この素晴らしい世界であなたに幸福を!   作:エリス様にはやんでれの素質があります

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幸運の女神様

 1、本日青空晴天成り

 

「いやあああああ! 助けてーー!!! 誰かァァ!!!」

 

 拝啓

 お父様お母様、お二人は今日という日をどのようにお過ごしですか? 

 引きこもりだった俺が死んで悲しんでくれていますか? 

 それとも切り替えてこれからの人生を楽しんでくれていますか? 

 あまりにもあんまりな死因で死んだ俺にとっては後者であることを望みます。

 

 そしてとある理由で二度目の生を得た俺は今……一軒家位ある糞でかガエルに三度目の死を迎えさせられそうになっています。

 敬具

 俺の幸福を祈ってください。

 

「ゲコッ」

 

 スドンという地震と同レベルの振動と共に目の前に糞でかガエル……ジャイアントトードが立ちふさがる。

 手には汗水流して働いた(土木工事)お金で手に入れた安物のショートソード。

 

「死ぬ! 死んじゃう!!」

 

 で、でかすぎだろ! 

 たかがカエルと侮った……

 当初は危険な攻撃方法は丸のみ位で、危なく無いと判断したがでかいというのはそれだけで立派な凶器だった。

 

 こんなんちょっと動いた際に踏まれただけでお陀仏になってしまう! 

 

「ゲコォ~」

 

「こ、こうなったら……」

 

 本当は使いたくなかった最終奥義を使わなければならないらしい。

 

 どんな代償も命には変えられないのだ。

 

 俺は天高くショートソードを掲げ、力強く叫んだ。

 それはまるで伝記に乗る勇者が魔法を放つ動作のように。

 

「助けてください()()()()!!」

 

「ねぇキミって本当に異世界から来た勇者様なの?」

 

 カエルが俺に向かって舌を放つ寸前、その鼻先にナイフが突き刺さる。

 銀の髪がふわりと舞い俺の直ぐ横に着地する。

 どこからともなく現れた彼女は怪訝な顔をしながら指先をカエルに向けて言葉を放つ。

 

「『バインド』!」

 

 カエルのでかい足が銀髪の少女から勢い良く放たれた縄に巻かれて封じられる。

 カエルは悲しげに鳴きながらどうすることも出来ずにその場に身体を横たえた。

 

「ありがどう゛グリズっ! グリズ大明神様! 助゛かった゛!」

 

 彼女の名前はクリス。

 俺がこの世界に降りて始めての()()()()()()()()()()()()()()でもある。

 

「ちょっ、泣きつかないでよ! それよりもほら! トドメをさしちゃって! レベル上げないと! キミいつまでたってもレベル1から上がらないよ!?」

 

 そうだった、俺は異世界に日雇い労働者になりに来たんじゃない。俺は冒険者になりに来たんだ。

 

 俺は動けないカエル(ジャイアントトード)に向けてショートソードを構える。

 

 命を奪う。

 今から目の前の生物の人生を終わらせる。

 

 思わず手が震えてきた。

 

 こういうのは勢いでやった方がうまく行くのだろうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 うん、何故か容易に想像できる光景(IF)だ。食われてる誰かかは多分お調子者で隙だらけの奴だったんだろう。

 

 そんな光景を思い浮かべていると、自然と手の震えは止まっていた。

 息を整える、深く、吸って、吐いて、覚悟を決めて剣を繰り出した。

 

 数十秒後、俺は始めてのレベルアップを果たした。

 

 

 2、冒険者ギルド

 

「乾杯!」

乾杯(かんぱーい)!」

 

 あの後もう二匹をクリスに『バインド』して貰い討伐したところで一旦帰ることにした。

 というものの俺の体力が限界になったのだ。

 一日中走り回っていたらそらそうなるわな。

 元引きこもりにしては上出来すぎるだろう。

 というわけで現在酒場でクリスと反省会という名の飲み会を開いていた。

 

 こののど越しと爽快感! 

