最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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ゲージが赤い……!?
沢山のお気に入りと評価も頂いて感謝の極みです!

今回は他人視点メイン回です。
一応キャラ崩壊注意。


あの日事件があった

 

 

「お前はどう思っているんだ、タルコ」

 

 

 ハイエンターの蒼き槍、カイン。

 彼は私を見つめながらそう言った。

 

 彼との婚姻の話が出たのはつい先週の事。

 光妃殿下……母上と久しぶりに面会したおりに決定した。

 

 私はその言葉を聞いて存外、嬉しかった。

 アクシデントとはいえ、巨神教の交わりの儀で産まれてしまったホムスとの混血児である私は、皇族の血を引きながら巨神教異端審問官として育てられた。

 その存在が尊重されることはなく、ずっと一人の暗殺者として陰の世界を生きた。

 そんな私が皇族として、あの誉れ高き戦士であるカインと婚約するなど考えもしなかった。

 

 しかし、カイン自身はそうではなかったのだろうか。

 彼はその事を母から聞いた次の日に私のもとを訪れた。この婚姻に関しての私の意志を確認するために。

 

 

「……私では不服だったでしょうか」

 

 

 その言葉を発した私の声は、自分でも意外なくらい震えていた。

 それを聞いてカインは目を見開き、即座に顔を下げた。

 

「すまなかった! そういう意図で言った訳では無いんだ。俺はこの話を断ろうと思ってここに来た訳では無い。ただ、結論から言うなら先延ばしにするためにここに来た」

「先延ばし……ですか?」

「あぁ」

 

 

 彼は言う。今の状態で本当に婚姻など交わしても良いのかと。

 確かに自分はテレシアを討伐した。その功に皆賞賛をくれるし、その事については嬉しくも思う。しかし、自分はまだ92歳の未成年。未熟者なのだと。

 

 

「そ、そんなことはないでしょう!」

「いや、未熟者なのだ。俺はまだ若い。故に親しい者を贔屓してしまう情も持ってしまう。公平に見られない」

「それと今回の件がどのように関係すると言うのですか?」

「分からないか? 俺とお前の関係の話だよ。俺は、家族となった者を他と同様に扱うことはできない。それは指導者として失格だろう?」

「……」

 

 

 言われて気づく。この後のことを。

 彼と私が現時点で婚姻したとして何が変わるだろう。私は皇族として扱われるのか? 

 答えは否だ。私の存在は、私が光妃殿下を継ぐことにならない限り秘匿され続ける。そして巨神教の暗殺者としての生活も続いていく。

 

 彼は己の妻を指導する立場になるのだ。その時、彼は私を贔屓することを止められないと言う。

 

 

「俺は皇家に忠誠を誓った身だ。そこに裏表など関係ない。故にタルコ、お前を娶ったとき俺はお前を皇族として扱う。2人きりの時などは俺がお前に頭を下げる立場になるだろう

 だが、俺は同時にお前の指導者でもある。お前に技術を与え、教え導かなくてはならない。……しかし俺には、お前を他の者たちと同じように育てることが出来ない。なぜなら俺は家族に戦って欲しくないと、苦しんで欲しくないと思っているからだ」

「……!」

「もし贔屓などすれば教導役失格だ。お前は他の暗殺者達からも嫌われる。そして俺も、巨神教内での立場が揺らぐことになるだろう。

 知っているだろう? 俺が表ではどのような役職に就いているか」

 

 

 私は黙って頷く。

 カインの所属。彼は軍の一騎士であると同時に皇女付きの近衛騎士だ。

 彼はその立場を利用してスパイとしての活動もしている。しかし、巨神教に入る以前から彼は皇女メリアの親衛隊だった。

 

 だから邪推する同士もいる。彼は逆に我々から情報を抜き取っているのではないかと。その立場を真に活かせば皇女の暗殺もできるだろうに、そのような素振りが全く見られないのもその論を後押しした。

 

 だがその理由を私は知っている。彼は彼が持つ巨神教との繋がりを白日の元に晒したくないのだ。

 皇女が死ねば王宮は犯人探しに乗り出す。もし彼が捕縛されでもすればどうなる? 最悪、光妃殿下にまで捜査の手が及びかねない。

 だから今は我慢している。絶好の機会が訪れるまでスパイに徹しているのだ。

 

 

「今は俺に発言力がない。お前と婚約すれば強まるのだろうが、今度はお前が苦しくなる。……だから決めてくれタルコ。お前は今俺と結婚したいか? それともお前が巨神教の暗殺者として一人前になり、俺も騎士として一人前になった時、改めて婚姻の儀に臨むか?」

「私は……」

 

 

 私は彼を慕っている。それは変わらない。

 彼がこんなにも私のことを考えてくれて嬉しくも思う。私を贔屓してくれると断言してくれることにもだ。

 だが、それに甘えられる立場か? 今の私は彼の献身に応えられるのか? 

