慣れないことには緊張するもの。
学園祭が終わり、中間試験の季節になった。
さて、そんな季節だが……緋影は寝る前、未だに浮かれていた。まぁそもそも学祭の三週間後に中間試験があることもあって、今のうちに遊んでおかないと、もうすぐ遊べなくなる週が訪れるのだ。
まぁ、そんな話はさておき、緋影はとりあえず浮かれていた。生まれて初めて、学校で面白かったと言える思い出が出来たからだ。
学園祭での雛菜……それは、あまりにも可愛くて……あんなに可愛い子を一日、独占できたことが……いや、自分にとっては二日間も独占させてもらったことが本当に幸福だった。
一緒に回りながら、ちょいちょい撮っていた写真フォルダを眺めながら、ずっとニヤニヤしてしまう。
誰かと一緒に学校行事に臨むの……こんなに楽しいものだったんだ……なんて、今更ながらに思ってしまった。
「……次のイベントは……職場見学だっけ……」
確かそのはずだ。あらかじめ決められた見学地を希望し、見に行く。まぁ、正直まだ将来のことは分からないので、そこはどうでも良い。けど、現地解散なのでその場所次第で遊びに行けるかも……。
「……あ、でも……」
小糸も一緒に来るかも……とは思ったが、それは構わない。それよりも、小糸の顔を思い出した事で、そもそもノクチルのメンバーにバレていることを思い出した。
……そうだ。雛菜がゲーセンに来た時に、いい加減謝ったほうが良いかもしれない。ちゃんと正体をバラして、それでも友達でいてくれるのならいてもらい、嫌われたら……まぁ、いじめが始まる……といっても、シカトされるとかそう言う感じになる事も覚悟せざるを得ない……。
そう決めたのだが……ここで一つ問題が生じる。
「急に『私が陽太です』なんて言っても、信用されないよね……」
特に、他のノクチルのメンバーにはあっさりバレたにも関わらず、雛菜だけが気付いていないのは、臭い話「恋は人を盲目にされる」という点が大きいと思う。つまり、信用されないかもしれない。
……なら、やはりお店に来た時に、マスクと帽子を外して素直に告白するのばベストだろう。論より証拠を体現出来る。
「……よしっ」
キュッと小さく握り拳を作り、緋影はようやく決意した。
×××
さて、それから約三日後。困った事に、一日も雛菜はゲーセンに訪れてくれなかった。
「な、なんでだろう……」
もう飽きられたか……もしくは、別の男が好きになったのか……だとしたら、まぁ仕方ないと言えば仕方ないけど……。
どうしよう、なんて思っていると、後ろからむぎゅーっとハグをされる。容赦ない胸の圧力が背中にヒットした。
「緋影ちゃん〜」
「ひゅうっ⁉︎」
「あは〜、相変わらず面白いリアクションするね〜」
「う、うるさいな……」
代わりに、変わったことと言えば雛菜のかまちょである。もうすごく絡まれる。
「ど、どうしたの……?」
「どうかしないと遊んでもらっちゃダメなの〜?」
「そ、そんな事ないけど……でも、ちょっと気恥ずかしいな、と思わないでもなくて……」
「大丈夫〜。雛菜と一緒だから〜」
「そ、その言い分のどこに大丈夫と言える要素が……⁉︎」
もう理屈なんてお構いなしである。やたらと絡まれ、匂いを嗅がれ、撫でられる。ペットか何かと勘違いされているのだろうか?
