最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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おまたせしました。

正月に投稿しようと決心して1ヶ月。
入れたい話とこの先の展開に苦悶していたらリアルが忙しくなり、気づけば古戦場やらナウなミクトランが終わってもう2月でした。
はやいね。





ガラハド要塞

 

 

 俺が皇都から追放されてすぐの頃はヴァラク雪山でサバイバル生活を営んでいた。

 過酷な環境下で生きるエネミーたちと戦って修行しつつ、ターキンと交流を深めた約2年の隠居生活。目的は色々あったが、一番はやはり、機神兵を圧倒できる強さを手に入れることだったろう。

 

 エギルと会う。そのためには力を示す必要があると考えたためだ。

 

 雪山に侵入してくる機神兵との戦闘の中で、試行錯誤の果てに装甲をものともしないエーテルの刃を形成することに成功した。それを安定化させ、本格的に機神界に侵入したのは15年ほど前のことだ。

 

 彼らに見つけてもらうため敢えて真っ向からの正面突破を図り、巨神界の生命では知りえない言葉を餌にして、エギルとの直接通信にまで持っていけたのは良かった。

 だが、そこから先のことに関しては浅慮であったと認めざるを得ない。

 

 俺は理解していなかったのだ。彼が生涯に費やしてきた時間の重みを。

 

 だが、その後悔があるからこそ言えることがある。

 

 

 

 

 舞い戻った翼を身にまとい、空を駆ける。駆ける。駆ける。

 ただただ間に合うように祈りながら、俺は全ての意識を推進器へと回す。

 

 ガラハド要塞からの警報を受け取ったのがつい数時間前のこと。

 場所はフェイス整備場。

 シュルクたちとメイナスは既に戦闘を開始していた。

 

 そしてつい先程、反モナド場(アポクリファ)の発動も確認した。

 それはつまり、エギルが直々に手を下しに来たということ。

 

 間に合え、間に合え、間に合え────!! 

 

 4基ある推進装置全ての出力を最大にし、機神の剣を飛翔する。機体制御など考えず、ただただ直線に加速することだけを考える。

 目標ポイントはガラハド要塞下層。そこにレーダーとカメラを集中させる。

 スピードの中に消えていく世界。外の様子など到底判別することが出来ない景色の中で、俺はその姿を見つけ出した。

 

 

「──捉えたッ!!」

 

 

 標的確認。目標ポイントへの座標軸固定。

 全エンジン出力縮小。右エンジン動力を完全カット。剣を軸とする螺旋軌道へと移行────軌道修正完了。

 エーテルエネルギー充填開始。

 変形機構正常。槍の装填、完了。

 目標ポイントまでの到達時間…………3、2、1───! 

 

 

『我が支配から脱しただと!? ───急速に接近する反応!?』

「うおおおおおおおお!!!!」

 

 

 ネメシスと取っ組み合いになっているその脇から一閃。

 挟み撃ちのような形で、俺はエギルを横合いから殴りつけた。

 

 

「俺は、お前の”想い”の強さを知っている」

 

 

 だが、それがたとえどれだけ強大であったとしても、お前の思うがままにさせておくことはできない。

 恩讐に囚われ、その”想い”の根源を忘れ去ってしまったのなら尚更だ。

 

 

「俺はお前がこの人と戦うのを止めなくちゃならない。一度でも刃を交えたら、お前はもう後戻りできなくなる」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 突如飛来した赤い光を纏った何か。その衝撃により発生した土煙が晴れるまで、シュルクたちはその存在を確認することができなかった。

 

 

『カイン……! 来てくれたのですね』

『あとは俺が。ネメシスは彼らの援護を』

 

 

 煙の向こうでは、青い顔つきが白い槍を持って黄金の機神兵と相対していた。その光景を見てシュルクたちは混乱するが、無理からぬことだろう。

 色々と不可解なことが起きすぎている。

 

 

『馬鹿な! ネメシスだけでなく何故お前までもが───』

「俺を、覚えているか?」

 

 

 青い顔つきに乗る”その人物”はそう言うと、背中のコックピットハッチを開けてその姿を晒した。

 

 

『貴様は……!?』

「カイン────なんという姿なのだ……」

 

 

