最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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まだまだ穏やかです


青年期①

 ▽月□日

 

 やりやがった! やりやがったなロウラン! 

 まだメリアは会議に出席できるようになったばかりだっていうのに! 

 

 ……今日謁見の間で陛下直々に俺たち近衛騎士団とメリア様に勅命が下った。

 巨神肩にて観測された巨大なテレシアの討伐任務である。

 

 メリア様が謁見の間にて会議に出られるようになってはや数年。俺たちの活躍もありその発言力は年々増してきている。

 その成長を止めるかのように舞い込んできたテレシア討伐の任。あの場にロウラン、そしてアルヴィース(体は違ったけど多分そう)がいた事から十中八九奴らが噛んでいると見ていい。

 

 そも巨大なテレシアが自然発生するなどということがありえないのだ。

 アイツらは巨神の細胞。巨神に仇なすものを屠るための道具だ。

 彼らの本能は巨神のために生きることであり、知性なんてものは存在しない。故に彼らが動く時は支配者たるものの指示があった時だけなのだ。

 

 支配者とは即ち巨神とその庇護下にある使徒。つまりはロウラン以外にありえない。

 

 きっとこのテレシアも彼女が戯れに、ハイエンターの一人から作り出したものなのだろう。

 ハウレスは未だ開発中だということは調べがついている。どの程度のエーテル濃度で俺たちがテレシアへと帰化するのか、実物を用いて実験しているのだろう! 

 

 テレシアはいるだけで周囲のエーテルを吸い尽くす。……手持ち無沙汰になった彼らの後処理を皇室に持ちかけたのだ。

 

 純血派の暗躍も皇室での権力争いも彼女にとってはもののついで。

 宰相たる彼女がハイエンターの秘密を知らないとは思えないが、ホムスの混血児たるメリアの結末に関してもあまり関心はないのだろう。

 巨神に仇なす生命がひとつ減った。彼女にとってはその程度のことで戯れに過ぎないのだ。

 

 それを俺はこの数年で嫌という程痛感した。

 純血派たる光妃に助言をしつつ皇室にも情報を落とす。その様はハイエンターという種族で人形遊びをしているよう。

 彼女の永久の命の中の暇つぶし。それで数多の生命が弄ばれる。許すものか。

 

 

 ……とはいえ今はメリアだ。彼女を、あの人をお助けしなければならない。

 それに巨神肩には俺も用事がある。こんな形で行きたくはなかったが。

 多分、大型のテレシアと事を構えることになる。俺たち6人だけで。

 

 誰も死なせない。死なせるもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽月▼日

 

 

 一週間という準備期間を経て俺たちは巨神肩へと飛び立った。見送りに来た宰相がくそウザかった。

 

 そういえばアルヴィース(仮)もいた。声をかけられた時はびっくりしたが激励を貰っただけだった。彼はやはり掴みどころがないな。

 もしかしたら今回の件には噛んでないのかもしれない。止めようともしていないのだろうが。

 

 さて、巨神肩では古代都市グランデル付近に住む様々な種族の人達が出迎えてくれた。

 メリア様にとって皇都の外での仕事は初体験。一般的なノポンとホムスと触れ合うのも初めてだ。

 緊張していないか心配だったがそんな様子はなく、人間換算11歳ながら皇室の威厳を保ちつつ親しげに会話を楽しんでいた。

 

 アイゼルに、「あのように俗世での振る舞いを覚えられたのはお前の影響があったからだろうな」と嫌味を言われた。どうやら彼女が緊張していないのは俺のおかげであるらしい。

 はて、俺のどこに民衆との触れ合いで学ぶところがあったのだろうか。

 

 そんな事を言ったらお前が隠れて街に連れ出したせいだろとダミルに笑われた。最近は仕事が忙しくてそんな暇なかったけど20年前くらいはそんなことしてたかも。

 精神的には一般地球人だからねぇ。実は記憶の磨耗とか大変だったりするのである。ていうかそれを補うための日記になってるよねこれ。

 

 閑話休題。

 

 そんなわけでグランデルにて拠点を構え、エルト海から脱走したテレシアの行方を追う。いざ、情報収集! 

 

 

 の方はアイゼル達に任せてと。

 俺は独自であるものを堀りに行った。まぁこの辺で掘れるものなんてひとつしかない。

 

 これだよこれ、高純度のエーテルジェム! 巨神肩特有の硬いエーテル鉱床! 

