乙女になった雛菜ちゃん。   作:バナハロ

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新妻二人。

 同性同士でのお風呂……それは、別に普通の事である。大衆浴場があるのだから当然だ。

 だからこそ、困惑していた。緋影は、何故自分がたかだか友達とお風呂に入っているだけでこうも緊張しているのか、が分からないから。

 だって……何も恥ずかしがるようなことではないだろうに、なんかこう……やたらと気恥ずかしい思いをしてしまっているから。

 

「……」

「あは〜♡」

 

 お互いに、脱衣所に入る……が、緋影はやたらと緊張してしまい、洋服がどうしても脱げなかった。

 まぁ、そんな事を雛菜が許すはずもなく。

 

「あれ〜? 緋影ちゃん、脱がないの〜?」

「っ!」

 

 声を掛けられ、振り向くとそこには全裸の雛菜。目を引くのは、大きな胸。いや……本当に高一? と思う程度には大きい。

 頬を赤らめている事もあって、視線でバレバレだったのだろう。雛菜は「あ〜♡」と実に楽しそうに笑みを漏らした。

 

「今、雛菜のおっぱい見てたでしょ〜?」

「っ、み、見て……ました……」

「えっち〜」

 

 何も言えない。確かにえっちだったかもしれないから。真っ赤な顔で俯いたのが、雛菜にとっては隙でしかなかった。

 

「じゃあ、緋影ちゃんのも見せて〜?」

「え……わ、私のって……?」

「ばんざーい」

「え……ちょっ待っ……!」

 

 両手を上げさせられたと思ったら、その両手首を片手で束ねるように握られ、壁に押しやられた。……そして、もう反対側の手でブラウスのボタンを外される。

 

「え……あ、あの……市川さん……?」

「だってこうでもしないと緋影ちゃん、逃げちゃいそうなんだもん〜」

「に、逃げないよ! 自分で脱げるから、やめて……!」

「ホントに〜?」

「ほ、ほんと!」

 

 何せ、同姓とはいえ……いや、同性だからこそ脱がされるのは恥ずかしい。異性だと普通にキモいし多分殴る。

 ……いや、まぁ自分から脱ぐのも思ったより恥ずかしいわけだが。おかしい……体育で着替えるときは何一つ意識しないのに……。

 それでも、少しずつ上からボタンを外した。下着も外して裸になる……あ、あれだけせがまれたわけだし……いや、別にいらないけど感想とかあったりするのかな……なんて思いながら雛菜の方を見ると、もういなくてバスルームにインしていた。

 

「……〜〜〜っ!」

 

 一人で恥ずかしがっててバカみたいじゃん……! と、強く思いながらも、不機嫌そうにして、袋の中にまとめておいたシャンプーや洗顔、ボディソープのケースを手に持って、お風呂に入った。

 中に入ると、雛菜はシャワーを浴びている。気持ちよさそうに瞳を閉じて、さあぁぁぁっ……と、流れるお湯を胸で受け止めながら、少し一息つく。

 シャワーシーンなんて、男性だろうと女性だろうと、映画とかアニメでアホほど見て来たはずなのに……それが3Dになるとここまで見惚れてしまうものなのか、と、今度は胸ではなく全身を眺めながらぼんやりしてしまう。

 ……雛菜は、黙っているとこうも大人っぽく見えるものなのか……なんて思いながら。

 当然、雛菜も緋影に気がつく。ふと目を開いて自分の方を見ると、いつもの何を考えているのか分からない笑みを浮かべた。

 

「あ、やっと来た〜。もう、遅いよ〜?」

「ご、ごめんね……」

「ほんとにおっぱい小さい〜。円香先輩みたい〜」

 

 喧嘩売っているのだろうか? もしかしたら、こういうタイプも「残念美人」の部類なのかもしれない。

 

「ていうかそれ大胸筋じゃないの〜?」

「うるさい」

「あ、怒った〜?」

「怒ってない」

「怒ってるじゃん〜」

 

 別に怒ってない。少しむかついただけ……と、思っている緋影の手を、雛菜は強引に引いた。

 

「おいでおいで。お詫びに頭、洗ったげる〜」

「あ……う、うん……」

 

 そのまま座らされた後、雛菜は緋影が持参したシャンプーを手に垂らす。

 そして、緋影の頭をわしゃわしゃと洗い始めた。

 

