最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います 作:塩なめこ
投稿とはこうするの。
貴方にもできるはずよ。
光が晴れ、目にした光景にディクソンが驚いた様子は無かった。
俺が対策していることを予想していたのだろう。
「チッ、なんでテメェらテレシア化しねぇ」
めんどくせぇなと思いながらも楽しそうな、彼はそんな顔をしていた。
戦いを楽しんでしまう心のありようを憐れだと思うのは傲慢なのだろうか。俺は原作をプレイしていた時から、ディクソンに対してそんな思いを抱いていた。
彼は平穏の中では生きられない。それを自覚しているからこそ永遠の戦いを求めてザンザに従っている。一方的に勝つ戦をし続けるために。
だが悲しいかな。彼は永遠に満ち足りた終わりを迎えることができない。戦いに幸福を見出してしまったものは、戦いの中で命尽き果てない限り、充足した死に立ち会えない。
「誰が教えてやるか」
「つれねぇなぁ。ま、いいけどよ。今のを見りゃ大体予想はつくしな」
俺がその終わりを突きつけてやる。この仲間たちと。
「予想通り”帰化装置”を持ってやがった。あの大きさでなんてエーテル量だ全く」
「だがガドの砲撃ほどではない。お前が用意した装備とその腕で十分に相殺できた」
「5人で囲んでやっと使ったってことは効果範囲もそう広くねぇと見た。カインが吸収できる距離で戦えば大丈夫だろ」
「万が一間に合わなくても一度だけなら俺たち2人の大盾に仕込んだジェムを使って相殺できる」
機神界での実験により、俺はテレシア化に必要なエネルギーを算出することに成功した。また、そのエーテルパターンも。
アイゼルたち4人には予めそれらのエーテルに特化した装備を落ちた腕出撃時に装備して貰っていたのだ。テストする訳にもいかずぶっつけ本番だったが、ちゃんと機能していて一安心である。
「とはいえ、こっちが一人でも還っちまえば形勢は一気に向こうに傾く。最悪なのは大盾の無いアイゼルとホグドが狙われるパターンだ」
「実際、さっきのは肝が冷えたぜ。どうする? オレとアイゼル、ホグドとダミルでツーマンセルでも組むか?」
「いいや……ここは俺一人でいく」
「また貴様はそうやって無茶を───」
「勿論、お前たちは頼らせてもらう」
でなきゃこの場に呼んでいない。皆をここに留まらせたのはザンザから引き離すためでもあるが、純粋にディクソン相手に一人で勝てる見込みが無かったからだ。
だが、それは本気を出したディクソンを相手にした際の想定。あの状態の彼に俺は負けない。
「俺が奴の本気を引き出す。皆にはそれまで力を温存してもらいたい」
「大丈夫なんだろうな?」
「あぁ。確信を持ってそう言える」
「……了解した」
頷くと、皆は警戒しながらも後方で待機する。
一人歩みを進める俺に対して、ディクソンはやはり挑発的な笑みで迎える。
「相談は終わったかい?」
「あぁ。お前を本気にさせてやる」
「テメェ一人でかよ。随分とナメられたもんだな」
「ナメてんのはテメェだクソボケじじい。スピードシフトで攻める!」
「む───」
先程吸収したエーテルを用い、機動力を上げる。
今の俺の体は鋼鉄でできている。凄まじいスピードでぶつかりに行くだけでホムスにとっては脅威となる。
ディクソンはただのホムスでは無い。ただぶつかるだけで死ぬほどヤワでは無いが、しかし受け止めることもできない。
「そらそらそらそらそら!!」
「本気を出してねぇのはテメェも同じじゃねぇか」
最初の接触で俺はディクソンを軽く吹き飛ばした。それで先程までとのパワーの違いを感じ取ったのだろう。続く連撃に対して彼はようやく本格的な回避で対応してきた。
銃剣では届かない距離からの突き、横凪、上払い、空に飛んでの下払い、柄による打撃。その全てを巧みに回避する脚運びには感嘆するが、それでも圧倒的に速さが足りていない。
連撃を続けていくほどにディクソンの回避には余裕が無くなっていく。こちらは機械の身体だ。無呼吸連打は俺が防御を選択しない限り止まらない。
それをディクソンも理解しているのだろう。動きを最小限に抑え、僅かな隙で攻撃を繰り出してきた。見事だがそれでは不十分だ。
「効かないね!」
「チッ、回避するまでもねぇか」
巨人族の拳であれば確かに俺を吹き飛ばすことはできるだろうが、最小限の動きであるが故にパワーが足りない。銃剣は重く、銃口を向けることもできない。そもそもディクソンの剣では機神界の装甲は斬れない。
詰みだ。
「とっとと本性を現せ。それともこのまま死んでくれるのか」
「クソ生意気な小僧だな全く。癪だがそうするしかねぇみてぇだな!!」
その瞬間、ゾワッと背筋が震え上がるのを確かに感じた。
ディクソンの叫びと共に繰り出された拳はそれまでのものとは比べ物にならない速さと殺気を帯びていた。反射的に俺は左腕による防御を選択していた。
バキッ、と。
装甲にヒビが入る音が耳に響く。いや、ヒビどころではない。穴だ。
俺の左腕に纏われた機械の装甲に穴が穿たれた。
「があああっ!?」
強烈な衝撃が襲いかかる。
俺にとって左腕は盾に等しい。この身体の中で一番装甲の厚い箇所だ。ディクソンはそれを貫いた。これが巨人族の膂力……っ!