 

 

 

 

 

 

 ▽月@日

 

 

 全員の武器に合うジェムを見繕ってはめていく作業をしている。

 数十年前にジェムクラフトを手に入れてからジェムの研究を続けていたため、この5人の中では一番詳しくなっていた。そのせいか部隊の装備の点検担当に任命されてしまったが。

 

 しかしやはり巨神肩のエーテルジェムはいい物が多い。

 本編の後日談たる『つながる未来』では巨神復活と崩壊の間に様々な機材が消失してしまっていたが今はそんなことは無い。

 仕事中にクエストするとかできない立場なのでちゃんとドリルが置いてあって本当に助かった。

 

 巨神肩はエルト海にない属性の鉱脈もあり研究は捗っている。とはいえ純度が高すぎて効果がある程度決まってしまっているのは残念だが。

 

 素早さアップとエーテル防御、エーテルバリアと物理バリアが手に入ったのでとりあえず良しとする。耐性系のものは効果がどういうふうに現れるのか分からないから放置だ。

 

 あ、そういえば今日はアイゼルたちが色々と情報を持ち帰ってきていた。

 なんでもテレシアが現れたにしては巨神肩は静かすぎるらしい。

 

 生き物たちが数を急激に減らしていることもなければ、気が立っているわけでもなく平々凡々。グランデルの人たちからしたらなんで俺たちが来たのか疑問に思っているくらいらしい。

 

 テレシアが暴れていない……? 

 もう既にここにはいない、ということはないと思う。でなければロウランが俺たちに討伐させるよう動いた意味が無いからだ。

 

 ならばどこかに隠れていて誰にも見つかっていないのか。考えられるとしたらこれしかない。

 

 テレシアがどこかに隠れるなんて……傷でも負っているのだろうか。

 

 

 

 

 ▽月+日

 

 

 エーテルジェムのおかげで強くなったものの俺たちはまだまだ力不足だ。それを今日痛感した。

 

 巨神肩の生物強すぎる……。

 

 エルト海のモンスターよりも遥かに高いレベルを誇っているだけのことはある。

 原作ゲーム程の理不尽さは無い。しっかり攻撃は当たるし倒すこともできる。がしかし苦戦しないかと言うと否だ。

 この世界においてはレベルの概念はその生物の経験として反映されているようで、この辺にいる奴らは軒並み戦い方が上手いのだ。

 

 例えば動きが遅い敵。こういうのは攻撃を避けられないから、自分の体のどこが硬いのかをしっかりと把握してそこで受けてくる。

 エーテルによる攻撃は効果があるのだが、アーツを発動させる前にその巨体を使った転倒攻撃を仕掛けてきたりする。

 

 これではぶっちゃけテレシアと戦う前に疲弊してしまう。

 というわけでこの原生生物と戦って修行する期間が設けられた。

 幸い、政府にはテレシアを討伐しろとだけしか言われておらず、いついつまでにという期限は定められていない。

 流石に時間がかかりすぎるとメリア様のお立場も悪くなってしまうので無制限という訳では無いが、2、3ヶ月くらいは猶予があるはずだ。

 そんだけあれば、俺達もメリアも十二分に強くなれるだろう。

 

 

 ▽月♬日

 

 

 修行のため兼教育のため兼テレシア捜索のために巨神肩を冒険することになった俺たち。今日は野宿である。

 

 グランデルを拠点としているものの、あれは巨神から見て最西端に位置している場所だ。そのため日帰りでは行けない場所もある。巨神の頭付近がそうだ。

 そして、俺がテレシアがいるであろうとあたりをつけている場所はちょうどその辺なのだ。

 

 しかしメリア様はこれが初めての外出。当然キャンプなんてしたことがない。

 故にこの先の任務のためにも、シュルクたちと旅をする時のためにも、キャンプに慣れていただこうと野宿を提案したのである。

 

 ちなみにもしもの時を考慮してグランデルからもそこそこ近い位置でやっている。具体的にはランドマークだったベルゥ広場だ。

 

 近くの紅蓮高原にいる敵がそこそこ強くて修行に良いのだ。エネミーの種類もエルト海にいないヤツらばかりなので良い経験になる。

 夜になるとエレメント系の敵が鬱陶しくなるが、その時間はメリア様への指導や休息、準備にあてればいい。うーん効率的! 