 ハイエンター最強の男、カインの登場はそれぞれに別々の衝撃を与えた。

 エギルは、フェイスにホムス以外の者が乗っている事実と、()()()()()()侵入者が生きていることに対して。

 昔の彼を知る者は、その変わり果てた風体に対して。

 

 

『馬鹿な……! 確かにその死を確認したはずだ。何故生きている?』

「残念だがお前が確認した死体は俺の一部から複製したニセモンだ。まぁ代償は高くついたけどな」

 

 

 ヒラヒラと、そう言いながらカインは左腕を揺らす。

 それが代償だったのだろう。彼の左腕は明らかに他の部位に比べて異質であった。

 

 いや、彼の体は本来のハイエンターの体からはかけ離れている。フィオルンやムムカのように体のほとんどは機械化され、表面は機神兵と同じ青い色の装甲で覆われている。左目は欠損したのか、フィオルンたちと違って赤い機械の義眼になってしまっていた。

 

 だが、それらの機械化部位よりもなお目立つのが左腕だ。

 何があったのかは知らないが右腕と比べて大きく肥大化しており、それ故に支えきれないのか、右肩や右脇といった部位と支柱やベルトで繋がれていた。

 あまりに人間離れした体躯にメリアをはじめとした面々は絶句してしまう。

 

 

『今更何をしに来た!』

「俺の目的は変わらない。だからその前にお前を止めに来たんだよ、エギル!!」

『ふざけたことを!!』

 

 

 そうこうしている内に2体のフェイスはぶつかり始める。

 カインは遠隔操作で機体を前進させるのと同時にフェイスに乗り込み、勢いに乗せて右手に持った槍を突き刺す。

 対してエギルはその大きな左腕を曲げ、肘に槍の先を挟みこんで受け止めると、右手にエーテルを集中させ、反撃とばかりにストレートを放つ。

 カインは素の左手で鉄拳を防御する。本来ならエーテルの波動により稲妻が迸るが、左手に備わっているエーテル吸収能力によってそれは掻き消える。

 

 

『こちとらver.2だ!』

『ッ───この推力は!?』

 

 

 修理と共に行われた改修により、青いフェイスは吸収したエーテルをエンジン出力に変換することができるようになった。

 機神兵最速の機体が発するパワー。それにエギルのエーテルエネルギーが上乗せされ、最強の機神兵であるヤルダバオトさえも上回る力を青いフェイスは手にした。

 

 

『まずはお前を引き剥がすッ!!』

『ぐっ……ぅぅ!!』

 

 

 両機は組み合ったままガラハド要塞の外へ外へと移動していく。

 その進行方向にいた機神兵の群れは衝撃に耐えられず破壊されていき、彼らが通った軌跡をなぞるように爆発が起こる。

 

 

『つけあがるな!』

『───!!』

 

 

 だがエギルはそのままやられるような弱い男では無い。

 ヤルダバオトのみが持つ機械の尾にエネルギーを集中させ、青いフェイスの脚を狙う。

 機動性に特化したが故に他のフェイスに比べて脆い青いフェイスにとっては、その一撃だけで致命傷になり得る。当然、避けるしかない。

 

 即座に左手で掴んでいたエギルの右を払うと、エンジン出力の調整とサブスラスターによる巧みな重心移動を用いて飛び上がり、ヤルダバオトの尾を回避する。

 それだけでは終わらない。エギルに掴まれた槍を起点にして空中で回転。続け様に頭部パーツに向けて回し蹴りを放つ。

 

 

『オラァッ!!』

『甘い!!』

 

 

 が、その攻撃を読んでいたエギルは右腕で挟んでいた槍を離し、そのまま腕で上段への蹴りを受け止めると、ヤルダバオトの出力に任せてカインを吹き飛ばす。

 

 距離を離されたカインだが、無理に攻撃はしかけない。横回転しながら着地し、ヤルダバオトの力を受け流す。

 

 一方のエギルも着地の隙を狙っての追撃はしない。青いフェイスにガラハド要塞外縁部ギリギリまで押し出されていた事もあったが、彼の飛来から二転三転する状況変化に混乱する頭を落ち着かせ、仕切り直したいという意図もあったためだ。

 

 

『…………』

『…………』

 

 

 両機は体勢を整えると睨み合ったままゆっくりと動き出す。互いが互いの隙を窺うが、両者共に手練であるが故においそれと手が出せない。膠着状態に入った。

 

