最終的に人間辞める種族になりましたので神に抗います   作:塩なめこ

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お待たせして申し訳ない!お久しぶりです!
お盆はお仕事、開けて少し書いてたらコロナにかかってそれどころではなくなり……。
難産だったこともあってかなり時間がかかってしまいました。

あ、そんなわけでゼノブレ3はできてません。買ってません!
なんで設定とかに矛盾があるかもです!




表と裏の戦い

 

 

 

 その2人はとても似ていた。

 お互いに純粋な血など流れていないが高潔な血は確かに受け継いでいて。

 お互いに使命を持って生まれてきた。

 

 違うのは境遇だけだ。

 

 表と裏。どちらの皇室に連なる存在になったのか。そのたった一つの違いが決定的に2人の道を分け隔てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、どうやら無事先祖の霊に認められたようだな」

 

 

 試練を乗り越え皇祖との語らいを終えたメリア。彼女はその仮面に継承の証を刻まれ、確かに皇太子として認められた。

 しかし、それはあくまで先祖に認められただけに過ぎない。それを持ち帰り、広く民に知らしめなければ、彼女はまだ皇太子では無いのだ。

 だが逆に、それが成されてしまうともう巨神教は手が出せなくなる。

 

 故にタルコにとって、これは千載一遇のチャンスであると同時に、失態の許されないラストチャンスでもあった。

 

 

()()()()……何者だ?」

 

 

 タルコは輩を連れてメリアの前に立ち塞がる。穢れた混血の皇女をこの世から確実に葬り去るために手段は選ばない。彼女たち三人の手には既に凶器が握られていた。

 

 

「っ、お前たちは巨神教の者共か!?」

 

 

 そしてメリアも疑問を口にしてから気づく。この黒装束を身にまとった者共の正体を。

 あの日、あの夜に”彼”が着ていたものと同じ。彼女たちは巨神教の残党が抱えているという暗殺者───。

 

 

「ここは皇家の者以外入れぬはず! なにゆえここにいる!!」

「私は光妃殿下の陪臣だ。殿下のご命令に決まっているだろう」

「は、母上が巨神教に───?」

 

 

 タルコから思わぬ人物との関連性を告げられて驚愕するメリア。

 だがそんなことはタルコには関係の無いことだ。動揺するメリアへと怒りを込めた刃を振るう。

 

 

「影妃の子の分際でまだ光妃殿下を母と呼ぶか!」

「っ!」

 

 

 しかし彼女は温室育ちのお嬢様では最早ない。

 その身に染み込んだ記憶や経験からくる技術が、タルコの怒りと殺気に反応して勝手に体を動かす。あの日、”彼”の仮面を砕いたときのように。

 タルコの刃は杖に阻まれて届かない。彼女に続いて他の2人も拳を突き出すが、メリアが即座に距離を取ったためにやはり届かなかった。

 

 

「フン、避けなければ楽に死ねたものを」

「わ、私はここで倒れるわけにはいかぬ! これまで私を支えてきてくれた者たちの為にも!」

「まだそんなことを宣うか!」

 

 

 再びタルコたち3人はメリアを囲みながら接近する。

 対するメリアは杖を回転させて構えると、標的を定めた後、正面に捉えて駆けた。

 

 迷いはある。戸惑いもある。だがまずは生き残らねば話にならない。そのために戦うことが必要ならば戦おう。

 自身を俯瞰するように見る冷たいメリアの理性がそう呟く。

 

 彼女は暗殺者の登場とその後の問答に狼狽えながらも、驚くほどの冷静さで自身の知りうる包囲への対処法の一つを選択し、スムーズに実行していた。

 

 

『本来なら有り得ない想定だが……なっちまったら立ち止まらないことだ。俺としては敵の誰かに突撃することを勧めるな』

 

 

 複数の敵を同時に相手取る時に重要になるのはタイミングだ。

 

 今のメリアのように、彼女を中心とした三角形の頂点からそれぞれ敵が迫っている場合、狼狽えて立ち止まってしまってはいけない。

 それは敵が一斉に仕掛けてくる絶好の機会を与えているようなものだ。

 人の脳は咄嗟に処理できる項目の数に限りがある。それは人によってまちまちだが、大抵の場合並列処理するタスクは少なければ少ないほどいい。

 