 最初は苦味で敬遠していたが仕事終わりにはこれが無いと生きていけない身体になってしまった。

 

 目の前でシュワシュワだったかシャワシャワだったかクリムゾンビアだったかそんな感じの冷えた一杯を勢い良く飲み込むクリスもその快感には勝てないようで、気持ち良さそうに一気飲みしている。

 

「っ! ぷはー! ……どうしたの?」

 

「んー……ちょっとなぁ」

 

「なにさ? お先にこの唐揚げ貰っちゃうね」

 

 共用で頼んでいたジャイアントトード(さっきのカエル)の唐揚げを一つ口に運んでいくクリス。

 うーん、良い食いっぷり。

 

 俺が気にしていたのは今回のジャイアントトード(悔しいけど旨い唐揚げ)討伐の買い取り金だ。

 カエル一匹の買い取り金が5000エリスで、それが今日三匹で1万と5000エリス。

 

「クリスのお陰で無事に討伐できたけど一人だったらマジで死んでたんだよなぁ。頭割りなら安全な土木工事の日当よりも少し高いくらいなんだよなー、って思ってさ」

 

「あはは! その事を気にしてたんだ」

 

「しかも今回のジャイアントトードってこの辺で一番弱いモンスターなんだろ?」

 

「そうだね、ジャイアントトードよりも弱いモンスターなんて数えるくらいしかいないと思うよ」

 

 ていうことはあのくそでかガエルはドラク○でいうスライムということになる。

 そのスライムに行動不能の状態異常をかけてもらって、ようやく倒せるのが今の俺である。

 いや、他の転生者マジでどうやってるんだ? 

 いくら力を貰ったと言っても自分よりでかいのに戦いを挑む恐怖は薄れないと思うんだが……

 

「いや、一旦その話は置いておこう。まずは飯だ! 引率してくれたお礼に今日の晩飯はおごりだ、何でも頼んでくれ!」

 

「えっ!? ホント? じゃあこのスモークリザードのハンバーグとシュワシュワおかわりくださーい!」

 

「あっ、やっぱ手加減お願いします……」

 

 一瞬で空になった杯を片手に大声で注文するクリス。

 ジャイアントトード系列の料理はまだしもこのペースでシュワシュワと飯を食われたら財布が空になってしまいます。

 

「冗談だって! 後輩に奢らせるわけないでしょ!」

 

 やはり顔が引きつっていたのかからかうようにそう言うクリス。

 結局今日は折半という形で収まり、各々好きなように飲んだり食ったりをしていたのだが、クリスがシュワシュワの入ったコップをテーブルに置いて俺を見ていた。

 

 何か言いたいことがあるのか? 

 そう思った俺もコップを一度テーブルの上に下ろしてクリスに向き合う。

 そのまま数秒、食事開始から初めての沈黙が場を覆った。

 そして……

 

「ねぇ、やっぱりキミってさ」

 

「何だよ……」

 

 この空気に頭を抱えて唐揚げを一つ頬張って、冷えたシュワシュワで飲み込む。

 そうしてから不自然に場の流れを断ったクリスの方を見やった。

 

 クリスとは俺がこの世界に来たその日からの付き合いだ。

 頼れるものは一つだけ、()()()から貰ったチート(転生特典)

 右も左も分からず、どうにかたどり着いた冒険者ギルド。

 一銭も持っておらず、まさかあるとは思わなかった登録料に苦しむ俺に見かねてお金を貸してくれたのだ。

 

 だが、俺の冒険者カードのステータスを見て苦笑いしていたのは絶対に忘れない。

 幸運が唯一高かったので自慢したらそれも負けていた事もだ。

 

 その後別れた後も日雇いで日銭を稼ぐ俺の様子をちょくちょく見に来てくれたり、冒険者についての基礎知識を親切に教えてくれたりしてくれていたのだ。

 

 その付き合いの中でチョロっと口が滑ってしまい、俺が日本という異世界から来たことや女神様から贈り物(チート)を頂いた事などをべろんべろんになった状態で話したらしい。

 

 普通そんな話は酔っ払いのざれ言だと判断される筈なんだが……クリスはその事を度々持ち出して今日みたいに俺の事をいじってくるのだ。

 

 まぁ、そんな彼女なのだが何か歯切れが悪そうにしている。

 まさかとは思うが俺があまりにも弱すぎてびっくりしたのだろうか。

 

 だがしかし、こんな俺も今日だけでレベルが2も上がったのだ! 