 

 否。断じて否だ。

 彼の言う通り、私は巨神教の暗殺者として未熟者なのだ。今のまま結ばれたとしても、同志から生まれに縋った者として批判されることは目に見えている。

 その余波を彼は被ることになる。それでいいのか? ただでさえあの女が邪魔をして苦しい立場にいる彼を、更に苦しめるのか? 

 認められない。そんなこと。

 自分の弱さが彼を蝕むなど。

 

 

「私は甘えたくありません。もしそうしてしまったら、私は一生胸を張って生きることが出来なくなるでしょう。()()

「ありがとう。……明日、光妃殿下に返事を申し上げる。その時は傍にいてくれるな?」

「はっ!」

 

 

 

 今はまだダメだ。

 もう少し時が経ち、お互いに自分を認められるようになる時まで待とう。それまではまだ教師と生徒の間柄で満足しよう。

 私が異端審問官として認められとき、きっと彼は受け入れてくれるはずだから。この思いを伝えられるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていたのに。

 

 

「タル……コ……ッ!」

 

 

 次に私の家を訪れた時の彼は傷だらけで、今にも死にそうな顔をしていた。

 

 

「一体何があったのですか!」

「すま、ない。俺は……」

「とりあえず治療を致します。横になってください」

 

 

 彼の衣装は普段纏っている騎士の白い鎧ではなく、巨神教の暗殺者が用いる黒い着物だった。

 しかし、腹部は赤黒く染まっている。頭からも血を流しており、なにかと戦ってきたことは明白だった。

 

 

「いや……時間が、無い。聞いてくれ」

「しかし!」

「止血は、できている。お前にしか……頼めないぃッ!?」

 

 

 これほどまでに切羽詰まった顔をする彼を私は見たことがなかった。だからこそ事態の重大さを冷静に悟れたのかもしれない。

 

 

「……分かりました。事情をお聞かせください」

「お、れは……失敗した。直ぐに皇都から、脱出しなければ……ならない」

「逃げるのですか!? この皇都から!」

「お前たちに、も迷惑を……かける。な、にがあったかは明日、判明するだろう……だか、ら………………」

 

 

 彼は気を失ってしまった。

 私はどうすればいいのか迷った。彼は時間が無いと言っていた。何かに失敗したとも言っていた。私たちに迷惑をかけるとも。

 彼を本当に外に出してしまっていいのか。ここに隠れ住まわせるべきなのではないか。そんな迷いが生まれたのだ。

 

 だが結局、私は彼に応急処置を施した後、皇都の外へと送り出した。光妃殿下の力をお借りして。

 

 

 

 

 そして翌日。彼の言う通り何があったのか私は知ることになる。

 

 

『英雄が暗殺未遂』

『皇女に向けられた刃。守ったのは近衛騎士』

『広がる不信。背後には宗教の影?』

 

 

 そんな記事が出回っていた。

 彼はとうとうその重い腰を上げてメリアを狙った。巨神教の未来に殉ずるために。

 しかしそれは寸前になって、アイゼルとか言う、あの女の近衛騎士に阻まれることになる。

 カリアン殿下は早急に捜査を開始し、彼が自室に残していたとされる資料から巨神教残党の存在を察知。一斉捜査が開始された。

 

 皇都には様々な噂が出回った。

 曰く、彼が討ったテレシアは巨神教が用意したものでそもそもが八百長であったとか。

 曰く、親衛隊内でも浮いた存在で不仲の原因であっただとか。

 曰く、皇女だけでなく陛下の私室にも侵入して暗殺をしようとしていただとか。

 

 不忠の騎士。ハイエンターの恥。薄汚れた槍。裏切り者。カルト信者。テロリスト。ハイエンターの希望を汚した者。

 