 だからメリアは自らの足で三角形の頂点を目指す。他の2人から最も離れた位置にいる1人に向かって走る。

 

 それはほんの一瞬のズレしか生み出さない行為ではあるが、この状況下では最適の選択だ。

 その一瞬で目の前の人物をやり過ごせば包囲網は抜け出せるのだから。

 

 

「っ!? 踏みとどまれ!」

「はっ!」

 

 

 狙うのはタルコでは無い。彼女は見るからに指揮官だ。実力も相当だろう。だから狙うのは後方の2人。

 全身全霊の一撃でもってこの包囲を抜ける。

 

 

『一番威力のある体術……ですか? 最も相手に衝撃を与えるという意味ではあれですね。飛び膝蹴りです』

 

 

 スターライト・ニー

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 タルコの指令を聞いて受けに回ってしまったのも悪かったのだろう。メリアの蹴りは完璧な形で入った。

 腕をクロスさせての防御すら貫通して暗殺者は”転がる”。メリアはさっさと着地を済ませ、祭壇の入口へと歩を進めるのだが───。

 

 

「逃がすかぁ!」

「なっ!?」

 

 

 大きな翼を持つタルコの方が速かった。

 彼女はほかの2人を置き去りにするほどの速力をその羽と足で生み出してメリアへと急行する。

 これにはメリアも対応せざるを得ず、振り返りタルコを正面に捉えて護身杖を構えた。

 受け止めるわけではない。この速力に乗せた攻撃に耐えられるだけの筋力をメリアは有してはいない。流す。

 

 

「ぐうぅぅっ!」

 

 

 ガリガリガリガリッ! 

 

 タルコとメリアが交差し、杖と刃が擦れ合い火花をあげる。間一髪だった。反応が遅れていれば食らっていただろう。だがなんとか防ぎ切った。

 そう思っていたのはメリアだけだ。

 

 

「甘いわ!」

「なっ!?」

 

 

 なんとタルコはその翼と自身の体重移動によって空中で一回転し、方向転換してきた。こんな体捌きが出来る者が”彼”の他にいるなんて───。

 

 

「きゃぁ!!」

 

 

 何とか護身杖で防御を試みるが間に合わない。

 杖越しにタルコの全体重を乗せた一撃を正面から受け止めてしまったメリアは吹き飛ばされてしまう。

 

 そうして生まれた隙を他の暗殺者2人が見逃すわけもなく。

 2つの刃が迫る。

 

 

「ちっ、なかなかやる!」

「……っ! ……はぁ、はぁ」

 

 

 しかしどうにかメリアは避け切る事が出来た。本当に無理やり動いてようやくではあるが。

 

 メリアはタルコによって吹き飛ばされながらも、その勢いをなるべく殺さないように左手で地面を押し、力の方向の制御を試みた。

 タイミングと運も良かったのだろう。結果的に片方が頬を掠れるだけで済み、2つの刃は空を切った。

 

 続けて追撃とばかりに拳や蹴りが飛んできたが、体の制御を取り戻せたことでそれも捌ききることができた。日頃の訓練の賜物である。

 

 

(……いや、それだけでは片付けられない。この技を私は知っていた。だから対応できたのだ。……左手はもはや当てには出来なくなってしまったが)

 

 

 全体重を吹き飛ばすほどの衝撃を左手で強引に支えたがために、彼女の左手首はぷっくりと腫れていた。折れてはいない……がしかし護身杖はもう満足に握れなくなってしまった。

 

 この者達は逃亡を許すような相手ではない。負傷して体勢も万全とは言い難く苦戦は必至。絶望的な状況だ。

 

 だがメリアはそんな状況で悠長に言葉を発していた。自分が生き残る術を考えるよりも前に、まず知らなくてはいけないことができてしまったから。

 

 

「先程の動き、それにその技。そなたたちは”あやつ”の───」

「黙れ!! 貴様が”あの人”を語るな!」

 

 

 それは誰の声だったか。メリアには判別することが出来なかった。それだけ感情の乗った声だった。

 少なくとも、暗殺者の3人それぞれが侮蔑と憎しみが籠った眼差しを向けてくることからして、全員が全員同じような想いを自身に対して向けているということはメリアには理解できた。

 

 