 レベルさえ上がればあんなカエルなんぞに遅れはとら、とらない……筈! 

 いややっぱり怖いもんは怖いわ。

 

 ……ていうか。

 

「そろそろ無言が辛いのですが」

 

 シュワシュワを飲んで間を持たせるのも時間がある。

 

「ごめんごめん、それじゃあ言わせて貰うね」

 

 クリスがビシッと俺を指差す。

 

「アタシにはね、キミには……冒険者に向いてないと思うんだ」

 

 

 3、馬小屋にも女神様

 

「へっくしゅん!」

 

 酔いもそこそこにクリスと別れた俺は何時もの馬小屋で身体を休めていた。

 身体を休める、と言っても最低限屋根があって藁が敷いてある。

 その程度でしかない。

 もう慣れてしまったが獣臭いし死ぬほど寒い、プライベートなんぞあったもんじゃ無いと板一枚挟んだ向こう側には同じように馬小屋で寝泊まりする冒険者が居る。

 

 それにしても今は春、それでこの寒さとは……夏はともかく冬場など朝起きたら凍死してるだろこれ。

 

「ぅぁ~、ちょっとだけ酔いが覚めたな」

 

 この世界に来て、始めて酒を飲んだ時はそれはもう散々だったが今では飲み方を理解し自分がどういう状態か分かるようになった。

 アホ程飲んだらわからないが、今はまだ大丈夫の範囲だと僅な泥酔経験が判断している。

 

 自意識が少しハッキリとしたところで、そろそろ日課を始めるとしよう。

 

「えっと、両手を組んで片膝ついて……どういう形でも気持ちがこもっていたらオーケーらしいけどやっぱこういうのは形からだよな」

 

 心を込めて、女神様へ言葉が届くように祈りを捧げる。

 

 頭にイメージを描けばより精度が高く電波? みたいなのが届くみたいなので、銀の髪をした純白の女神様。

 どうやら正規の転生担当神ではなかったようなのだが先輩の頼みで一時的に交代していたのだという。

 俺の恥ずかしすぎる死因(トラクターによるショック死)でも笑わず慰めてくれた。

 

 女神エリス様。

 

 まさかまさかのこの世界の最大宗教のエリス教の女神様。

 転生してから初めてその事を知った。自分で名乗らなかったし…… その時は驚愕で目玉と心臓が飛び出そうになった

 

 エリス様は様々なリスク、転生者の死亡率等を丁寧に説明してくれた上で、最後まで本当に転生するのかを念入りに聞いてきていたが、あんな顔をされてしまったら男として気張るしかなくなるというものだ。

 

 そのお陰でこんな素晴らしい転生特典(チート)を貰えたしな。

 幾つかある効果の内受動的なものは、あんまり実感できないが……

 その能動的に使える中で一番ありがたいと思ったのがこれだ。

 

『はい、今日もお疲れ様ですサトウカズマさん』

 

 脳内に直接響くように美しい声が聞こえてくる。

 最初の頃こそ違和感だらけで転げ回り死にかけ、回りの人達から奇異の視線とエリス様から心配の言葉(更なる追い討ち)をいただき、ボウリングの玉の様に人混みに突っ込んだりして地獄が起きた。

 途中くっそ固い、鉄の塊の様な強度をした聖騎士っぽい人が受け止めてくれなかったらどうなっていたかわからない。

 

 と、散々な目には会ったがこの『天啓』と呼ばれる最高位スキルの亜種のようなコレ。

 エリス様が忙しくない時限定だがなんと何処でもエリス様とお話が出来るのだ! 