「んっ……」

「意外と髪サラサラだね〜」

「一応、気を遣ってるか……え、意外?」

「緋影ちゃん、あんまりその辺、やってないと思ってたから〜」

 

 そんなに女を捨てているように見えるだろうか? ……まぁ、化粧とかにはまだ興味ないから、大事にしているわけでもないかもしれないが。

 

「あんまり普段からシャンプーの匂いとかしないし〜」

「香りのない奴だから……枝毛とか、出来なければ良いかなって……」

「え〜? せっかく可愛いのに勿体無いよ〜?」

「あ、あはは……別に、可愛くないから……」

 

 小学生の時のあだ名はのっぽだったし、背が高いのに運動神経は良くなくて、割とボロカスに言われていたものだ。可愛いなんて言われたことはない。……言ってくれるほどの関係になった相手がいなかったというのもあるが。あれ、なんか改まって思うと泣きたくなってくる。

 

「緋影ちゃんは可愛いよ〜?」

「いや、気を遣ってくれなくて良いから……絶対、市川さんと一緒にいても浮いて見えてると思うし……」

「? そうなの〜?」

「え……そ、そうじゃないの?」

 

 というか、アイドルと比較するなんて事自体が烏滸がましい。別に可愛いと思われたいわけでもないが。

 そんな緋影に対し、雛菜はいつもの掴み所のない笑顔のまま、自分の背中に胸を押し当ててハグをした。背中がすごい。柔らかいだけでなく、約二箇所ほど別の感触が背中にダイレクトアタック。

 

「っ……い、市川さん……?」

「雛菜は、緋影ちゃんのこと可愛いと思ってる……それだけじゃ、ダメなの〜?」

「え……?」

 

 ……まぁ、確かに今更他人の目なんて気にしても仕方ないし……なにより、気にしたって仕方ないかもしれない。

 というか、雛菜以外の人に可愛いと思われても意味ないかも……いや、でも雛菜のことが好きな人から見られたらどう思われるのか……。

 

「そ、それで良いかもだけど……」

「じゃあ、それで良いでしょ〜?」

 

 でもまぁ……雛菜がそう言うなら、良いかもしれない。

 

「……うん。そうかも……」

「じゃあ言って〜? 私は可愛いです〜って」

「い、いやいや! それは無理!」

「え〜?」

「も、もう頭良いでしょ? 次、私洗うから……」

「あは〜♡ ありがと〜。じゃあその次に、雛菜がちっぱい洗ってあげる〜」

「普通背中でしょ! ていうか、ちっぱいとか言わなて良くない⁉︎」

「今洗おうか〜?」

「け、結構です!」

 

 なんだろう、この人。一体、自分をどうしたいのだろうか? 

 そのまま二人でしばらく洗いっこして、ようやく湯船に浸かった。温かい……と、ホッとする。……浮いている雛菜の胸を見ると腹が立つので、今は見ないようにしているが。

 

「はぁ〜♡ やっぱりお風呂って気持ち良いね〜?」

「うん……私は久しぶりだけど」

「そうなの〜?」

「うちの人、基本ズボラだから、夏場でシャワーで済ませている期間が長いと、年によっては11月上旬くらいまでシャワーで済ませちゃうこともあるから」

「それじゃあ疲れが取れないよ〜?」

「あんまり疲れる事ないから……市川さんはアイドルだから、仕事の日は疲れる事も多いと思うけど……」

 

 バイトも慣れたし、あまりそもそも疲れる仕事ではない。運動神経は悪いのにスタミナはそこそこあるのだ。……弟の野球に散々、付き合っていたから。

 そんな中、雛菜がジトーっとした瞳で自分を見ていた。

 

「っ、な、何……?」

「緋影ちゃん、前から思ってたんだけど〜……」

「うん?」

「いつまで、雛菜のこと苗字で呼ぶの〜?」

「……えっ?」

 

 い、いつまでと言われても……いつまでだろう? あまり意識した事なかったが……何か問題だろうか? 

