ただ、世界を守る君のために    作:蒼穹の命

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黄昏色から氷結鏡界、氷結鏡界から不完全神性機関へと読み続けた上で湧いた衝動と深夜テンションがUniteした結果


第0楽章 穢歌の庭/天結宮

 

「こいつで、おしまい……!」

 

 一発の銃声が響き渡り、濃紫色の霧を纏った獣は放たれた弾丸に己を形成している核を撃ち抜かれ、霧散していく。

 

 

「ハア……ハア……ハア……ったく、ほんと飽きずに襲ってくるね君ら。おかげで予備の方の弾薬も切れちゃった……」

 

 拳銃を持っていた鳶色髪であちこち拙い補修がされた薄汚れた黒い儀礼衣を着こみ、腰に赤と黒の色をした傷だらけのジャケットを巻いて二本の剣を帯びた少年は、敵を撃破したのをひざまづきながらも最後まで確認してから草むらで寝っ転がった。ついでに息苦しさを少しでも緩和するために着けていた防弾ベストをポイっと投げ捨てて荒れた息を整える。

 

「あーあ、一回分の攻撃は防げるかなと思ったけど、窮屈で全く意味なかったな……」

 

 度重なる戦闘の末、なけなしの防御力も望めなくなった上着の上に防弾ベストを着込んで見たがいざ動いたら窮屈で不味いとすぐに脱ぎ捨てたベストを一瞥してから、草の匂いを嗅いだ。腐った匂いをよく鼻に入り込んでばっかりだったせいか、無意識のうちに他の匂いを嗅ぎたくなってしまう癖ができてしまっていた。鼻をひくつかせながら、空を見上げて日が落ちる寸前に見える黄昏時の景色を眺める。

 

「浄化されたとはいえ、やっぱ物足りないな……せめてもう少しゆっくりしていたいけど……」

 

 今回のようにこちらに流れ込んできた連中の撃退の事を考えると、気軽に地面を背にゆっくりと休息するのは出来なかった。

 

「それに、ジールだけにいいんちょとシィを任せるのはねえ……よっと」

 

 愚痴りながらも疲労した体で起き上がり、僅かな小休止を切り上げて拠点に戻ろうとしたその時だった。

 

Oe/Dia=U xeph cley,Di shela teo phes kaon(■■´■……■■´■■■´……■……■■)

 

 耳にタコができる程聞いてきた、呪詛と思わせる奇怪な音色が背後から流れてきた。

 

「えぇ……ここに来ておかわりはちょっとキツイんだけどなぁ……」

 

 現れたのは禍々しい濃紫色を全身に纏い、獅子のような大きな足と鋭い爪を備えた『何か』たち。

 その霧の中から、頭部の眼に当たる部分からは鮮血のような赤い光を青年に向けていた。

 幽幻種(ゆうげんしゅ)。世界の75%を死滅させた怪物の俗称。その身に纏った霧に晒された草花や大地は腐敗、人に降りかかれば猛毒、昏睡、精神破壊といった、ありとあらゆる物質と生物を侵食し、汚染させる呪詛の波動『魔笛』を発するモノ。

 先ほども、浄化されたこの地域に入り込んできた複数の個体と交戦したばかりによる疲労で青年の身体は背に鉛を背負ったかのように重くて動きが鈍くなっている上、武装の一つである拳銃は玉切れで身につけてある双剣で魔笛に晒される危険性を覚悟して単独での接近戦をしなけばならない状況であるため、ちょっと所ではない。今とるべき行動は即時撤退が一番いい判断ではあるが

 

「でも……少しでも倒して浄化速度を上げないといけないし、せっかく戻ってこれたこの場所をお前たちに汚染されるのはちょっとね……なによりも」

 

 青年の脳裏に、今なお遥か遠くにて、世界を守護しこの大地を浄化する結界を維持するために祈り続けているであろう、聖女と呼ばれていた水鏡色の髪の少女が思い浮かんだ。

 最後に彼女との念話越しでの会話は、今でも鮮明に思い出せる。

 

『この約束破りの大馬鹿男! あれだけ言ったのに駄犬と一緒にそっちにいっちゃってなにしてんのよ! 絶対許さないから! 10年経っても……100年経っても……1000年経っても……あんたのことは一生許さないからっ!』

 

『お願いだから……死なないで……私を、私を置いていかないでよぉ……』

 

 頭痛がするほどの涙声の絶叫からの枯れ果てた喉からこぼれ出た願い。それだけ自分は彼女に想われていて、そして悲しませた証拠でもあった。

 だからこそ、何があっても生き残って、一分一秒でも早く彼女と再会するために、汚染され破壊尽くされた世界の欠片を一つずつ紡ぎ直してゆくために戦うだと誓ったのだから。

 

「会って、謝って、よく頑張ったねって労わって……少しでも長くあの子の傍にいるためにも……僕らはこんなところで、お前たちには負けていられないんだよこの黒毛玉ども!!」

 