さて、そんな緋影の照れを無視して、正面に回り込んで他人の椅子に座った雛菜は声を掛ける。
「緋影ちゃん〜、今日の放課後暇〜?」
「え……ば、バイトだけど……」
「え〜〜〜? 今日も〜〜〜?」
「ご、ごめんね……?」
文化祭に備えて休みを多くもらってしまった為、その後は割と多く入っているのだ。
少し申し訳ない……と、思っていると、雛菜は実にわざとらしく涙目になる。
「うう〜……緋影ちゃんにとって……所詮、雛菜より仕事が大事なんだ〜……」
「そ、そんな事ないよ……?」
「もういいも〜ん、こうなったら……今日、バイト先に邪魔しに行っちゃうからね〜?」
「えっ……そ、それはちょっと……」
「そういえば、雛菜お仕事中の緋影ちゃん見た事ないかも〜」
あるよ! しょっちゅう! 指名さえされたことあるよ! と思っても言えない。
「いや、でも私あんま仕事してるとこ見られるの……」
「え〜? 雛菜は仕事してるとこ見られても平気だよ〜?」
「いやそう言う職業でしょ……」
「? 店員さんだって人と接する仕事でしょ〜?」
い、意外と賢い返しをしてくれる……。思わず困ってしまった。
「き、今日お仕事は?」
「オフだよ〜?」
「ノクチルと皆さんと遊んだりとか……」
「透先輩と円香先輩はデートらしいし〜、小糸ちゃんはお仕事だよ〜?」
「た、たまの休みくらいゆっくり過ごしたら……?」
「は〜〜〜? ノクチルのみんなと遊びに行くの推奨してたくせに〜?」
少しずつ考えがまとまらなくなっていき、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。
どうしよう、なんて考えていると、今度は本当に泣きそうな雛菜が上目遣いで見据えてくる。その儚げなお人形のような視線が酷く自分の胸に刺さり、罪悪感がぷくーっと膨らんでいった。
「……雛菜がバイト先に来るの、そんなに嫌〜……?」
「っ……」
その一言が、完全に破裂させた。思わず考える前に慌てた様子で弁解してしまった。
「そ、そんな事ないよ……でも、あまり時間は取れないから……」
というか、前にも言った気がする。浅沼の時に。勤務中は一応、お金をもらっているわけだし、サボるわけにはいかない。
「む〜……じゃあ、バイトの後は〜……?」
「20時過ぎるけど……」
「高校生だし、それくらい平気だよ〜」
「わ、私がお母さんに怒られるから……」
ナンパされたら大変だ、とよく父親に言われるが、生まれてこの方、ナンパなんかされたことがないし、されるとも思えない。自分の可愛くなさは誰よりも理解しているつもりだ。
「じゃあ〜……今日、雛菜と遊べないの〜……?」
「……」
うっ、と少し申し訳なさが芽生える。そういうつもりじゃなかったけど……でも、実際に遊べないわけだし……それに、携帯代とか色々あるから、稼げる時に稼いでおきたい、というのが本音でもあった。
で、でも……雛菜の少し寂しそうな顔を見ると……どうしても、こう……どう、しても……。
「わ……分かったよ……じゃあ、明日なら空いてるから……」
「じゃあ、明日の放課後に約束ね〜」
「うん……」
まぁ、明日は一応オフだし……と、思いつつも、まだ正体を明かしていない段階で、二人で仲良くするのは少し申し訳なく感じつつも、とりあえず承諾するしかなかった。
ちょっとだけ心の中でため息を漏らしていると、正面から雛菜が両手で頬をむにっと挟んだ。
「っ、ふぁ、ふぁふぃ……?」
「何か、悩んでる〜?」
「ふえ……?」
「悩んでるなら、相談してね〜? 聞くだけで良いなら雛菜も協力するよ〜?」
「ふぁ、ふぁいほうふ……」
言えるわけないから……というか、離して……と、緋影は少し困ってしまう。それが届いたのか……いや、と言うより届いてないと思うし多分、偶然だけど、雛菜は手を離して少し難しい表情を浮かべる。
やがて、何か理解したのか「あ〜」とにこにこ笑顔を浮かべた。
「分かった〜。ここの悩み〜?」
微笑んだまま伸ばされた雛菜の手は……緋影の胸をガッチリと掴んでいる。ぽく、ぽく、ぽく……ちーん、なんて音がしそうなほどにぼんやりした後、ようやく「堂々としたセクハラ」に気が付いた。
