最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います 作:塩なめこ
新たなる未来をクリアしたので義によって投稿致す。
DLC良かったね。マシューくん好き
砂浜で風を浴びる。
一人になりたかった訳ではない。単純に疲れただけだった。ただ外の空気を吸いたくなってぶらぶらとしていたら、いつの間にかここに来ていた。
落ちた腕の手首にある小さな入江。レジスタンス基地の入口ほど海風が強くなく、静かで心地いい。特に、潮の香りは閉鎖空間で鬱屈していた気分を開放的にしてくれる。
「ロウランに、テレシアとザンザ。そして、帝都アグニラータか……」
つい先程カインからもたらされたキーワードを、一つ一つ確認するようにして呟く。
あの後、カインは機神界帝都に残っていたという映像データを私たちに見せた。そこには確かにレジスタンスや隠れ里の住人が話した通りの歴史が刻まれていた。
カインは巨神の思惑を知り、対抗するための組織を作り上げた。巨神復活のために犠牲になる巨神界の生命を護り抜くために。
彼は敵ではなかった。そう信じた自分の心に間違いはなかった。その事がたった今証明されたと言うのに、なにか心がスッキリしない。
兄上や父上のすぐ側に間者がいる。そのことについて不安を抱いているのかもしれない。
これに関して、自分はどうすることもできない。
今自分たちはエギルを倒すという目的で機神界を目指している最中。巨神界にいる兄上や父上、そしてロウランにはそう見えているはずだ。
それなのに急に皇都に帰還しようとしたらどうなるか。カインと会ったことをロウランが知ればどうなるか。その未来さえもカインは語った。
『ハイエンターはある条件下でテレシアに変貌する。ロウランはそれを利用して、皇都住民全員を人質にしているんだ』
動くことはできない。少なくともこちら側からは。
ロウランをどうにかするにはまず、エギルを倒さなくてはいけない。自然に皇都へと帰還するように見せなくてはいけない。
ギリギリまでバレていないと見せかけて虚を突き、どうにかロウランを倒す。これしか打開策はないとカインは言った。
ちょうど、巨神連合軍のディクソンがいたことは不幸中の幸いだったと言えるだろう。彼ならばカインがもたらした情報を兄上や父上へと伝えられる。後の対応は皇都にいる者たち次第にはなるが……信じるしかない。
「ここに居たのか、メリア」
「ダンバンとリキ、か……」
「こんなところに居て、寒くないのかも?」
どうやら一人で出て行った私を心配して見に来てくれたらしい。少し風に当たっているだけと伝えると、では自分たちもと隣に座る。
「他の者は?」
「シュルクはフィオルンのことでゴモンさんの所に行った。ラインとカルナは武器を新調するために基地のエンジニアたちと話し合っている」
俺とリキの得物はこれだからな、と言って腰に下げた刀に手を置き、リキの背にあるカムカムを見るダンバン。
ダンバンはシンプルな軍刀を好んでいたから機械仕掛けの武器は必要ないのだろう。リキの場合は、彼の使うカムカムがノポン族独特の武器であるため、機神界の技術がかえって邪魔をするのかもしれない。
「アイゼルたちはどうした」
「鳥のヒトたちはカインと話に行ったみたいだも」
「そうか……」
やはり、彼らも気づいているのかもしれない。この心のモヤモヤが消えない理由を。
「心当たりがありそうだな」
「あぁ……。多分、カインの隠し事についてだ」
「も? まだ何か伝えてないことがあったのかも?」
カインはまだ全てを話していない。そんな気がするのだ。
ロウランのことは確かに真実なのだろう。これまでのことに辻褄が合う。
彼が皇都から脱出しなくてはいけなくなった理由を知る、という当初の目的は果たされた。
だが、知ったことで新たに生まれた疑問への解答を、まだ彼はしてくれていない。
どうしてエギルの元へ、マシーナたちの元へと辿り着けたのか。
