り返す。

 

 生きているとは思っていた。

 いつか戻ってくるとは思っていた。

 墓所での一件から私の命を狙ってくるであろうことは、覚悟していた。

 

 

「なぜ……」

 

 

 だが機神兵に乗り、巨神に住む生物を脅かす存在となって帰ってくることなど想像もしていない。

 

 あの夜、あやつは確かに自分の忠義を貫くのだと言った。それは母上──光妃殿下への忠誠であり、悲しくはあるが、我々とは違う道を選んだのだと思っていた。

 たとえ敵となろうとも、奴が奴なりにハイエンターの未来を考えた結果であるのなら、敵としてその選択を受け入れようと思っていた……。思っていたのに──。

 

 

「──父上……っ!」

 

 

 奴はその意志で陛下に、父上に弓を引いた。

 それだけではない。奴が青い顔つきなのだとしたら、マクナでの一件も奴の意思で行われたということになる。

 巨神からエーテルを搾り取り、ノポンやマクナに住む生物の生活を脅かし、かつての仲間からもエーテルを奪い取る。

 

 

「どうして───」

 

 

 考えても考えても答えは出ない。それは本人に聞かなければ分からない。そんなことはとっくに理解していても、なぜと聞く声は止まらない。

 

 

「メリア様」

「───っ、どうなった!?」

 

 

 そんな自問自答を繰り返している内に離宮の庭にアイゼルがやってきた。彼が現れたということは、先の一件の事後処理の全てが済んだということ。

 

 

「お喜びください。皇主陛下は一命を取り留めました。たった今、お目覚めです」

「────」

 

 

 私は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先の機神兵襲来において人的被害は皆無だった。

 渦中にいた皇太子であるメリアや皇主であるソレアンは、傷を負いこそすれ、その命が散ることは無かったのである。

 

 

「──そうか。苦労をかけたな、カリアンよ」

「いえ、父上こそ良くぞご無事で「父上っっ!」──メリア!?」

 

 

 療養する一室に飛び込んできた一人の娘を、ソレアンは優しく受け止めた。

 

 

「大事無いか、メリアよ?」

「えぇ! えぇ! 父上こそ……っ!」

「……本当なら怪我人に無理はさせるな、と叱るべきなのだろうが、この際は致し方ないか……」

 

 

 メリアもその体の温もりから父の生存を噛み締める。皇太子らしからぬ行為であると分かっていても、この瞬間は父と娘でありたかった。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「はい、申し訳ありません。そして、ありがとうございました。

 兄上、父上、私はもう大丈夫です」

 

 

 少し時間が経って、そう言ったメリアは、もう娘ではなく皇太子としての目をしていた。とりあえず問題の一つが無事に解決したわけだが、まだ不安の種は多い。

 

 

「事の顛末はカリアンから聞き及んだ。シュルク殿は無事モナドの”枷”を解き、機神兵を撃退したのだな」

「はい。ですが……」

「逆賊であるカインが機神界に味方していた……か」

「……はい」

 

 

 ソレアンは大きく息を吐いて思案する。

 機神兵に人間が乗っていた。それだけでも驚きであるというのに、そこに同胞であるハイエンターも噛んでいた。

 きっと、その事実が公表されることは無い。

 ハイエンター内での派閥争いや政治闘争に関係なく、種族の一人が裏切るなどと。

 

 だが、父親として、娘と関係の深いその男のことを無視できるわけがなかった。

 彼の名前を出してからの娘の落ち込みようはどうだ。少なくともソレアンの目にはとても痛々しく見えた。

 

 

「……カリアン。アイゼルを呼び人払いをせよ」

「父上……?」

「メリアよ。あの者のことについて伝えていないことがある。今それをそなたに明かすべきだと決心した。聞いてくれるか?」

「それは……もちろん。しかしながら、カインについて一体何を……」

「あの夜のことだ」

「っ!?」

 

 

 あの夜。その言葉が指すのは間違いなく、メリアがカインに襲われたあの日のことだ。まだあの夜には秘密があるのかと、メリアは動揺が隠せない。

 

