転生したけど祖父が怪奇現象起こしてる   作:ちゃっぱ

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第十五話 同じ道筋だけどちょっと違う

 

 

 

 歩いて帰るはずだった。

 自分の足でしっかり考えながらでもいいから、時間をかけて自分の気持ちと向き合いたかっただけなんだ。

 烏天狗に見つかったせいでその願いはかなえられなくなってしまったけれど。

 

 僕の前に降り立った烏天狗が「ようやっと見つけましたぞリクオ様。やはり……」と案じている様子で声をかけてきて、僕が背負ったままのランドセルをしっかりと持って自分ごと空中散歩のごとく飛んで帰る最中。

 多分、パラグライダーをしている人はこんな気分なんじゃないかな。烏天狗が僕を振り落とすことはないって信頼はあるから、己の足で立つことのできない不安定さでも怖いとは思わない。

 

 それよりも、考えたかった。

 

 

「まったく、リクオ様。帰りが遅くなって心配して来てみたから良いようなものの……」

 

「…………」

 

「あの距離を歩いて帰ろうなどと……」

 

「ち、違うよ!次のバスで帰るつもりだったの!」

 

「それでもです!これからは嫌がられても絶対、お供を付けますからね!」

 

「…………」

 

 

 何も言わなくなった僕に対し、烏天狗は小さく溜息を吐く。

 心地良い風が吹く。頬を撫でるような暑さはそこまで酷くない。しばらくしたら夏が来るんだろう。

 

 ────雲一つないせいだろうか。夕焼けが眩しい。でもそれはきっと、カナちゃんの炎を思い出すせいだろう。

 

 妖怪でも知らないから怖い。だから知ればいいと彼女は言う。

 共存することだっていつかきっと出来るはずだと、人間から妖怪へ変異してしまった少女は気負うことなく楽しそうに言っていた。

 人間として生きるために妖怪の力を制御する修行を行っているカナちゃん。僕よりも彼女の方が妖怪と人間が共存するという道を歩みたい夢を持っているように見えた。

 

 それがとても、眩しかったから。

 

 

(僕に出来るのかな……)

 

 

 たった一つの不安が己の胸に沈む。

 今の僕は明らかに人間だ。カナちゃんのような人間から妖怪の姿になることはない。あの眩い炎になる力も、今の僕には備わっていないように感じた。

 

 妖怪は悪い奴らが多い。でもそれは、仕方のないことだと言っていた。

 人間に良い奴等や悪い奴らがいるように。妖怪にだっていろいろあるのだと。

 ならばそれを率いてこそ、導いてこそ奴良組なんじゃないのかと。

 

 ……きっと、そう言いたかったんだろうな。カナちゃんは。

 そんな期待に応えられない自分がいた。だって妖怪は悪いことをしてるじゃんか。僕はああなりたくない。でもカナちゃんが妖怪だから……だから、と。

 

 

 

「なぁ烏天狗。僕って……人間なのかなぁ……?」

 

「え?」

 

 

 きょとんとした様子で烏天狗は僕を見下ろす。

 そこにはちょっとだけ呆れたような感情の色も見えた。

 

 

「そりゃまぁ、そうですよ。お母様もおバア様も人間ですから……」

 

「だよね……」

 

「ですが総大将の血も、そりゃ四分の一は入っております」

 

「四分の一も……?」

 

「ですからほら、不安そうな顔なんてしないで────もっと堂々としていれば良いのです」

 

「…………」

 

 

 ああ、そうか。

 なんとなくわかった気がした。

 

 多分僕は、カナちゃんみたいな妖怪になりたいのかもしれない。

 人間と妖怪が共存しているような身体をしたカナちゃんみたいに。

 

 

「僕にもなれるかな……」

 

「なれますよ。必ず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……! か、帰ってこられたっ!!」

 

「若!! よかったです。御無事で!!」

 

「はい?」

 

 

 庭に降り立った瞬間ざわめきと安堵の声が聞こえてきた。

 烏天狗を見たが、何が起きているのか分からない様子。つまり僕らがいない間に何かが起きたってことだよね?

