乙女になった雛菜ちゃん。   作:バナハロ

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隠し事は時間が経てば経つほどバレやすくなる。

 ゲームセンターがデートと呼べるかどうかは微妙だが、まぁ一応、デートということで緋影は軽い服装に着替えた。その上、休日用に空けておいたピアスをつけ、準備万端だ。

 さて、そんなわけで、集合場所に向かった。他人を待たせるのは好きではないため、早めに到着……と、思ったのだが、すでに市川雛菜は来ているのが見えた。

 思わず……目を丸くしてしまった。白の肩が出るフリル付きシャツと、茶色のスカートというシンプルでボディスタイルを強調するような格好……肩から出ているキャミソールの紐が少しえっちだ……。

 それに、見惚れてしまった。この子……やはり、綺麗だ……と、強く思ってしまうほど。

 が、それを顔に出さないようにしつつ、後ろから声を掛けた。大丈夫、ファッションなら自分も負けていない。何せ、こちらは自分が好きなモデルの服をそのままパクってきたのだ。……まぁ、男性のものを女性が着ているわけだが。

 とにかく、少し気を落ち着かせてから声をかけた。

 

「市川さん」

「? ……やはっ……」

 

 顔を合わせるなり、雛菜も瞳を輝かせながら、頬を赤く染めた。

 

「っ……あ、浅沼さん……私服、素敵ですね〜……」

「そ、そうかな……」

 

 複・雑! これ男装! いやこういう服が好みだから、正直嬉しくもあるけど……自分の中の女の子的な面が頭を抱えている。

 

「は、はい〜! ……雛菜、か、カッコ良くて……ちょっと、可愛いな〜って、思ってしまったり〜……」

「っ……」

 

 あ、ヤバい……少し嬉しい。まさか、可愛いなんて言ってもらえるとは……でも、バレる可能性は常にあると言われている気分でやっぱり複雑でもある。

 

「ありがとう、ございます……可愛いって、少し照れますね」

「あれ〜? 可愛い、で照れるんですか〜?」

「も、もちろんカッコ良いでも少し気恥ずかしいですよ?」

 

 やばいやばい、もう少し女っぽさを隠さないとバレてしまう。バレたら終わりだ。この好かれ方は……間違いなく女だとバレたら刺される。

 

「そ、それより……ゲームセンターですよね?」

「あ……は、はい〜……いきましょうか〜」

 

 話しながら、二人で電車に乗った。

 

 ×××

 

 雛菜は、少し緊張していた。いや、少しじゃなかった。アホほど緊張していた。

 電車の中で揺られながら、二人並んで無言のままだ。行き先は池袋。そんなに遠くないわけだが、やたらと電車の中が長く感じた。

 休日の昼頃なのに座れなかったこともあり、扉の傍の角に寄りかかっている雛菜と、その前に立っている緋影は二人で向かい合って立っている。

 目の前に……こんなイケメンさんがいる……それが、幸せ……幸せなのに……すごく心臓がうるさい。ドキドキと胸の高鳴りが鳴り止まない。

 

「っ……」

 

 何か……何か話さないと。電車の中の時間ってそう言うものだろうに……でも……雛菜らしくなく、周りの目が気になってしまった。女の子が男の子と二人で出掛けているわけだし……少し、気恥ずかしい。こんなところで話なんてしたら、イチャイチャしてると思われないだろうか? ……いや、実際の所、雛菜としてはイチャイチャする仲になりたいと思わないでもないわけだが。

 そんな中、電車が駅に到着する。それにより、さらに電車に人が乗り込んできた。今日、すごく混んでる。

 

「すみません、市川さん。少し詰めます」

「はえ〜……?」

 

 さらに、半歩詰めてきた。自分の横に手をついて、後ろからの圧迫を凌ぎながら少し距離を詰めてくる。

 ち、近すぎる……その、顔面を自分に近づけられると……! 

 

「ごめんなさい……近いですよね。もう少し我慢して下さい……」

 

 み、耳元で囁くの反則〜! と、頭の中がさらにオーバーヒートする。で、でも……チャンスだ。少しでも、距離を詰めるために……! 

 

「い、いえその……しあわせなので〜……もう少し、このままでも〜……」

「っ、そ、そうですか……」

 

 あ……少し照れた。この人、やっぱりカッコ良いだけじゃなくて可愛い……と、少し頬が赤くなる。

 気恥ずかしさから、思わず目を逸らしてしまった時だ。その視線の先にあるのは、緋影の胸。なんか……少し、膨らんでいる気がする。大胸筋だろうか? そんなにムキムキな男には見えないけど……。

 電車が揺れたフリして……少し触ってみても……なんて思った時だ。

 

「あ、着きましたよ」

 

 降りる駅に到着したので二人で降り、それと同時にホッとしてしまった。ついうっかり変態的な行為に移る所だった。いくら何でも、電車の中で胸に触れるのはおかしい。

 その雛菜に、何も気付いていない緋影は呑気に聞いた。

 

「ちなみに、何か欲しい景品とかあるんですか?」

「あ……えっと〜……」

 

 一応、あるにはある。と言うより、調べてきた、という方が正確か。何かゲームセンターで気になる景品があるか。

 その結果、特に欲しいものはなかったので、発想を変えた。もしかしたら、クレーンゲーム以外にも緋影が好きなものがあるかもしれない。

 