 

「な、なんで……?」

「そろそろ下の名前で呼んでほしいな〜?」

「え、し、下の名前……?」

「も〜、なんでわからないの〜?」

 

 少し拗ねたようにわざとらしく頬を膨らませた後、雛菜はそのまま告げた。

 

「雛菜って呼んで〜?」

「え……そ、そんな……友達みたいに?」

「友達でしょ〜〜〜⁉︎」

「い、いやそうだけど……!」

 

 やばい、今のは失言だった。そんなつもりはなかったが……ちょっと面食らってしまって。

 

「……あ〜あ、傷付いちゃったな〜。雛菜、友達と思われてなかったんだ〜」

「そ、そういうんじゃんなくて……!」

「これはもう、名前で呼んでもらわないと、雛菜立ち直れないな〜。雛菜も緋影ちゃんのことちっぱいちゃんって呼んじゃうかもな〜」

「ど、どんだけ胸をいじれば気が済むの⁉︎」

 

 すごい……ここぞとばかりに追い込んでくる……と、少し困るが……。

 でも……確かに友達同士って下の名前で呼び合ってるイメージが……ん? 

 

「で、でもほら……樋口先輩と浅倉先輩は苗字で呼び合ってるし……」

「? 雛菜達とは関係なくない〜?」

 

 全くその通りである。こうなったら、もう腹を括るしかない……少し深呼吸をしてから、緋影は少し頬を赤らめたまま目を逸らしつつ、ドモりながら言ってみた。

 

「ひっ……」

「ひ?」

「ひ……ひ……ひにゃにゃ……」

「……」

「……」

 

 噛んだ。猫みたいに。あざといドジっ子キャラか、と自分を戒めたくなる……ていうか、こんな事ホントにあるんだ、と感慨深くさえ思ってしまった。

 で、それと同時に嫌な予感。それは予感というより最早、未来視であり、確実に来ると分かっている先の事。案の定、雛菜はニヤリとほくそ笑み「ふ〜ん?」とニマニマした笑みを浮かべる。

 

「ひにゃにゃって呼んでも良いよ〜?」

「っ、い、市川さん!」

「雛菜かひにゃにゃじゃないと返事しない〜」

「ーっ!」

 

 こ、こいつー! ホントにありとあらゆる事象を使って人をいじると同時に要望を叶えて来やがる! と、緋影は憤慨する……が、元はと言えば自分が蒔いた種。怒るのはお門違いかもしれない……。

 そう呟きながら、とりあえず緋影は目を逸らしながら言った。

 

「……ひ、雛菜さん……」

「……」

 

 あれ、なんかまだ不満そう……と、思ったのも束の間、すぐに雛菜はその理由を告げた。

 

「なんで、さん付け〜?」

「えっ?」

「呼び捨てにしてよ〜」

「な、なんで……」

「友達だから〜」

「……」

 

 友達……と言われても……いや、まぁ確かに他人行儀だったかもしれない……。

 ため息をつきながら、緋影は改まって声を掛けてみた。

 

「……雛菜」

 

 あ、やばい恥ずかしい。やはり少し……気まずいというか、ちょっと申し訳ない。呼び捨てはなんか変な気がする……。

 

「あの……ちゃん付けでも良いですか?」

「なんで敬語〜? 別に良いけど〜」

「じゃあ……ひなにゃちゃ……ひにゃなちゃ……」

 

 あれ……思ったより呼びづらい……と、いうか、自分の滑舌の悪さを認識してしまった。名前を呼ぶたびに悪戦苦闘するのは失礼な気がするし……。

 

「ヒナちゃん……でも、良い……?」

「……あは〜〜〜♡」

 

 心なしか、めっちゃ嬉しそうに笑みを浮かべている。可愛いにも程がある、とこっちも一緒に照れてしまう。

 

「今日から、ヒナちゃんって呼ばないと返事しないね〜〜〜?」

「極端過ぎない⁉︎」

「雛菜も緋影ちゃんのことあだ名で呼びたいな〜……何が良い?」

「え……いや、いいよ。……自分の名前、それなりに気に入ってるから」

 

 普通な感じはしないが、親が付けてくれた名前だし……なんかこう、緋色の影……みたいな厨二感が割と……こう見えて、中学生の時は家で色々と妄想を膨らませてたこともあるし……。

 

「そう〜? じゃあ、緋影ちゃんで〜」

「……うん。そろそろ上がろっか」

「だね〜。

 

 のぼせるかもだし……と、思い、立ち上がろうとしたが、雛菜も同時に立ち上がる。おかげで、胸と胸が当たってしまったわけだが……弾力で、緋影の方が押し負けた。

 

「ひゃっ……!」

「あ、ごめん〜。平気〜?」

「……」

「……緋影ちゃん〜?」

 

 ……おっぱいの弾力で……押し負けた? と、緋影は唖然とする。胸の大きさで、こんな事になる……? 

