この素晴らしい世界であなたに幸福を! 作:エリス様にはやんでれの素質があります
1、おたからゲットだぜ!
「ここら辺で良いかな」
「オッス! お願いしまーす!」
「あはは、なにそれ何の真似?」
これからクリスにスキルを教えて貰うので気合を入れたら笑われてしまった。
実際やる気は満ち溢れてるのでそのままクリスの言葉を待つ。
「じゃあまず、あって損はない潜伏と敵感知スキルからかな」
潜伏という言葉に聞き覚えがあったので報告しておく。
「あー、潜伏スキルはもう取得可能状態なんだ。これって取っておいた方がいいのか?」
「そうだね、アンデッドに効かないという弱点はあるけど他のモンスターなら殆どスルーできるし……正面戦闘に弱いキミには今から教える敵感知と合わせて必需品になると思うよ」
潜伏スキルは物陰に隠れたりした時に気配を消すスキル。そこに居ることがバレてる場合はともかく、ダンジョンを巡回するモンスターをかわせるなら確かに有用だな。
不意打ちとかにも使えそうだ。
「そしてお次の敵感知は……そうだね、ちょっとあっち向いててくれる?」
「うん? わかった」
クリスに言われるがままに明後日の方へ向く。
何がしたいん……痛た!? え! なに!? 石!?
「おい何するんだよ!」
急な痛みにびっくりして恨みを込めてクリスを睨み付ける。
クリスは目を閉じたまま腕を目の前で交差させて、何かを感じ取ってるようにも見える。
「うん、ビンビン来てるね。今のキミから漂う危険なオーラを敵感知スキルが察知してるよ!」
「えぇ……?」
「と、こんな感じでこのスキルは、今出会うと自分を害するだろう存在を察知してどこに居るか教えてくれるんだ」
こんな教えられ方で大丈夫か?
大丈夫だ、問題ない。とばかりに冒険者カードには新たに敵感知スキルが浮かび上がっていた。
「後は……
「とっておき? それって一体何のスキル……?」
俺の話を聞かずに、腕を突き出した体制で身体を固定するクリス。
「百聞は一見に如かずってね! いってみよう! 『スティール』!」
クリスがスキルを発動したとたん、まばゆい光が辺りを包み、思わず目を閉じてしまう。
やがて光は消えていき、目を開けるが……身体に違和感。
何か身体が少し、軽くなってるような……
「一体何が……」
「一先ずは成功、そして肝心の獲物は……」
クリスが手のひらを上に向けて、閉じていた手をゆっくりと開く。
そこにはそこそこの金貨が詰まっているであろう革袋が……ってあれ俺のじゃねぇか!!
「当たり! ってね」
いたずらが成功した子供のように意地悪く微笑むクリス。
念のため俺自身財布を入れていたポケットを探るがそこには元からなにもなかったかのように空っぽだった。
「マジで無い……今のスキルで取られたってことか」
これが窃盗スキル。
まばゆい光と掛け声でバレずに盗む事は不可能だけどそれでもかなり有用そうなスキルだ。
ていうか撃たれてからの回避方法存在しないだろ。
「このスキルの成功率はスキルのレベルと熟練度、対象とのレベル差……そして使う方の幸運が大きく関わってくる」
「幸運……」
「そう、幸運。前に一度キミから見せて貰った冒険者カードに書いてあったステータスを思い出してね、幸運値がずば抜けて高かったでしょ」
「ああ」
レベル1の時のステータス。
説明を受けるためにクリスに見せた時既に幸運値だけ三桁を越えていた。
他のステータスは一桁交じりなのにな!