「どうだ? これがお望みだったんだろ」
エーテルによる変身の光が収束し、そこから翼を持つ巨大な影が現れる。
三聖のディクソン。その本来の姿。
「この姿をシュルクたちに見せるわけにはいかないんでな。悪いが速攻で片付けさせてもらうぜ」
「パージ」
ディクソンからの挑発に対してカインは言葉を返さず、ただ一言そう呟いた。
すると彼の左腕を覆っていた機械の装甲が割れる。それだけでは無い。彼の顔の左半分を覆う機械の目。それも仮面のように外れ落ちた。
彼の秘密が暴かれる。
「初めて見たときからそうなんじゃねぇかと思ってたぜ。やっぱり還ってやがったか」
現れたのは巨大なテレシアの腕だ。その侵食は肩まで続いている。そして、生物的な緑の光の筋が走る左頬と明らかに人の目をしていない左目からして、首の一部もテレシア化していたのだろう。
「敢えて機械化されることで全身のテレシア化を防ぎ、そして俺たちの手で帰化しない体を手に入れた。そんなところか」
「ご名答」
「しかし解せねぇな。ロウランを殺る手前までいった奴がエギル如きにそこまでやられちまうなんてよ」
「……敢えてこうなることを選んだとしたら、どうする?」
「なに?」
15年前機神界に潜入し、エギルと敵対した時点でカインがエギルから逃れる術は絶たれていた。ザンザの使徒と認定したカインをエギルは絶対に逃がさない。たとえ落ちた腕へ逃れたとしても、きっと彼は追ってきた。
だから彼は一度エギルの前で死ぬ必要があった。ヴァネアと協力し、部分的なテレシア化に成功したカインは、即座に左腕を切断して自身の死体とした。
幸いにも、切断した腕はエーテルを介して再生、膨張し、不完全ながらもカイン・テレシアの分身となった。それにこれまで身につけていたハイエンター騎士団の鎧と仮面を取り付け、エギル自身の手で殺させて回収させる。
エーテルパターンも遺伝子もカインそのもの。自らそう解析したエギルはカインの死を信じるに至った。そしてカインは彼の目を盗んでレジスタンス設立に動き出すことになる。
だがカインは機神界に侵入した時点で既にテレシア化するつもりだった。理由は単純。ハイエンターのテレシア化を防ぐ術を見出すためだ。
ハイエンターはその術としてホムスの生体情報を取り込むという方法を取った。それは確かに種の存続に繋がる方法ではあったが、全てのハイエンターを救うことはできない。
だからカインは外科的な方法でテレシア化に対抗しようとした。古代ハイエンター以上に機械文明の発達した機神界であればその術が見つかるのでは無いかと考えて。
サンプルは自分自身。テレシア化した左腕はその再生力でもって無限に生えてきた。レジスタンスの強化に努める間、ヴァネアやリナーダの助力を得てテレシア化の仕組みを徹底的に調べあげた。
依然としてテレシア化したハイエンターを戻す方法は分かっていない。たが、テレシア化に必要なエーテル濃度とパターンについては解析が完了した。
アイゼルたちの装備にはその結果が反映されている。テレシア化するエーテルを打ち消すエーテル防御の効果が付与されているのだ。エギルが作成した
「まさか貴様、自らを被検体にテレシアの研究をしてたってのか?」
「さすがモナドの研究者。理解がはやい」
「狂ってるぜ、カイン。だがおもしれぇ。俄然テメェを叩き潰したくなったぜ!!」
ディクソンは異形の翼を羽ばたかせて突撃する。それが第2戦開幕のゴングとなった。
本気を出したディクソンに最早出し惜しみはしない。後方で待機していたアイゼルたちもまたツーマンセルを組んで動き出す。
最初の標的は当然のようにカインだった。
巨人族全開のパワー。それに強大な質量と空中からの落下による勢いがプラスされたディクソンの突撃は、やはりホムスの時のそれとは一線を画していた。
轟ッッッ!!!