 不退転の決意の言葉を放ったのと同時に二振りの剣を抜刀し構える。イメージするのはあのふざけた剣技と強さを持った剣帝。修行として浄化された地でなぶられ続けた日々の中で、その動きを必死に盗みとり、其れ等を自分にあった体捌きと剣撃へと落とし込んで鍛えぬいた血と汗と努力の結晶。

 最後まで生き残って、誓いを果たすために。

 いざ戦おうとした瞬間、自分の真横を何かが通り過ぎた。ソレは速度を維持したまま幽幻種へ直撃した。衝撃と共に霧も僅かながら霧散していた。

 後ろを振り返るとそこには剣と銃が組み合わさった大型武装の銃剣(ガンウェポン)を構えた、迷彩服に黒いジャケットを羽織った黒髪黒目の少年が立っていた。

 

「起きてから何時間も帰ってこなかったから探し回ってたんだが……帰んなくて大正解だったなオイ」

「凪……」

 

 こちらに墜ちる前から長い付き合いである少年──凪・一咲・ジールは額に血管を浮かばせながら少年の元に近づき、そして……

 

「頑張るのはいいが無茶もほどほどにしろこの大馬鹿! お前に何かあったらチビ聖女に全力の沁力術式で結界ぶち抜きいてきそうで殺されかける危険があるんだぞ俺! のダ家政婦(メイド)ロボと再会する前にぶち殺されるようなバッドエンドはごめん被るんだが!」

「ハア!? そもそも僕が一人でこの辺りを見回ってたのはこないだの戦闘で無茶した君を休めさせるためだったんだけど!? 先に無茶した方に言われたくないんだけど!」

「それを言うならこっちに来てからの無茶っぷりはお前の方が一番ひでえだろ! 幽幻種の前によく飛び込みまくってる上に、あのへぼ帝に教えを乞うとか一番正気を疑ったぞ!」

「なにがなんでも生き残るための努力は少しでもやるべきだろ! 間違ったことはしてないでしょ!」

「あー、魔笛にやられる前に既に頭がパーになってたか……いいか、あのなぶり殺しを修行とは言わねえよお前ドMか!?」

「なんでそうなるんだよ! いや否定はできないけどさ! 家に行くたびに服脱いだイリスちゃん相手してる変態さんに言われたくないなぁ!」

「それは散々弁明しただろうが! 全部あのダ家政婦(メイド)ロボが勝手にやっただけで俺は命令してねえぇぇぇぇ!」

 

 胸倉を掴みながら売り言葉を言ってきた親友にこちらもと胸倉を掴んで買い言葉を飛ばしあう怒涛の会話のキャッチボールをしている中、うなり声が2人のコミュニケーションが遮った。

 同時に横へ振り向いた先には、そろそろ我慢ならないと言わんばかりに幽幻種たちが飛びかかろうとしていた。

 

「言いたいことは山ほどあるけど……」

「まずはこいつらを片付けたからだな」

 

 凪は銃剣、少年は双剣と互いの得物を構えて幽幻種と向き合う。

 

「僕が前に出て連中をかく乱しながら攻撃して削る役で」

「なら俺は後ろからズドンとトドメさす役だな」

 

 

 先ほどまでくだらない口喧嘩をしていたのが嘘のように2人に流れる空気が一瞬にして切り替わり、慣れ親しんだやり取りを交わしながらお互いの戦闘での立ち回り(ポジション)を確認してこれより始まる戦へと備える。

 

「いくぞ」

「うん」

 

 少年は大地を力強く蹴り上げて迷いなく幽幻種に一直線に飛び込み、凪は牽制用の銃弾を放った。

 それがたった2人の人間と悲哀の歌を奏でる超常存在の開戦の合図となった。

 

「(僕も凪もこっちで頑張るから……そっちも頑張れ……イリスちゃん、ツァリ……紗砂(しゃさ))」

 

 そうして、鳶色髪の少年──湊・マグナ・イールは幽幻種へ二つの刃を叩き込んだ。

 

 これは、世界が滅びてもなお、諦めず、遥かな彼方の時間と場所にて起こっている、誓いを、約束を果たすために戦い続ける少年たちの今だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその一方、少年たちがいる庭から遥か彼方でありながら1番近しい場所にて祈り続ける者がいた。

 そこは蒼く輝く氷の世界。

 天井も横壁もなく、その空間は地平線の彼方すらも超え続いていた。

 白夜のような光が空から溢れんばかりに降り注ぎ、その下には大樹のように聳え立つ数多の蒼氷の結晶たち。それらは前にしたもの全てを鏡の如く映し出すほどの美しさが備わっていた。

 あらゆる生物と物質を例外なく凍てつかせ、心と時を封するモノ。世界に奇蹟を沁み渡らせる力「沁力(しんりょく)」による術式によって発動された究極の結界、『氷結鏡界(ひょうけつきょうかい)』。