ヴァラク雪山で何をしていたのか。
どうしてそんな身体になってしまったのか。
そして、最大の疑問は。
「マクナでの戦いのことだ」
「メリアちゃん達を襲ったことかも? その理由は話してくれたんじゃなかったかも?」
「理由はな。だがあの行動にはそれだけでは説明できないことがある」
「……なんでメリアたちを置き去りにしたのか、だな」
「あぁ」
テレシアを我々の力だけで倒せば、ロウランから脅威と見なされて妨害にあっていたかもしれない。最悪テレシア化されていた可能性もあった。
だから我々での討伐を無理やりにでも止めた。それはいい。
問題は私たちをエーテル欠乏症の状態にしたことにある。
私たちを護るためにテレシアとの戦いに割って入ったのなら、原生生物に殺されかねない状況に陥らせるのはどう考えてもおかしい。矛盾がある。
それに加えてテレシアへの対処も甘い。
あれの討伐を命じられてきた自分たちが、いざ失敗しましたとなれば政治的に危うい立場になるのは、自らも政治闘争に関わってきたことのあるカインにも分かっていたはずだ。
だから、あれはどのような形になっても倒さなくてはいけなかったのに、彼は自身の駆る機体でテレシアと戦おうとはしなかった。
彼が初めの戦闘に介入した時、彼がテレシアにトドメを刺せば、ロウランからの警戒度も抑えられ、テレシアもいなくなる最良の結果になったはずだ。
「俺たちが間に合ったからいいものを」
「そうなのだ。アイゼルたちもそこが気に入らないのだろう」
「メリアちゃんは気にならないのかも?」
「気になるか、と言われればそうなのだが……」
正直、どうすればいいか分からなかった。
確かに、全てを話してくれないカインに不満はある。だが、彼の目的を知った。巨神界の生命を救うという途方もない目標のために彼は動いてきた。
今まで機神兵に乗り、敢えて何も言わず敵対していたのもそのため。彼にはきっと今は話せない事情が何かあると思うのだ。
それなのに、自己満足のためだけに我儘を通してしまっていいのだろうか? 彼の思惑の邪魔になってしまうのではないだろうか?
そんな思いと知りたいという気持ちが、今の私の中で共存しているのだ。
「メリアちゃん、それは違うも」
だがリキはそんな私の考えをキッパリと否定した。
「ワガママなのはカインの方だも。メリアちゃんに何も言わず、勝手に色々とやってたの、カインの方だも」
「だがそれは」
「理由があったからって、それでメリアちゃんたちが振り回されてきたの、リキ知ってるも。見てたも。メリアちゃん、ずっと悲しそうだったも」
……リキにも、そう見えていたのか。
「カインはメリアちゃんの大事な家族なんだも?」
「いや、確かに家族のような間柄ではあったが……」
「一緒にいたいとか、護ってあげたいとか、そう思ったのならもう家族だも。血の繋がりなんて、些細なものも」
リキは色んな子供を育ててきたから分かるんだも、と胸を張って言う。サイハテ村のリキの家にいる子供たちの中には、孤児となったノポン族の子もいる。だからそう思うのだろうか。
「カインもワガママだから、メリアちゃんはもーっとワガママでいいんだも。家族にエンリョはいらないも!」
「遠慮……か」
確かに、私がもっとずっと小さかった頃はカインや、アイゼルたちに対して気兼ねなくなんでも話せていた気がする。そこに格式ができたのはきっと、私が政に関わるようになったからだ。
「メリアは皇家の子だからな。リキや俺たちのとはまた感覚は違うんだろう。だがなメリア、話すなら後悔しない内がいい」
「ダンバン───」
「メリア、俺には一つ後悔がある。ムムカ───昔馴染みの戦友と、あんな別れ方しかできなかったことにな」
ダンバンは空を見ながら言う。視線の先にあるのは機神の大剣、その柄だ。
あそこは黒い顔つきと決着を付けた場所である。
黒い顔つきの搭乗者、ムムカの残骸はこの島にあった。私たちが辿り着く少し前、レジスタンスの者がその死を確認しており、ダンバンへと報告していたのを覚えている。
