最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います 作:塩なめこ
いい投稿が入ったわ!
次話投稿でリズムを維持して!
「顔つきの一団がこちらに急速に接近してきます!!」
「チィ! 撤退を続けよ! 地上戦力の保護が最優先だ! 顔つきに対してはハウレスの部隊で応戦せよ!」
大剣の渓谷上空───だった場所でカリアンは戦い続けていた。
突如として動き出した機神の手によって今まさに大剣は引き抜かれようとしていた。幸いにも預言官アルヴィースが予言した”兆し”にカリアンがすぐさま反応したことで最悪の事態は免れているが……それでも戦況が良いとは言えなかった。
地面を失い、ノポンとハイエンターの空中部隊以外は完全に使い物にならない。その空中部隊も剣から落ちていく地上戦力の救援のためにほとんどが戦える状態になかった。
敵はそうなることを全て見越していた。異様に脆い地上戦線はただの囮。本命は機神であり、その援護のためにフェイスを中心とした空中部隊を今の今まで温存しておいたのである。
「数は!」
「中隊規模と推定。……っ、新型の存在も確認!」
「ここにきて……っ! 救援活動を邪魔されぬよう戦線を維持、時間を稼げ!」
巨神連合軍による正面からの戦闘ではもはやどうにもならないだろう。機神界に潜入したシュルクたちだけが彼らの希望だった。
「予言官殿……間に合っていてくれよ」
「アルヴィース殿、見つけましたぞ」
ミゴールはジャンクスに搭載された望遠カメラからの映像をスクリーンに映して言う。そこには2機の機神兵が空を行く姿があった。
巡航形態に変形した青色の機神兵とそれに乗る白い機体。カインとフィオルンのフェイスだ。
「あれが?」
「その通り。生体反応も確認できた。一応全員無事と言ったところか」
画面を更に拡大させると白いフェイスの手の上や青いフェイスの翼の上にいくつかの人影を確認できた。シュルク一行とメリア親衛隊の面々である。
どうやら、帝都の爆発から自力で脱出したらしい。
「すぐに接舷を」
「了解した」
アルヴィースの要望を聞き入れジャンクスを2機のフェイスに近づけていく。すると、それとは別にこちらに近づいてくる機影があることをレーダーが告げてきた。
一機のハウレス、操縦者はディクソンだ。
フェイスを中心に機体は集結し、ジャンクスの甲板に面々が揃う。
「ディクソンさん!」
「よぉっ! しぶてぇなぁ。生きてたかよ!?」
「ギリギリだったがな。フィオルンとカインが間に合ってくれた」
「へぇ、君がカインか。初めまして。僕は当代の予言官を務めているアルヴィース。話は
「……あぁ、ヨロシク」
「確かに、言われてみれば2人はこれが初対面なのか」
「そんなことを言っている場合か、ライン。今は状況の確認がしたい。殿下は無事なのか!?」
「そう慌てるなダミル。すぐにでもここを離れなければ。一度態勢を立て直したい。話はその道中でも遅くはなかろう」
良いか? というメリアの問に賛同し、面々はジャンクスに搭乗する。フェイスを随伴し、マシーナの隠れ里へと向かう道すがら、これまでのことを報告する。
シュルクたちからはエギルは止められず、機神起動を許してしまったこと。
アルヴィースからは巨神連合軍の戦況について。
「カリアン殿下には予め機神が動き出す可能性があることは伝えてきた。懸命な殿下のことだ、被害は最小限に抑えてくれているはずだけど」
「しかしどうするよ? このままだとエギルの野郎は確実に俺達の巨神界をぶっ壊そうとするぜ」
『まだ間に合います』
フィオルンの中のメイナスは語る。
エギルは未だ機神の体を十全に操れる状況には無い。本来メイナスと一体化するはずの機神の体を、彼は巨神から吸収したエーテルエネルギーを用いて無理やり動かしている。