と、振り下ろされた剣は音を発する。カインがそれまで立っていた鋼鉄の地面は容易く破壊され、中を走る回路が発火して爆発した。
だがカインには命中していない。完璧な回避運動で斬撃の余波も爆発の勢いも全ていなした彼はカウンターを放とうとして、やめた。
彼が動くよりも早くディクソンが動き出す。あの大振りな一撃とは裏腹に攻撃後の隙は全く無い。巨神によって与えられた力と長年の経験が合わさった、これがディクソン本来の実力である。
轟ッッッ!!!
続いての横薙ぎによる一撃もまたそんな音を立てて空を裂いた。三撃、四撃。五、六、七、八───。
そのどれも威力、スピード共に落ちることなくカインへと繰り出されていく。むしろ戦いの高揚感に駆られてか、攻撃の鋭さは増していった。
だがカインはその全てを完璧なタイミングで回避し、或いは槍で受けて捌いていく。防御に徹したカインには届かない。
先程までの戦闘から立場が一転、ディクソンが攻めてカインがカウンターを狙う戦闘が繰り広げられる。だがカインには変わらず援護に入る味方がいる。
「アイススプレッド!」
「フレアインパルス!」
アイゼル・ガランペアによるエーテル攻撃がディクソンへと放たれる。ディクソンはその剛剣で二発とも打ち消すが、その動作がカインが攻撃する隙となる。
「───!」
「甘ぇ!」
ディクソンの頭部めがけて放たれる槍による突き。しかしながら、ディクソンは首を傾けて避け、逆にカインの槍の柄を掴んでいた。その動きは殆ど反射に近い。歴戦の勇士故の動きか。
頬にかすりはしたものの、せいぜいが薄皮一枚程度。巨人族の分厚い皮膚を傷つけるような一撃にはならない。逆にカインが窮地にたたされる。
ディクソンは掴んだ柄ごと鋼鉄のカインの体を持ち上げ地面に叩きつけるように振り下ろす。
「レイザーウィンド!」
しかし、振り上げた拳はもう一方からのエーテル攻撃によって宙で止まる。ホグドの援護によりディクソンの拘束を脱したカインは、頭部の翼を翻し、全体重を乗せた右回転攻撃をディクソンへと放つ。
ディクソンはそれを刃で受け止めた。ガキンッ、と固い壁を叩いたような感触とともに伝わってきた反発力に押され、カインは逆に回転しながら着地する。
その着地後の隙をディクソンは見逃さない。今度はディクソンの突きが放たれて、しかし両者の間に入ってきたダミルの大盾によって左へと逸らされる。
「邪魔だ!!」
左へ逸らしたことで晒されたダミルの右へ向けてディクソンの拳が迫る。しかしダミルの後方から突き出されたカインの槍によってそれは阻まれた。そしてそれはディクソンの皮膚を確かに斬り裂いた。
「ヒーリングアクア!!」
そしてその僅かな傷に向かってホグドが水属性のエーテル弾を繰り出す。ツンとした痛みがディクソンへと走った。さほど威力は無いが確かにディクソンへのダメージとなった。
そしてホグドの水球によって吸収したエーテルが突きを受けたダミルを癒す。
「しゃらくせェ!!」
ディクソンは翼を翻し、発生させた風の勢いでカイン、ダミル、そして右から接近してきていたアイゼルを軽く吹き飛ばす。
離れたのは僅かな距離だ。しかしディクソンにとってはそれで十分。剣を大砲へと変化させ、その銃口を向ける。
「まずはテメェからだ」
狙われたのはホグドだ。エーテル弾の連射によって発生した隙をディクソンは見逃さなかった。
お返しとばかりの三連射がホグドへと向けて放たれる。そのどれもが巨大な雷属性のエーテル弾だ。エーテル防御の装備であるとはいえ、一発でもまともに喰らえばまず戦闘不能に陥る。
ホグドは冷静に軌道を見極めて避けようとする。一発目、二発目をすんでのところで回避した。しかし、それはディクソンの狙い通りの動き。
動かした後の着地を狙った本命の三発目。ホグドには回避できない。
「思ったより厄介だな、その能力は」