「あいつと戦ったことに悔いはない。その行いを許すこともないだろう。だがな、俺たちには争う以外の道は無かったのかとも思う」
「それは……ダンバンが思い詰めることではないだろう。あの者は力と憎しみに囚われていた。道を見誤った愚か者だ」
「あぁそうだ。だが、奴が俺に憎しみを向け始めたのは俺がモナドを手にしてからだった。俺はそれに気付かないふりをし続けたんだ。だから、もっと話していればこうはならなかったんじゃないかと思うのさ」
あの大剣の渓谷での戦いに嘘偽りはなかったんだから。最後にダンバンはそう小さく呟いた。
「まぁ……なんだ。いつ別れがくるかなんて誰にも分からない。だから、会える内に話したいことを話すべきだ」
「その時後悔しないために、か」
確かに、今は機神界へ攻め込む大規模作戦の直前だ。今しかゆっくりと話し合える機会はないのかもしれない。
みんなの前で敢えて話さなかった何か。それを今話してくれるかは分からない。だが、このモヤモヤは晴れるのかもしれない。
今はとにかく、悔いの無いように。
「しかし意外だったよ。リキがメリアを追おうなんて言った時は何かと思ったが」
「リキ、子供いっぱいいっぱい育てたも。いっぱいいっぱい送り出したも。だから分かるんだも!」
「歴戦の父親の眼か。……普段は気丈に振るまうメリアが弱音を吐くなんてな。やっぱりあいつらは特別なのかね」
「ダンバンだって負けてないも。メリアちゃん、頼ってくれたも」
「あぁ……そうだな」
「良かったら、ダンバンの悩みも聞いてやるも」
「……敵わないな、お前には」
◆◆◆
「決闘だ」
入ってくるなりアイゼルはそう言った。
思い返してみるとコイツはいつもこうだった。遠慮がない。初めて戦った時もスパイとして働くことになった時も問答無用だった。
だから俺は変わらずこう返すのだ。
「嫌だ」
「いいや、やってもらう。でなければ気が収まらん」
「する必要がない」
「お前にはなくても俺達にはある」
そんなアイゼルの言葉に頷く3人の男たち。
ガラン、ダミル、ホグド、皆の意見はどうやら一致しているらしい。
「全員と連戦は流石に無理だぞ」
「どうだか。聞けば機械の身体とやらになったそうじゃないか。スタミナなんてものが必要なのか? お前に」
相変わらず痛いところを突いてくる。その洞察力は衰えることはなく、鋭さを増しているようだ。……いや、そんなことはマクナで対峙した時からわかっていたことだが。
「問題はそこじゃねぇ。時間的な意味で全員とは無理だ。これでもレジスタンスのリーダーだぞ?」
「ならば一度に全員とだ」
「ああ言えばこう言う……! ていうか勝負になんねぇよ。こちとら機神兵と同じ装甲だぞ。エーテルアーツならともかく、物理じゃまともに太刀打ちできねぇ」
「ちょうどいいハンデじゃないか。それでこそ4対1が成立するというものだ」
全員とやるのはもはや決定事項らしい。他の3人も異論はないようで、黙ってこちらを睨みつけている。
「勝敗はどう決めんだよ」
「いつも通りだ。敗北を認めさせるか意識を奪うまで」
「今の俺を気絶させるのは至難の業だぞ」
「上等だ。負けを認めさせてやる」
「どうやって。痛覚も鈍くなってんのに」
「なに、やりようはあるさ。こちらは4人もいるのだからな」
わんやわんやとこいつと口喧嘩をするのも何度目であろうか。何度目であっても口ではいつも負けるのだが。
こうして俺は無理難題をふっかけられる。今回だって俺は拒否しているのに、ルールまで決めてしまって戦う流れだ。
ぞろぞろと連れられて、一番戦いたくない俺が、一番レジスタンス基地に詳しいせいで案内をさせられる。
そうして選んだ決闘場は、腕の装甲の更に上。レジスタンス基地の屋上とも呼べる広い空間だった。
腕全体を見下ろせるここは、ちょうど原作でカルナとラインが漂着した場所の真上にあたる。つまり、真下には彼らが着水した貯水池があると言うわけだ。