 

「大丈夫〜?」

「…………確かな柔らかさと張りによって弾力が発生し、小さな弾みしか生み出せない者は弾き出される……これが、ギア4……」

「……何言ってんの〜?」

 

 しばらく絶望感に包まれていた。

 

 ×××

 

 パジャマパーティは続いたわけだが、そろそろお開き。睡眠の時間だ。雛菜の部屋に、布団が三枚とベッドがひとつ。

 それを見て、透が呟いた。

 

「つまり、廊下? 一人は」

「デスマッチじゃんけん」

「ぴえっ⁉︎ そ、そんなぁ⁉︎」

「あ、いや私はトイレでも風呂場でも大丈夫ですよ……」

「違う〜! 緋影ちゃんは雛菜とベッドで寝るの〜!」

「えっ」

 

 なんでそうこの子は自分に対して当たりが強いのか、と雛菜は困ってしまう。何のために一緒に泊まりに誘ったと思っているのか。

 各々で布団に入る。緋影は少し遠慮してしまっているのか、ベッドの前で固まっていた。

 

「緋影ちゃん、先にベッドに入ってて〜?」

「あ……う、うん」

 

 雛菜は電気を消す必要があるので、立ち上がって部屋の扉の横に向かい、電気を消す。

 

「じゃあ、そろそろ寝るね〜」

 

 話しながら、雛菜はベッドのほうに戻る……が、途中で円香の身体を跨……ごうとしたところで、にんまりと笑みを浮かべた。

 そして、その足を円香のお腹の上に下ろす。

 

「っ、ち、ちょっと……!」

「あ〜、ごめんね〜。小さくて見えなかった〜」

「は? わざとでしょ」

「わざとじゃないよ〜? 円香先輩、すぐそうやって勘繰る〜」

「勘繰りじゃなくて事実だから」

「あは〜♡」

 

 やっぱり、良い反応してくれる人だ。可愛い。こういう人は、雛菜の周りには円香しかいないのでやめられない。

 ……と、思いつつも、緋影の隣で眠る良い機会なので、この辺にしておいてさっさと緋影の方を見る。すると、それに気が付いた緋影が、体を半分だけ起こして、掛け布団をめくって待ってくれていた。

 

「は、はい。ヒナちゃん……」

 

 ……あれ、なんかちょっとカッコ良いな……なんて思ってしまう。彼女の胸は、大胸筋に見えるくらい薄い。それもあって、まるで男の人が自分の隣を誘っているように見えてしまう……。

 思わず、頬を赤らめてしまっている時だった。背後から、ポスっと何か柔らかくも硬くもないものが背中に直撃する。

 振り返ると、円香が枕を投げて来ていた。

 

「これでおあいこ」

「……あは〜?」

 

 返事になっていない返事を漏らしながら枕を握る雛菜。それを見て、透も起き上がり、枕を手にしながら、電気をつけた。

 

「お、やる? 枕投げ」

「えっ、さ、三人とも……」

 

 小糸が止めようとするが、三人とも枕を構えて立ち上がる。雛菜もスイッチが入った。……まぁ、せっかくだし、緋影にカッコ良いとこを見せておきたい……。

 

「じゃあ〜……スタート〜!」

「負けたら、明日の朝ごはん係だから」

「ふふ。負けんわ、死んでも」

 

 そのまま三人で激戦が始まった。まだ一年も経過していないとはいえ、アイドルをやってるだけあってそこそこの運動神経。キャッチングからのスローイングがあまりにもスムーズな戦闘が繰り広げられる。

 でもまぁ、音が消せるわけでもなく。僅か5分後だった。

 

「あなた達、うるさいわよ〜?」

「「「ごめんなさい」」」

「元気、有り余ってるみたいだし、明日の朝は三人が朝食の準備お願いね〜?」

 

 雛菜の母親によって当然の制裁が下された。はぁ……と、雛菜はため息を漏らしながらも、とりあえず今度こそ寝ようと思い、ベッドの方を見た時だ。……まるで避難をするように、小糸と緋影が二人並んで目を閉ざしていた。

 

「……」

 

 寝顔可愛い……と、思った反面、だ。……ずるい、と小糸を見る。まだ雛菜と緋影も一緒に寝たこと無かったのに、小糸に先を越されるなんて……と、頬が膨らむ。

 