「そんな風に創ったのはアンタらだろ」
だがそれにはカインが間に合った。巨大なテレシアの腕によるエーテル吸収能力によってエーテルを自身の力へと変換し、雷属性の瞬間的な加速効果によってディクソンへと詰め寄る。
スピードを乗せた突き。流石のディクソンもこれには手が出せない。とはいえ軌道は単純なので避けてしまうが。
カインの追撃よりも速く、ディクソンの攻撃が繰り出される。だがカインには当たらない。やはりギリギリで避けてくる。そんなカインの動きを見てディクソンは確信した。
「貴様、やはり俺のエーテルを」
「あぁ、貰ってる。雷属性のエーテル場による動きの阻害なんてもん食らったら捌ききれないんでね!」
大振りの攻撃が主体のディクソンは、攻撃を命中させやすくするために、戦闘中は常に雷属性のエーテルを放っている。これはダメージにこそならないものの、相手の体を麻痺させて
加えて、ディクソンは
エーテルの効果によるもののため、どんなに実力が拮抗していても明確な差が生まれてしまう点が厄介極まりない。だが、カインであれば
そして、自身の
(だがそれだけじゃこの回避力の説明がつかねぇ。奴の動きも始めの時とは段違いだ。何が変わった……?)
ディクソンの攻撃は戦いの中で苛烈さを増している。しかしながら、そのどれもがあと一歩で届かない。
対してカインも少しずつギアを上げてきているような感じがした。他4人の援護も正確で、僅かだがディクソンにダメージを与えている。
まだザンザに与えられた不死による再生力で賄える程度のものだが、まともな攻撃を食らうとヤバいとディクソンの本能が警鐘を鳴らしている。
ホグド以外のメンバーは、致命傷を与えようと積極的に近距離戦に持ち込もうとしている。これはディクソンにとっても相手を討ち取るチャンスに繋がるが、現時点では翼や拳による牽制でカイン以外とは距離をとるようにしている。
違和感があるからだ。
(さっきまでとの違い。左腕の装甲を外したことで軽くなったか? いや、それ込みでも速すぎる)
おかしい。最初は余裕があったはずなのに気づけば全力。そんなディクソンと違ってカインの動きは洗練されていき、少しずつだが余裕が生まれている気がする。
攻撃がかすりすらもしなくなっている。カウンターがキメられそうな予感がする。
(馬鹿な、そんなわけがねぇ。こっちもスピードを上げてんだぞ。なんでテメェだけ動きが鋭くなる? その見切りの速さはなんだ!?)
違和感は確実なものとなった。
もう既にディクソンは
なのに届いていない。カラクリがある。
(何が変わった? 装甲を外しただけでこんな───いや待て)
カインの左腕を穿った後、彼が外したのは左腕の装甲だけでは無い。顔を覆う仮面となる装甲も外した。
損傷した左腕は分かる。そもそもあれは左腕を隠すための拘束具としての意味合いが強い。本気の戦いでは邪魔でしかない。
では顔の装甲はなんのために? こちらもテレシア化を抑えるためか?
いや、それならいっそ取り除けばいい。エーテルを吸収するだけなら左腕で充分なハズだ。偽装の義眼などで隠すのではなく、本物の機械の目にすればいいはずだ。
あそこだけが生身の理由がある。
そもそもカインが機械化した主な理由はテレシア化を防ぐためだ。頭部は致命傷になりうる場所。いくら外科的な手法で細胞を帰化しづらくしても限度というものがある。完全には防げない。そんな弱点を残す理由はなんだ。
(カインの動き。俺はどこかで似たようなもんに遭遇した気がする。なんだ……なに、に────小僧?)
あぁそうだ。未だ敵として戦ったことは無いが。カインの鋭さを増す動きはシュルクのそれに近い。
(まさか───)
ディクソンの中で全てが繋がった。テレシア化した頭部をわざわざ残したわけとこの動きの違和感の謎。その答えはどちらも同じ。
(コイツ、俺の頭の中を読んでやがる!!)