「ここなら広々としてちょうどいいかもしんねーけど……本当にやるのかよ?」
「今更何を言うか。覚悟は決まっているのだろう?」
アイゼルは既に武器を構えていた。他の3人もだ。俺を取り囲むようにして布陣している。その目には気迫が宿っている。絶対に負けるつもりはないらしい。
応えるように俺も槍を構える。この槍だけはあの頃から何も変わっていなかった。
「……来いよ」
そんな挑発に全員が乗ってくる。4方向から同時に接近してきた。
……いや、僅かにガランとダミルの出が速いか。
槍は2人に向けて構える。ちょうど槍が俺を囲む四角の対角線になるような形になった。彼らは、初手で俺を前後の盾で挟むことにしたらしい。
だが見くびってもらっては困る。今の俺は、男2人くらいの突進なら簡単に受け止められる。
「なぁっ!?」
「───っ!」
キィィィンと甲高い金属音が響く。
槍の両端で2人の盾の中心を押さえつけた。場所は完璧で、お互いの押す力が真っ直ぐに伝わってしまっている。2人の勢いを殺してしまえば、後は手を離していても大丈夫なくらいだった。完全に釣り合いがとれているので、槍はピンとしていてたわむ様子は無い。
槍から手を離した直後、右から青い光を帯びた刀剣が視界の端に映った。エーテルの刃だ。
俺はそれを認めるとすぐさま顎を引く。次いで左を見れば飛んでくるのは水の弾。これは左手で受ける。
ここまで数秒。流石にダミルとガランが異変に気づいて力を抜きそうなので、そうなる直前、右に側転しながら槍を蹴り上げる。
支えを失って前のめりになる2人。剣を引き抜き近接戦を仕掛けようとしたホグドはそれに阻まれてタイミングを失う。アイゼルの二撃目は側転をしながら交わした。
視界には全員の姿が入っていた。
「お返し」
左手に吸収されたホグドのアーツ。それをそのまま出力して水の弾丸を発射する。俺はホグド並の技量がないので、生み出されるのは威力も速度もない水の塊なのだが……槍をキャッチするまでの時間は十分に稼げる。
「冷たっ──!」
バシャっと水が炸裂し、4人まとめてずぶ濡れになる。俺は飛び上がって槍をその手に収めると、落下の勢いをそのままにガランへと槍を叩きつけた。
「お、重てぇ……! お前こんなにパワーあったかよ……ッ!!」
「俺じゃねぇ。この身体が凄いのさ」
体勢を立て直したダミルが横から飛んでくるので、ガランから槍を引いて距離をとる。視界に4人を納め、改めて槍を構える。
「エーテルアーツじゃ俺は倒せないぞ」
「そのようだ。まさかその状態でもエーテルを吸収できるとはな」
「まぁな」
エネルギー変換効率はクソ雑魚だし、フェイスの時と違って取り込んだエーテルを貯めておくこともできないけどね。
俺の返答を聞くなり全員が剣を抜く。ガランとダミルも盾を捨てた。先程の攻防で図体のデカイ盾はただの的になるだけで、不利になると考えたのだろう。
俺の羽がエーテルの流れを感じ取った。彼らの持つ刃は青い輝きを放ち始める。
「エーテルブレードの形成か。……腕を上げたな」
「お前との戦いで思い知っただけだ。モナドに頼りっぱなしじゃ、メリア様を守り通せねぇ……!」
「よく言った、ダミル。なら俺も遠慮はしない」
体の機械化により、エーテル保有量も放出力も全盛期より落ちてしまってはいるが……それでもまだ俺の方が強い。
青と白に染められた俺の槍が更に輝きを増す。
エーテルブレードにはエーテルブレードで対応しなければいけない。物理的な攻撃は切り伏せられるだけだ。
「来いッ!!」
槍全体をエーテルで包み込み、迎撃の構えを取る。それに応じるように4人は一斉に駆け出した。
4人の狙いは分かっている。俺の懐に入ることだ。槍では対応しづらい至近距離に持ち込まれれば俺に勝機はない。
素の機動力では俺の方が上だ。単純な競走では俺に追いつけない。だから彼らは一対一での接近は無理だと考え、数で撹乱しようと考えたのだろう。今取れる最適な戦法だ。