「ホムスの混血でありながら皇位を狙うとは! 貴様がそんなことを望まなければ”あの人”は我々と共にあったはずなのに!!」

「……そうか。そうなのだな」

 

 

『お前に皇主となる覚悟があるのなら、俺も俺なりの忠義を最後まで貫こう』

 

 あの夜”彼”はそう言った。その意味をこの時メリアは理解する。

 タルコの発した今回の暗殺の首謀者。”彼”が忠誠を誓うと決めた相手は彼女だったのか、と。

 

 あの日の問答が”彼”に最後の覚悟を決めさせてしまったのなら、あの答えを口にしなければ今も”彼”と共にあれたのだろうか。偽りの仮面越しで。

 

 そんなもしもを考える。

 

 あぁならば。なればこそ。

 この道を選んでしまったのだから止まらない。止まれない。

 こんなところでは。まだ。

 皇になるまでは。

 でなければ”彼”の犠牲は無駄になる。

 

 無意味な皇にはならない。

 お飾りの皇にもならない。

 

 ”彼”がその命を賭すに足り得る皇になる。

 争うに足り得る皇になる。それこそが。

 

 

(私が”あやつ”にできる最後の───)

 

 

 メリアはこの時真の意味で皇主となる覚悟を決めた。

 疑問もある。不安もある。不満もある。

 ”彼”が自身を選んでくれなかったことに対する悲しみも、嫉妬もないと言ったら嘘になる。

 

 だけれどようやく納得出来た。対抗馬が光妃殿下なら認めざるを得ない。

 

 彼女はようやく二十数年前からずっと燻っていたものへの区切りをつけることができた。もはや迷わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────』

 

 

 

 それでも現実は、依然として彼女にとって厳しいものであった。

 既にメリアの背後には彼女を葬らんとする魔手が伸びていた。

 

 

(宰相閣下の言った通りか。”あの人”は奴の心に相当踏み込んでいたのだな)

 

 

 タルコはそう思考しながら思い出す。任務の前に出会った赤い衣装を身にまとった女の姿と、発した言葉を。

 

 

『”彼”は影妃の子の心に大きな傷跡を残していった。彼女にとって”彼”の話題は気が気でないはずよ。だからきっと上手く注意を引けるはず』

 

 

 タルコが”彼”に向ける感情に嘘偽りはない。

 ただメリアを足止めする意図もあったというだけのことだ。

 もうすぐ彼女は葬り去られる。

 

 メリアの背後に迫るテレシアがたちどころに彼女のエーテルを吸い尽くす。それでおしまいだ。

 

 先程まで狼狽えながらも目敏くこちらの攻撃を捉えていたのが嘘のようにメリアはその存在を認識していない。それだけ”彼”を気にかけていたのだろう。

 

 だからこそ、なればこそ許さない。

 それほどの存在であったのなら何故皇位なぞのために犠牲にしたのか。

 

 

(私はお前とは違う。疾く逝くがいい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそんな未来(願い)を望まない少年が一人。

 

 

「メリアーっ!!!!」

「シュルク!? ───っ、テレシアだと? なぜこの墓所に!?」

 

 

 本来なら監獄塔での生存が確定しているはずのメリア。その死の光景を何故シュルクが視たのか。

 巨神の眷属の意志によって書き換えられた未来を()()()()()()()()()()。それとも少年が未来を修正することも含めて()()()()()()()()()()()

 

 どれが正解かは分からない。

 兎にも角にも間に合った。それだけがシュルクたちにとっては重要な事だった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた巨神教らしき集団の奇襲を退け、アルヴィースと共にハイエンター墓所を訪れたシュルクたち。

 途中、ラインの勝手な行動で回り道をせざるを得なくなったものの、どうにか最悪の未来が訪れる前に現場に居合わせることに成功した。

 

 メリアがホムスとの混血だったとか、暗殺者とメリアとの問答で語られている謎の人物の話だとか、気になることは多々あるが、今はとりあえず目の前の敵を倒すことに集中しなければならないだろう。

 

 

「オイオイ、ありゃさっき襲って来たヤツらの生き残りか?」

「取り逃したのは2人だった気がするけど……。3人目はメリアをつけてたのかしら」

「ラインのせいで遅れたけど、勇者リキ、メリアちゃんに助太刀するも!」

「うっせぇよおっさん! ……シュルク、どうするよ」

「とりあえずメリアと合流しよう。アルヴィース、力を貸して!」

「おやすいごようさ」

 

