最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います 作:塩なめこ
皆様お待たせいたしました。
お待たせしすぎたかもしれません。
ちまちま書いていたものを解放します。
「───っぁ」
熱さで目を覚ます。同時に襲い来る鈍い痛みに、少しだけ声が漏れる。
身悶えしながら身体を起こせば、差し込んでくるのはオレンジ色の光。それは夕暮れの光だった。ガドと戦った時、太陽は真上にあったはずなので、結構長い間眠っていたことになる。眩い光で俺の意識は徐々に覚醒する。
「野郎……本当に手加減なしかよ……!」
一度ガドに吹き飛ばされた俺は、その後すぐにカルナが駆けていくのを見て、もう時間がないことを察した。
彼女を守らなくては、と無理をして羽を翻しエーテル弾の矢面に立ったのまでは良かったが……、まぁ酷使し続けた結果ということなのだろう。
爆発までは覚えていた。……痛々しい痕跡は少し先に転がっている。
見慣れた形の、しかし黒ずんでいる腕がひとつ、爆心地の中心にあった。
「熱───」
思わず右手でその部分を触れていた。俺との体と左腕を繋げていたはずの部分の断面を。
機械の指でも熱いと感じられるほどの熱が未だに残っていた。繋ぎ目の部品は軽く溶解し、ひん曲がってしまっている。
「そうだ、皆は……」
振り返り辺りを見る。仲間たちは壁に寄りかかったり、床に倒れたりしている。見た感じ、軽く気絶しているようだ。目立った外傷も見受けられない。
槍を支えにして立ち上がる。と、腹部に違和感あり。
見ると、左腕を支えていた右肩と右脇から伸びるフレームがちぎれて垂れ下がっていた。左腕が無くなったんだから当然か……。邪魔なのでパーツごと引き剥がして投げ捨てる。
「さて……」
倒れる仲間たちの傍に駆け寄り息があるか確かめる。衝撃と光によって気絶しているだけならいいのだが。隔壁に衝突したからダメージがないわけでは無いはずだろうし。
「流石アイゼル、咄嗟に間に入ったか」
ただまぁ、少なくともメリアとカルナに関してはその心配はなさそうだ。二人はそれぞれアイゼルとラインに抱かれながら眠っていた。
庇った2人の体にはダメージが残っているようだった。しかし、今の俺にはどうすることもできない。俺の方もエーテルが底をつきかけているからだ。
ほかのメンバーも診ていく。シュルク、ホグド、ガラン、ダミルには複数の擦り傷があった。リキはノポンのやわらかい体のおかげか外傷は見られない。全員命に関わる程のものではないようには見えた。
「フィオルンは……大丈夫か。ダンバンは、無意識下で受け身を取ったのか? つくづくバケモンだなこの人……」
フィオルンの白い体には傷一つない。ダンバンは床を転がったような汚れがあるが、それだけで、体の方に異常は無いようだ。
とりあえず、目論見は成功したと見ていいか。フィオルンに何事もないまま緑のフェイスが撤退したのは大きい。
彼女が行ったのは多分、エーテルバリアによる保護と瞬間移動だ。いや、もしかしたらガドに対しての目くらましもしていたかも。
これのおかげでシュルクたちは、エギルの喉元に迫るまでガドに補足されなくなる。モナドの力というのは本当に規格外だな。
だが今回、彼女にそれを使わせる訳にはいかなかった。
原作ならこの行動も、フィオルンの想いの力を利用した、メイナスモナドの復活に繋がっていた。だが、その工程は俺が代役となることで既に完了している。
時間にして14年。……15年前エギルに敗北してから、レジスタンスとして活動している間、彼女と俺はずっと一緒だった。お陰様でシュルクの中に眠るザンザとは条件的にほぼイーブンの状態に持ってくることが出来ている。
ただし、それはあくまでモナド単体で見た話。依代……つまり復活した際の体に関しては、完全な再生に至っていない。
今フィオルンの体にメイナスがいるのは、その体を取り戻すため。そして万全の状態でザンザに挑むため。こればっかりはどうやら男の俺では務まらない仕事らしかった。
今回、俺がメイナスの仕事を肩代わりした理由。それは、彼女をザンザと同じコンディションにするためだった。
現在のザンザは
現在のモナドはシュルクの想いの力だけで発現させたもの。ザンザのモナドをエーテルを律する器として利用しているため、全部が全部そうだとは言えないが……ザンザ自身は手を貸していない。
つまり、今のザンザは休眠状態にあるということだ。
シュルクという殻を破り、万全の状態となって戦いに挑むため、或いはシュルクという殻を破るためにその力を温存している。