だが、それでも追いつけないほどのスピードを俺が持っていれば話は別だ。機械化には欠点もあるが利点もある。
「スピードシフト───!」
全身からエーテルがほとばしる。風が俺の体を包み込み、スラスターのように各部位の機動を後押しする。
当然、それによるGは計り知れないものになるが、今の俺は機械だ。有機生命では耐えられない負荷もこの体なら耐えられる。
「───ッ!」
「はやっ!?」
俺へと真っ先に到達したのは体が大きくリーチもあるガランだった。俺は両手で構えた槍の刃先で彼の刃を軽く右へあしらい、そのまま左へ回り込むように回転して、後方にいるホグドへ右薙ぎを当てに行く。
「っぅ───っ!」
「────」
ガランの巨体が壁となり、反応が遅れるホグド。それでも彼は槍との間に刃を差し込んで凌いだ。だが咄嗟のことであったために力を殺し切れず飛ばされる。
槍を振りきったことで左手から槍が離れる。そこを隙と見たのだろう。間髪入れずにダミルが縦切りを放つ。
だがそれでは間に合わない。スピードシフトの加速は彼の予想を上回る。彼が捉えられたのは俺の髪の毛数本。俺は右凪薙ぎの勢いをそのままに右回転して彼の攻撃を避けた。そして振り向き、ダミルを視界に捉えると右手を引いた。
姿勢を低くして左手を添える突きの構え。剣を振り終え視線を上げた先にあった光景に驚きつつも、ダミルは剣で防御に入る。
だがそれも間に合わない。神速の突きは炸裂する。
「まずは1人」
からん、と剣が地に落ちる音を聞くよりはやく、槍を右へと凪ぐ。そこには突きの後で伸びきっていた俺を仕留めようと、剣を振るうアイゼルがいた。
本来なら間に合うはずのない決定的な隙。だが、慣性をものともしない機械の体なら対応できる。
「ちぃ……!」
アイゼルに槍は当たらないがそれでいい。元々が牽制目的。この距離を詰めさせなければあとは時間の問題だ。
そこで左から気配を感じた。先程あしらわれたガランが振り向き、追撃に出たのだろう。流石にこれを槍で受けるのは間に合わない。頭の翼を羽ばたかせ、飛びながら前進する。
機械化により重量が増したため、自由自在に空を飛ぶことは出来なくなったが、空中での姿勢制御と跳躍の飛距離を稼ぐことくらいは出来る。
空で転身し、3人を視界に入れて着地する。真正面には薙ぎ払いによって飛ばされ、体勢を立て直していたホグドの姿があった。
「不味い、ガランっ!」
「間に合え───」
アイゼルが俺の狙いに気づき、ガランに指示を飛ばす。ホグドとの直線に割って入られたため、彼を仕留めることはできなかったが──。
「これで2人だ」
代わりにガランの巨体に俺の槍が突き刺さった。姿勢を低くして放った蹴りの勢いに、スピードシフトと翼による加速が加わった突きは、先程ダミルへと放ったそれとは比べ物にならない威力を持っていた。
打たれ強いガランもこれには耐えきれず、倒れる。
そして。
「ホグド、上だ───!」
「なっ───!?」
ダミルごと宙へと飛んでいた俺の眼下には、戸惑いながら俺を見上げるホグドの姿があった。彼は剣を構えようとするが、翼による姿勢制御によって放たれた蹴りが彼の手を捉え、彼の武器を彼方へと追いやってしまう。
「これで3人」
思わず飛んでいく剣を目で追ってしまったのが致命的な隙。左手に持つ盾を構えるのが間に合わない。ホグドは俺の体重と重力が乗った叩きつけにより、戦闘不能となる。
「さぁ、あとはお前だけだ」
「……舐めるなよ、貴様っ!」
着地に合わせて放たれたアイゼルのエーテルアーツは俺の左手に吸い込まれ消えた。その後の俺の挑発に、アイゼルは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、戦意は失わない。
スピードシフトはここで終わり。ここからは正真正銘、地力のみの一騎打ち。
俺は槍を改めて構える。アイゼルもそれに合わせ、剣を両手で握りしめ顔の横へと持っていき、突きの構えを取った。