 みんながみんな彼を責め立てる。巨神教ですら失敗した彼を擁護しない。

 

 巨神教はその一部勢力を切り捨てなければならなくなった。彼が残していたという資料が証拠となって、どうやっても罪を逃れられない者達を、太古の遺物として切り離した。

 本流はまだ生きている。皇都が捕まえたのは巨神教の正しい教義を継承しなかった異端者たち。そういう形で決着した。

 彼の家族や彼に近しい者は皆投獄された。

 

 皇都はそれで巨神教関連の捜査を終わらせた。巨神教を絶滅したものとして扱った。だから私や光妃殿下は普通の暮らしができている。

 

 凄まじく上手い手際だった。そこに疑いの目を向けてしまうくらいには。

 

 そして知る。彼が失敗した裏には同志の策略があったことを。彼は失敗したのではない。失敗するように謀られたのだ。

 

 皆彼がどれだけ皇家とハイエンターの未来のことを思っていたのかを知らない。みんながみんな彼の真実の顔を知らないまま責める。責め立てる。

 

 

『メリア・エンシェント様、マクナ原生林に出現したテレシアの討伐に向かわれる』

 

 

 あぁ、メリア。メリア・エンシェント!! 

 汚らわしい混血の女よ! なぜお前が生きている。なぜお前はそうやって日に当たって生きている!! 

 お前があの日死ねば、あの人は私の傍に居たのに!! 

 お前が、お前が、またお前が、私の欲しいものを何もかも奪うのか!? 

 

 死ね。エルト海で貴様は死ねない。マクナの森の中でお前の近衛共々死ぬがいい。

 彼の存在なくして貴様らはテレシアには勝てない。その事を実感するといい。そして詫びながら、懺悔しながら死ぬがいい。

 

 もし貴様らが生き残ったその時は……私がこの手で殺してやろう。

 

 

『帰って……来るんだ……。俺は……』

 

 

 彼はうわ言でそう言った。必ずここに帰ってくる。

 その時、お前たちの雁首を揃えて彼に見せてやろう。そうして褒めていただくのだ。一人前になった私を、いつものように認めていただくのだ!! 

 私は裏皇家の恥ではないと、巨神教の異物ではないと、言っていただくのだ……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を疑いたくなる光景だった。

 豪雨の中落ちた雷の光でその存在を認めた時、何故という思いしか浮かんでこなかった。

 

 どうしてお前がそんな格好で、よりにもよってその人に刃を向けているのか私には理解することができなかった。理解したくもなかった。

 

 ハイエンターの蒼き槍、カイン。

 

 お前は誰よりも強く、誰よりも皇家に忠誠を誓っていたでは無いか。その言葉に嘘偽りはなかったでは無いか。

 

 幼少の頃からずっと傍にいたのだ。お前が何を信じ、何を夢みていたのかを悟れないほど仲間たちも鈍くはない。

 

 お前はメリア様に惚れていたんじゃなかったのか。

 

 

「何をしている、カインッッッ!!」

 

 

 剣を引き抜き、欠けた仮面を被り、黒の衣装に身を包んだ奴に接近する。

 奴は今槍を持っていなかった。大振りのアレは隠密行動をする際には邪魔になるからだろう。

 

 その代わり奴は二刀のコンバットナイフのようなものを手に持っていた。私はそれを知っている。奴が超近距離で戦う際、懐から咄嗟に引き抜き槍と交換して使用しているものだ。

 

 奴はこちらの存在を認めるとメリア様から離れるように後ろに飛び、2つの刃を逆手に持ち替える。

 私は上段から一気に剣を振り下ろした。それに対して奴は頭上で二刀をクロスさせて受け止める。

 お互いに力を緩めることなく、鍔迫り合いをしながらジリジリと顔が近づいていく。

 

 

「何故こんなことをしている! お前はメリア様の敵なのか!? 初めからそのつもりで近づいてきたのか!!」

「…………」

「答えろッ!!」

 

 

 至近距離で叫ぶが返答はない。欠けた仮面から見える瞳もただ静かに、震えることなくこちらを捉えていた。

 

「……ッ」

「クソっ! 逃げるな!!」

 