 

 

 

 

 &月+日

 

 

 テレシア探索のためじわじわとグランデルから離れるように動いている。

 現在は巨神肩の中心を横切る嘆きの峠、その背中側にあるゼンの洞門に来ていた。

 

 探すなら高いところからがいいだろうと言うことで、嘆きの峠を目指していたためだ。

 既に峠の上から巨神肩全域を一望したが、特に真新しい発見はなかった。降りてきたところで日が降り始め、ここでキャンプをしているというわけである。

 

 今日の調査でみんなの意見は一つにまとまった。きっとテレシアがいるのは嘆きの峠の下、森閑の禁足地のさらに先にある採石場であるだろうと。

 

 あそこなら嘆きの峠からも捕捉できない上、かなり大きなエーテル鉱床があることがグランデルに残っていた資料から明らかになっている。

 俺も巨神肩で隠れるならそこしかないだろうとは思ってはいた。原作知識から判断した結果なのでみんなには言えなかったが、辿り着いてくれたようで何よりである。

 

 しかし、それならそれで新しい問題が浮かび上がった。果たして禁足地に足を踏み入れるべきなのだろうか、ということだ。

 

 あそこにいるエネミーはみんな凶悪だ。しかも採掘場はクモ系統の敵の住処になっている。メリア様を連れてわざわざそんなところに足を踏み入れるべきなのか? 踏み入れたとして俺たちにメリア様を守りきれるのか?

 そうダミルが提起したのが発端だった。

 

 これに対してメリア様は、幼いながらも気丈に「テレシアを放っておく訳にはいかないだろう!」と言っていたが、問題はそこ。

 

 この半月巨神肩にいたが、テレシアの痕跡が何一つ見つからないのだ。

 俺たちがこっちに来てからもこの辺りは穏やかなまま。原作のように傷を負って眠っているのなら、雑魚テレシアを巨神肩各地に放っていてもおかしくは無い。

 しかしそのような存在にも出くわしていない。これは俺たち6人に限った話ではなく、グランデルの人間も含めてである。

 

 考えられる可能性は3つ。

 傷を負ったテレシアが原生生物に殺されてしまった説。

 テレシアは既に移動していてもうここにはいない説。

 そもそもテレシアがいるというのが偽情報で、踊らされている説。

 

 一つ目の場合は限りなく薄いだろう。いくら弱っているとはいえ、テレシアは敵の思考を読む。負けるとは思えない。

 

 二つ目の場合なら皇都側からなにか通達があって然るべきだろう。テレシアが移動したなら移動先で騒ぎになっているだろうし、その情報を皇都が掴めていないとは思えない。現時点で分かっていなくても、あちらから通達があるまでは巨神肩で調査を続行するべきである。

 

 三つ目の場合ならなぜ俺たちに巨神肩へと赴くよう誘導したのか、という疑問がついてまわる。これが何某かの策謀だった場合、真っ先に思い当たるのはメリア様の暗殺だ。皇都を離れた今は絶好のチャンスであろう。

 

 もし目的が暗殺でなかったとしても、巨神肩の強力な原生生物にメリア様を殺させることを狙っていそうである。もしくは俺たち近衛の命か。どれにしたっていい気分ではない。

 

 

 もしそのような陰謀があるならば、禁足地に俺たちが行くのは奴らの狙い通りになってしまうのではないだろうか。そうダミルは危惧したようだ。

 グランデルからも離れていて原生生物も凶悪。確かに予想通りなら絶好のロケーションである。

 

 コイツ軽いように見えて色々考えてるんだなーと感心する。

 

 しかしこれは困ったなぁ。原作知識のある俺でもどれが真実なのか判断がつかないぞ。

 

 

 

 

 &月○日

 

 

 テレシア強すぎるだろ! メリア様を連れてこなくて正解だった! 

 しかし末端とは言え何とか倒すことに成功した。俺がこの世界に来てから考えていた対テレシア戦法が通用したのである。

 

 順を追って記録しよう。

 あれから一度グランデルに戻って相談した俺たちは、とりあえず禁足地の入口まで様子を見に行こうという結論に至った。

 

 もしもテレシアがいるのなら採掘場や禁足地付近で異変が起こっているはずだ。禁足地はグランデルの人も近づかないため、これまで発覚しなかったことにも説明がつく。

 

 それでも雑魚テレシアが確認されないことに関する疑問があった。しかしそこは、採掘場と禁足地の原生生物たちが凶悪で巨神肩上層に上がるのを妨害されているため、という仮説を立てて偵察させるようゴリ押した。

 