 それはシュルクたちに訪れた撤退する絶好のチャンスであった。未だエギルの配下である機神兵に取り囲まれてはいるものの、エギル本人と相手しているよりマシだ。

 反モナド場(アポクリファ)によりモナドが起動しないとはいえ、メリアたちハイエンターのエーテルアーツや、フェイス・ネメシスの援護があれば、ここからの離脱はそう難しいことではない。

 

 だが、問題が2つ。

 

 

「今が好機だ。引くぞ、シュルク」

「ダンバンさん……」

「でもよダンバン、撤退するにしたって道が分かんねぇぞ?」

「だからこそだ。それを探すためにもここから一刻も早く動かなきゃならん」

「でもそれは……」

「メリアちゃんの探してた人、置いてくのかも? メリアちゃんが可哀想だも!」

 

 

 そう。撤退経路の確保が済んでいないことと、メリアたちハイエンター組の目的であるカインを置き去りにしなくてはいけない。

 

 シュルクにはその踏ん切りがつかなかった。彼自身、皆に勝手を言ってフィオルンを追ってきた。今、目の前でエギルと戦っているのがフィオルンであったのなら、彼女を犠牲にして撤退を選ぶだろうか? 

 

 いいや、できない。

 

 きっと、今のメリアたちもそう思っているはずなのだ。目の前に現れたチャンスをもうこれ以上取り逃したくはないと。

 だが、そう長く考えていられるほど彼らには余裕が無い。

 

 

『はやく逃げて! これ以上数が増えてしまえば、私もあなた方を守り切れない』

 

 

 敵は増す一方だ。

 今はまだガラハド要塞にて待機していた機神兵たちが現れているだけだが、機神界から新たなフェイスがいつ訪れてもおかしくはない。ネメシス単騎で彼らを守れる時間は短くなることはあっても長くなることは無いのだ。

 

 

「フィオルン、でも……」

「あの青い機神兵に乗る者を置いてはゆけぬ!」

『大丈夫です。あなた方が離脱した後で、私も彼と共に戦いますから』

「そんなっ!」

 

 

 それでは尚のことここから離れる訳にはいかない。彼女を連れ帰ることが彼らの目的なのだから。

 

 

『……確かに貴様の登場には驚いた。だが無意味だったな。貴様が守ろうとしたものはここで朽ちるのを望んでいるらしい』

 

 

 カインの奥で一向に動く様子がないシュルクたちを見てエギルは言う。

 彼らが窮地を脱しようとしないのであればカインに未来は無い。時間がかかればかかるほど状況は悪化していき、彼はエギルに指一本触れることが出来なくなるだろう。

 だが。

 

 

『間違えないで欲しいな。俺はお前と殺し合いをしに来たわけじゃない。止めに来たんだ。

 お前が俺を信用できないのは嫌という程身に染みてるけどな、だからって見限るつもりは毛頭ないんだよ』

『戯言を。ザンザの尖兵ごときが偉そうに言うなっ!』

『だから違ぇって言ってんだろ!!』

 

 

 エギルが動き出す。両の手にエーテルを集中させて加速し、間合いを超至近距離へと近づけた。

 カインの得物は槍。それは長いリーチを持つ分インに入れば取り回しづらい武器だ。エギルは着実に槍使いの短所を攻める。

 

 

 対してカインは機体の右脚を下げ、左手を突き出して半身の構えで受ける。エギルが放つ乱打を最小限の動きで躱し、隙を窺う戦法だ。

 左手を突き出しているのはエギルの拳を受け止めるため。いくらヤルダバオトとはいえエーテルなしの攻撃ではフェイスの装甲を貫けない。機動力に重点を置き、躯体が比較的脆い青いフェイスであってもそれは同様だ。

 

 故にこそエギルはカインの左手にエーテルを吸われてはいけない。

 拳を掴まれれば確実にカウンターに繋げられてしまう。そうならなくてもエーテルを充填しなおすまでの間に隙が生まれてしまう。

 左手を避けつつ拳を入れる必要があった。

 

 そんなエギルの心境を理解しているカインは左手を利用し、彼の拳の軌道にある程度制限をかける。こうすれば絶対に来て欲しくないコースからエギルの攻撃が飛んでくることはない。小さな動きでの回避がしやすいというわけだ。

