最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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三聖との戦い

 

 まず飛び出したのはカインの方だった。ディクソンに向かって容赦なく槍を突き出し突撃する。

 

 対するディクソンは軽く横に動き、当然とばかりに初撃を躱す。カインに驚きは無い。こんなことで殺れるなら彼も苦労しない。

 追撃の横振り。ディクソンはこれも飛んで避ける。

 

 カインは槍を引いて両の手で柄を持つと、体の前に斜めに構え、柄を当てるようにディクソンに向かってさらに突撃した。

 

 空中にいるディクソンに身動きはできない。当然、これを受けるしかないが、カインの機械の体を受け止められるだけの力をホムスは有していない。

 

 本来ならば。

 

 

 

「───クソが」

「そうがっつくんじゃねぇよ、小僧」

 

 

 

 ディクソンはその銃剣でカインの突撃を受けきっていた。ぎぎっ、と槍の柄と銃剣の刃から火花が散る。

 

 

 

「そら!」

「!?」

 

 

 

 それだけでは収まらない。ディクソンはカインの体を蹴りつけ、地面に叩きつけた。カインは背中に走った衝撃に驚愕する。

 床にバウンドした彼は体を回して力を逃がしながら着地体勢を取る。しかしそれでも、地に足をつけてから止まるまでには数mを要した。

 

 顔を上げ、カインは再度敵を見つめる。彼とは打って変わり、優雅に着地したディクソンは不敵な笑みをこちらに向けるのみだ。

 あちらからは踏み込んでこない。後方の4人を警戒してのことではない。ただ単純に余裕があるだけ。

 

 

 

「カイン!」

「大丈夫! 予想してなかったわけじゃない。……これではっきりしただろ、皆」

「えぇ。奴は本当に人ではないのですね」

 

 

 

 ディクソンの身体能力は明らかにホムスのそれではない。確かにダンバンがムムカを圧倒したように、ホムスの身体能力が必ずしも機神兵や機械人間に劣るという訳ではない。

 だが、その例にしたってモナドの力ありきだ。素の状態で力比べをしたら押し負けるか、出来て受け止めるくらいなもの。まず押し勝つことはできない。

 

 

 

「今でこそホムスの姿をしているが、奴は監獄島のザンザと同様に巨人族だ。生命力も膂力もあの体躯を基準に考えた方がいい」

「ほぉ、よく分かってんじゃねぇか。じゃあ俺がまだ本気を出してないことも理解してるよなぁ!?」

「うるせぇ! 俺だってまだ本気じゃねぇ。勝負はこれからだ!」

「吼えるじゃねぇか。まぁそうこなくちゃ面白味もくそもねぇがな。今度はこっちから行くぞ!」

 

 

 

 言ってディクソンは地を蹴って飛ぶ。その一歩は力強く、一気に距離を詰めてきた。狙いはカイン───ではない。

 

 

 

「───アイゼル!」

 

 

 

 カインがそう叫ぶ頃にはもうディクソンの刃はアイゼルに向けて振るわれていた。

 ディクソンはカインたちの中で唯一盾を持たないアイゼルを真っ先に狙った。力比べをすれば彼には勝ち目がないと見込んだ故だ。

 だがアイゼルもただの戦士では無い。機神界で更に経験を積んだ彼はこのくらいでやられはしない。

 

 

 

「チッ、風のエーテルか」

 

 

 

 彼は既にエーテル場を形成していた。その力により強化された足でディクソンの初撃、続く連撃を躱す。

 そして、素早くなるのは彼だけでは無い。大盾を持ったダミルがディクソンに近づいていた。盾で押しつぶすように飛びかかる。

 ディクソンはアイゼルへの攻撃をやめて後ろへ飛んで避ける。ダミルの攻撃は空振りに終わり、ディクソンのいた鉄の床に少しヒビを入れるだけにとどまった。

 