 

 何があったんだろうと首を傾けると雪女が泣きながら僕にしがみついてきた。

 

 

「いったいどうしたのじゃ、皆の衆……」

 

「だって…だって…!! 生きててよかったですー!」

 

 

 

 生きててよかったって一体どういうことなんだろうか。

 なんでこんな騒ぎになってるんだと、周りを見渡してると茶の間のテレビから声が聞こえてくる。

 

 

 

【中継です!! 浮世絵町にあるトンネル付近で起きた崩落事故で、路線バスが"生き埋め"に…!

中には浮世絵小の児童が多数乗っていたと見られ…】

 

 

 それは、いつも見慣れた風景。

 その出入り口が瓦礫に埋もれている悲惨な状況。

 

 

「えっ……? な、なんで!? だって、さっきまで……バスが動いてて……」

 

「おおリクオ、帰ったか……お前悪運強いのー」

 

 

 お爺ちゃんの声が聞こえてきたけれど、それをちゃんと聞く気はなかった。

 カナちゃんが笑って、頭を撫でてくれたことを思い出す。

 

 ついさっきまで話していたあの景色を忘れることはできない。

 ざわめく周囲と同じぐらい、心臓が痛くなった。

 

 

「リクオ様が帰っておられるぞ」

 

「本当じゃ!」

 

「死んだとは嘘か。よかったよかった」

 

 

 また明日学校でといっていた。

 明日は僕の家で修業をするんだって言っていた。いつものように遊んでから妖怪としての力の使い方を学ぶって話してくれたんだ。

 

 奴良組を恐れることのない幼馴染。気を付けて帰ってねと言ってくれたのに。

 いつの間にか肩に掛けられていた羽織をギュッと握りしめた。

 

 

「助けに……行かなきゃ……」

 

「リクオっ!? 何処へ行くんじゃ!」

 

「カナちゃん達の所だよ!!」

 

 

 庭先に飛び出すとお爺ちゃんが止める声が聞こえてくる。でもそれで止まってはいけない。

 ここで止まったらきっと一生後悔する。

 

 僕が助けなかったら、カナちゃんが死んじゃったら。ううん。クラスメイトの皆がもしもこれで手遅れになってしまったらと思うと……。

 

 

「カナちゃんを……クラスメイトの皆を全員助けに行く!! ついてきてくれ!! 青田坊!! 黒田坊!! みんなもっ!」

 

「ヘ、ヘイッ!!」

 

 

「まて! 待ちなされ!!」

 

 

 ああもう今度は誰だよ! なんで助けに行くのを止めるんだ!!

 苛立ち交じりに後ろへ振り返れば、険しい表情をした木魚達磨が一歩廊下を踏み出した。

 

 

「なりませんぞ。人間を助けに行くなぞ、言語道断!!」

 

「何言って……カナちゃんは奴良組の傘下に入ってるはずだろ!!! 助けるのは当然だ!!」

 

「さて、あの娘……確かに傘下には入りましたがこれで死ぬようであっては奴良組の威厳というものが」

 

「はぁぁ!?」

 

 

 威厳なんてどうでもいいだろう。人の命がかかっているんだぞ。そんなもののためにカナちゃんを殺させるわけにはいかない。

 だってそんなの馬鹿げてる。傘下に入った意味がないじゃないか! お父さんだって言っていた。奴良組傘下に入ったってことは、守るために入れたようなもの。救わず傘下に入れてそれで終わりじゃ意味がない。

 

 周りがガヤガヤ喧しい。

 人間を救う救わないでもめている。そんな時間すら惜しい。

 

 人間を助けることを嫌う妖怪。その無駄なプライドでカナちゃん達が死ぬかもしれない。それに焦りが生まれる。周りの喧騒に失望と苛立ち、そしてそれら全てを塗り替えるような怒りが込み上げてきた。

