転生したけど祖父が怪奇現象起こしてる 作:ちゃっぱ
あつい。
身体が燃えるように熱い。
「あぁ……がっ……」
息を吸うごとに喉が焼けるように熱く、燃えているのを感じる。
痛い。いたい。
助けてって声が出ない。苦しいのに、動けない。
「っ……」
気づいてしまった。
自らの手が、動かせないことに。
違和感が身体中に襲い掛かる。
何かが出てこようとしている。
皮膚が一枚一枚剥がされていくように、身体を動かすだけで激痛が走る。
拷問でも受けているのかと思えるような感覚。
まるで、爪の間に針を入れられるように。
身体の内側で何かが蠢いているかのように。
そんな感覚に襲われている。
なのにそれら全ての痛みを、違和感を────覆すように。
炎というよりは太陽のような灼熱。
身体を燃やし、溶かし尽くすマグマのような熱。
冷めているようで温かい。
息が出来ないほどに、熱い。暑い。あつい。
《────》
何かが出てこようとしている。
内側も外側も酷く傷ついているというのに、自分はなぜ生きているのだろう。
《────》
俺は────いや違う。わたし?
自分がぐちゃぐちゃになっていくような感覚。
今の自分には、身体がちゃんと機能しているのか分からない。
地獄の炎を全身で浴びて、炭になってもなお生きてしまった化け物かのよう。
いたい。痛い痛い痛いいたいいたいいだい。
「っ────!」
声のない絶叫。それを上げたところで痛むのは自分の責任。
口を大きく開けたことで己の内側に入り込む炎のせい。
《────》
不意に火の勢いが弱まったせいか、己の内側に感じていた激痛を知覚する。
自分が何処にいるのか分からない。ぐちゃぐちゃに溶けた方がいい。この世界から消えてしまいたい。
身体から何かが這いずり回っている。
何かが出てこようとしている。
痛い痛いいたいいたいいだい。爪で肌をかきむしってもなお痛みは消えない。腹の中身を全てひっくり返せば消えるのか。消えて。きえろ。
嫌だ。爪を立てても無理だった。
《────》
激痛が身体中を蝕む。
「────っ」
熱くはなかった。冷たい。冷たいのに寒い、寒い寒い寒いさむい。
息が出来ない。
何かが出てこようとしている。
身体が痛い。
這いずり回る何かが自分の身体を食い尽くそうとする。痛いいたいいたい。
苦しい。いたい。いやだ。
何かが出てこようとしている。
それを止めたいのに。
何かが出てこようとして────。
それを出しては駄目だって、気づいた。
ああ、自分は死ぬひつようがある。
しななきゃ。
はやくころしてほしい
ころして
《ころせ》
「───ア゛がっ!!」
何かが出てこようとしてきた。
血が噴き出てきたような。
腹を食い破るような何かが出てきた感覚に、おそわれて。
『ほーれ言わんこっちゃない。カナには耐え切れず零れ落してしまうものじゃったろ。儂……いや、ワシじゃな。いかんいかん。ちいとばかし吞まれたわ。……ほれ、ワシがいてよかったな。知らぬ方が身のためとはこのことじゃぞ?』
響いてきた声が、誰のものなのか思い出せなくなった。
不意に頭を叩かれる。とても軽快な音が鳴ったが、痛みはない。
『お前さんはカナじゃよ。ワシではない。儂でもない。陰陽師でもない。人間でも妖怪でもない。呪いでも悪霊でも道具でも誰でもない。ただの家長カナじゃ。思い出せ。お前さんが感じていた痛みは全てワシのものじゃ。カナが背負うべきものではない』
「……はっ」
『そうじゃ。ゆっくり戻ってこい。ここまで帰ってくるんじゃよ』
背中を撫でられる。
寒くもない。熱くもない。ほのかに温かい、優しい感触。小さな手が自分の────いや、俺の身体をいたわるように撫でてくれる。
そうだ、そうだよ。思い出した。