故に起動後、体を馴染ませるための時間が生じる。しかもエギルは機神のコントロールのために制御中枢から動くことは出来ない。その隙を突けばエギルに接近することができる───と。
(なるほどな。そんなところに隠してやがったか、カインの野郎──)
ディクソンはフィオルンがレジスタンスに籍を置いていたことを知っている。フェイスの整備まで行っているのだ。メイナスのことを知らないわけがない。
レジスタンスの存在や自分の正体以上に、彼女の存在を秘匿したかったのだ。巨神にぶつけるために。
だが、エギルが止められなかったことでそんな余裕もなくなってしまった。彼は巨神ごとカインの故郷である皇都を破壊しようとしている。それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。
(巨神界と機神界に生きる命のためにそのどちらにも属さない、だったか? 強欲が過ぎるってもんだぜ。だから敵を目の前にしてもお前は動けない)
ならばその状況を利用する。ディクソンたちにとってもザンザの目覚めの前にエギルに暴れられるのは不愉快極まりないことだ。彼を止めるまでであれば手を取り合える。そして、それが果たされた瞬間に全てが終わる。
「───なんて、そう考えてたんだぜ、俺は。どうして今なのか分からねぇなぁ、カイン。あとほんのちょっとだろうに、仮面を被るのに疲れたか?」
制御中枢へと至る転移装置の前。シュルク達とエギルの戦いに邪魔が入らぬよう、露払いとして残った俺たちは、同じく露払い役を買って出たディクソンに刃を向けていた。
その返答が先の一言である。あぁ、そうだな。
「───ほんっっっっとうに! 疲れたよ、ディクソン。正直、殺気を隠せてたか怪しかったんだがどうだった?」
「オイオイ、自覚なかったのか? あの基地での初対面の時から、全く隠せてねぇ。ビンビンだったぜ」
「そっか。演者としてはやっぱりアンタには勝てなかったわけだ。流石、100年以上役に徹していただけのことはある」
「あぁ、演技は向いてねぇよお前。こん中で一番ヘタクソだ」
ディクソンはそう言って俺の両隣に並ぶ仲間たちを見回す。幼少期を共にした、心から信頼できる仲間たちを。
「それはそうでしょう。先の発言を聞くまで半信半疑だったのですから。……ディクソン殿が使徒なのですね?」
「あぁ、そうだ。俺は三聖の一人、ディクソンよ。クソ生意気な小娘の金魚のフン」
「そうか」
ディクソンの言葉に対して、返答とばかりに氷柱を飛ばすアイゼル。あぁ、分かるよ。
「メリア様に対する不敬な発言は許さぬ。疾く死ね」
「いいねぇ。カイン以上の殺気だ」
しかし、アイゼルの速攻にディクソンは怯みもしない。なんでもないかのように氷柱を切り裂くと、得物をプラプラと揺らしながら挑発する。
その動きの速さはホムスのそれではない。間違いなく、人外。
親衛隊の全員が抜刀する。
標的は二人。
「予言官殿。貴方も敵と見てよろしいですね?」
「やはり僕のことも知っていたのか」
「……私には貴方の方がもっと信じられない。貴方はシュルク殿と共にメリア様を巨神教から守った。その裏にいるであろうロウランの魔の手から」
「ある意味でその見方は正しい。でも僕の目的も彼らと一緒さ。影響は小さいけれど流れの内にいることに越したことはない」
ロウランはザンザの意思全てを理解しているわけではない。それができるのは同じ
メリアが生き残ることで何が起こったか。
ソレアン陛下は彼女を守るため迫り来る機神兵に決死の覚悟で挑むことができた。
皇太子が定まったことで見かけ上ハイエンターの統治は磐石のものとなった。故にこそ、巨神連合軍による機神界侵攻作戦がスムーズに進められた。
そして、彼女が生きていたからこそ、シュルクは黒のフェイスの罠を掻い潜り、エギルに刃を届かせられる。
「全てはエギルを斃し、ザンザを復活させるため、か」
「その通り」
「ならば遠慮は入りませんね。……我々は貴様を斃す」
