転生したけど祖父が怪奇現象起こしてる 作:ちゃっぱ
奴良組に新参者がきたぞー! と、カナに対する情報を歪曲し酒を飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとなった奴良組本家。
幹部勢はそれにいい気はしていない様子だが、大人げなく間違いを訂正する気はなかった。奴良組に入るか否かは別問題。今は鯉伴の保護下に置かれた子供として扱うだけなのだからと。
その奥にある一室にて静かに酒を飲む鯉伴がいた。
宴会騒ぎになっている場所の中央でリクオやカナが一緒に遊んでいることだろう。もしくは疲れて眠っているか。それ以外にも幹部勢が話し合う一室。相談役とぬらりひょんが酒でも飲みながら何かしら話しているかもしれないと、鯉伴は小さく思考を回す。
そんな時だった。
音もなく静かに部屋へ降り立ったぬいぐるみのような小さな姿。烏天狗が部屋に入り複雑そうな顔で鯉伴に話しかけてきたのだ。
「鯉伴様。あの娘を放っておいて良いのですか?」
「おいおい何言ってんだ烏。まだ生まれたばかりの赤子も同然のカナちゃんを危険視しなくてもいいじゃねえか」
「しかし……」
烏天狗が呻くのも仕方がなかった。
カナのそれは畏れの妖気とはまた異なるもの。付喪神や土地神のそれに似た気配を感じたが、あの人間が先祖返りでもって神に近い存在になったのかというとそれもまた違う。
妖怪でもない、神でも何でもない。ただ人間じゃないのは確か。
それをどう扱えばいいのか。
「なに、おもしれーじゃねえか」
カナが鯉伴達に向ける目は温かく優しいモノ。特にリクオに対しては兄弟かと思えるぐらい慈しみを向けているように感じていた。
だからカナが何者に変異しても鯉伴は切り捨てるような真似はしなかった。そもそも警戒をしてどうするのかという。妖怪でも神でも何でもない人じゃない生き物となったカナを受け入れないで奴良組総大将になれるのかと。
「鯉伴様、もしもあの娘が敵意を向けて来たらどうするつもりですか!? あの娘はリクオ様と近しい存在。攻撃してきた場合真っ先に怪我を負う可能性が高いのはリクオ様なのですぞ!」
「じゃあなんだ。烏天狗はカナちゃんと敵対した場合勝てねえと言いたいのか? リクオが近くに居ても守れねえと?」
鯉伴の声に、烏天狗は息を詰まらせた。
「そ、んなことはございませんとも! しかしですね────」
「ハハッ。そう警戒してやるな。カナちゃんはリクオの友達なんだからよぉ」
そう言った鯉伴は、カナちゃんがどんな存在なのかを見極めようとした。
それは、山吹の花が咲き始めた季節。カナちゃんが力をコントロールし普通の人間として生きるためにという名目で奴良組へ泊まり始めた矢先の事。
とある月夜にて出会った少女がいた。
鯉伴にとっては予想外の少女。心の底から彼を動揺させるような容姿をしていた。
少女が姉のようにリクオに接する。
泊まりがけで一緒に居たカナにも遊ぼうという。
そうして、鯉伴の手を取った。
山吹の花が咲き乱れた夜。
風に舞った花々に思いを寄せた声を出した直後だった。
「まってよかなちゃん! おとうさーん!」
聞こえてきた声に振り返った鯉伴の目に移ったのは、焦った表情をしたカナが赤く輝いた姿。
不意にカナの姿が消える。否、カナが鯉伴の中にもぐりこんだような気配を感じた。
それは、心から信頼する妖怪との鬼纏時のそれに似たもの。
あの少女に背を向けていたせいだろうか。
ズプリ……と、深く激痛が走り、何かが身体に突き刺さる。
それは背中から腕にかけて貫いた刀。