「この窃盗スキルみたいに幸運値が成功率や効果に大きく影響してくるスキルは幾つかあるから、そういうスキルを探してみるのも良いんじゃないかな」
「なるほど……」
早速冒険者カードを操作して教えて貰ったスキルを探す。
危険感知……違う、敵感知、これだ。
でも危険感知も便利そうだなぁ、今度取ろう。1ポイントだし。
潜伏スキルも1ポイント、窃盗スキルは……これも1ポイントなのか。
どうせすぐレベルは上がるだろ、取っちまうか。
取得した瞬間、身体の中から何かが変わっていくような感じがした。
だがそこに不快感はない、ただ……全能感と言うのだろうか、今なら何でも出来そうな、素晴らしい力が満ち溢れたような気がする。
「よし、取れたぞ」
「窃盗スキルは取ったの?」
「あぁ、何かと便利そうだしな」
「じゃあ……ちょっとゲームしない?」
「ゲーム?」
クリスは俺の財布を再び握り締めるとにこりと笑う。
「今から『スティール』で私から財布を取り戻して見てよ」
「これって盗るもの選べるのか?」
「ううん、ランダムだね」
じゃあ無理じゃん。
「だからゲーム、もし無事に『スティール』で財布を取り戻すことが出来たら……」
「出来たら……?」
「今夜の食事は奢ってしんぜよう! 飲み放題に食べ放題だよ!」
「おおー!」
それは嬉しい。いくら
なによりも……こんな荒くれ者の冒険者っぽいイベントを見逃す手はない。
「じゃあ早速……」
「ちょっと待って」
「うん?」
右手を突き出してクリスへと手のひらを向けるとクリスが制止した。
そしてポケットから何やら……あれって石じゃないか?
丁度さっきぶつけられた石があれくらいの小石だったような……それが数個程。
「こちらが残念賞となっております」
へ?
「これを見事引き当てた時は、このキミの財布を使って今日の晩御飯を豪勢にしたいと思います!」
「いやいやいやいや!?」
「『スティール』は成功したら確かに強いけど、ちゃんとした対抗策が有るってことだねー。それに安心して? ちゃんと大当たりも用意してあるから」
そう言ってクリスは自らの腰にあるダガーを指差す。
「魔法が掛かったマジックダガー、売れば40万エリスはくだらない一品。他にもあたしの財布や他の持ち物もゲットできればプレゼント! どう? やる気出たんじゃない?」
……成る程、これは宝くじみたいなものだ。
ランダムという言葉が本当なら大体十分の一位の確率であのダガーが手に入る。
持ち物というのも幾つかあるだろうしそのどれかを引けたらお釣りが来る。
ただ気がかりなのが一つ。
「ちょっと待ってくれ、それ大丈夫か? もし俺がそのダガーを盗ったとして、クリスの戦闘力ダウンとか本末転倒になるんだが」
「大丈夫、大丈夫。予備ならあるし、それが気にかかるならその分キミの装備を買ってプレゼントしてあげるよ。元々装備は買い揃える予定だったんでしょ?」
それなら……大丈夫か?
「なら乗った!」
「よしきた!」
「ダガー盗られてもさっきの無しとか聞かないからな! いくぞ! 『スティール』ッ!!」
念を込めてスキルを叫ぶ。
手のひらに何かが集まってそのまま抜けていく感覚。
これが魔力なのだろうか? もしくは別のもの?
分からないがもうスキルは止められない。
「うん? なんで危険感知スキルが反応してるの!?」
まばゆい光と共に手の中に柔らかい布のような感触が……え? マジでなんだこれ。
「……? ……っ!? ぁっ!!?」
クリスは何が盗られたのか分かったのか?
その正体を確かめるべく俺はその布切れを日にかざして……っ!!?
これはっ!!
「神 引 き キターーーッ!!!!」
「わああああああ!! ぱ、ぱんつ返してぇぇえええええ!!!」
「イヤッフゥーーーーッ!!」
クリスが股を押さえながら悲鳴をあげる。
ぱんつが無いせいで違和感がすごいのか、涙目になりながらもそこから動かないでもじもじしている。
……あ、やべぇ、最初は今日色々あったからちょっとした仕返しをしてやろうと思っただけだったのにこう、色々と滾るものが……
も、もうちょっとだけ良いよね?