 俺はロウランや純血派がわざわざこのタイミングで暗殺を図るとは思えなかった。原作でも光妃殿下は暗殺をやむを得ない最終手段としていた節があったし、何より奴らは伝統に重きを置いているためエルト海から外に出たがらない。

 つまり、暗殺のために刺客を送るようなことはしない。奴らは多分、テレシアか原生生物にメリア様が殺されるよう願っているのだろう。

 

 ならばこれは偽情報であっては意味が無い。メリア様にはテレシアと戦ってもらわないと困るのだ。

 

 そして、奴らがそのように考えているのだとすると、このままのこのこと帰還するのは悪手だ。帰還後にテレシアが確認されたとなればメリア様への批判は免れない。

 

 

 だから強引に議論を運んで偵察を強行したのだが……その俺の予想は当たっていたらしい。

 

 禁足地の入口にあたるガマロ大洞穴でテレシアと原生生物が戦っている姿を目撃したのだ。

 戦っていたのは端末たる小型テレシアだったが、それら二体はちょうど俺たちが到着したタイミングでマムートを葬り去っていた。

 

 そして次の獲物だと言わんばかり俺、ダミル、ホグドの3人を捉えて襲いかかってきたのだ。初めてのテレシア戦開幕である。

 

 ちなみになぜこの三人なのかと言えば、俺の案に乗ってくれたのがダミルとホグドだけだったからである。アイゼルは慎重路線でガランはそれに同調した。メリア様はもちろん連れていけないのでこの3人という訳だ。

 

 2人がいてくれて本当に助かった。盾役のダミルが時間を稼ぎ、ホグドが回復をしてくれなかったら俺はテレシアへの対策を確立させる前に死んでいた。

 

 詳しい状況記録は明日書くことにする。今日は疲れた。がしかし暖かい布団は無い。

グランデルまで一日以上かかるのは面倒だなぁ。

 

 

 

 

 &月@日

 

 

 グランデルでアイゼルたちに報告した。採掘場にテレシアがいると断定することが出来た為、近く乗り込みに行くことになるだろう。

 今日はその準備のため休息をとることになった。物資もあるが俺やホグドたちの体調を万全にするのが目的である。

 特にダミルは一日動けなさそうだ。ホグドは彼の治療に付き、ガランは物資の準備。アイゼル、俺、メリア様はテレシア対策について会議である。

 

 テレシアは小型であろうとも強靭な力と膨大なエーテルを宿しているが、何より厄介なのが思考読みである。

 こちらの攻撃も回避も読まれてしまうため、大半の生物は奴らに対して何も出来ずにやられていく。特に大型の突撃なんか喰らえば即座にエーテルに分解され体どころか衣類ですら消滅してしまう。

 

 原作においてシュルクたち一行がテレシアと対峙した時、彼らはテレシアの持つ思考読み用の器官……触覚を一時的に麻痺させ切断することで対等に戦っていた。

 

 彼らは触覚によって敵の思考を読み取るが、その作用の根本的な要素を担っているのはエーテルだ。

 この世界の全ての生命はエーテルを持ち、生きている限り微弱なエーテル波を放つ。そのエーテル波は脳が思考する時にも変化し、その変化を触覚で察知することでテレシアは思考を読むのだ。

 

 シュルクは『(ブレイカー)』でモナドのエーテルを触覚に纏わせ、思考読みを機能不全にしたが、昨日俺が行った対テレシア戦法はその逆だ。

 

 俺は俺が発するあらゆるエーテル波を自身のエーテルで抑えつけたのである。原作ゲーム的に言うならオーラ無効オーラ……そんなところだろうか。

 

 要はテレシアの触覚に俺の脳が発するエーテル波を届かせなければいいので、それを打ち消すようなエーテル波を放つ膜を俺自身に纏わせたのである。

 

 こうすれば彼らが感じ取るのは俺が纏ったエーテルの波動だけ。変化することのないそれを見た彼らからしたら、俺は生物ではなく無機物に見えたかもしれない。

 

 ただ、先日はこれを安定させて使うに足る技量が俺になかった。このオーラを発動するには結構な時間を要する上に一分持つか持たないか。ぶっつけ本番で試行錯誤をしていたものだから、その間はダミルたちに任せっきりになってしまっていた。

 

 そのせいで死にはしなくとも一日動けないくらいの大怪我である。感謝とともに申し訳なさでいっぱいだ。

 

 まぁ、現在は実戦でのフィードバックから、エーテルバリアのジェムを用いることで安定化させられることが判明し、実用化には成功した。なのでみんなにも使ってもらおうと思っていたのだが……どうやら俺以外には無理らしい。

 

 そもそもエーテルジェムの性能をエーテルで増幅させるという技術が俺にしかできないらしい。アイゼルに今日突っ込まれて初めて知ったのだが、エーテルを物に纏わせる技術で俺以上のやつは皇都にはいないらしい。マジ??? 