「緋影ちゃん、起きて〜!」

「んっ……むにゃっ……」

「小糸ちゃんも〜! 緋影ちゃんは雛菜と寝るの〜!」

「え……あ、終わったの……? 枕投げ……」

 

 小糸はすんなり起きたが、緋影は眠りっぱなし。完全に安眠しきっている。……ずるい。自分が寝ようと思っていたのに……と、少しずつまた頬を膨らませていく。

 が、雛菜が何かする前に小糸が身体を起こした。

 

「じゃあ……雛菜ちゃん、どうぞ……」

「ありがと〜」

 

 話しながら、小糸に代わってもらう。ありがたく思いながら、緋影の隣に腰を下ろした。

 

「緋影ちゃん〜? 失礼しま〜す」

「くかー」

 

 静かないびきが聞こえる。可愛い……なんであんなに自分を卑下するのか分からないが……やっぱりこの子は愛おしい。

 雛菜のベッドの横には窓があるが、緋影はそっちに体を向けて眠っている。身体を少し丸めて、猫のようだ。

 

「……」

 

 一緒のベッド……少し気恥ずかしいかも……なんて思いながらも、チラリと後ろを見た。円香も透も小糸も、今度は静かにしている。

 ……よし、ちょっと見られたら恥ずかしい事もできる。雛菜は、後ろから緋影の背中を抱きしめた。

 

「ん〜緋影ちゃん……」

 

 声を漏らしながら、雛菜は緋影の頭を撫でつつ、後頭部に顔を埋める。……良い匂いを嗅ぎ、ぎゅっと強く抱きしめる。

 やっぱり……似てる。お兄さんの匂いと……というか、一緒? 顔も似ているし……ちょっと、似過ぎな気がしないでもない……。

 この小ぶりな大胸筋のような胸も、地味に悪く鋭い目つきとホクロも、何もかもが似ている。

 そんな時だった。

 

「んっ……市川、さん……」

「?」

 

 雛菜の夢? と、少し興味が出る。でも、呼び方を気を付けてほしいものだ。……まぁ、せっかくぐっすり眠っているのに寝言に突っかかるような真似はしないが。

 そんな中、緋影の瞳から涙が流れるのが見えた。

 

「……きらわ、ないで……」

「は〜?」

「騙してたのは、謝るから……」

「騙す〜……?」

 

 なんだろう、急に……いや、これもしかして……と、考えていた事もあっただけあって理解した。

 本当に……まさか、緋影=浅沼? 兄妹というのは嘘で……本当に本人……? 

 

「……」

 

 ……でも、浅沼は男の人だし、それはないよな……だって、雛菜は浅沼に一目惚れしたのだから。

 だから……まぁ、騙した、というのは夢の中で何かやらかしたのかもしれない。

 それに……今はどちらかというと、緋影の方が好きだし……。

 

「可愛いな〜……」

 

 寝ながら悪夢を見てうなされるなんて子供みたいだ。

 なんで、この子に友達ができなかったんだろう……と、不思議に思いながら、そのまま雛菜も目を閉ざした。

 

 ×××

 

 夜中……ふと、緋影は目を覚ます。眠りが浅かった……なんか嫌な夢を見た気がして。あとトイレ行きたい。

 体をモゾモゾと動かすと……なんか、動かない。というか、固定されてる? ふと後ろを見ると……雛菜がしがみついて来ていた。

 

「……あれ?」

 

 自分と寝ているのは小糸ではなかっただろうか? 確か、小糸が「眠れなさそうだから私も入れて」と勝手に始まった枕投げ大会が逃げるように自分の隣に来た。

 なのに……なんで雛菜? と思わないでもなかったが……やはり、胸が柔らかいので思考が止まる。

 ……いや、なんにしてもトイレに行きたい……と、思いながら、身体を揺らしてなんとか拘束から抜けようとするが……雛菜の両腕に力が込められる。

 

「ちょおっ……市川さ……ヒナちゃん……!」

「や〜……」

「はが抜けてるよ……?」

 

 やばい、腕力じゃ敵わない。このままじゃ漏れてしまう気がするが……でも、雛菜は逃してくれない。

 

「ひ、ヒナちゃん……離して……!」

「あは〜……」

「そ、それはイビキなのかな……?」

 

 可愛いけど、その笑い方は割と奥まで浸透しているんだな……と、少しほっこりしてしまったが、ほっこりしている場合ではない。

 ……こうなったら、仕方ない。緋影は、雛菜の両足を持ち、そのままおんぶするように雛菜ごと体を起こした。

 

「……よしっ」

 

 このまま、とりあえず雛菜ごとトイレに持って行ってしまおう……! 