 

 

 ────ドクンと、脈打つような音が体内で響く。

 

 

 

「やめねぇか!!!」

 

 

 煩く聞こえるのは周りのせいか、それとも己の中か。

 驚いた顔でこちらを見た周りに対し睨みつけた。

 

 

「時間がねぇんだよ……。おめーのわかんねー理屈なんか聞きたく無いんだよ!! 木魚達磨!!」

 

 

 人だから皆を率いてはいけないというのなら。

 傘下に入っても弱いからと捨て置くというのなら、それを覆してやろう。

 

 

「オレが『人間だから』だめだというなら────妖怪ならば、オマエらを率いていいんだな?」

 

 

 

 身体が熱い。

 吐き出される吐息に熱がこもっているかのようだ。

 

 カナちゃんは、これを何度も経験していたのだろうか。

 

 

 

「だったら…人間なんてやめてやる!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 とある人物に会いに行くという用事で浮世絵町から遠くの方へ出かけていた帰り。

 少しばかり遅くなったが鯉伴は気楽に奴良家の門を潜り抜けた。

 

 そこにあったのはいつもとは違う騒ぎ。それに鯉伴は眉を顰める。

 

 

 

「随分と騒がしいが、こりゃなんの騒ぎだい?」

 

「おおっ、鯉伴さま! ようやくおかえりですか!!?」

 

「ああ、ちょいと野暮用でね……んで、おもしれえことになってんじゃねえか」

 

 

 鼻歌でも歌えそうなほど上機嫌な鯉伴が見た先にあったのは、妖怪を率いる幼い姿。

 己の息子たるリクオが妖の姿となってどこかへ行くということ。

 

 近くにいた納豆小僧から話を聞くに、何でも洞窟で崩落が起きていること。そこに妖怪が絡んでいること。奴良組のガコゼが絡んでいるんじゃないかという話があった。

 それら全てを、鯉伴は事前に聞いていた。崩落事故などどいう事が起きる前に、まるで全てを知っているかのような口ぶりで話す奴がいたことを。

 

 

(あいつの報告は嘘じゃねえのか……)

 

 

 それを知っていてなお、カナちゃんがあの場に残ったのかと鯉伴は眉をひそめた。

 アレは裏切りはしないだろう。しかし少しばかり急すぎやしないかと不満げになっただけのこと。

 

 ────奴良組の総大将という役目を降りてからこの数年でだが、鯉伴にもいくつか変化したことがある。

 信用できるもの。出来ないもの。

 秘密を共有出来るもの。そうじゃないものといくつか見定めてきた結果、見つけてしまった一つ。

 

 

 それについては後で考えるべきかと鯉伴は思考を切り替える。

 

 

 まあそんなことよりも、と。

 鯉伴はリクオの方へ近づいた。妖になってもなお見間違えることのない息子を見て上機嫌になりながらもだが。

 

 

 

「リクオ」

 

「……止めるんじゃねえよ、親父」

 

「そんな無粋な事するわけねぇだろ? そら、覚醒記念の選別だ」

 

 

 渡したのは鯉伴が初代たるぬらりひょんから受け取った祢々切丸。大事に使われていたその刀は、もう自分の代で使うことのないだろう。

 あの祢々切丸も含めて、鯉伴からリクオへ引き継がれていくものの一つ。

 

 これから先の奴良組は、リクオが背負っていくのだから。

 

 

「好きに使え。そいつはもうお前のもんだ」

 

「……ふん」

 

 

 リクオが向かう先に周りの妖怪たちもついていく。

 行かないのは反対派といくつかの信用できない者。それから────。

 

 

「親父、俺は行くぜ」

 

「いちいち言わんでも分かっとるわい」

 

 

 

 茶を飲んでいたぬらりひょんへ向けてひらりと手を揺らし、リクオの晴れ舞台を見るために歩き出した。

 

 

 

 

 

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