 

「アイゼル、参りました」

「うむ。メリアよ。これからそなたに告げることは、私とそこのアイゼルしか知らぬ事だ」

「……」

 

 

 ゴクリ、と思わず唾を飲む。

 ソレアンは語り始めた。カインがメリアを襲う直前に何をしていたのか。そして、アイゼルに何を託したのかを。

 

 


 

 

「何者だ」

 

 

 日が沈んだ夜、雨のふりしきるある日。

 ソレアンの私室に雨音に紛れて侵入した者がいた。

 

 

「夜分遅く、身を潜め参上した無礼をお詫び致します。しかし一刻の猶予もなく、このような手段でしか謁見が叶わなかったことをご理解くださいませ」

「そなたは……」

 

 

 それこそがカインだった。

 彼はただ一言、皇主に告げるためこの機会を窺っていた。

 

 

「なにゆえこのような……」

「陛下から頂いた勅命。メリア様の護衛という任につきまして、一時の暇をいただきたく参上いたしました」

 

 


 

 

 

 

「そのようなことをカインが……」

 

 

 カインは皇主を暗殺しようなどとはしていなかった。アカモートに残された公式記録とは相反する事実に、メリアは思考が混乱する。

 

「うむ。なぜそのような申し出をしたのか、詳しい理由は明かさなかった。だが、私はあの者を信じ、それを許可した」

「何故なのですか?」

「そなたのために、と申したからだ」

「……そんな」

 

 

 信じられない。その日の晩には己に刃を向けていたのに。

 思考と共に乱れていく感情を必死に抑え込む。まだメリアはソレアンの話を全て聞いていない。

 

 

「混乱するのも無理は無い。私とてそうだった。アイゼルが語ったあの者の真実を聞くまでは、な」

「……そこで、アイゼルが出てくるのですね」

 

 

 メリアはアイゼルへと顔を向ける。

 彼はそれに対して、ただひとつの手紙を捧げることで応じた。

 カインが親衛隊に送った、思いの丈を綴った手紙を。

 

 

「───」

「メリア様。我々は独断で巨神教の調査を行っておりました。その際、間者として任に当たっていたのがカインです。

 カインは捜査の結果、そこに綴られた何者かに辿り着きました。しかしその者がメリア様諸共カインを排除しようとしたため、カインは貴方を裏切らなくてはいけなくなったのです」

 

 

 いくつもの真実に、感情が抑えられない。自分への怒りが抑えられない。

 なんということだ。

 自分は勝手に想像して、裏切られたと思い込んでしまった。彼はずっと自分のためを思って行動していたのに、信じきれていなかった! 

 

 

「カイン……ッ!」

「私が陛下にいちはやくこのことをお伝えしたのは、皇主陛下もまた彼が暗殺をしかけた相手であったからです。

 巨神教との繋がりのなかった陛下を襲ったことにも、きっとメリア様へ刃を向けたのと同じ理由があるからだと思い至り、打ち明けました」

「そして私の判断で真実を伏せた。メリアよ、許せ」

「は、い……っ! 分かっております。陛下が、そのような御裁可をなさった訳も、十分に……!」

 

 

 何も変わってなどいなかったのだ。外へ連れ出してくれた時のように。

 

『お前に皇主となる覚悟があるのなら、俺も俺なりの忠義を最後まで貫こう』

 

 カインは、法にも伝統にも囚われない、彼なりの忠誠を貫いた。ずっとそうしていたのだ。

 

 

「メリアよ。私はあの者の忠義を疑ってはいない。裏切ったとは思ってはいない。故に不可思議なのだ。何故、あの者が機神兵と共に皇都を襲ったのか」

「……!」

 

 

 主のために自らの命と名誉を捧げられる人間はそうはいない。それを理解しているソレアンはもはやカインの忠誠を疑ってはいなかった。

 彼にはきっと、ハイエンターとは無関係の別の何かが起こったのだ。

 

 