カアッと顔を真っ赤にしながら、両手で胸を抱きつつ手を振り払う。
「っ、なっ……ななな何してんの……⁉︎」
「え、身長の割に小さいとかそう言う悩みでしょ〜?」
「違うよ! え、えっち……!」
「え、えっち〜……」
流石に面食らったのか、少し雛菜は目をパチパチさせて自分を見る。そうだった、と緋影も自分の口を手で塞ぐ。しまった、つい本音が漏れた……。
言われた側の雛菜は、少し驚いた表情のまま自分の手のひらを見下ろし、開いて握り、また開く……そして、やがて笑顔を浮かべた。
「……あは〜、もう一揉み良い〜?」
「ダメだよ! 何交渉してんの⁉︎」
「でも〜、大きくなるかもよ〜?」
「そ、そこまでして大きくしたくない! ……どうせ、大きくしたって誰に見せるわけでもないし……」
恥ずかしくない程度におしゃれは嗜むけど、別に体型を変えようと思うほどではない。現状維持が一番だ。
「え〜? 雛菜は見るよ〜?」
「え……い、いや……何処でよ……」
「体育の着替えとか〜、来年のプールの授業とか〜……その辺かな〜?」
「いや……着替えなんて、そんなずっと見られるわけじゃないし……来年だって、そもそも同じクラスになれるかも分からないし……」
「も〜、緋影ちゃんネガティブ過ぎ〜!」
「え……ご、ごめん……?」
……でも事実だと思うのだが……と、少し緋影は冷や汗をかきながら目をそらす。というか、ネガティブだろうとポジティブだろうと裸をマジマジと見られるのは嫌だ。普通に恥ずかしい。
「とにかく〜……雛菜、緋影ちゃんと一緒にお風呂とか入りたい〜って思うよ〜?」
「えっ……な、なんで……」
それも、友達同士なら普通なのだろうか? よく分からないが……そうなのかもしれない。
……でも、普通に気恥ずかしい。なるべくなら、女子にも肌を見せるのは嫌なのだ。
「じゃあ決まりね〜? 明日、緋影ちゃんは雛菜のうちでお泊まり〜。学祭お疲れ様〜って事でね〜?」
「え」
なんで急にそんな話になったのだろうか? そんないきなりお泊まりなんて、少しハードルが高い。
「い、いやいや……無理だから……」
「なんで〜? 明後日もバイト〜?」
「な、ないけど……い、市川さんは?」
「午後からだから平気〜」
つまり午前しか空いてないと言う事だろうに……すごくアグレッシブだ。自分なら午後から仕事があったなら、午前は何もしたくない。
「明日って……学校の後って事……?」
「そう〜」
……少ししか遊べない……いや、それでも遊びたいということだろうか? ありがたいけど……いや、ありがたいか、普通に。
でも……友達の家で泊まり……何か、作法とかあるのだろうか? 家帰ったら調べよう、そう思いながら、とりあえず頷いておいた。
「分かったよ……」
「あは〜〜〜♡ やった〜〜〜」
決定、と言うように雛菜は笑みを浮かべ、緋影はとりあえず今日のうちに準備をしておく事にした。
×××
翌日の放課後。
「じゃあ、出発〜」
「おー」
「ひ、久しぶりだな……雛菜ちゃんのお家……!」
「……ふぅ」
「……」
……ふぅ、まさかのノクチル全員とのお泊まり。こんなの、いくら同性とはいえパンピーの自分に許されるのだろうか?
「あの……市川さん……」
「何〜?」
「……みんな一緒なの?」
「そうだよ〜? 学祭の打ち上げだから〜」
……しかも、この三人とも自分の正体に気がついている……あ、どうしよう。今から胃痛が……なんから吐きそうなまである。
そんな緋影の気も知らず、雛菜は透と並んで歩き始める。その後ろを、円香と小糸がついて行き、最後尾に緋影がついていく。
どうしよう、と緋影の頭の中はずっとテンパってしまっている。さっき話していた感じだと、雛菜と自分は一緒にお風呂に入るのだろうし、お風呂以外で雛菜と自分が離れ離れになるのはトイレしか思いつかない……とはいえ、この三人と自分だけがいる空間になったら、少し困る。三人がかりで尋問されたら、下手なことを言ってしまうかもしれない。
「……」