 だから、自覚ないとか嫌味か貴様!とガチで怒られてしまった。

 

 あとついでにエーテル波を抑え込んだ状態でハイエンターはまともに立っていられないという問題も発覚した。

 彼らは元はテレシア。ハイエンター特有の羽は空気中のエーテルを感じ取り、操ることができる器官である。

 これが大きければ大きいほどエーテルを操る術者としての才能があり、小さいと才能なしと見なされるのはハイエンターの常識である。

 メリア様が奇跡の子なのは短くても十分術者としての才能があるというところだが今は置いておこう。

 

 さて、そんなものをもつハイエンターをエーテル波の檻とも言えるこのオーラの中に放り込めばどうなるか。彼らにとっての感覚器官のひとつが麻痺し、直ちに平衡感覚を失うことになる。そりゃ戦闘では使えないなぁ。

 

 ちなみに、俺が平気なのは前世の記憶と感覚のおかげである。もちろん俺もエーテルを感じ取れなくなるが、エーテルが分からない状態で長時間生きてきた経験があるおかげか行動不能にはならないのだった。

 

 

 

 んで、そんなわけで俺の対テレシア戦における重要度は格段に上がった。火力役を担うアイゼルとメリア様よりも重要な立ち位置であると言えるだろう。

 

 

 ならばこそ修行をしなくてはならない。小型中型ならまだしも、大恐竜クラス相手に今の俺の槍が通るかどうか……。

 

 ダミルの回復にはまだ時間を要する。彼自身は動けるようになったが万全ではないとのお達しだ。

 彼が全快するまでに奴の器官を叩き割る一撃を習得しなければならない。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

『勝者、アイゼル!!』

 

 

 騎士たちの前で繰り広げたあの決闘ももう10年以上前のことなのだな。

 目の前で槍を振るう友の姿を見てアイゼルはそう思った。

 

 彼の名はカイン。若干77歳にして槍の名手となった男である。

 

 最初、アイゼルにとって彼は気に食わないやつだった。

 ハイエンターとしての誇りがなく、礼節を欠き、皇族たるメリア様に対しても軽い口調で接していて。

 何より彼はホムスとの混血児を疎む純血派の議員の息子。

 

 彼がメリアの近衛としての任をさずかったことに、何か陰謀めいたものを感じてしまったのも無理もない。

 

 だからアイゼルは決闘を挑んだ。

 当時のアイゼルはこのような騎士が強いとも思えず、近衛になったのもコネか何かだと思っていた。だから決闘によってその実力を白日の元に晒せば、彼を近衛から追放できると考えた。

 

 首席としての慢心がなかったかと言えば否であるが、当時のアイゼルが他の同期と比べると突出していたのは確かだった。

 

 だが彼の予想に反して、カインはアイゼルに追いすがり、粘りに粘った。

 最終的にアイゼルが勝利したものの、彼の目的が果たされるような歴然とした結果を叩き付けることは出来なかった。

 剣術においては拮抗し、エーテルに関しても……カインの術が決まっていれば負けていた。試合後のアイゼルはそう評価した。

 

 決闘の最後に見せたお互いの術を消し飛ばすほどの波動。あれが彼の全エーテルを解放した結果であったなら、アイゼルはカインを近衛騎士から追いやることが出来ただろう。

 

 しかし現実は違う。万全のアイゼルでも数発しか打てないような術の出力がカインにとっては当たり前なのである。

 凄まじいエーテル保有量と放出力だった。それは見ていた他の騎士にも評価され、彼は結局メリアの傍に残った。

 

 アイゼルにとって幸運だったのは、そんな彼が敵ではなかったことだろう。

 

 

『汚名返上の機会をくれてありがとう。その慈悲に縋ることなく、この身を全てメリア様に捧げよう。たとえそれが家族の望みでなかったとしても、俺は俺の意思で彼女を守る』

 

 