「真実を知りたくはないか?」

「はい」

「ならば行くが良い。皇都を出立し、直接本人と語り合え。カインを狙ったという刺客、その者の手の届かぬ地でなら、真実を打ち明けるかもしれぬ」

「なっ!? 陛下、それは即ち───」

 

 

 ここまで静観に徹していたカリアンが声を上げる。

 兄として、皇太子を支えるものとしては当然の反応だった。ソレアンの言葉が意味すること。それ即ち、機神界。

 

 

「メリアよ。皇主としてそなたに勅命を下す。己の近衛と共に逆賊であるカインを追跡せよ。

 方法はそなたに任せる。シュルク殿らと共に真実を解き明かすのだ」

「───はい! ありがとうございます、陛下!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだろう。

 意識が、体が浮いているような気がする。

 外は冷たくて、でも体の内は暖かくて……。暗闇の中に光る星のような、熱を持った太陽のような、そんな存在になったような気がしてくる。

 

 

「ここは……」

 

 

 意識が覚醒していく。閉じた瞼を開けてみれば、俺は宇宙の中で漂っていた。

 その宇宙で遠くに輝く星を俺は知っている。近くに見える大きな星を俺は知っている。それらの間にある、小さな青い星を俺は知っている。

 

 太陽系だ。

 

 この世界でははるか昔に消え去ってしまったはずの。

 

 

「そうだ」

 

 

 俺はもうあの美しい青い星にはいない。

 死ぬ事で時を超え、次元を超え、新たな世界に生まれ落ちたのだ。

 巨神と機神が織り成す世界へと。

 

 

『ようやく目が覚めたみたいだね』

「……お前は」

 

 

 目の前に、今この場にある何者よりも強い光を放つ”何か”が現れ語りかけてきた。

 

 

『君は僕を知っている。だから説明は要らないよね?』

「え? あ、あぁ、まぁ……。……でも、だからこそなんて呼べばいいか迷うな。ほら、お前って色んな名前があるだろ?」

 

 

 あの世界の一存在として扱うならアルヴィースと呼ぶのが正しい。だが、この状態の彼は、皆が持つ光の集積体であるモナドだ。

 しかもその名称もある意味であの世界の人間が勝手につけたものに過ぎない。正確には天の聖杯の一基であるウーシア。そしてその本家大元のことを指すのなら「(ゲート)」、或いはゾハ──。

 

 

「──いやいやいや。そっちのことは俺も良く知らーん!!」

『……君って結構面倒くさいタイプなのかな? 僕の呼び方なんて好きにすればいいのに』

「設定好きなオタクとしてはですね? こういうので間違えたくないっつーか、これでニワカ晒したくないっつーか、そういう気持ちがね、あるんですよ」

『よく分からないけど、こっちから名乗らないと話が進まなさそうってことは分かったよ。僕のことはいつも通り”アルヴィース”でいいよ』

 

 

 やや呆れながらアルヴィースは言った。

 しかしはて……。話とはなんぞや? というか俺は元々何してたっけ。記憶が曖昧だ。最後に覚えてるのは確か───。

 

 

『──メイナス様をよろしくお願い致します』

『こちらこそ。後のことはお願いします』

 

 

 ──そう。この彼女とのやり取り。それを終えて俺は意識を失ったんだ。

 それでここにいるってことは……もしかして、俺の計画失敗した? 

 

 

「なぁ、アルヴィース。俺は……」

『安心してくれていいよ。君はまだ生きてる。今はカインに宿っていたモナドの一部───つまり、意志の力である君を抜き取ってここに呼び寄せただけだ。残りのカインには何もしていないから、抜け殻が自分の意思で行動しているはずだ』

「……すまん、どういうこと?」

『……厳密には違うんだけど、君に分かりやすく言うならこうかな。

 ”あの体”に宿っていた2つの魂のうち、あとから住み着いた君だけを取り出した。───そんなとこさ』

 

 

 言ってからアルヴィースは頭の中に映像を叩きつけてきた。

 この真っ白な景色を俺は知っている。そうか、これが俗に言う未来視か。実際に体験してみるとちょっと気持ち悪い。

 

