最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います 作:塩なめこ
お世話になっております。
筆が乗ってきました。
「──イン、──カイン!」
呼び声に応じて瞼を開ける。ここはどこだろうか。何かとてつもない夢を見ていたような……見ていなかったような?
「──! 良かった、目が覚めたのですね」
食い入るように一人の少女が俺を見つめ、歓喜の声をあげる。
彼女は…………そうだ。シュルクの幼馴染にしてヒロインであるフィオルン。そして、その後ろに控えているのは……。そう、ヴァネアだ。
「──っぅ〜〜……!」
「あ、ダメですよ動いては! 今は安静にしていないと」
上体を起こそうとして体中にまるで電撃のような激痛が走る。それを見たフィオルンが無理やりに俺の体を抑え、動かないようにガチガチに固めてきた。
不思議と、その感触は薄く痛みもない。ていうかなんか……硬い。
あれ、なんか腕とか胸とか青くね? あー……俺の体どうなったんだっけ? ダメだ……まだ意識が朦朧とする。
「
「あ、あぁすみませんヴァネア。そうでした。私が間に入っては貴方の作業の邪魔でもありますね……」
「そこまで申しているわけでは……」
しゅんとするフィオルンにヴァネアは困り果てた顔をする。ふふっ、おもしろ。
てかフィオルンじゃなくてメイナス様、か……。あー段々と思い出してきたぞ、確か俺は─────あ。
「──うおあああああ!!?!? め、メイナス!? おま、起きてるってことは……!!」
やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇ……!!
ネメシスが動き出してるってことじゃねぇか!!
「きゃぁ! か、カイン! いきなり大声をあげてはいけません! 大人しくしていてください!!」
「へ?」
と、その事実を認識し、急に大声をあげて動いたのが行けなかったのだろう。
驚いたメイナスがこちらに振り向く際、彼女の右腕が偶然、俺の顔面にクリーンヒットした。
鉄の拳から放たれた裏拳は、唯一機械部品に交換されていない頭部に致命的なダメージを与え、俺の意識は暗闇へと消えた。
「とりあえず、だ。状況を整理しようか」
「うぅ……。すみません、余計なことばかりして……」
「メイナス様……」
気絶から復活して早々、メイナスは悲しそうにちょこんと座って俯いてしまう。自らの主神に怒る気になれない(というかそもそも怒るつもりもない)ヴァネアはただ名前を呼ぶことしかできない。
どうしてこうなった。
いや、まぁうん。多分俺のせいなんだろうけど今はそんなことは重要じゃない。メイナスには悪いけど、とっとと話を進めさせてもらおう。
「俺の改造は成功。予想通り一時記憶を失いはしたものの、移行は完璧に終了したんだよな?」
「えぇ。貴方の望んだ通りの身体に仕上がっていると思います。しかし妙ですね……。記憶を失っていた間の記憶が無いなんて」
「あぁ、そこは俺も予想外。だからちょっと怖い。……どうなった、巨神界侵攻作戦は」
俺の意識が無いうちに、俺の体は勝手に動いて全てが終わっていた。
俺は目的を果たせたのか。果たせなかったのか。そこが一番重要だ。
「記録は洗い出しました。それによりますと、監獄島に囚われたザンザの肉体は消え、モナドの”枷”が解き放たれたことは確実と言えるでしょう」
「……ソレアン陛下はどうなった」
「貴方の攻撃を直に受けたのは確かなようです。そこからの安否は……」
「……ふぅぅ────。……そう、か」
黒に刺し殺されたという未来は変わった。変わったが……。
「カイン、そこは安心してよいでしょう。私が離れる時、あのハイエンターの長はまだ生きていた。適切な治療を施せば、一命は取り留めるはずです」
「……あの場には他にハイエンターが?」
「いました。5人ほど。うち4人は皇女に仕える騎士のようでした」
「……よし」
よしよしよしよしよし……!
メイナスがこう断言した上に、ホグドやアイゼルがいたなら大丈夫だ。きっと陛下は生きてる!
「ありがとうヴァネア。あなたのおかげだ」
「いえ……。私は貴方の言われた通り、『ネメシスを守る』『作戦に関わらない命は奪わない』という命令を青に入力しただけです」
「それでも礼は言わせて欲しい。この身体のことも含めて。
……ありがとう!!」
さて、そうと分かれば次なる一手を打たなければ!