だから、彼に勝つためには、メイナスにも力を温存してもらわなくてはいけない。
シュルクがシュルク自身の意志の力で戦っている間は、フィオルンもフィオルンの意志の力でのみ戦っていて欲しい。
神々はその力を養分に、自身の力を蓄え、鍛えることができるのだ。
「……なんか、恋心を利用しているようで気が引けるけどね」
その辺の悪事は、メイナスの代役を務めることで精算した、としたい。なんとも勝手ではあるが。
「よっと」
とりあえず、焼け焦げた俺の左腕を回収することにする。まだ使える部品もあるかもしれないし。少しでも修理出来ればいくらか楽になる。
また槍を支えに立ち上がり、のそりのそりとエーテル弾の爆心地へと向かっていく。
そんな途上で、彼女は来た。
「────ッ!」
カラン、と何か軽いものが落ちる音がする。それは、真っ二つに割れた仮面が落ちた音だった。
「殺るなら今が絶好のチャンスだ。……ようやく姿を見せてくれたね」
何故その刺客の仮面が割れたのか。それは彼女がメリアに手を出そうとする直前に、俺が彼女に向かって一本の短剣を投げつけたからだ。
機械の体というのは便利なもので、体の中に武器を仕込むことが出来る。胸に格納していた一本を、俺は彼女へ躊躇いなく放りさった。
「────お見事です。そのような身体になっても、貴方の力は衰えていない」
「正直な話をすると、君が来ているとは思っていなかった。───タルコ」
黒い外套に身を包んだ同胞がそこにはいた。
「釣り出された、のでしょうね」
「あぁ。二つ、俺たちを追跡する影があると分かった時から、俺はこの状況を狙っていた」
ガドからの攻撃を防ぐだけならそう難しくはない。エーテルエネルギーの変換効率の関係で、左腕を犠牲にすることは避けられないが、それで完全に威力を殺すことはできた。ではなぜ吸収して直ぐに爆発したのかと言えば、それを俺が意図して起こしたからだった。
エーテルを光に変えたのはガドの目をくらますため。その後の爆発もまた、皆の意識を奪うため。
「一度暗殺に失敗したお前のことだ、きっと最善の状況が整うまで息を潜めるんじゃないかと思ってな。だから敢えて機会を作った」
「……私を倒すために、ですか?」
「いや、これから先、邪魔させないためにだ」
機神界上層に上がればもっと戦いは苛烈になる。そうなれば、身を潜めることに徹した彼女に気を回せなくなる。ここぞという場面が訪れた時、優秀な彼女が見逃すとも思えない。
考えたくもない未来だが、”そう”なってしまうことは十分に考えられた。
だから今、決着を付けなくてはいけない。まだ奴の流れの内に居続けるために。
「なぜここにやってきた」
彼女から放たれる殺気に応えるように槍を構えて問う。
「お分かりになりませんか?」
「……復讐か? そんなものよりも、お前は光妃殿下の傍にいることを優先すると───ッ!!」
全てを言い終えるよりはやく、タルコは右の刃を振り下ろした。咄嗟に槍を地面へと突き刺し、柄で受け止める。
「───!」
「くっ……!」
完全にタルコの間合いに入られた。間髪入れずに左の刃による突きが来る。左腕の無い今、槍を十分に扱えない。この連撃を受け止めるのは無理だ。
槍に重心を預けて左に避ける。そのまま逃がすまいと、タルコは回転しながら、裏拳を放つように右の刃で切りつけてくる。
俺はそれを飛んで避ける。突き刺した槍をポールに見立て、右手でバランスを取り、一瞬タルコの視界から抜ける。
槍の上でピンと足を伸ばして逆立ちすると、重力に乗せて両足によるかかと落としをお見舞いする。しかしながら手応えは無い。素早く後ろへ下がられた。
着地し、槍を地面から引き抜いてから俺も後ろへと下がる。全く……タルコのテリトリーにいては一息つく暇もない。
「本当にお分かりにならないのですね。復讐、だなんて」
「……恨まれることをした自覚くらいあるさ。なんせ、俺はスパイだったんだからな」
タルコを口八丁手八丁で踊らせた張本人である。彼女からしたら裏切り者以外の何者でもないはずだ。
だが、どうやらそういうことではないらしい。タルコの目がそれを訴えていた。
「……お認めになるのですね、我々の敵であると」
「俺は別に敵じゃない。だが、巨神教の教えに殉ずるつもりがないのは確かだ」
もしそうなら俺は今この場でメリアの命を絶っている。機神界に入ってからタルコだってずっと見てきたのだ。それがわからない訳では無いはずだ。
「では、何故敵ではないなどとおっしゃるのか!! 私は知りたい、貴方の本心を……! そのためにここに来たのだ!」
「くっ……!?」
速いっ!