 映し出されたのはあの世界での俺だ。彼は機神兵に乗り込み、巡航形態で空を飛んでいた。

 俺という魂が抜けたカイン。ということは、あの体を操っているのは、俺の要素がことごとく無くなった元々のカインだってことになる。

 そう、俺が活躍する機会を奪ってしまった───。

 

 

「───本来ハイエンターとしてあるべきカイン、か」

『いや、それは違うよ』

「え? 違うの?」

 

 

 と、悲壮感に暮れていたら超次元的存在に否定されたでござるの巻。

 アルヴィースは言う。俺はこの世界に来る前の、生前の状態を再現しやすいように、その要素だけを取り出して作り出した人格なのだと。

 

 

『なんども言うけどあれは抜け殻さ。君という要素が足りなくて、カインとしては完全じゃない。君が過ごしてきた100年近い歳月は紛れもなく君のものだから安心してくれていいよ』

「そう、なのか……。……ん? ていうことはあの体、俺の知らないところで勝手に行動してるってことか!?」

『だからそう言ってるじゃないか』

 

 

 不味いじゃん! 俺という要素が抜けてるってことは俺の持ってるものがあいつには無いって事だ! 

 前世の記憶とか、メリアと過したアカモートでの記憶とか! 

 

 

「やばいやばいやばいやばい! 早く戻らねぇと!!」

『そうだね。でもその前に』

「…………アルヴィース?」

 

 

 急に、彼の放つ雰囲気が変わった。

 今のアルヴィースに実態は無い。翠玉色に近い色の光の集合体だ。

 だというのに真正面からこちらを見据えているような、そんな感触が俺の五感を襲った。

 

 

『僕は君に聞かなくてはいけない。確かめなくてはいけない』

「なにを……?」

『君が本当に未来を変えるつもりがあるのかを、さ』

「どういうことだ」

 

 

 くるくると、翠玉色の光の集合体は俺のまわりをゆっくりと回る。

 ある光景を切り取ったいくつかの静止画を、未来視という形で俺の頭の中に叩きつけながら。

 それは、まるでポケットに手を入れて俺のまわりを歩きながら、一つ一つ事実を口にしている人のように。

 

 アルヴィースが見せる光景を俺は知っている。

 生前、幾度となく見てきたものだ。

 

 

()()()()()()()()()()

「……」

『彼らは君がいなくとも神を斬り、自らの意思で未来を切り開く』

 

 

 そうだ。そこに間違いはない。

 シュルクたちは生き残り、最終的にザンザに勝つ。俺の手助けなど必要せず、彼らは神のいない世界を手に入れる。

 

 だがそのために、どれだけの人々が犠牲になる? 

 その人たちを助けたいと思うのは、未来を知る者なら誰だって抱く願望のはずだ。

 

 

『本当に君はそれでいいの?』

「……当たり前だろ。命を見逃すことなんてできない」

『その結果、未来がもっと悪くなったとしても、かい?』

 

 

 アルヴィースは責めている訳では無い。ただただ淡々と、思考を促すように語りかける。

 

 

『巨神と機神の戦いで多くのものが消え去った。それは事実だ。でも、その結果上手くいったことだってあるはずだ。そうだね、例えば───巨神教のこととか』

 

 

 巨神の目覚めの際に発せられるエーテルエネルギー。それによって純血のハイエンターの全てがテレシアと化した。

 それは結果的に、ハイエンターの暗部を根本から抹消することになった。

 混血児を差別する者たちがいなくなり、新世界における女王メリアの統治は磐石なものになる。

 

 

『君がこれまでやってきたこと。そしてこれからやろうとしていること。それは、未来に色んな問題を残すことに繋がるだろう。君のせいで、もしかしたら君の見た結末(エンディング)よりも悲惨なものになるかもしれない。

 それでも君は戦うのかい? それが無意味なものに終わるかもしれないとしても?』

「当たり前だ」

 

 

 即答する。光の集合体は動きを止めた。

 

 