 

 各々が武器を取り出して駆け出す。だが───。

 

 

『───』

「いかせはせぬ!」

「汚名返上、果たさせてもらう!」

 

 

 テレシアと暗殺者の2人がそれを阻む。シュルクにとってこの組み合わせは最もやりづらい相手だ。

 なぜなら相手に人間がいるから。

 

「ぐっ!?」

「貴様の刃が我々に通じないことは先の戦闘で知れている。やらせてもらうぞ!」

「させるかよ!」

 

 モナドを弾かれた隙をついてきた暗殺者の攻撃は、ラインが2人の間に割って入ったために辛うじて防がれた。

 モナドはハイエンター含めた人間には通用しない。白翼宮で一度シュルクたちと戦った暗殺者の2人は既にその秘密を看破していた。

 

 

「……っ!? ぐううううう!!」

「ちっ、反応がはやい!」

 

 

 故にシュルクが執拗に狙われる。

 彼女たちからしてみれば、シュルクのようななまくらを持った弱い兵は速い段階で落としておくに越したことはない。数が減れば減るほど楽になるのだから。

 

 とはいえ、シュルクには未来視があるためそうそう落ちることは無い。モナドを基底状態にすれば刃を受け止めるくらいは可能だ。

 しかし、テレシアがいるこの状況でモナドを使わない訳にはいかない。

 

 

「ダンバン!」

「承知!」

 

 

 ラインに呼ばれてダンバンがもう一人の暗殺者をシュルクから引き剥がす。大柄で敵のヘイトを稼ぐのが得意なラインと、軍人で対人戦も難なくこなすダンバンが抑えに回れば、暗殺者たちがシュルクに近づくことはもう無いだろう。

 しかし同時にテレシアとの戦いで2人をアテにすることは出来なくなった。

 

 

(どうする?)

 

 

 考えながらシュルクはメリアの方を見た。

 彼女は未だにタルコを引き剥がせないでいた。()()()()()いくつかの能力が向上しているメリアだが、それはタルコも同じだ。

 機動力に関しては翼を扱えるタルコの方に分があるため、単純な競走ではまず負ける。しかも今は左腕がほとんど使えない状況だ。独力での脱出は難しいだろう。

 いや、そもそもメリアはタルコとの戦いから引く気が無かった。

 

 

「よいシュルク! 私がこの者を倒す。そなたたちはテレシアを倒すことだけを考えよ!」

「でも……」

「私はこの者とここで戦わねばならぬのだ! 打ち倒さねばならぬのだ! 勝手な頼みなのは重々承知している。……しかし頼むっ!」

「メリア……」

 

 

 タルコは”彼”の関係者だ。それが分かった以上、真正面から相対して乗り越えねば皇太子にはなれない。

 自身の暗い過去と決別するためにメリアにはそれが必要だった。

 

 シュルクにはその理由が分からない。だが、友人から頼まれた以上は断れないのが彼の性分であった。だがしかしこの状況で、負傷したメリアを放っておけるかといえば……答えはNoだ。

 

 

「ヒールバレット!」

「! カルナ!?」

「何を!」

 

 

 そんなシュルクの迷いを断ち切るが如く、カルナの狙いすました一撃がテレシアと暗殺者の壁をすり抜けてメリアに命中する。

 銃から打ち出された水のエーテル弾はメリアの体に触れるとたちまち飛散し、メリアが負傷した部位へと吸収されていく。

 彼女の左手首にあった腫れはたちまち引いていき、問題なく動かせるレベルにまで治癒が完了した。

 

 

「これくらいの手助けはいいでしょ? サシの勝負なのにメリアだけ万全じゃないなんてアンフェアだわ」

「……助かる!」

「シュルク、私たちはこのデカブツをどうにかしましょ。あの子なら大丈夫よ」

「ありがとう、カルナ。……いくよリキ、アルヴィース!」

 

 

 改めてシュルクはモナドを構え直す。前衛の2人がいないなか、テレシアの攻撃を担えるのは未来視が使えるシュルクだけだ。

 後衛にカルナを、リキとアルヴィースはテレシアを囲むように散開させてシュルクはソリドゥム・テレシアへと切り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と舐められたものだ。私をお前が1人で倒すとは」