これから何が起こるのか容易に想像ができる。俺とあいつの突撃勝負だ。
一瞬でカタがつく。俺が槍で捉えれば俺の勝ち。それをあいつが避ければ奴の勝ち。
集中を高めていく。狙い澄ます一点を見つめ、槍に力を込める。そして、駆け出す。
3─────。
加速して飛び出していく。流れていく映像が目で追いきれず、視界の端から景色が消える。映るのは同じく駆け出したアイゼルの姿だけ。
2─────。
右手を引き、突き出す準備をする。タイミングが重要だった。早すぎればアイゼルに対応される。遅すぎれば俺がやられる。
1─────。
狙うのはあいつの剣が届かないギリギリの場所。奴が剣を突き出すか否かのタイミング。そこにしか隙は生まれない。
0─────。
お互いの
槍と剣が触れ合い、顔が至近へと近づいて、そして────。
◆◆◆
───俺は空を見上げていた。
もう日が沈もうと言う時分。オレンジ色に染まりきったまっさらな空を両断するように、機神の剣が一本、そこにはあった。
俺はアイゼルに問う。
「これ、誰が勝ちなのかね」
アイゼルは当然のように答えた。
「メリア様以外におらんだろう……」
俺たちは仲良く機神の腕の上で転がっていた。少し焼け焦げながら。
最後の最後、剣と槍が触れ合う直前で俺たちは雷撃を喰らった。もちろん偶然の産物では無い。雲ひとつない空から雷など落ちてこない。だが、怒りに駆られた人なら雷を落とす。
どこからか俺たちが戦っていることを聞きつけたメリアが、俺とアイゼルを止めるためにエーテルアーツを放ったのである。
俺とアイゼルは、倒れゆく自分たちの顔が間近に迫る光景を最後に意識を失ったのだった。
「しかし、なんだって俺に戦いなんて挑んだんだ」
「今更それを聞くか?」
「お前が聞かせなかったんだろうが」
ゴリ押しして始めて、終わったら全てがなかったかのように振る舞うの、ほんっっっと変わらねぇな。アイゼルさんのそういう所は酷いと思うよ。
「……それはもちろんお前が気に食わなかったからだが」
「全員?」
「全員」
これまでの自分の所業を省みれば、確かに怒られるようなことをした自覚はあるけど、まさか全員の意見が気に食わないで統一されているとは思わなかった。少し泣きたい。
「なんだその顔は。自覚はあるだろう」
「…………まぁ」
「隠し事はするし独断専行は当たり前。メリア様や陛下に弓を引いても尚直らんその性根を一度ぶん殴りたいと思わんわけなかろうが」
「自覚あるって言ったそばからつらつらと言葉にするのやめてくれませんか???」
ほんとに泣くぞ。
「だがまぁ一番の理由は、お前自身が私たちと戦いたがっていたように見えたからだ」
「…………俺が?」
「だからお望み通り殴ってやろうとしたわけだが……結局、一太刀も浴びせることができなかった」
アイゼルはそう言って仲間の方を見た。彼らは今メリアの介抱を受けていた。当然だが殺してはいない。
ダミルに放った突きは当てていない。今ので殺されていたと理解した彼は剣を手から離すことで戦意喪失の意思表示をした。
ガランには槍の刃を当てていない。突撃した時は柄の方を向けていた。衝撃により気絶したが。
ホグドへの叩きつけは刃を向けて行ったが……そもそも俺が纏っていたエーテルブレードの属性は土。刃物の切れ味を落として打撃力を高めていたため、意識を奪いはするものの死にまではいたらない。
「研鑽を怠ったつもりはないが、こうも力の差を見せつけられると堪えるものがあるな」
「ただの初見殺しだよ。なのに時間切れまで付き合わされたんだ。次はどうなるかわからん」
「当然だ」
即答かよ。同じ手で負けるつもりは無いってか。それでこそアイゼルだ。
「フッ……」
「……なんだよ」
「いや、お互いスッキリできたようで何よりだと思ってな」
「そんなに深刻そうに見えたか?」
「少なくとも、ここに来てからお前の笑顔を見たのはこれが初めてだ」
「……まじか」
今まで俺笑ってなかった? ていうか今俺笑った???