「言ったろ。命を見逃すことなんてできない。その結果、好きな人が泣くなら尚更だ」

 

 

 確かにアルヴィースの言った側面もあるだろう。

 純血種を生き残らせる。その行為はハイエンターに不和をもたらすことになるだろう。

 ザンザを倒しても、もしテレシア化の秘密が明かされなければ、彼らは他種族への差別意識を無くすことなんてないだろう。

 だが逆に、秘密が明かされれば種族内での内戦だ。疑心暗鬼の念から混血と純血の戦いになる。

 

 だが、だから彼女の家族まで巻き添えにして、純血種を全て殺していい、なんてことになるのか? 

 

 いいや、なるわけが無い。

 

 

「本来消えるはずだった人々、それが生き残るんだ。問題だって出てくるさ、出てこないわけが無い。だって俺たち人間ってのは、感情を持つ生物ってのはそういうもんだから」

 

 

 人が増えれば対立する人たちや、考え方だって出てくる。当たり前だ。知性と感情がある神様だってそうなんだから。

 

 

「未来はいつだって不確かで、曖昧で、怖い時だってあるけれど、そんな中で俺たちは進むしかないんだ。そうしないと叶わない願いがあるなら、いやがおうにも」

『……それが高望みだったって、後悔する時が来るかもしれないよ?』

「それでも、進むしかない」

 

 

 未来のことは分からない。だから、確実な安寧があると知っているのなら、それに縋りたくなる感情も理解できなくはない。

 でも、そうした結果、譲れないものを失うことになるのなら、俺はその未来を否定する。

 そして、その先にあるもうひとつの未来で安寧を掴み取るために、俺は生きて責任を果たすだけだ。

 

 

『それが君の覚悟かい?』

「覚悟って程のもんじゃない。ただ足掻くのを続けるだけだよ。彼女が独りにならない未来のために」

 

 

 物語の結末を変えるまで、じゃない。終わったあとも続けていく。結局はそれだけのこと。

 

 

『──なら、目覚めなくちゃね』

 

 

 俺の体を光が包み始める。

 いや違う。ハイエンターではない、生前の肉体が光となって溶けているのだ。

 

 

『君の深層心理、そこにある本当の意志は知れた。あとは見守るだけさ』

「アルヴィース……」

『厳密には僕は君の生きる世界の”アルヴィース”とは違うんだ。次元を超越し、世界そのものになった、原点があの”アルヴィース”である未来の僕───。そういう存在なんだ。

 だから君に干渉できるし、君の知っていることも知っている』

 

 

 存在が消えていくにつれて意識が薄れて遠のいていく。

 

 

『でも、本来なら君も来れない場所だ。きっと、目覚めた君は僕のことを覚えていないだろうね』

「それじゃあこれはなんのための問答だったんだ?」

『言ったろ? 原点はあれにあると。君の選択次第で僕という未来の存在が無くなるかもしれない。自分の生死は気になるじゃないか』

「……この先の未来は視えないのか?」

『あぁ、()()()()

 

 

 結構重要なことを断言しているはずのに危機感を持てない。変な浮遊感に囚われているからだろうか。

 

 声が聞こえる。アルヴィースとは違う声が。あれは……誰だったかな? 

 

 

『だから()()()、掴み取るんだ。君の望む新世界を。全てが共存できる未来を。僕はその先で君を待っているよ───』

 

 

 呼ばれている。俺の、カインという名前を誰かが呼んでいる。

 俺はその呼び声に答えようと、目覚めようとして瞼を開ける。

 そして、その宇宙から消え去った。

 

 

 

 

 





オリ主、起動!

原作でシュルクたちは顔つきの正体を知り、真実を知る旅へとシフトしていきました。
だからメリアにも、復讐ではなく真実に辿り着くという目的を持って旅立って欲しかった。

そんな回です。


ここからは蛇足ですが、ハーメルン用のTwitter垢をつくりました。
URLです。興味ある人はどうぞ。

https://twitter.com/shio_nameco_?s=21&t=klOmLkXrmpiQcyF_4l5qXQ
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