 そう決めて、部屋を一度、出て行った。……重たい、とか余計なことは言わないが。

 トイレの前に到着し、一度雛菜を下す。一度持ち上げたからか、雛菜の両腕の力は緩んだので、そこに降ろしてようやくトイレに入れた。

 

「……ふぅ」

 

 さて、用を済ませる。トイレから出ると、雛菜が目を覚ましていた。

 

「緋影ちゃん〜……? どうしたの〜?」

「あ、ごめん……おしっこしたかったんだけど、ヒナちゃんが離してくれなかったから連れて来ちゃった……」

「……おんぶしてくれてたってこと〜?」

「え? あ、うん。まぁ……」

「……あは〜♡」

 

 ……なんでそんなに嬉しそうにするのん? と、思ったのも束の間、雛菜は緋影の手を引くと、階段のほうへ歩き始めた。

 

「緋影ちゃん〜、リビング行こ〜?」

「……え、ね、寝ないの……?」

「ココア淹れてあげる〜」

「あ……ありがとう……?」

 

 そのまま一階に向かった。夜中に二人きりの時間……それも、子供達(二人は年上)が寝ている間に……ちょっと夫婦っぽいかも……なんて思っている間に、雛菜がココアを持って来てくれた。

 

「……ありがとう」

「やは〜♡」

 

 後でまた歯磨きしないとだし、なんから明日……というより、時間的には今日からダイエット頑張らないといけない。

 

「あ……美味しい」

「緋影ちゃん〜」

「? 何?」

「緋影ちゃんって、行ってみたい場所とかある〜?」

「え……急にどうして?」

「緋影ちゃん、今まで友達いたことなかったんでしょ〜? だから、行ったことないとこで雛菜とデートして欲しいな〜って」

「良いけど……」

 

 ホント、最近は浅沼ではなく自分に絡んでくるようになったものだ。心臓には優しいけど……でも、なんで自分なのだろうか……? 

 

「……お、お兄ちゃんじゃなくて良いの……?」

「良いの〜」

 

 自分のことお兄ちゃんって呼ぶのクソほど恥ずかしいのを我慢して聞いたのに、割と普通に断られた。

 

「今は、緋影ちゃんと一緒にいたいな〜って」

「っ……」

 

 こ、この人……本当に恥ずかしいことを平気で……と、少し頬を赤く染めた。そんなの……本当なら自分も同じだ。浅沼である時より、緋影でいる時の方が、雛菜と一緒にいるときは気が楽だ。まぁ、当然と言えば当然だ。自分を偽らなくて良いわけだから。

 

「……わ、私も……ヒナちゃんと一緒に、いたいな……」

「やは〜ありがと〜」

 

 ニコニコ笑顔を浮かべられたが……超嬉しそうに見える。故に、むしろ恥ずかしかった。自分はだいぶらしくないことを言った自覚がある。

 

「ご、ごめん……忘れて……」

「え〜〜〜? 絶対嫌だ〜〜〜♡ 心の緋影ちゃんフォルダにしまっておくね〜?」

「な、なにそのフォルダ……」

 

 こんな時、何となく「やられっぱなしはいやだ」なんて思ってしまったのは、もしかすると深夜テンションなのかもしれない。ニコニコしている雛菜の頬に手を当てた緋影は、少し笑みを浮かべながら告げてしまった。

 

「私のヒナちゃんフォルダは……もういっぱいになっちゃってるのに?」

「やはっ……?」

 

 ……自分は今、何を言った? と、頬が赤くなる。言ってから後悔した。

 雛菜も顔を真っ赤にして目を見開いた後、そのまま俯いてしまう。やばい……なんさ、浅沼味が出てしまった……。

 

「……なんでもない」

「う、うん〜……」

 

 そのまま二人でココアを飲み明かした。

 

 ×××

 

「……え、深夜にケーキ食べる夫婦?」

「ふふ、ぽいわ」

「こうして見ると、お似合いだね……」

 

 というやり取りを、三人が並んで眺めていた。

 

 

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