 奴はこちらの剣を弾くと、即座にこちらから距離をとって離宮を飛び出した。私も奴を追って駆け出す。

 王宮と離宮を繋ぐ長い廊下は雨に濡れ水溜まりができていた。私はエーテルを凝縮させてそれを利用する。

 

 

「!?」

 

 

 放たれたエーテルはカインの横を通り過ぎ、奴の目の前に着弾する。瞬間、進路を塞ぐように氷の壁がせりあがった。

 

 テレポーターまでの進路は完全に塞がった。カインは私を迎撃せざるを得ない。

 振り返り突撃を敢行する奴をこちらも剣でもって応える。

 初撃は二刀による十字斬りだった。剣で受け止めるのは難しいため盾で迎撃し、カウンターとばかりに剣を振るう。

 

 1、2、3────。

 

 横に縦に。振るう連撃をしかしカインはバックステップで躱していく。普段から素早い奴だが、槍を持たなくなったことで更に機動力を上げていた。

 

 しかしその分奴には中距離からの攻撃手段がない。エーテルアーツでお前を拘束し、真意を問いただしてやる。

 

 

「はっ───!」

 

 

 盾を捨て、左手にはエーテルを込めて放つ。

 放たれたエーテルは拡散し、炎の矢となってカインに殺到した。

 

 

「───!」

 

 

 対してカインは、その炎の雨に晒されながらも怯まない。

 刀に風のエーテルを纏わせると、先程と同じような十字斬りを放った。

 すると十字の交点を中心とした渦が巻き起こる。殺傷性は無いようだがアーツを弾き飛ばすには十分な風圧だ。

 

 しかも、この風は渦の中心に居る者を加速させるようだ。

 駆けてきたカインはその渦のトンネルを加速しながら通過し、一気にこちらとの距離を詰めた。

 

 

「っ!?」

 

 

 ガキン、と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。咄嗟に剣で受け止められたのは奇跡に近い。奴の脚運びを間近で見てこなければ、きっと反応することは出来なかった。

 

 それほどまでに時間を共有した友であったのに……! 

 

 

「巨神教に寝返ったのか!? お前はそんな奴では無かっただろう!」

 

 

 お互いに力を入れて組み合う。再び顔が近づいて私は思わずそう叫んでいた。

 割れた仮面から見える奴の瞳はまだ動かない。ただ静かにこちらを見つめるだけだ。しかし、くぐもった声で確かに発した。

 

 

「……無論だアイゼル。これはハイエンターの未来のための行動だ!」

「っ!?」

 

 

 それに驚いて思わず飛び退く。しかし逃がしてはくれない。反撃する隙は与えないとばかりに着地を狙って奴は接近してくる。

 また、顔が近づいた。

 

 

「全ては語れない。お前にも、メリアにも。今はお前の使命を全うすることだけを考えろ、アイゼル!!」

「くっ……!」

 

 

 今度はあちらが力任せに引き剥がす。

 私は更に後退するが、前へ前へとカインは迫るのをやめない。

 近距離戦はこちらの分が悪い。盾を捨てたことで二刀の攻撃を受け止める事が出来ないためだ。

 だから引き剥がす。

 

 

「風よ!」

「……っ」

 

 

 先程奴がアーツに対してやったように、左手を中心とした風の渦を発生させて吹き飛ばす。

 大事なのはタイミングだ。カインが今まさにその手を振り下ろそうとする瞬間、解放する。

 

 

「ぐぁ……!?」

「もらった!!」

 

 

 前のめりになっていた奴の体は、突然現れた突風によって煽られ、上体を上へと大きく逸らしながら体制を崩された。そんな明確な隙を逃しはしない。

 

 私の剣がカインの腹を突き刺した。

 

 黒の衣装は血で滲み始め、ポタポタと赤い液体が剣を伝って流れてくる。乱暴に引き抜けば致命傷になるだろう。

 だが、奴は前進を止めなかった。

 

 

「これで、いい……。お前が、俺を倒した。この事実が……あればっ!?」

「馬鹿者!」

 

 

 傷はどんどん深くなる。剣は次第にカインの体へ入り込み、背中からその剣先を顕にした。

 

 

「全て吐くまで死なせはせんぞ!」

「アイゼル……。俺は、もうメリアの傍に、は……居られない」

「それ以上動くな! 動けば……」

「ふんっ!」

 

 

