この素晴らしい世界であなたに幸福を!   作:エリス様にはやんでれの素質があります

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クリスクエスト

 0、天界

 

 星々の光が散りばめられた真っ黒な空間。

 その中心に一柱と一つの丸い水晶のようなものがあった。

 この水晶の前で佇む一柱こそ、佐藤和真の転生した世界の主神、女神エリスである。

 

 女神エリスは白く質素な椅子に座りじっと目の前の水晶を覗き込んでいた。

 

 この天界という場所では時間という概念はあやふやだ。

 希に天界と地上のパスを繋ぐバカ(異常事態)が居ない限り、限度はあるがここでは神の思うがままに時間が進む。

 その時間という概念を地上に合わせた上で、女神エリスはじっと目の前の水晶を見詰めて待っていた。

 

 それを例えるのなら、純粋な子供が初めて興味を持ったソレにひどく執着した姿、というのが一番近しいか。

 

 星の淡い光だけが女神エリスの白い髪を昏く照らす。

 

 結局その後、騒がしげな水色の女神が突撃するまでの間、地上時間にして8時間。

 それは丁度()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からずっと、己の()()()への最低限のリソース振り分けをするのみで、女神エリスはその何かをひたすらに待ち続けていた。

 

 

 1、クリス抱き枕事件

 

 意識はあるんだけど眠くて目は開けたくない、このぼぅっとした感覚は心地よく一生このままで居たいくらいだ。

 

 だが目を覚まさないといけない。

 

 ここは平和な日本じゃない世知辛い異世界だから。

 毎日働かないと生きることも困難なのは勿論、今日に限ってはもう一つ問題があった。

 

「クリスになんて報告するかなぁ」

 

「あたしがどうしたの?」

 

「いやぁ、めぐみんに関して……ん?」

 

 何か今おかしかったよな? 

 

「もしもしクリスさん?」

 

「はい、クリスさんですよ?」

 

 返事がある。だが俺が目を覚ます場所は馬小屋の筈で、昨日は気疲れの為に酒を飲まずに帰ったから意識は明瞭、酒場で転がってる筈はない。

 そして、クリスが俺の寝泊まりする馬小屋に居る筈がない。

 

 これらの情報から結論を出す。

 

「何だ、夢か」

 

「どうしてそうなるのさ!?」

 

 何といううるさい夢なんだ。

 危うく起きてしまうところだった。

 

「うるさいぞ、クリスに俺の寝泊まりする馬小屋を教えてないのに居る筈がないだろ。夢の住人なら大人しく抱き枕にされろ」

 

「ちょっと!? 何意味の分からない事をいってるのさ! ってやめて引っ張らないで……ひぅ!?」

 

 夢のクリスの腕を引っ張って毛布の越しに抱き付く。

 ……なんか凄い感触があるがこれは夢だ、夢なのだから何をしても許される。というか今更ながらヤバイことをしているので夢で有って欲しい。

 

「うーむ、何という抱き心地……」

 

「やっぱりキミ起きてるでしょ! ……えい!」

 

 スルリと俺の抱き付きを抜け出したクリスはそのまま俺の手を取って……浮いたぁ!? 

 

「おっふ!」

 

 背中に衝撃が走り、一瞬してから俺は柔らかい藁の上に投げ飛ばされたのだとわかった。

 恐る恐る目を開けると顔を真っ赤にし、ちょっと涙目なクリスがわなわなと震えている。

 

 ……うん! やっちまったな! 

 

「マジで夢だと思ったんです許してください何でもしますから」

 

 俺は土下座を迅速に実行した。

 

 

 2、クリスクエスト

 

「一先ずその謝罪を受け入れます」

 

 クリス抱き枕事件を乗りきった俺はもう冒険者が居なくなった馬小屋にクリスと二人きりで居た。

 と言うのも俺とクリスの一悶着をした時点で結構日が高くなっており、わずかに残っていた冒険者も騒ぎを煩わしく思ったのか出ていったからだ。

 

 ようやく話が落ち着いたところで俺は疑問に思っていたことを聞いた。

 

「クリスはどうしてここに居るんだ?」

 

 昨日の夜帰ってきていたとして、朝冒険者ギルドに行って俺が居なかったとしてここに来る必要はない筈だ。

 どうせ俺も起きたら冒険者ギルドに行くつもりだったし。

 

 正座したままでしびれかけの足を崩しながらクリスの方を見ると……焦ったような表情を浮かべて手をバタバタさせる。

 