 その代わり、囮に使っている左手は反撃に用いることがほぼできなくなるが。

 

 

『────ッ!!』

『巨体の癖に早く動きやがって───!』

 

 

 先程までに繰り広げられていた大きな動きによる攻防とは打って代わり、小刻みな速い動きによる戦いが始まった。

 カインは右手に持った槍を離さない。確かに至近距離では扱い辛い武器だが、そのリーチ故にフェイス一つ分くらいの距離は易々ととびこえて一撃を加えられる。

 

 

(こいつはヤルダバオトに通る唯一の武器だ。それもエギルは分かっているから警戒心は半端ないけど……時間稼ぎならそれで十分!!)

 

 

 目的は後続の到着を待つことだ。

 シュルクたちの離脱はその後の方がいい。その方が彼らを安全に送り出せる。

 とはいえ、エギルにはゆっくりと事を構えるつもりはないのだが。

 

 

『よく避ける! だがこれはどうかな?』

『やべ───ッ!』

 

 

 青には無いヤルダバオトの尾、右ストレートを避けたばかりのカインの足目掛けて振るわれる。

 こればかりは飛んで避けるしかない。避けるしかないが、その後生まれる隙はカバーできない。

 

 

『貰ったッ!』

『クソ!!』

 

 

 尾を回して一回転したエギルはそのままの勢いに乗せて左を入れてきた。

 踏ん張らないとヤルダバオトの瞬間パワーに青のマニピュレーターは耐えられない。左手を使ってガードしても多少ダメージが軽減されるだけで左腕のフレームがへし曲がるのは避けられない。

 かといって槍で防御しようにもこの距離では振り回すことすら難しい。エギルの左には間に合わない。

 

 

『ぐ……ッ!』

『脚で受けたか……。だがそのダメージではもう立つことはできまい。まだ飛べはするだろうが、さて、その機体でどこまで戦えるかな?』

 

 

 今後のことを考えて左腕を失えないカインは、咄嗟に上昇して右脚を盾にすることでエギルの攻撃を受けた。そして、衝撃の勢いに乗って距離をとった。

 だが、防御性の低い青いフェイスの装甲は容易くへし曲がってしまった。この機体にとっては致命傷だ。

 機動力のために無駄を極力省いた青いフェイスは、操縦者に繊細な機体制御を要求するモンスターマシンだ。多少の装甲の歪みであってもそれは機体バランスに大きく響く。

 

 

(やっぱりエギルは強い……!)

 

 

 機体性能の差が如実に現れていた。いや、これは相性の問題か。

 青いフェイスは極端な機体ではあるが、そんな設計でも巨神界との戦いなら問題はなかったのだ。彼らはそもそも機神兵の装甲をそう易々と貫けない。テレシア相手なら機動力に任せればまず当たらない。どんな状況になっても優位を保つことが出来た。

 

 だが、機神兵相手となると話は別だ。

 

 機神兵は機神兵に弱い。技術が拮抗しているため決め手に欠け、自力の勝負になってくる。

 そう、機神兵同士の戦いは消耗戦に陥りやすい。故に重要になってくるのは搭載している武装になってくるのだが、青いフェイスはその性質から槍以外にまともに使える武器がない。

 対してヤルダバオトはどうだろうか。

 機神界盟主が最強の機神兵と銘打っているだけあって全ての機能が高水準だ。青のように突出した強みはないが、弱みもない。機動力以外の尽くで青いフェイスを凌駕していた。

 それもそのはず。ヤルダバオトは対巨神を見据えた機体。エギルの持つ技術と想いの全てがこの機神兵には込められている。

 

 

(性能だけの話じゃない。これは想いの力だ。意思の力だ。ヤルダバオトを生み出したエギルの執念が、今の俺の全てより勝っているんだ)

 

 

 カインは彼に一度敗北している。

 軽く見ていた訳では無い。対策もしていたし、準備も入念に行った。その上で真正面から戦い負けた。だから死を偽装する必要があった。彼を止めるための手札が整うまで。

 

 そして今、カインの手元にはそれが揃いつつある。

 

 

(────だけど、想いの強さなら)

 

 

 ちらり、と彼は後方を見た。モナドが動作しない中、機神兵に囲まれても戦うことを諦めない者たち。ネメシスを含め、彼らを万全の状態で送り届けることが今のカインの目的。

 