俺は家長カナで、生まれ変わっていて……。
ようやく視界が晴れた気がした。
今いる場所は心象風景。夜空がとても綺麗な、赤い花々に囲まれた場所。
身体が震える。手が思うように動かない。でもそれは、ジジイが撫でてくれるごとにゆっくりと治っていくように感じた。
自分の腹を撫でたが何もいない。
心臓を押さえたが、何もいない。
自分の内側に何かがいるような気配もない。
いるとすればジジイだが────。
「い、まのは……」
『あれはワシの一部分じゃ。いわば《おもいの固まり》じゃな』
「おもい?」
『うむ。感情とは奇妙なものでな。人が中途半端に殺されでもすればその無念の感情が生まれる。他人に向けられたもの、自分自身へ込み上げてくるもの。何だって良い。それら全てが想いとなるのじゃからな』
「かんじょう……」
『後悔、悲しみ、怒り、憎しみ、殺意。死ねという強い思いもまた、ワシの一部分じゃ』
「えっ」
『……まだ分からぬか? 呪いじゃよ。鯉伴がちょいとだけ牽制する程度のものじゃがな』
目を半月のように歪ませ笑うジジイ。
楽しそうに見えるが、同化しているせいだろうか。心の底から笑っているように感じない。ただいつものようにお気楽に答えているだけ。それがとても歪で、道化のように言っているだけに感じた。
『ああ、ちと一つになり過ぎたな……ワシが怖いか?』
「……別に怖くねえよ。それよりさ、リクオの件でいろいろ腹立ってたんだ。ジジイお前のこと殴っていいか?」
『はははははははっ!! 潔いな! 流石はワシの孫じゃ! じゃがワシも痛い思いはしたくないのでな、却下じゃ!!』
「チィ!!」
ぶん殴ろうとしたがジジイは軽やかに俺の拳を避ける。それに苛立ったがこれ以上殴ろうと挑んでもどうせ体力と時間の無駄。ならばと俺はジジイに向き合う。
「……ええと、つまりお前は呪いってこと? 呪いの一部?」
『ワシの一部分が呪いに近い。まあ本質は人であった頃と変わらぬが』
「えっ、お前人間だったの!?」
『まあな。あのクソ陰陽師と何度かやり合ったことのある多才かつ凄腕の陰陽師……の友人だったかもしれぬし、そうじゃないかもしれぬし……ただの式神やもしれぬ』
「はい?」
首を傾けると、ジジイはわざとらしく笑う。
どこぞの漫画で言うなら可愛らしい顔で描かれているだろうそれ。俺から見れば色違いの自分なので気持ち悪いだけだが────。
『知らない方が身のためじゃぞ?』
「ああああもう! それは身を持って知ったわクソジジイ! ってかあの身体に何かがいる気配ってなんだよ!?」
『知らぬ方が身のためじゃぞ』
「結局何も知らねーだけじゃん!!」
『一部は教えたじゃろ。《おもい》も《呪い》もな。あれもまた何かがいる気配じゃよ』
「……あと、お前がもともと人間だったってことと。安倍晴明とやり合った陰陽師かもしれないし、友人かもしれないし、式神かもっていうのは分かった。いや全然わからねーななんだこれ。おい喋る気あるのか?」
ジジイを睨みつけると奴は両肩をすくめる。
『そんなにワシの事が知りたいのか?』
「違うって。まず何で俺が知らない間に好き勝手してきたのかについて知りたいんだよ!!」
『ああ、それか』
目を閉じて空を見上げたジジイが小さく息を吐いた。
『ワシらは異物じゃ。分かるじゃろ?』
「……まあ」
『ある意味カナも不運ではあるが……お前さんが異物であるがゆえに、原作での怖がりな家長カナであればあのような薄暗い場所に通ることはなかった。穴に落ちることもなくいつか自然と消えていたじゃろう』
バタフライエフェクトという感じだろうか。
リクオを可愛がる俺はある意味妖怪に近い関係でもあった。怖がりでもなく、むしろリクオの関係者だからと自ら近づくこともあったな。
それが不運とは────?