「そうしなければならない理由ができた故な」

 

 

 背後で仲間たちが戦う中、2人のハイエンターはお互いを睨み合っていた。

 ここにはもうこの2人だけしか侵入できない空間が形成されていた。外の喧騒とは相反して静かなものだ。

 

 

「そうまでして否定したいのか、”あの人”を」

「そうではない。私は……”あやつ”が認めたそなたという試練を乗り越える必要があると、そう思っただけだ。皇太子となるために」

 

 

 だがこんな静寂いつまでも持つわけが無い。臨界点に達した殺気と戦意は爆発し、金属と金属がぶつかり合う音が戦闘の幕開けを示した。

 何度目かになる鍔迫り合い。それでも彼女たちは問答をやめない。

 

 

「そうすれば”あの人”に認められるとでも思ったか!」

「違う。これは、私が私を認めるために必要なのだ!」

 

 

 メリアはタルコを弾き飛ばす。同時に後方に飛び、十分な距離を取って唱えた。

 

 

「サモン・ボルト! サモン・フレア!」

 

 

 雷と火のエーテル場が作り出される。ここからはメリアのターンだ。

 

 

「フレアインパルス!」

「くっ、小癪な!」

 

 

 メリアは即座に火のエーテル球を弾として発射した。タルコは更に後ろへと飛ぶことで回避するが、地面に被弾したエーテル球が爆発するように燃え広がって火の壁が作り出されてしまった。

 

 タルコは近距離専門の暗殺者だ。多少術に覚えがあるものの、中・遠距離ではメリアに分があることを彼女自身自覚している。

 故にタルコはまずメリアに接近しなければならないが……このようなエーテルの壁が間に挟まってしまうとそれも難しくなる。

 

 火に限らず、術によって形成された壁は少しすれば自然消滅する貧弱なものではある。しかし、タルコにとってメリアに時間を与えるのは望ましくない展開だ。

 なぜならその間、メリアはさらに多くのエーテル球を作り出して攻撃に転化することが可能だからだ。

 

 

「サモニング・コピー! サモン・ウィンド!」

 

 

 案の定、メリアは火と風のエーテル球を作り出す。

 避けたら避けたで障害になり、かと言って受け流せるほどの柔い威力ではないメリアのアーツ。メリアにとって適切な距離感を維持されてしまうとジリ貧だ。

 

 

(ならば取れる手段はひとつ)

 

 

 タルコは思い出す。”彼”から授かった特別な技。その習得までの日々を。

 

 

『エーテルアーツを突破する方法? ……俺が言うのはなんだが、この戦法は伝統あるハイエンターの戦い方とはかけ離れているぞ』

『あの日、あなたは我々が放ったアーツをその拳で破壊してみせた。圧倒的な力の差を見せつけられたあの時から、私はその術を知りたくて仕方がなかった。……節度が無さすぎたでしょうか?』

『いやいい。知りたいと言うのなら教えるのが俺の役割だ。……俺の技は基本的に依代を用いている。物体はなんでもいい。拳でも、剣でも、槍でもな』

 

 

 体の内に流れるエーテルを手先へと集中させていく。

 その動作を続けながら、燃え盛る火炎が消失したタイミングで瞬時に前へと駆け出す。

 

 

『弱いアーツなら風のエーテルを依代から解放させたり、土のエーテルを身に纏えば済む。だがあの時のお前たちのように、一流のエーテル使いを相手にする場合は話が変わってくる』

 

 

 それを見てメリアも対応する。後方へ飛びながら傍らに浮かぶエーテル球を杖の先で掬うような動きをした直後、投げる。

 

 

「切り裂け、レイザーウィンド! 焼き尽くせ、フレアインパルス!」

 

 

 2つの球は弾丸となってタルコへと殺到する。

 タルコはその弾丸たちをつぶさに観察する。属性、エネルギー量、密度、速度、重さ。

 視覚だけではなく、頭から生えた翼の触覚もフルに活用して正確に敵のアーツを分析する。この間僅かゼロコンマ5秒。

 

 

『同規模のエーテルを身にまとった依代をアーツにぶつける。ただエーテルをぶつけるんじゃダメだ。そうすると行き場を失ったエネルギーが周囲へと霧散してしまう』

 