 ここはどのような防寒対策も意味もなさず、幽幻種すらも封じるその術式の維持の為に祈りを行う場であり、「楽園」と名付けられている一つの世界。その中心には一際大きい水晶のかたちをした蒼氷の結晶。

 

 結晶の奥には、薄布のヴェールで顔を覆い隠し、純白の法衣に身を包んだ少女が閉じ込められていた。

 そして、その分厚い氷の中にいる少女から詠が聴こえてきた。

 

Yu/ Uhw = C r-sanc uc Eden(眠れる楽園に彩られ)

 

term-l-pile xel, xin, ole fusen elchel (流れ落ちる星、時、夢はまぶたを閉じる)

 

xearcs let laphin yahe, bie omia hec lihit clar(透明な指先で綴られた 言葉の扉に鍵はなく)

 

noi-roo-xin, noi melras I noe(いつしか連なる世界の中で)  l-habes pianic cia eyen (玉なる幽幻の嘆きも慎む)

 

= C hypn phenoria, (眠れよ子らよ) Eec qhaon nes ei getie,(あなたたちの翼はまだ若く) nepies paf lef bis cley kis ei roos (この地の安らぎの枝はまだ遠い )

 

= C hypn phenoria, (眠れよ子らよ) Eec wat nes ei getie bis kills cley kis et mihas (あなたたちの足はまだ弱く) bis kills cley kis et mihas (この地の凍れる大地はまだ痛い)

 

nefit Uhz yulis noi kamis egic, (いつしか消える記憶の淵で)

Sew ele nelar ris-ia sophia (それでもわたしはここにいる)

 

Ris sia sophia, kyel hiz phia nefis (何時の日か 約束の地へ踏み入れる) loor mille(その日まで)

 

 

 優しくて涼やか、それでいて切なさがあふれる沁力(メロディ)──第七天音律(ソフィア・コード)。氷の中で祈り詠い続ける彼女を、近くで見守るものがいた。

 

 身体のラインがハッキリとわかるほど密着した赤と黒の法衣を纏う蠱惑的な雰囲気を晒すは濡れ羽色の長髪の女性。

 この極寒の世界にいるにも関わらず、特に苦も無く平然と立ちながら歌姫を見守り続けている中、この世界へ足を踏み入れるものがいた。

 

「……珍しいな。調整が終わって漸く全盛期に近い動きがとれるようになったとはいえ、わざわざここに訪れるとはな」

「そうだな」

 

 女性は後ろを振り向く事なく接近してきた者の正体を見破り、対して近づいてきた者は、自身に気づいた事に関して何の驚きもせずに淡々と返事を返した。

 

 来たのは長身の男。漆黒のロングコートを羽織り、鋭い眼光を灯すは黒い瞳。白光を反射しない黒髪の長髪は凍てつく風でなびき揺れていた。

 整った白皙の面立ちをしているが、表情はどこか哀愁を漂わさせていた。

 

「一目見ておくべきだと、そう考えただけに過ぎない」

「……そうか」

 

 男の返答に僅かな間を空けてから男へ視線を向けて返事を返し、すぐに両の眼は結晶へと向き戻しながら、女性は男へ質問した。

 

「それで、向こうでのあの2人はどうだったんだ?」

「片方は話に聞いた、不完全神性機関を介して施された結界とやらのおかげだろう。もう片方は……奴が言うには黄昏竜、巨蛇、敗者の王に虹と枯れ草色が似合う男から反則ギリギリの助けでどうにかなったと言っていた。お前なら意味がわかるとも言ってたが、どうなんだ」

「……なんだと?」

 

 男から返ってきた返答に聞くはずのない者たちの名前を聞いて、女性は驚愕して、僅かに顔を下へ向き、顎に手を置いて考えるしぐさをして思考を走らせた。数秒後、何か理解したのか、すぐにそれを受け入れて小さく呟いた。

 

「……そうか。立場上傍観者故に干渉することはない2人が絡んでいるとは何があったと思ったら……なるほど、あいつが手を貸していたとはな。珍しい事を聞いた。それに……あの放浪癖がいるのも納得がいく」

 

 だとするなら。

 再び女性は、結晶の中にいる少女へと視線を向けながら告げる。

 

「紗砂……どうやらあいつは、今度こそ約束を果たそうと今も諦めず抗いつづけているわけだ。再会は気が遠くなる程長い時間がかかるかもしれないが、何、その分再会した時の喜びは格別だろう。だから……諦めず信じ続けろ、お前の希望と願いを」

 

 女性の声が聞こえたのか、結晶の中にいる少女──紗砂・エンデンス・凛・ケールのヴェールで隠され、氷の中故に動く事のない顔が僅かに動いていた。

 

 まるで、嬉し泣きをするの耐えているかのように。口元は笑みを浮かべ、瞳からは光る何かが僅かながら零れでていた。

 

 

 全ては、世界が滅びる前に不完全神性機関となった最終兵器が誕生した少し後へと遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これも全部、夜の名前をした誰かさんの一言とチビ聖女が可愛いせいです
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