 

『それがどうした。もうお前にだけは負けてやれないんだよ!』

『───くるか!』

 

 

 時間稼ぎなどと、そんな悠長なことは言っていられない。

 脚を失った以上、守ったら負ける。攻めなければ負ける。

 止める、なんて言っていられない。

 エギルを仕留める。それくらいの気概でなければ彼とは対等に渡り会えない。

 

 

『────!』

『くっ!』

 

 

 カインは両の手で握りしめた槍をエギルに向けて放つ。

 石突と柄を持ち、槍の持つリーチ、それを最大限に活かすための構えで挑む。

 突いては引き、突いては引き、時に左右へ払いながらヤルダバオトへと連続で攻撃をしかけた。

 ヤルダバオト側はそれを腕で払う。エギルは青の設計に関わっているためカインの持つ槍の性質については熟知していた。

 

 

(これ以上近づかれたくはないようだな……。柄の先を持ち、距離を置いて戦う基本的な型か。だがそれでは刃先にエーテルを込めることはできまい)

 

 

 カインの持つ槍のエーテル伝導部は柄の中心付近にある。今の持ち方ではフェイス本体からエーテルを供給することができなかった。

 エーテルエネルギーがない刃ではヤルダバオトの装甲はそうそう貫けない。エギルは一撃が重い突きは横によけ、薙ぎ払いは腕の装甲で受けて払うことでカインの攻撃を対処していく。

 

 

(そして、その構えにはもう一つ弱点がある。万全の状態であったなら勝負は分からなかっただろうなッ!)

『───っ』

 

 

 腕の装甲でカインの攻撃を流したエギルは、槍の先端目掛けて側面から拳を入れた。

 幾ら鋼の槍であってもそんな衝撃を受ければたわむ。力は振動となって増幅し柄からカインの手に伝わる。

 手の中で縦横無尽に揺れる槍。脚で踏ん張りの付けられない今のカインでは、そのエネルギーを制御しきれない。”崩れる”。

 

 

『終わりだ!』

 

 

 そこを狙わないエギルではない。先程のように腕などでガードされたとしても、”転ばせ”ばその次で仕留め切れる。

 だがそれは。

 

 

『狙い通りなんだよ!』

『なっ!? ぐっ!!』

 

 

 最後の一撃を放とうとするエギルに、横薙が命中する。

 カインはエギルがこちらの隙を突いて懐に入ってくることを待っていた。いや、誘導した、が正しいか。

 カインが敢えて脚に負荷がかかりやすい構えでしかけたのは、エギルの思考を縛るためのトラップだった。

 

 エギルは戦術の基本を押さえたセオリー通りの戦い方をする。故に崩れにくく、ヤルダバオトの全環境対応という機体性質と合わさって絶大な力を発揮する。

 だが、セオリー通りだからこそ、手を読み切り特定の状況に追い込めれば打破することは可能だ。

 

 問題はエギルの取れる戦術の多さにあった。ヤルダバオトの一撃はどれも強力無比で、カインにとっては全ての攻撃が致命傷になり得る。

 だから敢えて隙を見せることでエギルの思考を一本へと絞った。本質的には技術者で、戦士では無いエギルは、疑うことも無く、セオリー通りに”転倒”させに来る。

 

 だからそこを狙う。

 

 青いフェイスが搭載する大型スラスター。その莫大な推進力を利用した回転薙ぎは、的確にヤルダバオトの頭部へと命中した。

 

 エーテルの刃では無いため切断はできない。だがその衝撃は、金色の機神兵を吹き飛ばすのに十分な力を持っていた。

 

 

『空中ならこっちが強い!』

 

 

 槍を引き、持ち替える。

 そしてすぐさま全スラスターを駆動させ、突撃した。

 

 

『ぐうううう!!!!』

 

 

 その速度にヤルダバオトは追いつけない。咄嗟に横に逃げたことで胸部へのダメージは避けたが、槍は脇の下を通り過ぎて背部ユニットへと突き刺さった。

 

 

『捕まえた!』

『お、抑えきれん……!』

 

 

 堪らずエギルも推進器を全開にするが、地に足をつけられない状態では、単純にスラスターの数で勝る青の推力には対抗できない。

 押し出される。

 