 攻撃直後の大きな隙をディクソンは見逃さない。すぐざま銃剣で狙いを定め、丸めた背中を見せるダミルに向けてエーテル弾を数発発射した。

 しかしこれも届かない。もう一人の防御のスペシャリストであるガランがその盾で全てを弾いた。そしてその後ろから氷の刃が殺到する。

 

 

 

「アイススプレッド!」

「うぜぇ」

 

 

 

 アイゼルの追撃だ。ディクソンは迫り来る刃を銃剣と巧みな身のこなしで全て避ける。しかしこれはただの誘導だ。

 彼らの本命はホグドとカイン。避けた先で待ち構えた二人の剣と槍がディクソンに迫っていた。

 

 無論、それを避けられないディクソンではない。だが、数的に不利であることは明らかだった。一息つく暇も与えないよう、彼らは次々に攻撃を繰り出してくる。

 

 カインの入れ知恵だろうとディクソンは心の中で愚痴る。本気を出す前に仕留めようとしてきている。確かに、今のディクソンには6人の連携を切り崩すだけの力はない。

 

 だがしかし、脆弱な人の姿でいる事の利点もある。

 敢えて人の姿でいることで彼らは迫ってくる。丁度、ディクソンを囲むように距離を詰めてくる。この陣形こそがディクソンが狙っていたもの。不意をつく絶好のチャンス。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 その時、ディクソンを囲む全員の視線が彼が懐から取り出した物体に集中した。カインですらもそれが何か知らなかった。

 それはカプセルのような何かだった。ディクソンが手から離そうとしないので爆弾でないのは分かった。

 

 

 

「さぁ、還りな」

 

 

 

 ディクソンはそう呟く。直後、カプセルを中心として強烈な光が発せられた。巨神のエーテル独特の緑の閃光が。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 機神界上空。

 

 ここではアルヴィースの駆るテレシアとフェイスに乗るガドの攻防が繰り広げられていた。

 

 テレシアは心を読む。その上その力は機神兵の装甲を容易く貫くことができ、太古の巨神と機神の戦いでは機神界が一方的に蹂躙された。

 しかも今回は使徒の加勢もある。戦力としては当てにならないが、テレシアの野性にアルヴィースの理性が加わることで狡猾さが増すのだ。

 

 そんなテレシアを相手に、意外にもガドは対等に渡り合っていた。

 

 理由は主に2つ。

 

 1つは機神界周辺空域を飛ぶ機神兵の存在だ。

 エギルの配下たる彼らは上空に現れたテレシアを見るなり攻撃をしかけてきた。時間が経てば経つほどその数は膨大になり、アルヴィースの手を煩わせている。

 

 しかも彼らはガドに攻撃しない。カインもまたエギルに敵と見なされているものの、緑のフェイスは未だ味方として登録されたままだからだ。

 

 エギルからすれば、ガドはシュルクら一行との戦闘中にロストした機体になっている。わざわざそんな機体の情報をアップデートする必要はなく、加えて今はその暇もない。それ故に産まれたアドバンテージだった。

 

 もう1つはガドとの戦闘距離にある。

 

 単純にガドとの距離が離れすぎており、テレシアの『思考読み』の影響範囲外になっているのだ。

 距離を詰めようにも先述した機神兵による妨害と青との合体で得た機動力により直ぐに距離を離されてしまう。現時点でアルヴィースには打つ手がなかった。

 

 

 だが、打つ手がないのはガド側も同じだった。

 テレシアに攻撃が当たらない。思考は読まれずともなお、攻撃が全く当たらないのだ。

 

 ガドの狙いは正確である。テレシアに群がる機神兵の隙間を的確に狙い、現在までフレンドリーファイアは一発もない。だが、テレシアは命中する一歩手前で避けてしまう。

 

『思考読み』をするための器官である触覚がその原因だった。

 テレシアの触覚はハイエンターですら感知できない微弱なエーテルを感じることができる。それ故に他の生物の脳が発する複雑なエーテルパターンから思考を取り込める。

 

 問題となるのはその感知範囲だ。『思考読み』を成立させるほどの精度を求めると流石に制限があるが、感知するだけなら広範囲で行える。

 