聞いた感じだと、この後のシュルクたちの行動も巨神界の行動も概ね変わらないはずだ。
彼らはこちらの狙い通り機神界に侵入してくる。あとはこの後の事だけど……。
「ヴァネア、フェイスの方はどうなってる? 動かせるか?」
「記憶を取り戻す前、かなり無茶をしましたから……。左腕に搭載された回路がオーバーロードし、それが全身に伝播したことでほとんど大破した状態となっています」
「我がことながら随分とまぁ……」
「ですがその無茶のおかげで、こうして貴方の記憶が戻ってきた。悪いことばかりではありません」
ヴァネアはそう励ましてくれるが、情けないな。
左腕が死んでるのはかなり痛い。あれは特別製だ。その構造はフェイス本体よりも緻密であるため修理にはかなりの時間を要するだろう。
しかも俺自身の体の方の修繕も結構時間がかかりそうだ。メイナスたちが俺の体を縛り付けているのを見ると、ダメージは深刻のようだし。
となると限られたリソースをどこに割り当てるかが問題になる。んで、この後の展開のことを考えると、ひとつイベントが起こりそうなのだ。
「2人とも。その躯体修理のことですが……頼みたいことがあるのです」
「メイナス様?」
「ネメシスをいちはやく動かせるようにして欲しい」
ほら来た。
「私はモナドを持つ少年ともう一度会わなくてはいけない」
◆◆◆
「行かせてよろしかったのですか?」
「良かったんじゃないかな」
「…………」
ネメシスの修理を完了し、メイナスが飛び出して行って2日目。
彼女を心配していた様子のヴァネアだったが、我慢の限界を迎えたようだ。とはいえ俺にもこんな返事しかできない。
それをヴァネアは納得できないようで、ジト目で俺の事を見つめてくる。
彼女は俺の事情をある程度知っている。だから俺に答えを求めているのだろう。彼女のその心理を承知の上で、俺は敢えてこの先のことを話していないんだがなぁ……。なんせ当てになるかも分からん。
だから、ここはやはり言い訳を述べることしか出来ないのだ。
「いや、まぁ……できれば俺も一緒に行きたかったけど……機体が無いんじゃしょうがないだろ? 彼女が単独で動ける時間がそうないのは確かだし……」
「それはそうなのでしょうが……」
メイナスの判断も分からなくはないのだ。
顔つきになってしまった以上エギルの監視からは逃れられない。今こうして彼に俺たちの存在がバレていないのは、今フェイスの生産に彼が関わっていないおかげだ。
ヴァネアに彼への報告書を偽造してもらっているおかげで生まれたあるかないかの自由なのだ。俺たちの管理が本格的にエギルに移れば、今以上に動けなくなってしまう。
まぁそうやって前回飛び出して行って、どっちも損傷して帰ってきたんだから心配にもなるよな……。
あぁ、もう! 体の機械化に伴いフェイスが完全ワンオフ機になっちまったのが歯痒い!
お陰様でマクナに持ってった機体はもう使えない。まぁそもそもの話、あれに乗ったところで今のシュルクたちと戦えるかと言うと、微妙なところではあるのだが。
「……とりあえず、体の修繕が完了しました。不備などはありませんか?」
と、そうして不安そうにしながらも彼女は作業を進ませ、滞りなく終わらせてくれた。チリチリと感じていた痛みや熱さもなくなり、拘束も解除される。
修理台から降りて関節を動かしたり、準備運動をしたりして調子を確かめる。特にこれといって不快感はなく、先程まで感じていたはずの痛みも消し飛んでいた。
つくづく機神界の技術には驚かされる。
「───大丈夫、問題ないよ。重ね重ねありがとう、ヴァネア」
「いえ……。戦うことのできない私は、これぐらいしかできませんので。ここからは残りのフェイスの修理に入りますが、これから貴方はどうするのです?」
「さて───」
どうしたものかな。
現在位置はガラハド要塞だ。下に降りるには遠すぎるし、監視の目も多すぎる。今からヴァラク雪山の方に出向くのは今更すぎるだろう。
あとできることと言えば───とりあえず、あれか。
「ヴァネア、黒が今どこにいるか分かるか?」
「少しお待ちを……? ガラハド要塞を出撃しているようです。行先は分かりません」
「ん……了解」
てことは原作通りもう追ってったか。はやいな。こっちから奴に出向いて足止めしようかとも思ったが、間に合わないか。
そうなるともうフェイス・ネメシスの存在は隠し通せない。黒からの報告でエギルに見つかるだろう。
あと止める手段があるとすれば俺自身が囮となることだが、今奴と事を構えるのは時期尚早だ。フェイスもないし、そもそもそれはシュルクたちと合流してからでないといけない。
「ヴァネア、多分黒はネメシスを追ってった。奴を通してエギルに彼女のことが露見するかもしれない」
「な───、何故黒がそのようなことを!? まさか兄さんにはもう目をつけられて……」
「いや、それは無い。黒の生前の知り合いなんだ、メイナスの今の体の主は。その因縁を辿った偶然だ」
「───っ、そこまで分かっていたのなら……!