少し緊張気味に俯いたまま歩いていると、いつの間にか前のメンバーが足を止めていて、緋影も足を止める。
何事? と、思ったのも束の間、雛菜が割って入って来て、腕を掴んできた。
「緋影ちゃんもおいで〜! なんで一人寂しく一番後ろにいるの〜?」
「え……い、いや……落ち着くから……」
「落ち着かなくて良いからおいで〜? ……も〜、目を離すとすぐこれなんだから〜……」
「あ……ち、ちょっと……!」
強引に腕を引いた雛菜は、そのまま透とは反対側に緋影を置き、手を繋いだ。そして、わぁっと両手を空に向ける。
「やは〜〜〜♡ 雛菜ハーレム〜〜〜」
「いえーい、ハーレムー」
「うえっ? え、えっと……は、ハーレムー……?」
なんか言わなきゃいけない気がして、とりあえず言ってみたが……それを聞いた円香が後ろから静かに告げる。
「浅沼さん、無理に乗らなくて良いから」
「あ……す、すみません……」
「円香先輩うるさ〜い。緋影ちゃんが乗ってくれたのに余計なこと言わなくて良いから〜」
「は? 困らせといて何言ってんの?」
「困ってないもん〜。ね、緋影ちゃん〜?」
「あ、えっと……」
どうしよう、別に困ってはいないが、そう答えたらせっかく気を遣ってくれている円香に悪い気もする……ただでさえ、怪しまれていると言うのに……。
どうしようか悩んでいると、透が口を挟んだ。
「緋影ちゃん」
「っ、は、はい……?」
助け舟……と、思ったが、前にもこんなことあった。これはおそらく……。
「見て、もう10月なのにまだある。蝉の抜け殻」
本当に適当なことを抜かす人……と思いつつも、とりあえず緋影は透にも不愉快な思いをさせないため、答えておく事にした。
その後に、円香にも不愉快な思いをさせないようにして……そしてさらに、雛菜も当たり前ながら不愉快にさせないように……よしっ。
「はい、ありがとうございます。……あ、あの、樋口先輩……私は別に嫌ではないので……」
と、言いかけたところで、すぐに透がセリフを遮る。
「ふふ、意味わからんお礼ですらっと流されたわ」
「ほら〜、円香先輩のお節介〜」
「……あんたが気を遣われてるだけでしょ」
なんでまた空気が悪くなるの……! と、少し唖然とする。この人達、仲良いのか悪いのか分からない……!
少し焦った表情のままぼんやりしている間に、雛菜が緋影に横からハグをするどころか、頬を頬にくっ付けた。
「そんな事ないよ〜? 緋影ちゃんも雛菜のこと大好きだもんね〜?」
「ふえっ⁉︎」
思わず顔が真っ赤に染まる。そうだよ、好きだよ、なんで知ってるの? と思ってしまったが、すぐに頭を切り替える。冗談で言われてるだけだ。一々、真に受けてどうするのか。
「はっ……はい……好き、だけど……」
「あは〜、ほらね〜?」
「……」
あれ、なんか三人の視線が集中して来る。小糸はともかく、円香や透でさえ少しだけ目を丸くしていた。
これ、もしかして……まさかとは思うが、自分が雛菜にマジで恋してる、的な感じで思われたのか……。
い、いや待ってほしい。確かに雛菜のことは好きだし、高一にしては大きい胸を見て頬を赤らめる事もあるし、雛菜のお化け姿は素直に綺麗だったと思うし、手を繋がれるとかなり胸の奥がドギマギしたりするが、別に恋をしているとかそういうのではない。……はず。
慌てて弁解しないと……と、口を開きかけた時だ。その前に雛菜が口を挟んでしまう。
「雛菜と緋影ちゃん、相思相愛なんだよ〜?」
「そうしっ……!」
「ね〜?」
わかっている、冗談で言われていると言うことは。でも、逆に言えば冗談でそう言うことを言われる程度の距離感なのだろう……あれ、何故自分はこんな事でショックを受けているのか……友達同士でそれ以上の仲になる方がおかしい気もする……。
……というか、逆に雛菜は浅沼のことが好きなのに、割と冗談で他人にそう言うことも言えるのか、と思ってしまったり……と、とにかくモヤモヤしてしまっていた。
そんな複雑な表情が出ていたのだろう。ぐいっと引き寄せられ、緋影の頭にふわりと手が乗せられ、左右から抱き締められた。円香、透、小糸が何故か全力で抱き締めてくれていた。