 その言葉の通り、カインはメリアを守り通すための努力を始めた。

 エーテルジェムの解析を始め、槍を使用するようになった。近衛騎士の装備を向上させ、各原生生物に対して有効な戦術を考案する。

 そしてただメリアを守るのではなく、幼馴染として世間知らずな彼女に社会を学ばせる。度々離宮から連れ出して兄妹の様に接し、影妃様が亡くなったことへの悲しみを和らげようと努力した。

 

 それらの行為は騎士としては異端であったが、それは確かに彼なりの忠義だった。おかげでメリアは母を失った孤独感を乗り越えることができた。笑顔を取り戻すことが出来た。

 真面目なアイゼルに果たしてそれができたかどうか。

 

 

(お前の真似は、つくづく私にはできないよ)

 

 

 そして今も、彼は彼にしかできないやり方でメリアを守る。

 

 

「ラプターレイドッッッ!!!」

 

 

 火属性のエーテルを纏った彼の一撃が大型テレシアの尻尾を切断する。三つの顔を持つテレシアは、その各々の口から絶叫を放つ。

 この6人の中で唯一思考の読まれない彼は、それを活かして身を潜め、必殺の一撃を最適のタイミングで叩き込んだ。

 彼の猛攻はまだ終わらない。

 

 

「冠砕きッッッ!!」

 

 

 尻尾を切断した勢いをそのままにテレシアの背中に飛び乗ったカインは、そのまま中央の頭上まで駆け上がり、槍を振り下ろした。

 

 

『───!!!』

 

 

 その力は凄まじく、テレシアは一気に”崩れ”る。

 

 

「ワイルドダウン!」

 

 

 そこをダミルが狙う。彼の持つ盾から放たれた一撃は崩れたテレシアの足をすくうようにひっくり返した。アイゼルとメリア以外のメンバーも、テレシアの側面から攻撃を加え、大恐竜は地に伏した。

 いくら飛翔することが可能なテレシアとはいえ、背を地に付けた状態では立ち上がることも容易ではないだろう。敵の動きが止まった。

 

 

「合わせろ、アイゼル!!」

「はっ!」

 

 

 大型のテレシアは再生力も高い。故にこそ、再生する前に一刀両断して殺し切るか、エーテルの波動で存在を消し飛ばす以外に倒す手段がなかった。

 

 アイゼルとメリアはこの戦闘が始まってからずっと仲間たちの動きを見ていた。空気中のエーテルをかき集め、テレシアを消滅させる一撃を放つために。

 

 今、それが開放される。光がテレシアを包む。

 

 

『─────────』

 

 

 声にもならぬ絶叫の後、テレシアはその肉体を一片たりとも残すことなく消滅した。奴が溜め込んでいたエーテルが、波動となって採掘場に広がっていく。

 

 無事、テレシアは討伐された。たった6人の若造の手によって。

 

 功労者は間違いなくカインだった。彼が居なければアイゼルたちはテレシアに傷をつけることも叶わずに死んでいただろう。

 身に余るほどのエーテル保有量とそれを活用せんと努力した彼のこれまでが身を結んだのだ。

 

 

「やったな。今回の栄誉、間違いなくお前の……?」

 

 

 仲間たちの歓声をあげる中、アイゼルはカインにそう言って歩み寄ろうとした。だが、光に向かって手を合わせ、弔っているカインの姿を見て声が止まる。

 

 アイゼルにとってそれは印象的な光景だった。普段は騒がしく、笑顔を絶やすことの無いカインが、まるで大人にでもなったかのような堅苦しさと哀愁を纏っていたのだ。

 

 

「──ん、お疲れアイゼル」

 

 

 それも次の瞬間には霧散する。カインはいつも通りの明るい表情を浮かべ、アイゼルに労いの言葉を投げかける。

 

 

「あ、あぁ。お疲れ様」

「どうした? 流石のアイゼルもやっぱり堪えたか? 俺もちょー疲れた!! メリアー! 宴をしようぜ〜〜!」

「な、いくら任務に尽力したとはいえその口の利き方はならんぞ!」

 

 

 ほんの一瞬の出来事であった。それこそ幻ではなかったのかと思えるような。

 だが確かにカインはその時悲しみの表情を浮かべていて、なぜそんな顔をしていたのかこの時のアイゼルには理解できなかった。

 彼が真の意味でカインの思いの内を知ることになるのはもっとずっと後のことになる。

 

 メリア・エンシェント。57歳。

 

 彼女の因果が回り始めるまであと31年。

 

 神の魂(モナド)が開放されるまで、あと17年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アイゼルの口調は完全オリジナルです。

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