……いえ、黒を選んだのは兄さんで、あのホムスの少女を選んだのはメイナス様でした。あの時記憶を失っていた貴方にはどうしようもなかったのですね」
「……まぁ、そういうこと。ごめんな、ヴァネア」
本当に凄い因果だよ。黒はともかく、メイナスがフィオルンを選ぶなんてのは。
だがそのおかげでシュルクたちが追ってきてくれる。ちょっとヴァネアには悪いけど、やはりメイナスには、このままシュルクたちを引っ張るための餌の役割を担ってもらうことになりそうだ。
「……青の修理はどれくらいかかりそうなんだ?」
「左腕以外の躯体に関する工程は既に完了しています。左腕に関してもパーツさえあればどうにかなるのですが、それは本部の方から───」
……と、ここでヴァネアは話を切る。同時に、彼女はこちらに目配せして静かにするように促してきた。
彼女の操るコンソールを見ればコールランプが点滅していた。奴だ。
俺は静かに頷き、ヴァネアはボタンを押す。
「──はい。はい……現在はフェイス整備室の方に。機体の修理はほとんどが終了しています。……はい。──! 出撃なさるのですか!? ──はい、はい。──了解しました。どうかご武運を」
「…………エギルが出るのか?」
「はい……。それと、作業を終えて私に機神界に戻るようにと。ここは戦場となるだろうから、と」
「そいつは……ちと不味いな」
アイツが出てったってことは、シュルクたちがもうおっ始めやがったって事だ。しかもヴァネアに帰還命令も来てしまった。
彼女が中央工廠に戻るとなると、俺のフェイスの修理もあっちでやんなきゃいけないって事になる。もちろん、生体パーツである俺もここから離れることになる。
そうなるとエギルと一緒に戻ってくるであろうメイナスの援護ができない。彼女はこの先の戦いの要だ。必要以上に力を使わせたくない。
ガラハド要塞での戦いが起こる前に戻って来れるか……?
「中央工廠に戻ってからフェイスの修理にどれくらいの時間が必要になる?」
「そうですね……。あちらにはいくつかのパーツを残していますから、戻れれば2日程度で完了すると思います」
「青の機動性なら半日もあれば戻ってこれるか……」
ここから戻ることを考えると約5日か。シュルクたちがどのくらいの速さで大剣を渡ってくるか、それが勝負の鍵になりそうだ。
「兎にも角にも機神界へ戻ろう。時間が惜しい」
「分かりました」
◆◆◆
「んで? どうだったんだよ」
「耳がはやいね。知ってたんだ」
「兵は拙速を尊ぶ、てな。で?」
大剣の渓谷、その入口にてシュルクたちへの補給を終え、皇都への帰還の途につく飛空挺の中でディクソンはアルヴィースに聞く。
シュルクたちの道案内ついでに行っていた調査の結果について。
「
「へぇ、そいつは俺たちの脅威になりそうかい?」
「分からない」
「おいおい頼むぜ? 大局を揺るがす戦乱の前だってのによ」
「仕方ないじゃないか。シュルクたちが先を急いだ。皇太子殿下もそれを良しとした。そうなれば、僕には彼があそこで何をしていたのか、何を隠しているのかまでは調べられないよ」
ここで整理しておこう。皇都からシュルクたちが旅立った目的について。
それは主に2つ。
1つ目はシュルク一行の旅の目的である、記憶を失っているであろう白い顔つきの搭乗者、フィオルンに会い、可能ならば故郷に連れ戻すこと。
2つ目はメリアが皇主から与えられた任務の遂行。すなわち脱走兵カインの動向調査及び捕縛である。
実際には連れ戻すことが最終目標だが、彼が脱走せざるを得なくなった理由、及び、彼の脱走してからの動向を追うことも任務に含まれる。
さて、そんな彼らが旅立ってすぐに訪れたのがヴァラク雪山。ここは巨神から機神の剣に降りる事が出来る唯一の陸路であると同時に、カインの最後の足跡である短距離輸送機の残骸が発見された地でもある。
彼の生存が確認された現在において、再調査が行われるのは当然の帰結と言えるだろう。
今回のアルヴィースの役割は、シュルクたちを機神界へ導くことの他に、そんなメリアたちの調査を手助けするというものだった。
彼女たちを利用した情報収集に成果がなかった訳では無い。何かがあるという確証は得られた。だが、その何かを調べるのには時間が圧倒的に少なかった。
アルヴィースは名目上は皇太子のお付き人、随伴者だ。メリアがシュルクの意思を尊重するのならば、それに従わなくてはいけないのだ。
「まぁそれでも面白いものは見れたよ」