繰り出されるのは刺突剣による連続攻撃。距離を取りながら槍で迎撃するが、片手で長物ではやはり間に合わない。ジリジリと隔壁まで詰められる。
いなせないことはないが、紙一重だ。それにこのままでは不味い……っ!
「これでもまだあの女のことをっ!!」
「メリア!!」
倒れたメリアから距離を離された直後、タルコは躊躇いもなくアーツを放った。炎の凶弾が彼女へと迫る。
「こなくそ……っ!」
タルコの意識がメリアへと向いたが故にできた一瞬のスキをつき、後ろに大きく飛んで彼女から距離をとると、俺は即座に槍をアーツに向かって放り投げた。
地に足はついていないが速度は充分。残り少ないエーテルを水属性に変換し、槍に纏わせ放出させることで推進剤としたからだ。
槍が命中した炎弾は即座に爆発した。強力な反属性攻撃を受けてエレメンタルバーストを引き起こしたのである。
「ぐうぅぅぅ……!」
爆発と共に発生した衝撃波が全身を包む。それは水蒸気を伴って俺の視界すらも奪っていった。
同時に、俺の羽根から伝わるエーテルが赤ランプを灯す。
衝撃波に乗って高速に接近する人型実体あり、と。
それがタルコ以外の何物でもないことは、明らかだった。
「くそっ!」
もう本当に限界だった。俺に残されたエーテルは残りわずかで、それは先程使い切った。まだ仕込みナイフがあるが、衝撃に身を任せてきているタルコのパワーをいなすには不十分だ。
そうなればもう、方法はひとつしかない。
白い霧の中に灰色の何かが見えた。それは次第に大きさを増していき、より鮮明な色を映し出していく。
俺は胸の中に秘めた最後の武器を取り、反撃の準備をする。
そして結局、俺の刃は彼女に届くことはなく。
彼女の刃は眼前に迫っていた。
『皇宮でまことしやかに囁かれている噂、そなたも聞き及んでいるであろう?』
『……はい』
それは皇都アカモートにて、光妃が囚われた部屋の中で行われた会話だった。
巨神教の異端審問官の実戦部隊の中で、ほとんど唯一の生き残りであったタルコは、光妃の護衛として常に彼女の傍にいた。
光妃は、監禁されてもなおその力の全てを失わなかった。皇宮に潜らせている協力者から皇都の内情のほとんどを耳にしていた。
『機神兵に乗って現れたそうだな、あやつが』
『はい』
それは彼女にとっても不可解な噂だった。ハイエンターという種族の枠、どころか巨神界という世界の枠すらも超えたところに、あの青き槍の使い手はいた。もはや政争という類の話では無い。
だが、彼女自身は理解できずとも良いと考えていた。
機神界との戦争が始まり、処遇が未だに決まらぬ身ではあるが、もはや未来は見えている。同胞によってか機神界の尖兵によってかは分からないが、その身を巨神に還す時は程なくして訪れる。
覚悟はできている。巨神教の教えに殉ずるのみだ。
だが、娘はどうか。タルコは婚約者のことが気が気ではなかったはずだ。しかし、母への忠義によってこの皇都に縛り付けられている。
彼女を送り出すことこそが母として、異端審問官の長としての最後の使命ではないだろうか。
『宰相曰く、あの影妃の娘は反逆者となったあやつを追って機神界へと赴くようだ』
『……!』
『異端審問官の長として、そなたに命ず。機神界にてあの娘を抹殺するのだ。これが最後の機会となろう。……そして、あの者の真意を見極めてくるのだ』
こうしてタルコはここまでやって来ることになった。
怒りなのか悲しみなのか憎しみなのか、よく分からない感情に任せて放ったトドメの一撃。それが届く直前になって、ふとタルコはそのことを思い出した。
殺意よりも、疑問が勝ってしまったからだ。
なぜ目の前のこの男は、自分が殺されようとしているこの瞬間になっても己に殺意を向けることがないのだろうか、と。
どうして一度は向けた殺意を手放して、死を受けいれたような顔をしているのかと。
その想いが、理性が、彼女の知りたいという本当の望みが、彼女の刃を寸前で止めたのだった。