 突如として左肩に激痛が走った。カインが容赦なく左手に持つ短刀を突き刺したのだ。私はその痛みに思わず反応してしまい、気づけば距離を剣を引き抜きながら奴の胴体を脚で蹴っていた。

 

 

「ぐあっ!」

「き、貴様! 不意打ちとは……。そこまで堕ちたか!!」

「英雄さまを……退けた男が、無傷だと……八百長を疑われるッ、からな……」

「何を馬鹿なことを言っている!?」

「全部、その短刀に書いてある……。メリアのこと、頼んだ、ぞ───」

「ま、待て!」

 

 

 倒れ込んだカインはよろよろと立ち上がりながらそう言って、離宮と王宮を繋ぐ廊下の横から飛び降りてしまった。

 暗い夜。しかも雷雨が降り続く日の暗闇は深く、下を覗き込んでもカインの姿はどこにも認められなかった。

 

 

「……! そうだ、メリア様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私は涙を浮かべるメリア様を保護し、事態を皇都警備隊の者に伝えた。

 

 捜査はカリアン様の直々の指揮の元行われ、行方不明となったカインの捜索も行われた。

 私もメリア様から蒼き槍を退けた実力を認められ、この捜査に加わることになった。そこであの日の夜何があったのか、奴はどうしてそんな行動に出たのかを知る。

 

 奴はその夜、メリア様だけでなく皇主陛下の命も狙っていたのだ。

 こちらは不審な物音に気がつかれ、目覚められたカリアン様他警備隊の者が直前に駆けつけたことで事なきを得た。

 しかし、彼らの追跡を防ぐように小型のテレシアが出現。宰相閣下が援軍を引き連れて到着し、テレシアが撤退するまでの間はカインを追うことができなかったのだと言う。

 

 親衛隊を裏切り、皇家に反逆したカイン。その裏には数代前に根絶されたと思われていたカルト教団、巨神教残党の存在も認められ、私たちはそれの掃討作戦にも参加した。

 

 カインと交流のあった議員や、彼の両親が一気に捕縛されると、今度はテレシアによるエーテルプラント襲撃事件との関連が浮かび上がってきた。

 巨神教にはテレシアを操る術があり、彼らが巨神肩やエーテルプラントにテレシアをけしかけていた、というのだ。

 

 結果、彼のこれまでの功績は仕組まれた意図があるとして返上。英雄は完全に反逆者として皇都に知れ渡ることになる。

 同時に、巨神教残党が奴に輸送機を横流ししていたことも発覚。ヴァラク雪山方面でその機体の残骸が発見され、カインが皇都を脱出し何処かへ姿を消したことがわかった。

 

 そして、この捜査結果をもって巨神教関連の調査は唐突に終了した。

 

 巨神教残党は完全に沈黙。巨神教は壊滅された。

 カインに関しては再度の襲来を警戒し、皇都や王宮の警備レベルの強化という形をとることが議会で決定した。

 

 これが公式の発表である。

 

 

 だがしかし、今回の捜査で一切触れられなかった存在が居た。

 

 裏皇家だ。

 

 我々親衛隊は裏皇家の存在を知っている。巨神教の中枢にそのような輩がいることもだ。

 だと言うのに、彼らの存在が公に晒されることなく捜査は終了した。カインと付き合いのあったであろう婚約候補すらも見つけられることができなかったのである。

 

 我々親衛隊は巨神教が未だ壊滅していないことを確信していた。今回捕縛されたのは確かに巨神教メンバーではあったが、彼らは本体から切り離されたトカゲの尻尾に過ぎないのだ。

 

 だが、捜査の続行をカリアン様に進言することはできなかった。

 

 まず第一に、この情報の出処が全てカインからであるということが問題だった。皇家を狙った者の情報を当てにすることなど、王宮にはできなかった。

 

 次いで、カインが残した短刀に仕込まれた手紙の内容が、私たちの動きを制限したのだ。

 

 

『これを読んでいる頃、俺はもう皇都に居ないだろう。

 まず、突然の裏切りに対して謝らせて欲しい。すまなかった。こうするしか俺には方法がなかったんだ。……といってもこれを読んでいるお前たちが俺を信用してくれるとも思えないけど。

 

 結論から言えば俺はとある存在に謀られた。そいつは俺に殺されそうになったと演出することで、俺たち親衛隊を反逆者に仕立てあげることを狙った。

 