「ほう?」
「あそこにもノポンの商隊……というか、研究チームがいるんだけど、驚いたことに彼ら、ターキンと意思疎通をしていたんだ」
「ターキンと? アイツらにそんな知性はないだろ……ってそういう事か」
「そう。彼らに教えたんだ。あそこで長期間隠居していた彼がね」
ヴァラク雪山は名称こそ雪山だが、実際には斜めになっただけの巨神の腕だ。それ故に大きくわけて3つの地域に分類できる。
ヴァラク雪山を形成する岩山の頂上部、大きな下り坂となる中層部、巨神の手首にあたる広い下層部だ。
そんなヴァラク雪山の中層にて活動範囲が最も広いのがターキンだ。始祖ハイエンターが残した遺跡や、ヴァラク雪山でも比較的暖かな間欠泉付近、尾根の終わりに広がった僅かな平地など、至る所に彼らは居住している。
故にヴァラク雪山で生活していればまず接触は免れない。完全な断絶など、たとえカインであっても不可能だ。
「彼らは言っていたよ。’’コイツらと協力スルことのユウエキセイを教えてくれたのハ、オマエタチのような鳥の人間ダ’’とね」
「そういえばアイツら一応喋れたっけなぁ……。三歩も歩けば話の内容をすぐに忘れちまうし、数も上手く数えられねぇから対話なんか無理かと思ったが、いけるもんなんだな」
「その場にいたノポンの研究者によると、どうやら彼が住み込んでいた頃、丁度話のできるターキンが長をやってたらしい。そんな個体が現れるのはほとんど稀で、基本的に意思疎通は不可能だって」
「ま、そうだろうな。話をする前に襲ってくるし、話をしようと殺しを止めようとも思わねぇ」
実際、他の地域のターキンは他種族に対して敵対的だ。ホムスで言う犬や猫のような、隷属関係にある種族はいても、対等な関係にある者はいない。
そこでターキンと話そうという発想が出てくるだけでも、そのカインとか言う人物はかなりの変人だなとディクソンは思う。
実際は、彼にはそれができるという知識があっただけのことなのだが。
「しかしそれだけなら、そのカインとやらの痕跡が見つかったってだけで、脅威とはなり得ないだろう。分からない、なんて答えはまず返ってこないと思うが」
「いや、実はそのターキンたちは何かを護るよう言い含められていたんだ」
「カインにか?」
「彼の名前を出してはいなかったけど、多分ね。先代の長からの言い伝えだって」
「なるほどな。確かに風習にしちまえばアイツらはそれを遵守する。たとえ忘れっぽくてもな。よく考えてやがるぜ」
「その何かを僕たちは見ることもできなかった。’’鳥の人間との絆の証’’だそうで、ターキンと彼以外は絶対に触れてはいけないものになっていた」
そして、その話を聞いたメリアはそれ以上の詮索はしないことを決めた。
これ以上踏み込めばターキンとの全面対決に発展すると考えたからだ。たとえ知性が貧弱な種族の、一地域の部族とはいえ流石にそれは骨の折れる話になる。
しかも彼らの融和な姿勢が一気に崩れることにもなり、まだヴァラク雪山を進まなくてはならなかった彼らにとっては、わざわざ道中の脅威を増やしてまで聞き出すほどのことでも無かったのだ。
何か問題があったとしても、それは直接カインに聞けばいい。そう判断した彼らは下山を進めることへとシフトしていった。
ターキンの助力を受けたことで調査により遅れていた日数も取り戻せたため、この判断は間違ってはいなかったと言えるだろう。
そうして降りていった先で白い顔つきに乗るフィオルンと出会い、彼女を追ってきたムムカと機神界盟主に相対することとなる。
「あ、それともうひとつ。こっちは手がかりがまるで無いんだけど、気になることが」
「なんだ」
「《オセの塔》、モナドが封じてあったあの塔の出入りが簡単すぎたんだ。それに中が放置されていた割に綺麗だった」
「ほう」
オセの塔は始祖ハイエンターが前回の大戦時にモナドを封じるための施設として用意したものだ。それからは予言官就任の儀の場として使われることになる。
だがそれもディクソンがモナドを持ち出したことで終わることになる。ハイエンターの調査隊がオセの塔からモナドが消えたことを確認するため入ったのが最後。
以来14年間、誰にも触れられること無く放置されていると思われていた。
だが、アルヴィースたちがあそこに辿り着いた時の状態を考えると、実際には何者かがあそこに侵入していた可能性が高い。
まず、オセの塔周辺を覆う大きな氷塊が小さすぎたこと。