「フハハハハハ! あ、クリスさんその財布は差し上げますのでこちらは貰って行きますね」
「だ、ダメに決まってるでしょ!?」
「かーっ! 返してやりたいけどなー! ルールだからなぁー!」
「ねぇ!? 流石にこれは反則でしょ!? ……やっぱ怒ってる? 朝の事とかさっきスキルのためとはいえ石ぶつけた事とか……」
「あ、それは全然関係無いです」
「それはそれでどうなの!?」
さて、クリスの反応も堪能したことだしそろそろ返すか。
こんなところ誰かに見られたらヤバいし。
「あはは、じょうだ───」
「くぅ……流石にぱんつは恥ずかしすぎるし……かくなる上は……ごめん! 『スティール』ッ!」
「ん……?」
うおまぶし!?
『スティール』された!? …………あれ? でも手元にまだぱんつあるしな……ショートソードもあるし。
違和感らしき違和感と言えば妙に下半身が涼しいくらいで?
oh……
「成功、って……きゃああああ!!!?」
「パンツはパンツでも俺のパンツじゃねぇか!」
「なんでぇ!?」
俺が聞きたいわ。
というかこのスキル、着ている服すらこうも簡単に剥ぎ取れるのなら尚更悪用が捗るな……
と、余計なことを考える前にこれ以上の泥沼になる前に終息させよう。
そう考えた瞬間、町の至るところに設置されたスピーカーから警告音が鳴り響き俺達の動きが止まる。
『緊急クエスト発令! 冒険者の皆さんは至急正門に集まってください! 繰り返します! 緊急クエスト───』
「緊急クエスト?」
「緊急クエスト……あっ、もうあの時期だったっけ」
クリスは心当たりがあるみたいだが……
『冒険者の皆さんは至急正門に集まってください! 住民の皆さんは避難をお願いします!』
「おいこれやばいんじゃないか?」
「そうなんだけど……そうじゃないというかなんというか……」
「? よく分からないけど避難が必要な位の危ない事が起こってるんだろ? 急ごうぜ!」
緊急事態にこんなふざけてる場合じゃない。
今頃冒険者ギルドに居る筈のめぐみんとダクネスも向かってる筈だ。
「あの……カズマ君? まさかこのまま行くわけじゃ、無いよね? ね?」
確かに、このまま行った場合ちょっと集中出来ないかもしれない。ぶらんぶらんして。
だが現実はそんな余裕すら許してくれないらしい。
すぐ近くからバタバタとした足音が聞こえてきて、そちらの方を向くと冒険者らしき男が剣を持って走っているところだった。
確かスキルを教えて貰う為に話し掛けまくった内の一人だった。
その男はこちらに気づくと大声で叫ぶ。
「オイ! こんなところで何やってんだお前ら! 確か……酒を奢ってくれた新入りとその面倒を見てるっていう盗賊娘か?」
咄嗟にポケットに
バレたら社会的生命が終わる。
「すみません! すぐ行きます!」
「おう! 丁度良い、この前酒を奢ってくれた礼がまだだったからな! 走りながら使えるスキルを教えてやる!」
「マジすか! あざっす!」
敏捷性の低い俺は取り敢えずこのおっさんに追い付くために走り出した。
「ねぇ!? このまま行くなんて嘘だよね!? ちょっと待ってぇぇぇぇええ!!」
すまないクリス……返したいのは山々なんだが今は無理だ。
俺はポケットの中でぎゅっと純白の布を握り締めながら心の中で謝った。
『許しませんよ!?』
何やらエリス様の声でそんな幻聴が聞こえた気がしたけど……うん、気のせいだろう、多分。
0、天界
ここは天界の女神エリスの私室とも言える空間。
真っ暗な闇に数多の星の光が僅かに照らす、そんな幻想的な空間の一部が今、チャックでも開くかのように綺麗に裂けた。
「エリスー! 居るのー? 居たら返事しなさーい! ちょっとー! 居ないのー?」
美しい水色の髪と瞳をしたこの女神は他柱の部屋にずかずかと入り込むと、この部屋の主がいないことに苛立ちを見せていた。
「せっかくこのアクア先輩が遊びに来てあげたって言うのにあの子は……」
自らの事をアクアと言うこの女神は、まるでここが自分の部屋であるかのようにどかりと備え付けられてあった椅子へと腰かける。