 メリア様の傍に居れば奴の思惑通りになってしまう。だから俺は敢えて分かりやすいように皇家に反逆し、更にメリア様を狙うことで、俺の犯行が俺や巨神教の思惑によって引き起こされたもののように見せた。

 そのための代償として誰か一人を傷つける必要があった訳だが……そいつは許してくれると助かるな。

 まぁそんな訳だから俺の弁護はするな。主流意見に乗っかって巨神教の力を削げるだけ削いでくれ。頼んだぞ。

 

 俺を陥れた奴は強大だ。しかも権力まである。

 とてもじゃないがその正体を俺はお前たちに明かせない。きっと明かせばお前たちはそいつに反抗しようとするだろうからだ。

 それはやめた方がいい。そいつは皇都を、全てのハイエンターを人質にとっている。不用意な行動は慎め。民を死に至らしめることになる。

 だから今は耐えろ。どんな不条理があっても耐えろ。

 お前たちはただメリア様をお守りすることを考えてくれればそれでいい。全員が必ず生き残ってくれればそれでいいんだ。

 

 俺は必ず皇都に、お前たちやメリア様の元に帰ってくる。そいつを倒せる手段を引っさげて必ず。

 

 だからそれまで死ぬんじゃねぇぞ。

 

 

 

 PS.

 

 メリアにはこの手紙のことは伝えるなよ。あの子はよくも悪くも真面目で正直で優しい子だからさ。

 あとこの座標の所に土産もんがある。使い所は任せるけど、結構いい代物だから大事に使ってくれよ?』

 

 

 

 私はそれを読み、再度折りたたんで小さなポケットの中へと入れる。

 このことは奴の言う通りメリア様には伝えていない。親衛隊の皆しか知らないことだ。

 

「お前を陥れた存在……。一体どれほど強大な脅威なのだ、カイン」

 

 そんなことを呟く。しかし返事は帰ってこない。この皇都では帰ってこない。

 

 あれから数年経つが未だカインは帰還していない。

 だと言うのにまたテレシアが出現した。今度はマクナ原生林にだ。

 巨神教がまだ生き残っている現状で出現したテレシアに、私は作為的な物を感じていた。

 

 これはなにかの予兆なのか。波乱の幕開けを知らせるものなのか。

 

 私には分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 メリア・エンシェント73歳。

 

 これはシュルクが復讐の旅に出発する15年前、モナドがホムスによってオセの塔から持ち出される前の年の話だ。

 

 

「何事だ」

「分かりません。大剣の渓谷に侵入者が現れたとしか」

 

 

 二人の男女が会話するその目の前には、彼らの操る兵士たちの稼働状況を知らせるモニターがあった。

 次々と機械たちは停止信号を発信し、その位置はジリジリと彼らのいる方向へと近づいていた。

 

 

「映像は出せるか?」

「少し後方の偵察機からの映像を出力します」

「これは……!」

 

 

 モニターに映し出された映像。そこには、機神兵を薙ぎ倒しながら進む一人の青年の姿があった。

 百四式機神兵の巨体をも切断する槍を持ち、一心不乱に駆けてくる青年。その頭部には一対の白い羽根があった。

 

 

「ハイエンターだと?」

「! 偵察機、捕まりました」

「何?」

 

 

 その男はその羽で宙を舞い、空中に浮かぶ三一式を掴むと、無数の機神兵の残骸を積み上げた山の上に着地して語りかけてきた。

 

 

『見えているんだろう。機神界盟主。機神メイナスの代行者。全ての機神兵を操る者よ』

「私の存在を知っているのか、こやつは!?」

 

 

『巨神はもう間もなく目覚める。俺に力を貸せ、エギル!!』

 

 

 青年の名前はカイン。

 本来世界には存在しなかった彼は、因果を廻す。

 たとえどれだけ足掻いても大きな流れの内にあると知りながら、それでも廻す。

 

 その結果が何を生み出すのかはまだ誰も知らない。

 機神も巨神も、カイン自身すらも。

 

 

 






というわけで次から原作開始なのですが、書き溜めはここまです。
リアルも忙しいので、次回からタグ通り亀更新になります。
ゼノブレイド3を私が買うまでに投稿したいですね。


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