「なら、君たちはこれを打ち破らなくてはならない」
「来るぞっ!」
アルヴィースが腕を振り上げる。これは呼びかけだ。
羽が反応する。大きなエーテルを持つ何者かが迫ってきていると警告してくる。
どこからともなく、機神の体を突き破り彼の下僕は現れた。
「飛行型のテレシア!?」
「アルヴィース……創ったな?」
「彼女がくれた保険だよ」
それはテレシアには違いない。だがしかし、これまで出会ってきたテレシアとは姿がまるで違う。
機械の羽がその薄緑に発光する皮膚の下にあったのだ。それも4枚。
「ハウレス……!」
「隠れ里に置いてきた彼らさ」
おかしいとは思っていたのだ。
アルヴィースが隠れ里に向かうためカリアンから借りたハウレスに2人の護衛が乗っていた。原作にはそんな奴らはいなかった。
ただの一般兵に俺が会う訳にもいかなかったため敢えて隠れて状況を見ていたが、どうやらアルヴィースは二人にハウレスの管理を任せていたらしい。
ディクソンが乗り捨てなかったハウレスも含めて。
ロウランの野郎がハウレスに付けていた機能は主に三つ。
一つは兵器としての能力。一つはハイエンターの細胞を帰化させるだけのエーテル放出力。
そして最後の一つは、より強力なテレシアを作るためのハイエンターとの融合能力。
これを用いれば、彼らは容易に大恐竜クラスのテレシアを創り出すことが出来る。
「さて、形勢逆転だ。テレシア風情に手こずってるようなお前らが、果たして俺たちをまとめて相手取って勝てるかな?」
『─────!!!』
アルヴィースに呼び出されたテレシアは俺たちを視界に捉えるとすぐさまエーテルを放出しながら突進を開始した。ハウレスのエーテル放出力はこの姿になろうとも健在であるようだ。俺の羽が仲間たちの危機を訴えてくる。
「確かに、俺たちだけで戦うのはちょっと厳しいかもな」
「あ?」
「だがよディクソン。お前もお前で俺の事ナメすぎやしないか?」
「なにを言って───アルヴィースッ! 」
「っ!?」
どうやら奴も気がついたらしい。テレシアに向かって何かが、テレシアを超える速度で飛んで来ていることに。
それは一本の巨大なエーテルレーザーだ。
テレシアが空けた穴を通って、機神の外からの超遠距離
ディクソンからの警告を受けアルヴィースが回避行動を指示していなければテレシアは間違いなく消滅していた。
苛立ちながらディクソンは叫ぶ。
「ナニモンだ! 俺達の戦いを邪魔する奴は!」
『俺だ』
そしてソイツは光の槍に乗ってやってきた。
現れたのは2機のフェイス。
一機は巡航形態の俺の青。
もう一機はそれの背に乗る緑のフェイス。
『コロニー6のガド。聞いたことは無かったか、大剣の英雄』
『ガドを救い出せる?』
『ガドだけじゃない。ここの施設と俺のフェイスがいれば他のフェイスもエギルの支配を抜け出せる。だな? ヴァネア』
『えぇ、可能です』
シュルクの問いに2人はそう答えた。
フェイスに組み込まれたホムスは遺体から再構成された存在である。
機神兵が食らったホムスの遺体から、エーテル情報を読み取り、それぞれのフェイスのために調整された機械の体にエーテル情報をインプット、再生させる。
生命としては一度死んでしまっている。再生直後に記憶の混濁が見られるのは、インプットされた情報と機械の身体の情報に齟齬が生じているためだ。
故に時が経って体に慣れてしまえば、”個”としての”意志”を取り戻し、記憶が戻っていくのである。
本来なら兵器としてのフェイスに”個”としての意志は不要だ。知識は創造主へ牙を剥く原動力となり得る。しかしながら、フェイスは生産されて間もない。エギルは実験的な意味合いも兼ね、初期生産分のフェイスの記憶情報は敢えて残していた。
逆に言えばそれ以降に生産された───具体的には黒のフェイスがシュルクたちに撃破されて以降の───フェイスたちはそうでは無い。