「まさか転生の件が一発でバレるとは思わなかったわー、エリスが特別な案件として受理したから上が気付いたんでしょうけど。それでしこたま怒られたからエリスで遊んでストレスを発散しようと思ってたのに……どうしていないのかしら?」
アクアの予測ではこの時間? 帯はエリスは休憩で、この空間で休んでいる筈だった。
その予測が狂うとすれば、とアクアは考える。
「まさかあのくそ真面目なエリスに限って、
アクアが結局思い至ることはなく暇潰しに周囲を物色し始めた。
完全に空き巣の所業である。
とはいえ何度と来ている空間である。新しい私物を増やす事が殆ど無いエリスのこの空間で、この面白い物好きのアクアが気に入る物なんて、希に隠して置かれてあるお酒くらいのもの。
だから、本来そこにある筈の無いものを見つけた時、アクアは驚愕に目を見開いた。
「えっ!? なんでこれがここにあるの?」
それは真円の水晶体……のようなもの。
「これが生成される条件って確か
アクアはその
だが思い出したのは良いもののアクアはまた頭を抱えて唸り出す。
「だとしたら
そのまま数十秒程、頭を抱えて歩き回っていたアクアは、唐突に妙案を思い付いたとばかりに頭をあげる。
「そうだわ! 良いこと思い付いた!」
「何が思い付いた、ですか? アクア先輩」
「ひょほろほ!?!?」
いつの間にか音もなく背後に立っていたこの空間の主エリスの登場に奇声を上げるアクア。
「お、おおおお遅かったじゃない!?」
「はい、少し長引いてしまいまして……」
「あんたが珍しい事もあるものね?」
エリスは勝手に空間に入っていたアクアを咎める事もせず、しかし少しだけ困った顔をしていた。
「それで、何が良いことを思い付いた。ですか?」
「エリス……? ちょっと怖いわよ? ほ、ほらリラックスリラックス! ほら笑ってー!」
アクアはその手をエリスの頬へ持っていくとエリスのほっぺたを揉みほぐす。
「あっ! 申し訳ございません先輩、少しだけ感情が高ぶってしまっていて……」
「私は大丈夫だから! ほら顔もほんのり赤いし? ちゃんと休まないと女神でも倒れちゃうわよ! じゃ、私は今日は帰るから!」
そう言い残すと、アクアは逃げるようにして空間を割いて出ていった。
残されたエリスは、少しの間そのままアクアの去った空間の切れ目を見詰め、完全に閉じてから歩き出す。
そして真円の水晶を持ち出すと椅子に座り、それを膝の上に置く。
しばらくして、水晶が何かを写し出す。
それは薄くぼやけていたが時間が立つごとに鮮明となり、一つの光景が映し出された。
緑色の、大地を空を覆うほどの大軍。
絶叫する佐藤和真。
その佐藤和真にサムズアップするおっさん。
頭のおかしい爆裂娘。
息の荒い変態。
そして……
エリスはゆっくりと目を閉じた。
「あっぶな!? バレた!? バレて無いわよね!?」
自分の空間に戻ってきたアクアは一柱で騒いでいた。
「もしあの水晶玉が本物の
後輩の女神を思い憂いを帯びるアクアはこの瞬間、だけがどう見ても素晴らしい女神に見えることだろう。
「最悪私にまで飛び火しそうだし……仕方ないわね! これが終わったら詫びとして、エリスに美味しいお酒奢ってもらお!」
悲しいかな、女神オーラは一瞬にして霧散した。
女神アクアはその美しい水色の瞳を閉じる。
両手を重ね、神力を行使する。
強弱二種類の神力が渦を巻き、強い神力を強引に、感覚だけで取り除いていく。
強い神力は女神アクアのもの、弱い神力は女神エリスのもの、この女神エリスの神力は先程その頬を触ったときに付いたものだ。
「私くらいの女神になるとね! 手に付いただけの神力だけを使って奇跡を起こすなんて簡単なのよ!」
なおアクアが手に神力が付いていると気が付いたのはこの空間に帰ってきてからで、そこに全く作戦などは存在しない。
「ここにちょっとだけ私の神力を混ぜて~
汗を拭う仕草をする女神アクアの手のひらには、ビー玉位の小さな真円の水晶の様なものが創造されていた。