 

 これがどれくらいすごいことかと言うと、転生して二週間と少し、エリス様に相談に乗って貰ったり、励ましの言葉を頂いたりして一度もホームシックにかかっていない事に尽きる。

 いや他にも色々あるんだが精神的安定に多大なる影響があるのだ。

 

『あ、あのサトウさん……? そんなに褒められても私としてはただお話をしているだけなのですけど……』

 

 再び女神様の声。

 この『天啓』亜種は、脳内でエリス様に伝えようと考えたものがそのまま向こうに筒抜けになるようなのだが。

 これを使ってる間に考え事をしていると、その中で強く思ったものが伝えようとしていなくても自動的に届くようになっているみたいなのだ。

 

 なので最初こそ赤っ恥をかきまくり自殺を考えたがそれはエリス様が止めてくれたのでやめた。

 だがあの慌てようはすごく可愛かったのでまた今度どうにかして見たいと思っている。

 

 と、そろそろ本題に移ろう。

 

 こほん、エリス様にご報告と相談があります。お時間大丈夫ですか? 

 

『何でしょう? 今日はまだ少し時間があります、私で良ければ聞かせてください』

 

 今日あった出来事、始めて動物? いや生物か? 虫や魚以外の生き物を殺したこと。

 レベルが上がったこと、そして……

 

『まず、始めてのレベルアップおめでとうございます! 日本という平和な国から来たサトウさんには慣れないでしょうが、この世界で生きていくには必ず必要になる行為です。今日はクリスという敬虔な信徒がフォローしてくれた様ですが……ジャイアントトードは冒険者にとって稼ぎやすい獲物に過ぎませんが一般人にとってはれっきとしたモンスターです。毎年少なくない人数の子供が……いえ、何でもありません』

 

 マジで怖かったしな。

 全く動かない状態じゃないと勝てる気がしないわ、あんなの。

 

『転生者の皆さんはレベル1からのスタート、その内殆どは戦闘系の転生特典(神器や能力)を持ち転生し、その恩恵や個人の資質もあって高ステータスで冒険者登録を済ませますので余り問題には成りませんが、サトウさんの様に戦闘向きでない転生特典で、高ステータスでは無かった場合、その……死亡率が跳ね上がってしまっています』

 

 言葉を詰まらせ、言いづらそうにエリス様は言う。

 それは暗に……俺に戦闘は向いていないと言っているのだろう。

 

 俺が押しきったとはいえ、戦闘向きでない転生特典を……それもかなり特殊な形で与えたことに何か思うところがあるのかもしれない。

 

それによって更なる問題が発生していますし……暗い話はここまでにして、サトウさんの悩み事とは何でしょう?』

 

 そうだった。ちょっとこればっかりは相談しないとわからない事があったんだった。

 エリス様との会話を楽しみすぎて忘れてしまっていた。

 

『私で良ければ何でも話を聞きますよ? 友達に言いづらい事でも、後悔している事でも、ここには私とあなたしか居ません。盗み聞きする方も……ふふ、こうしていると告解部屋の様ですね?』

 

 告解部屋というとあれか、エリス教会にもあったあれか。何人か住人が利用していたのを見たことがある。

 

 エリス様の声の雰囲気から何か凄い重大な事を今から俺が言うみたいな事になっているが……これほんとに言って大丈夫か?

 

『心配ありませんよ? 今日の出来事で不安が出来たのですよね?』

 

 えーっと、ホントに何でも大丈夫ですか? 

 

『はい、どんなことでも受け止めます』

 

 おぅふ、今のセリフちょっと股間に来てしまった。

 

 ええい、長引かせてもしかたない。

 こう言うのは勢いだって誰かが言ってた! 

 

 エリス様! 俺に! この世界の冬場を乗り越える秘策をください! 

 

『……あれ?』

 

 何か思ってたのと違う……

 みたいな声を出した女神様であった。

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