『眠っていたはずのワシが目覚めてしまった』
小さく呟いたそれは、聞き逃すほどの儚いもの。
『おなごじゃが肉を得た。羽衣狐とはまた違うように、妖怪になってしまった』
いつもなら燃えるように赤いはずの瞳が、その瞬間だけは真っ黒に見えた。
『ワシはな。もともと晴明────あのクソ陰陽師に封印された身なんじゃ』
「それって最初に言ってたこと……だよな? 封印されて、あの祠にいたって」
『そうじゃよ。……しかしな、あのクソ陰陽師がわざわざ封印なんぞという手を使ってワシを閉じ込めると思うか? あれはな、ワシを使いたいだけなんじゃよ。利用価値があるがゆえに封印されてしもうた。クソムカつくがな……』
だから、危険なんだとジジイは言う。
自分という異物が出来てしまったことで、原作通りの勝利が得られるのか分からなくなったと。
「……だから俺が眠っている間に戦力拡大……みたいなことしてたってわけ? あと俺に修行付けるとかなんとか」
『おお。察しが良いな。そうじゃよ』
「んで、知らない方が身のためってのは?」
『ワシの身体はカナでもあるからな。ワシが背負っておけばいいモノをカナが背負うといっているようなもの。そのような真似させられるわけないじゃろうて』
「……あー。つまり?」
『全部あのクソ陰陽師をぶっ殺すためじゃな!!』
サムズアップし、とってもいい笑顔で叫んだ内容に顔をひきつらせた。
ジジイが好き勝手にし過ぎかと思ったらとんでもないものを背負ってやがるしな。
……まあつまり、俺の身体に地雷が入ってるようなもんだろ。それに対して思うことはあるが、まだ実感できていない。
あの痛みや苦しみは本物だったから、早くどうにかしないとアレが現実になるのは間違いないと思えたけどな。
何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだって怒りもある。だからジジイの言いたいことは理解できる。たぶん安倍晴明がスイッチのようなもの。俺らに目を付けた時点で俺らが終わるような気がしてきた。
原作よりハードモードすぎないか?
あーやばい、考えるといろいろ無理だって諦めそうになる。止めよう考えるのは……。
『まずは強くなることからじゃな。なに、ワシがやるべきことはやった。後はカナ自身がどこまでやれるかじゃよ』
「勝手に決めて勝手にやろうとしやがるこのクソジジイ……あー。なあ、ジジイの名前って聞いちゃ駄目なのか?」
『ん? そうじゃな。知らぬ方が身のためともいうが……ふむ……いつも通りジジイと呼んでくれたほうが良いが……』
考え事をするかのように顎に手を当て悩み始めたジジイが、小さく言った。
『道満。もしくは顕光。もしくはただの式神。ただの人間。人であったもの。道具。……無名ともいうな。さてどれがワシの名じゃろうな?』
「はぁ」
『好奇心は身を滅ぼすもの。知らぬ方が身のためじゃぞ?』
紡いだ名前は知っているものがある。しかし────いつものように釘を刺したジジイに、俺は深い溜息を吐いた。
もうわかっているのだ。あの地獄を経験したから。
知らない方が身のため。己の身が呪いか何かで食い破られることのないように、と。
夢のような経験が、現実にならないために強くなる必要があるのだと。
身体の震えは止まることがない。
青白い顔を咎めるジジイはいない。
恐怖を意地でも表に出さないようにしていてもなお、焦燥感は心の内側に入り込む。
しかし俺の感情を知り、諫めるような色を持った赤い目がこちらを睨んだ。
『畏れては駄目じゃぞ、カナ』
「……わ、かってる」
『ならよいのじゃ!』
ジジイは笑い、俺の背中を叩いた。
次回予告
今回は特殊ですが次からいつも通りかも。そしてリクオ達のターンかな。
カナ、まさかのポンコツ幼女を会得────?
追記
明日(8月3日)に続き書きます!