この素晴らしい世界であなたに幸福を!   作:エリス様にはやんでれの素質があります

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キャベツ祭

 1、全員参加クエスト! 『飛来するキャベツを全て収穫せよ!』(一部抜粋)

 

 俺の初めての緊急クエストは混乱を極めた。

 

「なんでっ! キャベツがっ! 飛ぶんだよっ!!」

 

「むしろなんでカズマは知らないんですか?」

 

「おいボウズ! そっち行ったぞ!」

 

「あっ、私もう動くことすら出来ないんでお願いします」

 

「開幕いきなりぶっぱなすからそうなるんだろうが! 『スティール』っ! 『スティール』っ! 『スティール』ぅぅ!」

 

「カズマカズマ! 後ろ! 来てます来てます!」

 

「分かってる! 敵感知スキルで把握済みだ……『スティール』ッ!」

 

「おぉ……鮮やかなお手前ですね」

 

「当たり前だ! ぶつかれば体が吹き飛ばされる威力を持つキャベツ? を相手に防具も無しじゃ危険過ぎるからな、お前も動けないし……敵感知スキルのフル活用だ!」

 

「ちょっとカッコイですよ!」

 

「スティールって生物も対応してるんだな……思ったよりも効果有るし、大人しくなるから大分楽なのに誰もやってないし。というかこれを生物と言って良いのかすら分からんのだけども。というかですねめぐみんさん」

 

「普通はキャベツにスティールしようとか考えないでしょうからね。それでどうしましました?」

 

「魔力、というやつですかね? スティールを発動する度に微量にですが失くなっていっていて……俺の魔力量だとこのペースが続くようじゃやばいんですが」

 

「……」

 

「……」

 

「おい! またそっち行ったぞ!」

 

「くそ! めぐみん! 魔力が尽きる前にキャベツが尽きることを祈っててくれ!」

 

「カズマ!? 他にスキルは! スキルは無いんですか!?」

 

 

 めぐみんにだけは言われたくない言葉を言われつつ。

 

 

「うわあああ!!」

 

「た、たすけてくれぇ!」

 

「任せろ! ……ぐっ!!」

 

「ダクネース! 大丈夫か!?」

 

「んっ! カズマ、大丈夫だっ、うっ……ぁあああっ!! 私はっ、皆の盾となる、騎士なのだから! んああああああ!!! さぁ! もっと来い! くぅああっ!」

 

「あんた鎧が……っ! すまねぇ!」

 

「もんだいっ! 無い! んあ! かじゅま! ここは任せろ! ああああ!」

 

「カズマ! ダクネスがまずそうです! ああは言っていますが……魔力が残り少ないとはいえ……助けに行きましょう!」

 

「……ウン! ダイジョウブジャナイカナ! 見た感じダクネスの体鎧より頑丈そうだぞ、見ろぶつかりに行ったキャベツがそのまま当たり負けして目を回してる。俺らはこのまま、潜伏スキルを使ってそれを回収しに行こう。それにダクネスは…………うん、あれは大丈夫だ」

 

「? まぁ、確かにダクネスの固さは異様の一言ですね……アレだけ攻撃を食らっているのに苦痛の声はあれど一歩も引いていません」

 

「うん、あれは悶絶してるね……」

 

 喜びで、と心の中でだけ付け加える。

 めぐみんのようなお子様が見て良いものではない。

 

 既に確信の域にある変態の見映えだけは良い騎士道精神を観察しつつキャベツを集め。

 

「やっほ! 調子はどうかな?」

 

「クリスじゃないですか! クエスト始まってからすぐに姿を消したんで探してたんですよ!?」

 

「動き回ってたのは背負ってた俺だけどな?」

 

「あはは、それはちょっと秘密かなぁ……ね? カズマ君?」

 

「カズマは何か知ってるのですか?」

 

「知ってるというか元凶というか……」

 

「俺を元凶にするのはどうかと思うが、それはそれとしてクリスさんや、俺のはまだなんですがそれは」

 

「し、しらない! あたしは遅れを取り戻さなきゃだから一旦離れるね! 潜伏スキルは切らしちゃダメだからね!」

 

「って! 俺のはマジでどこ!?」

 

「一体何の話をしているのですか……」

 

「おたから、かな?」

 

 あの格好でノーパン状態はやばすぎるからクエストが始まった最初の騒ぎの間に、こっそり返していたぱんつを履いたのかそれとも違うぱんつを履いているのかは分からないが帰ってきたクリスを見送って。

 

「かじゅま! 今年のキャベツしゅごいっ! しゅごいぞ!! ひゃっ! またしゅごいのきた!」

 

「カズマ! ダクネスの後ろからいっぱい来てます! トレインです!! 私達巻き込まれます!!」

 

「カズマ君! お願いだからスティールの射線にあたしを入れないでね!? 危険感知スキルがビンビン反応してるから……ってカズマ君逃げて!!?」

 