 

 自身のエーテルから水と氷のエーテルを抽出して手に持つ得物の刃先へと集中させる。エネルギー量がメリアの放ったアーツと同程度になるように。

 

 

『反属性だ。火と水。風と氷。雷と土。同じ力を持った反属性のエーテルがぶつかり合うと、まるで何事もなかったかのようにその場から消失する』

 

 

 片方の力が大きすぎてはダメだ。反属性は相性が悪いからこそ触れ合えばいとも簡単にアーツの安定性を破壊する。

 こちらのエネルギーが小さければメリアのアーツに打ち負ける。逆に強過ぎればメリアのアーツは安定性を失って爆散するだろう。

 

 同程度であることが肝要だ。同じ規模であれば果物の皮をむくかのように丁寧に、エーテル同士が削り合う。

 

 

「───まさか」

 

 

 タルコの二刀がエーテル球と触れ合った時、メリアは驚嘆の声を発さざるを得なかった。

 

 この技の難しさをメリアも良く知っている。彼女にも、今の彼女に付き従う近衛たちにもこの芸当は真似できない。

 この技を扱うには瞬時に相手のエーテルを感じ取り正確に解析する技量と才能が必要だ。少しでも間違えればアーツの相殺が叶わずに自滅する。

 

 そんなことが叶うのは”彼”だけだとメリアは信じきっていたが、それはある種の傲慢であったと認めざるを得ない。

 

 憧れを持ち、恋慕し、喪失を経験したタルコは長年の努力でもって辿り着いた。”彼”のいた極地に。メリアの超至近に。

 メリアは最後に残った雷のエーテル球を振るおうとするがもう遅い。

 

 

(獲った───!)

 

 

 タルコは勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────』

「ぐっ、うわぁ!」

 

 

 シュルクは未来視にて敵が次に取る動きの姿を視ることができる。だがその姿を見て対応しようとしてもしきれないのがテレシアという生き物だ。

 思考読みを抜きにしても彼らは強い。特にその体躯から放たれる攻撃は強力だ。致命傷は未来視で避けられているが、ダメージを防ぎ切るには経験が圧倒的に不足していた。

 

 ダンバンとラインの代わりとして慣れないヘイト役を引き受けていることもあるだろう。普段なら踏み込まない距離まで近づいたり、カルナやリキに飛んで行った攻撃を防いだり……。

 視えてはいても能力が備わっていなければ完全に捌くことは難しい。

 

 それでも何とかヘイト役として機能できているのがシュルクとモナドの力の凄いところなのだが。

 

 

「モラッタも!」

 

 

 シュルクを攻撃した後の隙を狙って、リキのカムカムがテレシアの背面を殴打する。

 普通の敵なら致命傷になりうるダメージだが……数秒するとテレシアの傷は再生してしまう。

 

 

「ヒールバレット! シュルク、頑張って!」

「ありがとうカルナ! ───エアスラッシュ!」

 

 

 それでもシュルクは諦めずに攻撃を仕掛けていく。カルナの支援を一身に受け、その光り輝く刃をテレシアに叩きつける。

 

 こんな攻防が何度も続いていた。

 テレシアも、シュルクたちも決め手に欠けていた。

 

 テレシアは未来視とモナドアーツ『破』によって攻撃が思うように届かない。

 

 かと言ってシュルク側は火力役の2人がいないせいでテレシアの再生力を上回れていないのが現状だ。

 墓所はマクナほどエーテル濃度が高くないせいか、マクナで戦ったテレシアほど再生力がないようだがそれでも足りない。

 

 これはアルヴィースを加えても変わらない。

 

 彼はマグナでシュルクと共に戦った時のように、大剣を用いたアーツをテレシアへ繰り出していた。アルヴィースの見た目からは想像もできない、結構な威力を叩き出しているようでリキのアーツよりはダメージを与えているようなのだが……。

 

 

「っ! 危ない!」

「大丈夫! でも───次の一手は間に合わないか」

 

 

 大剣故にアーツの発生が遅く、追撃する前にテレシアの反撃を許してしまう側面があった。

 

 テレシアを打倒するのに必要なのは再生力を上回る瞬間的な火力だ。

 ダンバンのような神速の太刀による連撃や、メリアやアイゼルのエーテルアーツ、そしてモナドバスターのような強力な一撃。

 