 

『このままぁ!』

『───! 柱にぶつけるつもりか!?』

 

 

 背後に目を向ければカインの進む先にはガラハド要塞中央を貫通する大きな柱が待ち構えていた。しかも、カインが狙っているのはある一点。

 巨神の発火性エーテルをガラハド要塞全域に送っている伝導菅、そのパイプだ。

 

 

『貴様───!』

『悪いが一旦ここでお別れだ。死ぬんじゃないぞ』

 

 

 ヤルダバオトの背部ユニットを貫通した槍の先がパイプへと突き刺さり、エギルを縫い付ける。さらに、()()エーテルを纏ったその刃は緑色のエーテル流と混ざり合い、引火した。

 

 そして───。

 

 

『離脱するぞ、ネメシス! 彼らをできる限り連れて行け!!』

『了解しました。───皆さん、私たちに掴まって!!』

 

 

 爆発は連鎖する。

 パイプを伝ってガラハド要塞との接続部まで伝播し、下層全体が爆発とともに崩落を始めた。

 

 カインは柱に突き刺さった槍を手放し、巡航形態へと変形すると、シュルクたちを連れ去るように拾い上げ、外縁部へと飛んでいく。

 ネメシスも手に仲間たちを乗せ、続けてガラハド要塞から離脱した。

 

 

 エギルは柱に縫い付けられたまま、ガラハド要塞下層部と共に落下して───爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が耳元を通り過ぎる。

 

 カインが乗る青い顔つき。その手に抱かれながら外の景色を見る。

 そこには雄大な青空と青い海が広がっていた。

 

 

「凄まじいな、これは……」

 

 

 皇都では……巨神界では見られない景色に声を出さずにはいられない。

 

 カインは腕に乗る私たちを気遣ってか、ゆっくりとそんな空を飛んでいた。

 

 

「お前は……何を考えているのだろうな」

 

 

 青い装甲を撫でながら、赤い瞳の顔を見て思う。

 助けてくれたということは、少なくとも我々の敵では無い。だが、あの機神界盟主とは顔馴染みのようだし、本人もムムカやフィオルンのように機械化した体を有していた。

 

 何があってそうなったのかは分からない。

 彼が何を見ているのかは分からない。

 

 

「それに、あの左腕は……」

 

 

 とても人間が持つ腕の大きさでは無い。もしかしたらカインは───。

 

 

『これからどうするのですか、カイン。この速度ではいずれエギルに捕捉されてしまいますが?』

 

 

 と、唐突に横から声が聞こえてきた。

 今は空にいる。一体誰がと目を向けてみれば、そこにはシュルクたちを手に乗せてカインの横を飛ぶ白い顔つきがいた。

 

 

『大丈夫。後続はもう来てる。全員無事ならとりあえずそこに降ろす』

『了解しました。ならばはやく向かうべきでしょう。貴方の脚に掴まるノポンが限界を迎えそうです』

『げ、マジか。……もし落ちそうになったらキャッチ頼む』

『分かりました。ですが多分間に合うでしょう。もう見えてきました』

 

 

 ……随分と、仲睦まじく話すものだ。

 しかし彼らはどこを目指しているのだろうか。それに後続とは一体───。

 

 

「───あれは……飛空挺?」

 

 

 カインの目指す先を見るとそこには一つの白い塊が浮いていた。

 顔つきが持っているような推進器と、白い翼を持つそれは飛行船のように見える。そして、その背には大きな甲板が広がっており、そこには───。

 

 

「ホムス、か……?」

 

 

 いくつもの人達がこちらを見上げて手を振っていた。

 機械化されていないホムスや、見たこともない人型の何かがそこにはいた。

 

 

『そろそろ着くぞ。

 ───ようこそ、《レジスタンス》へ。歓迎するぜ』

 






レジスタンス云々は初期案からありました。
つまりゼノブレイド3発売前に命名してたんですね。
だから深い意味は無いよ。ホントダヨ。


それとアトラス様より支援絵を頂きました!
マクナで乗ってたカインのフェイスです。
本当にありがとうございます。
エーテルシリンダーを詰めたBOXがまんまイメージ通りで感服してます。
紹介が遅れて申し訳ありませんでした。

アトラス様のpixivURL
https://www.pixiv.net/artworks/104019473
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