予想外のことで思わず頬に手が伸びる。左手が伸びちゃったから届かなかったけど。
「お前ほど忠義に厚い騎士が、己の主君に刃を向けて何も感じないはずがない。変に真面目だからな。その責任を取ることに、お前は怯えているんじゃないか?」
「……んなこと言われても」
「答えられないか? まぁこれはホグドの分析だ。私はそんなこと微塵も思っていない。真面目だとか忠義に厚いだとか……私の方が上だ」
だが衛生兵として心理学にも精通したホグドの言だ。あながち間違いであると切り捨てることも出来ない。……だが、俺が責任に押し潰されているというのは少し違うと思う。俺は……そう、俺は……。
「お前らに嫌われるのがイヤだっただけなのかも、な……」
「──────」
あれ、なんかアイゼルが固まってしまっている。まるでターキンがクロマメレバーを食らったような顔だ。なんか変なこと言った……か……?
「あ───」
「───くっ、くくくく……はっ……、ぶっ…………ふふ……!」
「待て待て! 今のなし! なし!」
「くくく……っ、き、きかなかった、こ、ことにしと、いて……くくく……!」
「言えてない! 言えてないから!」
ふ、不覚……! こいつ本当に皆には黙っててくれるんだろうな? 一番弱みを握られたくない相手に握られてしまった気がするんだけど。
なんてそんな言い合いをしているうちに処置が完了したのか、メリアが駆け寄ってくるのが見える。そういえば昔、俺たちが訓練で負傷した時はいつもこうで、優しく手を差し伸べてくれたんだっけ。
「痛っ」
「馬鹿者ばかりだな、ここにいるのは。これから機神界に攻め込もうというのにこんなことをして」
「メリア、それに関してはアイゼルが悪い」
「様をつけろ馬鹿者!」
「両成敗だ」
「「痛っ!?」」
嘘だろ……メリアがぶった……。しかも二度も。親父にもぶたれたことないのに。
「カイン、そなたのこれまでの狼藉、これで許す」
「……!」
「だから話せ、全てを。隠していることがまだあるのだろう?」
やっぱりバレバレか。……これで許すってこの子は本当に強い。
「あぁ、分かってる。ここにいる皆に俺の全てを話すよ。だけどここにいる奴らだけの秘密だ。シュルクたちには話さないで欲しい」
「……聞けばその理由も分かると言うのだな」
「あぁ、そうだ」
コイツらは、コイツらにだけは隠し事はもう無しだ。心の底から信じられる仲間だから……そんなこと、したくない。
これから起こること。ザンザの野望。俺の計画、その全てを。
「今から語るのは俺が
カインを縛るしがらみはこれでほとんど消えました。
残るはあと2つくらいかな?
ちなみにリキとダンバンさんの絡みは原作のあのシーンをどうしても入れたくて書いたやつなので伏線とかではないです。リキ好きだから仕方ない。許してください。
次回はようやく機神界フィールド突入です。
ゼノブレイドシリーズの新作が出るまでに完結したい。