「そうだ! ジャイアントトード討伐いかないと! 確か今日までだよね!?」

 

 成る程、どうやってここに来たかはともかく何故ここに来たかは理解した。

 クリスは昨日来れなくなった後、俺がどうしようもなく諦めて帰ったと思っているらしい。

 

「ふっふっふ……」

 

「ど、どうしたの? まさか……今の衝撃で壊れちゃった?」

 

「違うわ! 俺は機械か何かか! まずはこれを見てくれ」

 

「冒険者カード? なになに? レベルでも上がったのかな」

 

 冒険者カードを手渡しクリスに討伐の欄を見るように伝える。

 ここには自分が今まで倒したモンスターの討伐数が載っており、冒険者ギルドへの報告もこれで行った。

 つまりこの冒険者カードには俺が昨日討伐したジャイアントトードの数が足されており……一昨日クリスと一緒に倒したジャイアントトードの数よりプラス1されている! 

 

 最初は訝しげに見ていたクリスも、それに気付いたのか目をぱちぱちさせながら俺に再び向き合った。

 

「これって……もしかしてカズマ君一人で倒したの!?」

 

「フハハハ! どうだ! クリスが居なくても俺だってこれくらいは出来るんだ!」

 

 まぁ、実際はめぐみんを食べていて動けないカエルを倒しただけなんですが。

 

 これでちょっとは感心されるか? 

 

「やっぱ隠れた才能というか? 本当の力ってやつを……おぉ!?」

 

 ちらりとクリスの方を伺おうとするとその前にクリスに掴み掛かられていた。

 

「ホントに大丈夫なの? 怪我とか、指とか溶かされてない!?」

 

「あばばばば」

 

 がくんがくん揺さぶられるせいで返事が、返事が出来ない! 

 でも無理矢理にでも答えないと死ぬ! ステータス差でエリス様の元へと送られる!? 

 

「ってごめん! ……大丈夫?」

 

 途中で俺の様子がおかしいと気づいたクリスが手を離したのだろうか、手の感触が消えて強制脳みそシェイクが止まる。

 まぁもう、立ってられないんですけどね。

 

 毛布の敷いた藁の上に倒れ込んで声を絞り出す。

 

「うぷ……なんとか」

 

 バツの悪そうな表情をしているクリス、死ぬかとは思ったけどよくよく考えてそんな簡単に死ぬわけないなと思い直して問題ないことを伝える。

 

 あっ、やっぱ会話はこのまま(仰向き)でお願いします。

 

「成る程……怪我は無さそうだしホントにジャイアントトードを無事に倒したんだね」

 

「おう」

 

「となると、後一匹討伐しないと……期限は夜までは大丈夫だとしても早めに行った方がいいね」

 

「あー、その事なんだが……実は依頼は既にクリアしてる」

 

「……え?」

 

「実は臨時パーティー組んだんだよ、アークウィザードの子と。色々考えたけどやっぱ一人は怖くて怖くて」

 

「……アークウィザード? 上級職の?」

 

「そう、その上級職ってやつの魔法使えるやつ」

 

 アレをアークウィザードとして扱っていいのか甚だ疑問だが。

 じゃあ何かと言われると単発近距離ミサイルと答えるわ。

 

「で、その子と一緒にクエスト行って、一匹ずつ倒しておわりーって感じでそのままクエスト完了報告したんだよ。いやー、一匹は跡形もなくなってたから証明はムリだって思ってたんだけどな? この冒険者カードっていうのは便利だよなぁ、マジで感心したわ」

 

 ん? クリスがなんか固まったままだな。

 でも話は続けた方が良いよな? まだ大事な部分は話せてないし。

 ようやく気分も良くなってきたし体も起こすか。

 

「無断で悪いんだけど、クリスの取り分と俺の取り分を残した上でその子にもいくらか渡してる。後でクリスの分は渡すからちょっと待ってくれ」

 

「……うん」

 

 クリスは頬の刀傷をポリポリと掻きながら返事をする。

 なんか生返事だな……もしかして調子悪いのか? いや、俺を投げ飛ばしたあのパワーからしてそれはないか。

 

「その臨時パーティーを組んだアークウィザードとちょっと色々……詳しい説明はしたくないから割愛するけど、話し合って今日冒険者ギルドで会う約束をしてるんだよ」

 

「そう、なんだね……だから昨日は無かったんだ

 

「何か言ったか?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

「そうか? じゃあ話を続けるけど……冒険者ギルドでそのアークウィザードと話をしないといけないんだけど……クリス悪いんだけど」

 

「うん……分かってるよ」

 

「一緒に……へ?」

 

「大丈夫、一緒に行ったらパーティーだって勘違いされるかもだからここで別れて欲しいんだよね?」

 

 え? なに? 俺そんな話してたっけ?