 過去、傷ついたテレシアは広大なマクナ原生林の中心で傷を癒しながら、原生林に足を踏み入れたばかりのシュルクのモナドの波長を感知できた。

 

 テレシアは機神兵に邪魔されながらも、ガドの位置を一瞬たりとも見失っていない。彼の放つエーテルレーザーの軌道もまた正確に読み取り、掠めることすら許していない。

 

 

 

(理性)がいなければ他の機神兵に気を取られてやられていただろうけどね)

 

 

 

 どこまでがカインの想定だったのかと、アルヴィースは心中で思う。ガドとこうして拮抗状態になるのは彼の読み通りだったのか。

 

 

 

(『彼』が巨神界から駆けつけるのが速いか、カインとディクソンが決着をつけるのが速いか、それともシュルクたちがエギルを斃すのが速いか……)

 

 

 

 どの道、アルヴィースは時間が解決してくれることを待つしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって巨神界上空。

 

 巨神界連合軍は動き出した機神により壊滅した陸上戦力の救援のため、戦線を巨神の腕まで後退していた。幸い、アルヴィースからの助言により被害は最小限に抑えることができたが……状況は未だ芳しくない。

 

 最早、巨神の大地に安住の地など無かった。

 

 エギルの操る機神が巨神に穿った剣は、巨神界全土で災害を引き起こしていた。機神を止めなければ巨神界滅亡は免れない。

 

 しかし、現状動かせるのはハウレス部隊を中心とした空中戦力のみ。しかもその空中戦力も、突如として襲来した顔つきの部隊によって次々に撃ち減らされていた。

 

 

「くそっ! 残存する戦力はどうなっている?」

「じ、自動兵器群のほとんどが撃ち減らされ、最早兵団として機能していません!」

「地上部隊の救援にあたっていた第四から第六師団に敵が集中しています! 第一、第二、第三師団で迎撃していますが敵の数に対して障壁の展開が間に合わず……」

「ノポン翼竜部隊より入電。敵機神兵に対して有効打なし、地上部隊の救援に専念するとのことです」

「クソ!」

 

 

 

 敵はハウレスに限定して攻撃を仕掛けていた。今、巨神界連合軍において戦える戦力の中で唯一フェイスに対抗できる部隊だからだろう。

 

 地上という戦場は消え去った。ノポンの駆る翼竜は対地戦闘において効果を発揮するが、フェイス相手に空対空戦となるとそうもいかない。基本的に翼竜もそれに乗るノポンも物理攻撃が主体であるため、フェイスの強靭な装甲を貫くほどの火力が出せないのだ。

 

 であればより脅威となる兵に火砲を集中するのは道理。しかもその半数は未だ地上部隊の救援で戦闘もおぼつかない状態にある。敵からしてみれば千載一遇のチャンスだろう。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 そんな現在状況がカリアンへと報告される様子を通信越しに聞きながら、ロウランは冷静に、より大きな戦局に対して思考を巡らせていた。

 彼女のハウレスもまた前線に駆り出されている。戦力に余裕がないため致し方ないことではあるが、こういう状況にされてしまったのではないかと、彼女はずっと警戒していた。

 

 ディクソンから報告のあったレジスタンスとやらは未だ姿を現していない。顔つきと似たような兵器を準備しているとの事だったが……。

 

 

 

(こちらではなく機神界に戦力を回した、ということかしら。やはり奴はザンザ様が既に復活できることを知らない……?)