火の粉が舞って消えていく。痛みを堪え顔を上げればそこにあったのは絶望したように顔を青ざめた少女の姿。そしてカナが倒れ落ちた様子。
山吹の花々がカナの髪色のように赤く染まった姿をしていた。
「あ、ああ……鯉伴さ、ま……? あっ、あああっ……あああああああああああああああっっ!!!!」
「ひぇっひっひっひ、そうじゃ悔やめ女!! 自ら愛した男を刺したことを悔め! 嘆き悲しめ! 出来なかった偽りの子のふりをしてな!! あっひゃひゃひゃひゃああ!!!」
何が起きているのかは分からないが、鯉伴にとっての敵がそこにいるのだというのは理解できた。
様々な考えが思い浮かんでは消える。
この場所は奴良組本家から近い。それなのに何故、奴らは潜り込めたのか。
考えられることは最悪なものばかり。
「てめえら……これはどういうことか、教えちゃくれないかい?」
鯉伴はゆっくりと剣を向けていたはずなのに嘆き悲しむ少女と────その後ろで嘲笑う妖怪たちを見た。身体はまだ動く。しかし戦うには厳しい。致命傷を負わなかったのが奇跡だった。
カナを抱き上げたが、彼女は動かない。
否、彼女の身体にも鯉伴と同じ傷が出来て血が零れ落ちているのが見えた。
不意に少女の慟哭が消える。
その雰囲気が豹変するのが見えた。
「そうじゃ。……ああ、妾は待ちかねたのじゃ」
響いた声は、畏れを纏ったもの。
「ようやった。これで宿願は復活だ」
「いえ、羽衣狐様。あの男……あの奴良鯉伴めを殺さねば我らの邪魔になりましょう。一刻も早く討ち取らねば」
「……ふむ」
その声を聞いた刹那。
鯉伴は態勢を変え、血まみれのカナを抱き上げ奴らを睨みつけた。
「そこにいるのはだれ?」
「っ────来んじゃねえリクオ!」
「おとーさん?」
鯉伴の焦ったような珍しい声にリクオは首を傾ける。
赤く紅く、血が落ちて赤い絨毯のようになった悲惨な光景。鉄臭いものが辺りに込み上げる。
「ぬらりひょんの孫か……しかし決して狐の呪いは消えぬ。血は必ず絶えてもらうぞ。憎きぬらりひょんの血……」
「えっ?」
「リクオっ!!」
少女がべっとりとリクオの頬に誰かの血がつけられた。それに戸惑いながらも怖くなったのか、リクオは父たる鯉伴の元へ走っていく。リクオがカナの顔を覗き見たが反応のない様子にも戸惑いを感じていた。
幼いからこそ何が起きているのか分かっていない。だから鯉伴がこの二人を守らなくてはならない。
少女────いや、羽衣狐と呼ばれた彼女は笑う。
「羽衣狐様! 今のうちに鯉伴めに止めを刺しましょうぞ! こやつが生きていては邪魔になるだけ。今ならば楽に倒せるはずです!!」
「まあ待て、鏖地蔵。妾はこの瞬間、復活したところで機嫌が良いのじゃ。それにあの怪我……腕をやられた奴なんぞ今殺さずとも始末する機会はある。……それにじゃ。あやつをあのまま放っておいたところで、他の妖怪にやられて終いじゃろうて。なぁ?」
「しかしそれでは……!!」
「ぬらりひょんの血筋には何度絶望を与えても足りぬ。死んでしまうとそれで終わりじゃろう? ならば生き足掻いてもらわねば困るのじゃよ。あっけなく死んでしまっては恨みも報えぬからのう」
「ぐう……承知いたしましたぞ、羽衣狐様……」
敵対はしているが、今殺そうとはしない。しかしいつ襲い掛かってくるのか分からない。背を向けて何処かへ去ろうとする奴等に対し、反射的に鯉伴は奴らとは違う方向へ。
リクオを引っ張りカナを抱き上げて本家の方へ駆けた。
激痛が走る怪我を耐えてなお、滑り落ちそうになるカナを抱えて。あのままでは置いていきそうなリクオを引っ張り上げて。
居なくなったその場所で────山吹と血の香りが、周りに残っただけだった。