「あぁ、そうだ。恐怖したか、ディクソン!!!」
テレシア化したカインの左目の神経は、彼の頭部にある翼の根元にまで及んでいた。翼はテレシアでいう触覚の部分。エーテルを敏感に感じとる器官。
テレシア化したことでより敏感になったそれは彼に”思考読み”の能力を与えたのである。
無論、従来のテレシアのそれに比べれば数段劣る代物だ。左腕と違って頭部は完全にテレシア化している訳では無いのだから当然である。
カインの”思考読み”では範囲の指定を行う事ができない。指向性を持たせることができないのだ。
彼は仮面を外した時点でその場にいた全員に対して”思考読み”を発動していた。叩きつけられた5人分の情報の中からディクソンのものだけを抽出し、回避行動に繋げている。
それが間に合っているのは、この場にアイゼルたちとディクソンの5人しか存在しないためだ。
これがもし命溢れる巨神界なら、情報量の海に飲まれて正気を失っていただろう。
ここにもしシュルクたちがいたのなら、回避が間に合わず致命傷を貰っていただろう。
戦う仲間がもし心通わせたアイゼルたちでなかったら、その中に紛れるディクソンの思考をすぐさま読み取れなかっただろう。
カインは知っている。
ディクソンがエギルとの戦いの前にシュルクたちと離れることを。シュルクたちはテレポートして遠くに行ってしまうことを。機神頭部は帝都アカモートの崩壊によって生命が存在しないことを。
幼年期から共に育ってきた仲間たちの思考の動き方を。
「さぁ、ようやっと慣れてきたんだ。そろそろ決着つけようぜ」
「クソがっ!!」
ガドを使ってアルヴィースをディクソンから引き剥がしたのはこのためでもある。
今この瞬間だけ使うことのできる、ディクソンを必ず殺すための技。
そしてそれはもうひとつある。
(ガラン、ダミル! 下段に横薙ぎが来る。間に入って受け止めてくれ)
((了解!!))
カインの読み通り、ディクソンが繰り出す横凪をガランとダミルは完璧なタイミングで受け止める。加えてディクソンは、大盾によって一瞬カインの姿を見失った。
(敵は飛び上がる。その前に”崩せ”、アイゼル!)
(分かった!)
翼を羽ばたかせガランとダミルを飛び越えようとするディクソンの、その飛び上がる直前の絶好のタイミングで、空への道を防ぐ斬撃が真後ろから来る。
「シャドーストライク!!」
「な、貴様!!」
氷の剣を形成しての
(さぁ、メリアの師匠! その飛び膝蹴りを食らわせやれ!)
(言われずとも!)
テレシア化によって強化され、”思考”を生み出すエーテルパターンをも受信できるようになったカインは、同じ翼を持つものに対して己の”思考”を発信することもできるようになった。
本来の歴史においてカリアンが最期に言葉を遺したように。
「スターライト・ニー!!」
「がぁっ!?」
ホグドが持つ最強の物理技によってディクソンは否応なしに”転倒”する。そこへとどめの一撃。
「ボルテックス!!」
頭上から、これまで吸収した全てのエーテルエネルギーを纏わせた雷のような一撃。それは”転倒”したディクソンの胸を貫き、
(終わったのか……?)
そんなダミルの声が頭に響く。いや、ダミルだけじゃない。他の3人も勝利を確信していた。
俺にも確かに手応えはあった。間違いなく槍は倒れるディクソンに突き刺さり、今墓標のように立っている。
雷のエーテルにより”スタン”した影響で”思考読み”にも反応は無い。正直、これで死んでくれよとも思う。
だが……。
「───やるじゃねぇか」
((((!?))))
おーおーうるせぇ! 各々驚きの声を挙げやがって!