「……なんで止めた?」
「あなたこそ、どうして手を止めたのですか? あなたが本当に殺す気であったのなら、僅かな差で私は負けていたはずです」
項垂れるカインの右手にはナイフが握りこまれていた。それは先程までタルコに向けようとしていたもの。
タルコが突撃してきた時点で致命傷は避けられなかった。だが、死ぬことは回避することができた。
即死さえ免れれば、機械の体は耐えられる。タルコよりも長い腕なら、相打ちを狙えば僅かにカインの方が刃を先に届かせられる。
タルコを殺せばカインは生き残ることが出来た。しかし。
「やらなかったんじゃない。できなかったんだ」
「それは、何故?」
「……覚悟が決まらなかった」
カインの個人としての強さはハイエンター最強と言っても過言では無い。それはみんなが認めている。だが無欠では無い。
カインの唯一無二の弱点、それは『殺す覚悟』がないということだった。
カインには人を殺すことができない。
それこそがエギルに負けた真の理由であり、今この場でタルコに敗北した理由である。
どちらの戦いでも、彼は殺し合いという舞台に上がっていなかった。だからこそ意志の強さで負けたのだ。
「馬鹿な、あなたともあろう方が……!」
「笑えるよな、これでハイエンター最強だとか言われてるんだぜ」
巨神を殺す覚悟は出来ているが、それは相手が神だから。
使徒やテレシアを殺す覚悟はできているが、それは相手が最早人間では無いから。
自分が死ぬ覚悟は出来ているが、それは自分が本来異物であるから。
だが、殺す覚悟だけはなかった。なぜならカインは、常にみんなを生かすために戦ってきたから。
「みんなを助けるためにお前を殺して、それでなんになるって言うんだ。そんなの本末転倒だ」
「……まさか、あなたは私までをも助けるおつもりでいる、などと言うのですか?」
「あぁ、そうだ。俺はお前を救いたい」
「一体何から……!?」
「全ハイエンターのテレシア化という未来から」
「なっ……!?」
そして、カインは語り出した。
自らが何もしなかった時の未来の姿を。幼き日に見たという
「光妃殿下が巨神に殉ずるつもりであるということは知っている。あの方にとって巨神教の教えは絶対であり、誇りだ。だがはっきり言ってそんなもの、ただの自己満足だ」
「なっ……!?」
「周りの奴らのことを考えていない。その命が失われることで悲しむ存在のことを考慮していない。それが独り善がりでなくて、なんだと言うんだ」
「…………」
光妃への侮辱とも取れる発言。それにタルコは驚きつつも、彼の考えにすぐ反論することが出来なかった。それは、彼女自身が光妃の生存を願っているため。
「だが俺は考えを改めさせるつもりは無い。言って変わってくださるような方では無いからな。だから俺はその機会を奪ってやる」
「一体どうやって……」
「巨神を倒す。そのために俺はこの世界でこの体を得たんだ。テレシア化しないこの体を」
それがカインがタルコに語れる全てだった。
「は、ははは……」
それは紛れもなく彼の本音であり、真実なのであろう。これまでの行動の全てと辻褄が合う。
だが、手に持つ刃は未だに彼の喉元で止まっていた。
無理もない。あまりにも突拍子もない話だ。視座が純血がどうのという話に収まらない。
巨神界に住む者、機神界に住む者、その全てを破壊する巨神から皆を守るために戦ってきた。……そんな話をどう信じろというのだろうか。この殺し合いのさなかで。
カインが人を殺せないという話は本当なのかもしれない。
この長い沈黙の中であってもなお、彼は殺意を向けては来ない。それどころか、持っていたはずの短刀を手放してさえいる。
だが、光妃と自分を救う、などというのは自分が助かるための方便なのではないだろうか。
結局彼は、自分たちの敵であるメリアの仲間であった。巨神教に近づいたのは彼女のためではなかっただろうか?