一年に一度入るか入らないかの施設であるため、オセの塔の根元は凍りついていることが多い。入口の扉などは固まってそう簡単に動かせなくなるのが通例だ。だが、今回は特になんの苦労もなく入ることが出来た。これはおかしい。
そして、その違和感を助長させたのが塔の中の汚れ具合だ。14年間放置されていたにしては埃は少なかったし、空気も新しかった。
これはつい最近までここに誰かいた事を意味している。
「ただ、それにしてはあちらは何も無さすぎた。もしかしたら彼がヴァラク雪山にいた時に拠点として使っていたのかも、と考えたけど」
「時期が合わねぇな。モナドの無いオセの塔で何をしていたか、か……。皆目見当もつかねぇや」
「こっちの話はそれで終わり。君の方はどうだったんだい?」
「ん? まぁ居たんじゃねぇかな。今にして思えば、だが」
巨神の下層担当であるディクソンは、アルヴィースやロウランにはある技術力がない。短距離輸送挺などの乗り物がない故に機動力に欠け、コロニー9での仕事もあるため、情報の精度に関してはどうしても抜けが出てくる。
そんな技術力の差を埋めるのが、彼が培ってきた長年のフィールドワークの成果だ。直近の状況は無理でも、10年20年と続けてきた調査の内容から、推察することはできた。
「ここ十数年の間、人為的にエーテルを採取した形跡がある」
「下層にはホムスがいるんだから、それは自然なことじゃないかな?」
「場所にもよるだろ。今やホムスのコロニーは9と6の2つしかねぇ。右足ならともかく、左足には居住地域なんてねぇんだよ」
機神界からの侵攻により、ホムスの10箇所ほどあったはずのコロニーは消え去った。ムムカをはじめとした生き残った者たちは他のコロニーへと移り住み、もはやそこで生活する人々は少ない。
それでも、と望郷の念に駆られ、敢えて自然の中で細々と生きることを選んだホムスがいるため、全く誰もいないという訳では無い。しかし、そういう者たちは大規模にエーテルを採取する技術力を持ってはいない。
必要になればハイエンターが残したエーテルシリンダーを使えばいいため、そもそも取ろうともしない。
「俺はてっきり隊商の奴らが資源確保のために動いてると思ってたが、例の話を聞いて思い直したんだ。もしかしたら機神界の連中がこっちに来てんじゃねぇかとな」
そうすると、ディクソンの中で色々と辻褄が合うのだ。巨神の左足の広範囲で行われていたエーテルの採集。それに比べて手付かずの右足。そこにあった違和感が全て解消される。
「そのカインって野郎、俺の事にも気づいてやがるぜ」
つまりはそういうことだ。
明らかにコロニー9を拠点としているディクソンのことを意識している。ギリギリまで自身の存在を気づかせまいとする思惑が、カインの残した痕跡を辿ると見えてくる。
「はっ、面白ぇじゃねぇか。ロウランが手を焼くのも無理からぬことだぜ」
「楽しそうだね。心配にはならないのかい?」
「そりゃそうよ! なんせこっちには未来視がある。視えてんだろ、その瞬間が。なら何の心配もありゃしねぇだろ」
「まぁね。君の言う通り、彼の望みは叶う」
問題はその後なんだけど、とアルヴィースは敢えて口にはしなかった。そこまで手助けをする義理もない。彼らの慢心も含めて世界がどう変わるのか見守るだけだ。
巨神の未来視は自身の復活の瞬間までを捉えている。だからこそ使徒たちには余裕があるが、その先のことはまるで視えていない。
つまり、彼の計算を上回る何かの介入があるということだ。
(もしかしたら今視えている未来だって、彼が望んだ結果だから変わっていないだけなのかもしれない)
未来は変化するが、変えようとする意思がなければ変わらない。
故に、未来を知る全員の思惑が一致していれば、必然的にその未来へとたどり着く。
だがしかし、その過程においては。
(君の望むものじゃなくなるかもしれないよ、ザンザ)
ということで、ヴァラク雪山の攻防は全カットじゃ。
カインの介入によって変わったことは、ターキンとスパイドの抗争関係のクエストが無くなったことと、ターキンに新しいキズナグラムができたことと、親愛度交換でアイスキャベツが手に入れやすくなったことと、ムムカがシュルクたちとメリア親衛隊からフルボッコに合うことくらいだけだ!
あと前回の最後に貼れていなかったTwitterの宣伝をもう一度。
URL
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