 

 

 

 カインの目的はディクソンから聞いている。ハイエンターを含めた巨神界の生命を守ることだ。現在、その最も大きな障害となっているのがエギルである。

 モナドをもってしてもエギルを斃しきるのは難しいと、カインが判断したのなら辻褄は合う。

 

 

 

(でも、それならアルヴィースから何か連絡があってもおかしくないはず。落ちた腕に行っていた兵からはあの坊やたちが無事だったという報告しか上がっていないわ)

 

 

 

 アルヴィースもレジスタンスの動きを把握していないということか。それとも動きがないから報告できなかったということなのか。

 

 

 

「正面、顔つきの部隊が接近してきます!」

「ちっ、鬱陶しいわね。障壁ではなく推進器にエーテルを回しなさい。機動力はハウレスの方が上よ!」

 

 

 

 そんな思考を遮るように顔つきの部隊が飛来する。数は6機ほど。全て例の槍を装備した機体だ。

 腐食能力に対しては抗体で無効化したものの、槍自体の威力は絶大である。監獄島に敷設されたエーテルバリアを貫くことができるそれに、ハウレスが展開した程度の障壁など無意味であった。

 

 だが、射撃戦ならハウレスに分がある。量産型フェイスには射撃武装はなく、一方的に撃墜することができる。

 

 

 

「接近して敵に砲火を浴びせなさい!」

 

 

 

 ロウランは部下に命令し、すれ違いざまにフェイスの撃破を狙う。エーテルレーザーの至近距離での連射。交差する頃には顔つきは撃沈している。槍など届くわけもない。

 

 そのロウランの判断に間違いはなく、ハウレスの横でフェイスは煙を上げながら海へと堕ちていった。

 

 しかし。

 

 

 

「?」

 

 

 

 最初、彼女は何が起こったのか分からなかった。視線をフェイスから自身の胸元へと移してやっと状況を理解する。

 

 

 真後ろから、何者かがこの体を貫いている。

 

 

 

「な、に───!?」

 

 

 

 その刺客を彼女は全く知覚できなかった。いや、それも確かに驚くべきことだが、それ以上に。

 

 

 

「い、たい? この、私が? 痛みを?」

 

 

 

 巨神によって護られているはずの身体が悲鳴をあげている。確かに、この身体は無痛という訳では無い。だが、この命に関わる程の痛みは、失われる恐怖を伴う痛みは、これまで経験したことがなかった。

 

 あの日、カインに身体を貫かれた時でさえ感じたことは無かった。

 

 

 

「ちか、らが、はいら───」

 

 

 

 最早立っていることすらもままならない。ロウランは刺客に押され、呆気なくハウレスのコックピットからその身を空へと投げ出した。

 

 身体が廻る。そして彼女は刺客の姿を見た。

 

 

 

「おま、えは───!!」

 

 

 

 先の戦闘、ロウランは一つ誤解をしていた。

 この場に現れる敵は機神兵だけだとそう思い込んでいた。カインが自身に辿り着くためにはフェイスを使わざるを得ないと。

 

 だからその人影に気づけなかった。

 フェイスによる襲撃は囮であることに気づけなかった。

 

 あぁでも、確かにこの戦い方には覚えがある。

 十数年前のあの日、奴にも同じように。

 

 そう、アイツは奴に師事していた。

 

 

 

「貴様の子と共に堕ちるがいい」

 

 

 

 堕ちながら、いくつもの機影がハウレスへと向かっていくのをロウランは見る。

 

 光の線がないフェイスが彼女の堕ちる先から飛び出していく。その中にはひとつ、飛空挺らしき物体も。

 

 レジスタンスが動き出した。たが、今の彼女には何も出来ない。

 

 

 

(何故だ。エーテルが放出できない……!)

 

 

 

 ハウレスの特殊機構。その起動にはある特定波長のエーテル放射が必要となる。それを行使できるのはザンザの使徒のみ。

 

 

 

(何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!!)

 

 

 

 何故身体が崩壊する。

 何故再生されない。

 何故身体が腐り落ちていく。

 何故エーテルをコントロールできない。

 

 何故、何故、何故───! 

 

 

 女は一人、疑問に囚われて海へと還った。

 最期に見たものは二柱の神の間で炎を伴って堕ちるハウレス(我が子)たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ゼノクロ楽しいです。

オープンワールドをロボで駆け抜けられる唯一の作品。


次回更新は明日の夕方頃を予定しております。

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