 こちらに手を振るダクネスの向こうからアホのように迫るキャベツの群れ。これでもめぐみんが減らしてくれてるのだから頭がおかしくなりそうだ。

 

 あっ、ていうかこれ逃げられねぇわ。間に合わない。

 

 潜伏で気配は消している筈だから単純にダクネスに体当たりするキャベツの群れの進行ルートがたまたまこっちだったのか。

 

 周囲を確認して一人くらいなら入れそうな穴ぼこを見つける。

 

「ちょっと我慢しろよ!」

 

「へ?」

 

 咄嗟に背負っていためぐみんをその穴ぼこへ下ろして、その上から蓋をするように覆い被さる。

 

「ひぅ」

 

 次の瞬間、視界は全て緑色に染まっていた。

 

 

 2、きゃべきゃべきゃべつ

 

 目の前は緑一色だった。

 

 キャベツ炒め、無限キャベツ、キャベツ千切り、キャベツ炒め、キャベツ焼き、キャベツ炒め、生キャベツ、焼きキャベツ、キャベツキャベツキャベツキャベツキャベツキャベツキャベツ焼きキャベツキャベツキャベツキャベツ炒めキャベツキャベツ。

 

 多すぎぃ! 

 

 そう目の前にはアホかというくらいのキャベツ料理(一部料理ですらない)が並んでいる。

 

 どれもこれも冒険者ギルドが格安で提供してくれているメニューからめぐみんとダクネスが遠慮無く頼んだからだ。

 

 ちなみに外の冒険者達の席も同じような食卓になっている。

 

 まぁ、何百居るんだよと思うくらいのあの飛翔するキャベツの群れ──自分で言ってて違和感がひどい──を全部捕獲したらそうもなるか。

 鮮度というものがこの不思議野菜にもあるようで早めに消化しなければならず、この酒場の特別メニューとして提供されている。

 

 フォークでキャベツの野菜炒めを慣れないながらも刺して口に運ぶ。

 シャキっとした食感に塩だけという簡単な味付けだとは想像も付かない旨味と甘味。

 正直なところ無限に食べていられる。

 

「なんでただのキャベツがこんなに旨いんだよ……」

 

「そりゃあただのキャベツじゃないからね、栄養満点、経験値豊富の高級食材だよ」

 

 納得いかねぇ……旨い……

 

「それにしてもあの時は危なかったね」

 

「ん……まぁな、取得した潜伏スキルが無かったら大怪我してたかもしれん」

 

 眼前を多い尽くす緑の壁、あの時キャベツが空を飛んでいるから姿を隠して地面に伏せれば被害を最低限に押さえられると踏んだのだ。

 

「まぁ、流石に何匹かにはバレて体当たりは食らったけどな」

 

「めぐみんがずっと叫んでたもんね、カズマ!? すごい音してます大丈夫ですか! って、悲鳴みたいな声で」

 

「止めてください! 何か恥ずかしいです! 仕方ないじゃないですか! 頭の上からおえっ! だのごほっ! だの聞こえてくるんですよ!?」

 

「実際思ったよりも衝撃がキツかったからな……ダクネスが割って入ってクリスがサクッと決めてくれてなかったら骨くらいは逝ってたかもな」

 

 考えただけでぞくっとする。

 痛みから……じゃなくてその怪我によって長期間働けなくなることに、っていうのが一番な理由な辺り俺もこの異世界に大分適応してきているのかもしれない。

 

「痛い痛いと言っていたのも直ぐにプリーストを呼んで回復魔法を唱えて貰いましたからね」

 

「初めて受けたけどすげぇわ回復魔法……どうにかして取得できねぇかなぁ」

 

「回復魔法はプリーストの魔法、たとえカズマが習得したとしても魔力と神への祈りによって威力が大きく変わる。カズマは何を信仰しているんだ?」

 

 ぼろぼろの鎧を再び着直したダクネスがしゅわしゅわと生キャベツをぽりぽりと噛りながら聞いてくる。

 

「信仰、か……」

 

「ふっ! ちなみに私は何かを信仰したりはしません! あえて言うのなら爆裂魔法を信仰、爆裂魔法崇拝者と呼んでください!」

 

「爆裂魔法崇拝者」

 

「カズマくんには前に言ったけど、あたしとそしてダクネスもエリス教だよ」

 

「うむ、前の質問もあってカズマもエリス教徒かと思ったのだが……その様子だと違うのだろうか」

 

 信仰、信仰……前の世界だと無宗派だったしなぁ。

 

「一応聞きたいんだけど無宗派ってのは?」

 

「無宗派? 考えたこともなかったな……」

 

「エリス教じゃなくても自然信仰だとか何かしらの宗派に入ってるのが当たり前だからね」

 

「わ、我々紅魔族は神になど頼りません! ……まぁ、里には神社やらなんやらはありますけど」

 

 あのめぐみんですら口を濁すのだからこの世界の住民にとって信仰とは深く根強いものらしい。何も信仰していないという発想すらなかったと言うくらいだ。

 

 いや、その(無宗派)に関しては日本が特殊なだけか? 