「雛菜、最低」
「落ち込まないで。緋影ちゃん」
「だ、大丈夫……! きっと、成就するから……!」
「あ、あの……そういうんじゃないんですけど……」
「ちょっと〜、雛菜に緋影ちゃん返して〜?」
「「「ダメ」」」
なんかやたらと庇われてしまった。
×××
さて、そうこうしているうちに市川家に到着した。晩御飯はすき焼きを食べて、雛菜の母親も含めて楽しい時を過ごし、今は五人で雛菜の部屋に。楽しいと言っても、緋影はあまり喋らずに話を聞くことをメインに置いていたが。
まぁ、雛菜の寝室にいても、当然のことながら五人いれば狭いわけで。雛菜と透はベッドの上、円香は椅子に座り、その膝の上に小糸が抱き抱えられていて……で、緋影は床の上で正座していた。
真ん中に置いてあるお菓子のお皿を摘みながら、雛菜が会話をする。
「それでね〜、緋影ちゃんと一緒にたこ焼き食べたんだけど〜、その時にナンパされたんだ〜。雛菜、初体験で楽しかった〜」
「へー、ナンパ。夏前もあったよね、そう言うの」
「透先輩はされなかったの〜?」
「今年は大丈夫だった」
「ていうか、この高校で浅倉と私にナンパする奴いないでしょ」
なんでだろう、と思わないでもなかったが、とりあえずスルー。あまり人の会話に口を挟むのは得意ではないから。
「小糸は大丈夫だった?」
「う、うん……! 私は全然、大丈夫だったよ……! しっかりしてるからかな、やっぱり……!」
「ナンパする人に、ロリコンさんは少ないからじゃない〜?」
「あー、なるほ……え、ひ、雛菜ちゃんどう言う意味⁉︎」
「もしくは、樋口のガードが固すぎたか」
「私は何もしてない。ただいつもより目つきを悪くして歩いてただけ」
「そ、それが原因だよ円香ちゃん! 確実に!」
「ていうか、確信犯でしょ〜? 円香先輩のロリコン〜」
「は?」
なんとなくわかって来たが、円香と雛菜がこうして険悪になるのはいつものことらしい。だから、正直気にしても仕方ないのはわかった。透が止めようとしないのも、もしかしたらそれを理解しているからかもしれない。
……まぁ、お陰でいづらさはあるけど。なんか、この四人が一緒にいて緋影が……と言うより、他人が入る隙間なんかかけらもない。
「そ、そもそも、私はロリータじゃないよ……!」
「え〜? でも、雛菜と一緒にいて、もう何回妹と間違えられたっけ〜」
「一回もないよ!」
「中学生と間違えられてたことはなかった?」
「……」
あるんかい、と緋影は思いながら、飲み物を口に含む。コーラ美味しい。……こんな時間にこんなもの飲んだら絶対太るけど。
そんな時だった。
「緋影ちゃん、立ってみて〜?」
「っ、え、な……何?」
「立って〜? ていうか……なんで正座してるの〜?」
「あ……ご、ごめん……ちょっと、気を張っちゃってて……!」
慌てて立ち上がる。今度は、雛菜は小糸を促した。
「小糸ちゃんも〜」
「え? う、うん……」
円香の上から退いた小糸と緋影は、雛菜に並んで立たされる。
「ほら〜、すごい身長差だよ〜?」
「い、嫌な実験しないで!」
「ご、ごめんね……福丸さん……」
「あ、浅沼さんも謝らないでー!」
「わー、ていうか緋影ちゃん、改めて見ると高いね。背」
そう呟いた透も立ち上がり、緋影の隣に立つ。
「おー、高い。私より。いくつ?」
「え……ひ、166くらいですけど……」
「女子にしては高いかもね」
話しながら、円香も緋影の前に立った。……か、顔の良い女性陣に囲まれてる……あ、あれ……なんだろうこれ、と頬が赤く染まる。ちょっとなんか女性専用車の満員電車みたいで気持ち良いかも……なんて思っている時だった。
少しむすっとした雛菜まで立ち上がった。
「も〜! 緋影ちゃんにベタベタするの、雛菜以外禁止〜!」
「小糸、危ない」
「ぴえっ……⁉︎」
「どうぞどうぞ」
「……やは〜?」
円香は小糸を連れて、そして透は普通にぬるりと躱す。勢い余った雛菜は、緋影に思いっきりタックルしてしまった。
「わっ、ちょっと……!」
「ごめ〜ん」