まぁその気持ちも分からなくもないけどね。ホント、厄介なもんだよ使徒ってのは。
ディクソンは間違いなく気を失っていた。その体には雷による黒焦げた跡が確かに刻まれていた。だがそれでも彼を死に至らしめることは無い。
「正直、驚いたぜ。お前そこまで狙ってテレシアに成ったのか?」
「いや……。ただの幸運だよ。一度地獄の縁に立ったから得られた力だ」
ディクソンは頭を掻きながら立ち上がった。未だ胸に槍が突き刺さりつつも、立ち上がった。
ザンザが使徒に与えた不死の力。それは肉体が完全に滅びぬ限り続く命。
ロウランはカリアン殿下の力によるエーテルの暴走で体が消滅したことで倒すことができた。
ディクソンは目覚めつつあったフィオルンとシュルクのモナドによって癒えぬ傷を刻まれた。
そのどちらも今の俺たちは持ち合わせていない。
「そうか。だが所詮、造物主には逆らえない力だったわけだ。ロウランに食らわせたそれよりも数段威力を上げてるんだろうが……俺はアイツほどヤワじゃねぇ」
よっと、と軽く言いながら胸に突き刺さった俺の槍を奴は抜き、そしてその辺に放り投げた。俺に他の槍はない。
「その顔もう限界なんだろ。俺も
どうやら自覚は無かったが俺の顔は青くなっているらしい。目の焦点もあっていないとか。奴の思考が……いや、誰の思考だこれ。
「奴らは本能でそれをこなす訳だが、お前には知性がある。その程度の力でよく耐えたもんだが……。はっ、考えるってのはまさに力を持つものの特権だな」
あぁクソ、なんか好き勝手にバカにしやがって。確かに俺のアーツはテメェには届かなかったけどなぁ。
「俺の勝ちだぜ、ディクソン」
「あぁ? まだそんな強がりが───!?」
そろそろ気づいたか。
あぁそうさ。俺にはお前たちを消し去る莫大なエーテルも、意志の力を具現化させたモナドもない。
だからこの15年間ずっっっと考えてきたんだぜ。テメェらの不死をぶっ潰す方法を。
だけどそれだけの時間じゃどうやら届かないらしい。だからさ、もっと前からその方法を考えてた奴の案に相乗りさせてもらったのさ。
「これは……小僧が言ってた巨神の生命を腐らせるエギルの槍! カイン、テメェは小型化したそいつを」
「あぁ、使った。すげーよな科学者って。どうしたら一年かそこらで作っちまえるんだこんなの」
エギルがこれを創ったのはダンバンに負けてからだったはずだ。構想は以前からあったかもしれないが、それでも凄い。
そしてその更に上を行く厄介者がロウラン。
「だが……何故だ! ロウランがしくじりやがったか!」
「いや。抗体は正しく作用してる。エギルの作った槍のままじゃ効かなかった」
だから一手間加えてある。刺した相手を抗体のない細胞に上書きするという手法で。
「なんでお前が抗体のことを知ってやがる……!」
「アンタには俺のテレシア細胞を埋め込んでおいた。抗体の無い細胞だ」
「なに……?」
「ソイツはな、アンタらが再生の際に使うエーテルを吸収して増殖する。かなり濃い濃度のエーテルだ。直ぐにアンタ方の身体の全身に行き渡る」
「テレシアが使徒である俺に逆らうだと……?」
「ソイツらは言わば俺の分身体だ。本体である俺がお前たちの制御下に無いんだ。命令を受けるわけもない」
そうして生命活動に必要な器官に侵入、増殖したタイミングで巨神のエーテルの影響を受ける。後はエギルの槍と同じだ。
全身が腐り落ちる。今のディクソンのように。
欠点は影響が現れるまで時間がかかることと、一度使徒に致命傷を与えて再生させなければならないこと。また、心臓に穿てないと効果が一部にしか現れない可能性もあった。
それでもこのカードを突き通せたのは、彼らにとっては皮肉なことだろうがテレシアの力のおかげだ。
「命を弄んだお前らの、これが報いだ」
「クソ、怒りが込み上げてくるが……まぁ、こんな最期も悪くねぇ、か……」
その時、ドクンっと体が、いや世界が揺れるような気がした。
現時点よりも少し上方。唐突に巨大なエーテル反応が出現していた。
「せい、ぜい……気張る、ことだな。モナドのないお前が、どこまで……いける……か……見て…………」
まだ戦いは終わってない。次こそが最後の戦いだ。
俺は仮面を拾い上げて装着し、一人テレポーターへと進む。
アイゼルたち4人を巨神の眼前に並べることはできない。これから俺はシュルクたちと、メリアと共に奴を斃さなくてはいけない。
「メリア様を、ハイエンターの未来を頼んだぞ、カイン」
「あぁ、行ってくる。お前らも死ぬんじゃねぇぞ」
書き溜め終了となります。
この話は書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。
次回更新は未定です。
今度は最終話まで書き溜めてから投稿したい。