 この状況で色んな宗派の祭りを取り入れている多()教と答えたらどうなるのか。

 

 ろくな目に遭わなそうだな。頭がおかしいやつだとして扱われそうだ。

 

「もしかして、アクシズ教徒ですか? でも勧誘はしてきませんし……まさか悪魔信仰っ!」

 

「……そうだとしたらちょっとお話ししないといけなくなるね」

 

「クリス……? 目が怖いです! 冗談ですから落ち着いてください!」

 

「敬虔なエリス教徒としては悪魔に自ら魂を売り渡す行為を見て居られないからな、冗談だとは思うがクリスは大の悪魔嫌いだ。過剰に反応してしまうからそういう冗談は控えた方が良いだろう」

 

「やだなぁダクネス、あたしはちゃんと冗談か本気かは見分け付くよ。……本気ならお話しとかしないし」

 

「ひぃっ!? 分かりました! 以後気を付けます!」

 

 しかも、この感じだと宗派によっては地雷とかあるらしい。

 無いわけないか、宗派同士のいざこざなんてどこの世界も一緒だろうし。

 

 だとすればここで俺が出すべき答えは! 

 

「秘密、じゃ駄目か?」

 

 答えない、秘匿する。

 どうやらこの宗教の話はかなり重要でセンシティブな話題らしい。話を振ったダクネスも俺がエリス教徒だと一定の確信があったから聞いたみたいだし、今は話の流れにおろおろしている。

 ここで俺がエリス教だと答えれば丸く収まるのだが……個人的な理由でそれはしたくない。

 

 俺はエリス様を()()()()()()()()()()()からだ。

 

 いや、こう言ってしまえば語弊があるか。

 エリス様のことは信頼しているし信用しているが、それは完全な無条件なものではないしそうあってはいけないと思っている。

 何よりも、一方的な拠り所にしたくない。

 

「先に言っておくと俺はエリス教ではないしそのアクなんとか教でもないしましては悪魔信仰じゃない」

 

「え……」

 

「それじゃあ信頼できないだろうから軽く言ってしまえば、全てを受け入れましょう、みたいな教えの宗教だ」

 

「そこだけ聞くとアクシズ教みたいですね」

 

 マジか、アクシズ教どうなってんだ。

 

「そうだな、すまない。私が迂闊に聞いてしまったばかりに」

 

「私としてはカズマが何教でもない構いませんがね! 我は我が道を突き進むのみ!」

 

「ということで宴会の続きをしようぜ! このクエストでお金が沢山入るんだ、今日くらいパッと飲もうぜ!」

 

 二人は俺の話に乗ってくれ、それぞれ飲み物を追加で注文する。

 シュワシュワ大好きクリスさんもそれに乗っかるかと思ったがどうやらしないらしい。

 

「クリス?」

 

 クリスは完全に手を止めて何やらぶつぶつと呟いて下を向いている。

 

 結構気をつけて言葉を選んだ筈だが何か引っ掛かったのだろうか。

 

「悪い、何か気に触ったか?」

 

「……ううん、なんでもない。それよりもカズマ君」

 

「……何だ?」

 

 クリスは何処か陰鬱を思わせる瞳に陰りのある笑顔を見せる。

 快活で何時も頼りになる少女の始めて見るそんな表情に、思わず声が出にくくなり、意識がクリスに集中する。

 

「……ううん、お酒、飲み過ぎちゃダメだからね?」

 

 何かの葛藤が心の中で蹴りが付いたのか笑みに光が戻る。

 何を思っていたかは分からないがここは祝いの席だ、クリスが触れて欲しくないと思っているのならそうすべきだろう。

 

「おいおい、お前は俺のオカンか! というか昼間から飲み続けてるクリスさんには言われたくないね!」

 

「あはは! それは確かにそうだけどあたしがこれくらいで酔い潰れるなんてあり得ないから心配しなくてもいいよ!」

 

「それは嘘が過ぎるぞ。何回泥酔したクリスさんを介護したと思ってるんだ」

 

「えっ!? 待って何の話!?」

 

「カズマ! 見てくれ! 今日助けた冒険者から奢りで唐揚げを頼んでくれたぞ! 一緒に食べよう」

 

「おっ! 旨そうだな! こいつをキャベツと挟んで……パンは無いのか! あとマヨネーズ!」

 

「何ですかその心引かれる組み合わせは! 私もやります!」

 

「ちょっと待って! その話を詳しく!」

 

 こうして初めての緊急クエストは、正式な仲間を二人迎え入れて大成功で幕を閉じたのであった。

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