半分くらいわざとな声音……! と、後ろに押し倒される。結果、雛菜に馬乗りにされた緋影は、真上から雛菜に見下ろされている状況に、少しだけ興奮気味に頬を赤らめてしまう。
それは、雛菜にも伝わってしまったようで、少しだけ雛菜は「ふぅ〜ん」と意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「緋影ちゃん、もしかして〜……こう言うの好きなの〜?」
「えっ……す、好きじゃないけど……?」
「じゃあ〜……例えば〜……」
雛菜はニヤリと笑ったまま手を半開きにして近づけてくる……ま、まさか……教室でも急に揉まれたわけだし……まずはゆっくりとネクタイを解かれた上で、ブラウスのボタンを一つずつ外され……顕になった下着の上から胸を揉みしだくつもりじゃ……。
「あっひゃっひゃっひゃっ!」
「こちょこちょこちょ〜?」
脇の下をくすぐられた。揉まれるよりキツい。
「や、やめっ……ちょっ、くすぐっ……ひゃっはっはっはっ!」
「小糸ちゃん、足押さえて」
「え? あ、う、うん?」
「なんて書いたでしょーか?」
「分かるわけがないっひゃっひゃっひゃっ!」
「と、透ちゃん何してるの⁉︎」
しかも、何一つ空気を読まない歳上が、唯一おとなしそうな少女を利用してまで足の裏に文字を書き始めた。
こいつら〜……! と、緋影の顔は少しずつ赤くなっていった。
×××
さて、そうこうしているうちにお風呂タイム。円香、透、小糸の三人が先にお風呂に入っている。
元々、雛菜が泊まりを決定したのは緋影とお風呂に入るためだったが、そうでなくても背が高い二人、低い三人に別れてお風呂に入るのは当たり前とも言える。
さて、その時間が迫っているわけだが……困った事に、雛菜は自分でも驚いている。……なんか、少し緊張している。まるで、目の前に浅沼がいるみたいに胸が高鳴る。お風呂に入る直前になって急にだ。
「緋影ちゃん〜……」
「な、何……?」
「な、なんでもない〜……」
「?」
どうしよう、なんでこんなに緊張……と言うより、罪悪感に似たものがあるのだろうか?
そ、そうだ……そもそもは緋影の緊張を移されたことが原因だし、かまちょして気を落ち着かせよう。
そう決めた雛菜は「あは〜」といつもの笑みを浮かべながら緋影に声を掛けた。
「緋影ちゃん、くすぐり弱いんだね〜」
「う、うるさいな……強い方が少ないでしょ……」
「雛菜にはくすぐり効かないもん〜」
でも、そういうところが可愛い……まぁ、こんなことは言わない方が良い事なのだろうが。
だが、まぁあれはただのかまちょではなかった。
「それに、ず〜っと喋ろうとしなかった緋影ちゃんも悪いと思いま〜す」
「うっ……そ、それは……ごめんなさい……」
正直、そこは不満である。せっかく泊まりに来ているのに、お話できないのはつまらない。
「それとも、緋影ちゃんは〜……ほんとは、迷惑だった〜……?」
「っ、そ、そんなことないよ……!」
「じゃあ〜……せっかく、遊びに来てくれたんだし、緋影ちゃんにも楽しんで欲しいんだけどな〜……」
言うと、緋影は黙り込んでしまう。……嘘は言っていない。みんなとも仲良くなってほしかったから、ノクチルを誘ったわけだし。
「ご、ごめん……」
「謝らないで〜。……代わりに、今日これから楽しむって宣言してくれれば、雛菜は十分だから〜」
「っ……じゃあ、楽しむよ。絶対に」
「うん。約束ね〜?」
そう微笑むと、緋影は笑顔で頷いた。決まりだ。そうと決まれば、とりあえずお風呂を終えてパジャマのままみんなでまた雑談……或いは枕投げである。
そう決めた直後、部屋の扉が開いた。
「お風呂いただきましたー」
「お待たせー」
「つ、次どうぞ……!」
透、円香、小糸が戻って来た。よし、ちょっと話したら落ち着いたし、これで普通にお風呂入れる……裸の付き合いだし、本音で色々と話せたら良いかも〜なんて思いながら、緋影に手を差し伸べた。
「緋影ちゃん、お風呂入ろ〜?」
「あ……お、お風呂……」
「あれ?」
なんか……やたらと頬を赤らめた緋影が、思いっきり緊張気味な顔になっていた。
この子……どうやったら落ち着くんだろう、と少し不思議に思った。