 

「分かってるから、そんな顔しなくても大丈夫だよ! キミが初めてパーティーを組めるかもしれないんでしょ? その話の感じだと女の子みたいだし……あたしが行ってパーティーだって誤解されたら話がこじれちゃうもんね」

 

「えっと、あの……クリス、さん?」

 

 ヤバイヤバイ話がおかしな方向にぶっとんでる!? 

 クリスはもう話は終わったみたいな雰囲気で立ち去ろうとしてるし、こっちの話を聞いてるようで聞いていなかった!? 

 ていうか理解できる範囲でクリスの言葉を噛み砕いたら俺のやってることかなり最低な糞野郎なんですけど!? 

 上級職の仲間が出来そうだから今まで教えてくれた師匠みたいな存在のお前は用済みだーって感じの! 

 あっ、なんか胸が痛い。

 

 助けてエリス様! 

 

「カズマ君?」

 

「お、おおおおお、おちつけ!」

 

「まずはキミが一番落ち着いた方がいいと思うけど」

 

 何とか立ち去るクリスの足を掴んだ。

 振り返ってはくれないけどこれかなり怒ってるよね!? 勘違いすれ違いからの超解釈でかなり腹立ててますよね!?

 

 頭でエリス様に念を送る。

 何時ものエリス様直通脳内電話(脳内エリスさまでない)だ。

 

 …………

 

 あれ? 最近はほぼ待ち時間無しで繋げられていたのにこういう時に限って繋がらないんですけど!? 

 これじゃエリス様に解決策を出して貰う方法は使えない! 

 

 自力で何とかしろってか! こんなことなるんだったらスキルで話術とか意志疎通とか取っておくんだった! そんなスキルあるかどうかすら知らんけど。

 

「クリスさん? 俺とクリスさんとの間で、かーなーりーでかい理解の差が生まれてるんですけど」

 

「……理解の差?」

 

「そうだ、理解の差。俺が言いたかったのは、そのアークウィザードがこれからパーティーメンバーになるかもしれないからクリスと相談がしたかったんだよ!」

 

 我ながら何か言い訳がましいけど大丈夫かこれ!? 

 

「相談……?」

 

「そう、えっと……俺の勘違いかもしれない疑惑が浮上したんだけど、俺の中じゃ俺とクリスって今パーティー組んでるんだよ。そこに昨日俺が臨時パーティーを組んだその子がパーティーに入りたいって言っててさ! クリスが居なかったからその場で断ったんだけど……弱みを握られたと言うか場を握られたと言うかそんな感じで! だからクリスに言いたかったのは! 『そのアークウィザードがパーティーに入りたがってるから、一緒に着いてきてパーティーに入れるかどうか決めて欲しい』ってことなんだよ!」

 

 よし! 言いきったぞ! 端から見たら妻に出ていかれる夫がすがり付いてる状況にしか見えてないヤベェ状況だけと気にしてられるか! 

 どうせこの馬小屋には俺達しか居ないんだからな! 

 

「……え?」

 

「ほら、絶対なんか勘違いしてただろ」

 

 掴んだ足首からぷるぷると振動が伝わってくる。

 

「えっ? えっ? じゃああたしがしてた想像って」

 

「勘違いだし、それが産んだ状況は足元を見ればよーく理解できると思うぞ」

 

「あ、あぁぁぁ!!」

 

 耳まで顔を真っ赤にしてしゃがみこむクリス。

 

 危なかった、危うくクリスに捨てられる所だった。クリス視点からしたら俺がクリスを捨てたという誰も救われない勘違いで……

 ていうかクリスって思い込んだら一直線な所があるんだな……覚えておこう。

 

「……で、一緒に来てくれるか?」

 

「うん! うん! 行くから! 絶対に行くからごめん! ちょっとだけ頭冷やしてくる!」

 

「お、おい!?」

 

 スルリと俺の手の中から足を抜き姿を消すクリス。

 不安だが来ると言った手前必ず来るだろう。真面目だし。

 

 取り敢えず今俺がすべき事は……

 

「顔洗って準備して冒険者ギルドだな」

 

 まずは体に付いた藁を払って身支度を始めた。

 

 何かジャイアントトード討伐した時より謎に達成感あるわ……

 

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