この戦いが始まる前に、彼は自ら自身を騙したと言った。ならばこれも生き残るための嘘という可能性はないだろうか?
「……っ、くっ、あ、あああああああああああああああ!!!」
彼の行動に関する疑問は解消された。そのことによって生まれた疑念は彼女の殺意を揺り起こした。そうなればもう止められない。
あとほんの数センチ。動かしてそれでこの戦いは終わりだ。
「…………あ?」
だが、いくら力を込めてもその腕が動くことは無かった。
右から何かが、彼女の腕に巻き付き、その動きを止めていた。
「すまない、タルコ。そして、これが現実だ」
「こ、れは……」
カインは静かに立ち上がって後ずさる。
タルコは
「目を逸らすな。直視しろ。
「なん、なのですか。こ、この腕は……。この
それは人の腕ではなかった。
薄く青く、しかし緑色に発光する軟体の腕。だが、己の腕を締め上げる力は人間のそれを優に超えるもの。
「あ、ああっ!? あな、あなたのその顔は……!」
「こうなるんだ。お前の母親も、俺の仲間たちも、陛下も、カリアン殿下も、民たちも、皆がこうなるんだ……!!」
それは紛れもなくテレシアの腕だった。
左の肩から、ちぎれてしまったはずの左腕が再生していた。
カインの機械の体は半分が偽装だった。左肩から腕の先。そして、頭部は機械化する以前の、生来の物である。
そこに機械の装甲が施されているということは、その下がもう手遅れであることの証。
がらん、とカインから一つの金属片が落下する。
それは顔の左半分を覆っていた鉄の仮面だった。その下には当然、瞳があるはずである。
だが、ない。
機械の義眼の下にはもう何も存在しなかった。
そこにあったのは薄く緑に発光する、肌のような何かだった。
「もし、もしお前が俺の話を信じてくれるなら……力を貸して欲しい。俺たちをこうしてしまう存在の、打倒に」
◆◆◆
『ヴァネアか』
「お久しぶりです、キャプテン。お元気そうで何よりです」
ここは機神界、中央工廠に数多く存在する通信室の一つ。そこでヴァネアはジャンクス二番艦『ラビッシュ』に向けて直接通信を試みていた。
ここでは唯一、エギルからの干渉を受けずに外部とやり取りすることが出来た。ただし、使用は一度きりで確保出来る時間も10分に満たないものではあるが。
『この回線を使ったということは”その時”が近いのだな』
「はい。カインからはこれが最後の命令になると」
『そこまで辿り着いたか』
「えぇ。……また無茶をされたようですが」
ヴァネアはこの施設の監視映像を映すスクリーンに目を向ける。一つにはすやすやと眠るシュルクら一行が。一つには体の修繕作業が行われているカインの姿が映っていた。
「機神兵を使い”資材”として彼らをここに運び込みました」
『気づかれてはいないな?』
「はい。たった一度きりの手ですが、それ故に秘匿性は高い」
この部屋は対エギル用のものではあるが、エギルを止めた後にも必要となる場所である。そのため、今ここがエギルに露見するのは避けなければならなかった。
「時間がありません。要点だけをお伝えします」
『伺おう』
「カインからの指示は三つ、そのままお伝えします。
一つ、大剣の渓谷から使者を名乗る者が現れても無視し、対応はミゴールに任せること。
二つ、”その時”が来たら今から送る座標に集結、その後全戦力を以て解放作戦に臨むこと。
三つ、2機のフェイスをこちらに届けること。
以上です。質問はございますか? 全てに回答することはできませんが」
『二つ目の指令だが、ここからの強襲という話ではなかったか?』
「こちらでいくつか援軍を用意できる見込みです。そちらと合流した後作戦を始めて欲しいそうです。仔細も援軍を指揮する者が伝達すると」
『……了解、拝命した。戦の準備に入る』
「はい、健闘をお祈りしております」
言ってヴァネアは通信を終了した。コンソールに通信記録は残らない。通信回線も抹消される。故にエギルには追跡することも叶わない。
「また機神界が戦場になる……」
カインは機神界で全てを終わらせると言った。
エギルを止め、ザンザも斃す。全てをここで終わらせると。
カインが積み上げてきた全てと、巨神との戦いがもうまもなく始まろうとしていた。
次回更新は明日の夕方頃を予定しております。