エーテルに蓄積された記憶情報を消去し、エギルの記憶を上書きしているのである。
巨神に対する憎悪の記憶を。モナドに対する恐れの記憶を。
結果、彼らは闘争本能はそのままにエギルの意志を代弁する冷徹な機械兵士になってしまった。
『彼らの記憶が完全に戻ることはありえない。消去されたエーテル情報を復元する技術は我々も持っていません』
『ならどうやって?』
『エギルの調整を消し去り、予めバックアップしていた記憶情報を上書きします』
記憶のバックアップは元々はカインのためにやった事だった。ヴァネアと合流した彼はいずれ機械化することが
機械化されれば一時的にエギルの支配下に置かれることになる。それをいちはやく脱するためには記憶の復元が必須だった。
故にヴァネアは《青》として彼が完成した直後に記憶の上書きを行うため、彼の記憶を含めた全てのフェイスたちの記憶情報を保存していたのだ。
『奴を捕まえられればあるいは、という事か?』
『《青》の持つエーテル吸収能力でフェイスを活動停止に追い込めるでしょう。フェイスはあまり燃費のいい機体ではありませんから』
『シュルク達にはガドを釣る囮になってもらう。一度手が触れればこっちのもんだ。その後はヴァネアとこっちに戻って何とかする』
『エギルとの戦いには間に合うのか?』
『無理、だろうな。とはいえ、俺がいない方がエギルは冷静でいられるかもしれないけど……』
『カイン、エギルに何やったんだも』
『いやぁ……何もしてないと思うんだけどなぁ……』
「調子は良さそうだな」
『あぁ。これなら俺も十分に戦える』
ガドは嬉しそうに言う。
今のガドは緑と青の両方のフェイスを操ることができる。ヴァネアが中央工廠に残り、突貫工事で神経回路を接続してくれたおかげだ。
俺が青を操縦できなくなったり、ガドも銃を構えた姿勢からほとんど動けなかったりと突貫工事故のデメリットも存在するが、緑が青の機動力を得ることができた。
問題となるのは操縦が上手くいくかどうかだったが、先の精密射撃を見る限り問題は無さそうだ。
彼は最強の移動砲台となった。
「……なるほどな。お前さんもエギルの手下になってやがったか。しかしよぉカイン。テメェとエギルは敵対してたんじゃなかったのか?」
「引き抜きだよ。やり方を教えるつもりはないけどな」
「チッ、確かにこいつはめんどくせぇ」
ディクソンは手に持つ銃剣でガドを撃つが、弾丸はフェイスの装甲によって阻まれる。
ハイエンターからの技術供与によりホムスのそれと比べれば性能が良くなっているのだろうが……フェイスの装甲は既存の機神兵とは一線を画す。機神界の技術かモナドの力が無ければ傷一つつけられないだろう。
「僕が相手にするしかないみたいだね」
「そのようだな。これもテメェの狙い通りというわけか」
「当然。俺はお前たちを微塵も侮っちゃいない。打てる手は打つさ」
連携したら何するか分からんもん。
『コイツを外に引きずり出す。それでいいんだな?』
「あぁ、頼む。抑えられそうか?」
『エネルギーが持つ限りはやってやる』
つまりはこっち次第か。
シュルクたちはきっとエギルを止める。そして直後にザンザが復活することだろう。その現場にこの2人を立ち会わせる訳にはいかない。
故に一刻の猶予も無い。きっとガドのエネルギーが尽きる前にシュルクたちが勝つだろう。
「行ってくれ」
『了解!』
「油断は禁物だよ」
「言われなくても分かってらぁ。楽しくなってきやがったぜ」
アルヴィースはテレシアに乗り、ガドの方を見るとガドが空けた穴を通って空へと飛び去った。対するガドも追うように機神内部から離脱する。
残ったのは生身の戦士が6名。
「さぁ、勝負だ」
大番狂わせの始まりだ。
なんで2年ほど時間がかかったのかと言えばこの話が難産だったからです。4、5回くらい書き直しこの形と相成りました。
次回更新は明日の夕方頃になります。