 この状況で繰り出せるとしたらモナドの力以外に他はないだろう。だが、モナドブレイカーがなければ思考読みが復活してしまう。ならば。

 

 

「シュルク。2つのモナドアーツを連続して発動させることはできるかい?」

「……難しいと思う。モナドは凄まじいエネルギーを持ってはいるけれど、モナドアーツを使う時はそれでも足りない。僕のエーテルもいくらか必要になるみたいなんだ」

「要はキミのエーテルを全部モナドに集中させれば、できるかもしれないだね?」

「簡単に言うけど、そんなこと……」

「でもやるしかない。今あのテレシアを倒せる可能性を秘めているのはそのモナドだけなんだから」

「衛生兵としてはあまり無理をさせるようなことはしたくないんだけど」

「勿論、考えなしにふっかけた訳じゃないよ。いくつか工夫しよう」

 

 

 アルヴィースは、これは予言官としての知識と実際にモナドを見て導き出した推察が大元になるけれど、と前置きして作戦を語り始めた。

 

 まず、モナドブレイカーで一時的にテレシアの感覚を奪う。その間にリキ、もしくはアルヴィースが触覚を切り離すのが第一段階だ。

 ここで重要なのはモナドブレイカーで封じるのは感覚だけ、という点。

 このアーツには敵を拘束したり、エーテルの刃を射出したりする力もあるが、それをしないことで幾分かエーテルの消費が抑えられる。

 次のアーツまでの時間を短縮できるだろう。

 

 そして、アーツを発動した直後のシュルクにカルナがエーテル弾を放つ。属性は水。生物に吸収されやすく、治癒能力を活性化させる水のエーテルは、シュルクのエーテル回復を加速させるだろう。

 

 

「僕らにできるお膳立てはここまで。後はキミ次第さ、シュルク」

「僕次第……」

「キミに未来を変えたいという意志があるのなら、できるさ」

「アルヴィース……」

 

 

 なんでもない言葉のはずなのに、シュルクにはそれが大きな力になっているような気がした。自分の背中を押してくれるような力に思えた。

 

 

「……やろう。やってみせるよ」

「シュルク? ほんとに大丈夫なの?」

「あぁ、皆がいればきっとできる!」

「それでこそシュルクだも! 大丈夫、勇者リキに任せるも!」

「皆、いくよ!」

 

 

『────!!!』

 

 

 テレシアの咆哮に応じるようにアルヴィースとリキが前へ出る。シュルクはその後ろから続けて前へと出ると、モナドを緑色に発光させてアーツを発動する。

 

 

「モナドブレイカー!」

 

 

 薄い緑色の膜のような光がテレシアを覆う。ダメージもなければ拘束力もない省エネモードの『破』だが、それでも感覚を奪うのには十分。

 

 

『────ッ!!!』

「ももももっ!?」

 

 

 急に五感が狂い、暴れ出すテレシアにリキが弾き飛ばされる。だが、テレシアの動きを読んでいたアルヴィースは捉えることが出来た。奴の触覚を。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 中へ放り出される感覚器官。ここまでは想定通り。後はシュルクの意志次第。

 

 未来を変えたいという意志。それこそが望まない未来と戦うための力の根源。戦う覚悟。言うなれば。

 

 

(バトルソウル)

 

 

 シュルクは全身に脱力感が襲ってきていることを自覚しつつも、モナドの力の高まりを感じ取っていた。

 

 

「ヒールブラスト!」

 

 

 直後、カルナからの援護を受けてシュルクのモナドは完全に励起する。その力をひとつの巨大な刃へと変換して。

 

 

「うおおおおおおおお!!! モナドバスター!!!」

『─────』

 

 

 それはテレシアの体を貫くほどのものへと成長していた。文字通り真っ二つにされてしまったテレシアに、もはや再生することは叶わない。

 

 内包していたエーテルを煙のように撒き散らして、テレシアは()()()()()()()

 

 

 

 






また決着まで書けなかった……。迫真の1万文字超え。
それにしてもテレシアとの戦い、これで何回目だろう。


現在症状が回復しておりますがまだまだ療養期間は続きます。
ということで暇なので次の話はさくっと書いて投稿したいですね。

皆さんはコロナ、気をつけてくださいね。
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