「景品と言うより、その〜……アーケードゲーム、一緒にやりたいな〜って〜……」

「何か、興味あるものでも?」

「は、はい〜……いつも、遊んでるメンバーにこの前は恥ずかしいところを見られてしまったので〜……何か、極めたいな〜って」

「そっか……確かに、ゲームセンターのゲームが上手い人って、カッコ良いイメージありますよね」

「っ……は、はい〜……だから、浅沼さんもカッコよかったです〜……」

 

 クレーンゲームの話だ。極めてすぐにクレーンの癖を見抜き、助けてくれたのはカッコよかった。

 

「……ありがとうございます」

「あは〜照れてる〜?」

「そうですね……誉められるのは、なかなか慣れないものですから」

「……やは〜」

 

 ダメだ、カッコよくて可愛いとか何だろうこの人……もう、なんか大好きだ。

 なんて、少し呑気な話をしながら、緋影の案内でゲーセンに向かう事しばらく、ようやく到着した。

 

「ここ」

「ここ〜?」

「ここはクレーンゲームが盛ん。200円で一回だけど、割と取りやすかったりしますよ」

「あ〜……雛菜、今日はクレーンはいいかな〜」

「じゃあ、もうちょい先にラウ1あるから。そこなら色々ありますよ」

「じゃあそこ〜。ていうか……浅沼先輩って、ゲーセン詳しいんですね〜」

「まぁ……恥ずかしい話、色々通っていますから……ゲーセン以外で自分と遊んでくれる人いないので」

 

 友達……いないらしい、というかゲーセンが友達みたいな言い方がちょっと面白かった。

 まぁ、何にしても、だ。友達が一人もいないのは少し寂しい。そして寂しいのは幸せじゃない。これから先は……自分が一緒にいてあげられれば良い。

 まずは友達から……と言うように、雛菜は隣から緋影の指先を握った。……なんだか、その指は男の人のものとは思えないくらい華奢な指先で。それがまたギャップが生んだ可愛さに変換され、胸が高鳴る。

 

「っ……い、市川さん……?」

「じゃあ〜……今日から、雛菜がお友達ですね〜……?」

「……っ」

 

 少し……大胆過ぎただろうか? いや……ただでさえ、よくよく考えたら素顔も拝めていない関係だし、これくらいグイグイいかないと進展しない。

 何故か、男女の関係では「男→女」みたいな風潮があるが、女からいったって良いはずだ。

 アイドルのアタックに対し、目の前の小柄イケメンは。少し頬をポリポリと搔いた後、すぐに答えた。

 

「ありがとうございます。こんなに可愛いお友達ができるのは……とても嬉しいですね」

「ーっ」

 

 今度は、雛菜が顔を赤くする板だった。少しドギマギさせるつもりでやったのに、こちらの顔が真っ赤に染まってしまう。

 好みドストライクのイケメンで、その上性格は可愛くて、しかも褒め上手……ダメだ。やっぱり大好きになってしまう。

 

「あ、あは〜……あ、ありがとうございます〜……」

「ふふ、何やります? 基本、どんなゲームでも、自分は出来ますよ」

「じ、じゃあ〜……!」

 

 と、話しながら、二人でゲームセンターに入った。

 

 ×××

 

 そのまま二人でのんびりとゲーセン内を見て回った。お菓子のクレーンゲームをやったり、それでお揃いのユアクマキーホルダーを揃えたり、レースゲームをやったり、エアホッケーをやったり、格ゲーをやったり、音ゲーをやったり……と、とにかくいろいろ。

 そこからさらにゲームセンターの梯子……と、遊び尽くし、今は帰宅。

 

「ただいまー……」

「おかえり、姉ちゃ……え、めっちゃ疲れてる?」

 

 出迎えてくれた弟が声をかけてくれたが、実際のところかなり疲れた。すっごく言動に気を遣ったし、男として来ているから荷物も持ってあげてたし、その上で完璧なプレイングを披露したし、もう本当に疲れた。

 弟に顔を向けると、とりあえず名前を呼んであげる。

 

「……陽太」

「な、何?」

「彼女とか作ったら……それ相応の覚悟しときな」

「え、姉ちゃん彼氏出来たの?」

「彼氏は出来てないから……」

「は?」

「何でもない。はい、アーニャフィギュア」

「あ、サンキュー」

 

 だめだ、今は余計なことは喋らないに限る。疲れであんまり頭が回っていない……。

 そのままヨタヨタした足取りでフィギュアだけ渡して部屋に戻った。

 

「ふぅ〜……」

 

 ベッドに倒れ込むように寝転がる。その上、マスクも取っちゃいけなかったのだから、本当に疲れた……残暑の時期とはいえ、夏の前じゃなかったことに本当、ほっとするしかない。

 これからの季節なら、むしろマスクは必須と言えるから、割と助かる。

 ホント……どうして女の子って勝手な人が多いのか。自分が楽しむことしか考えてなくて、勝手な思い込みで人に無駄な不安を与えて……なんか、段々ムカついてきた。

 

「何で、私がこんな目に……」

 

 ただ平穏に生きたいだけなのだが……と、思っている時だった。ふと目に入ったのは、カバンについている雛菜とお揃いで確保したキーホルダー。あれを確保した時は……割と嬉しかった。

 というか、まぁ……別につまらなかったわけではない。疲れが異常だっただけで、意外とゲームの才覚がある雛菜とゾンビを掻っ捌いたり、レースで互角に渡り合ったり、音ゲーで接戦に持ち込むのは楽しかった。なんというか……他人とやるゲームの面白さ、を知れた気がする。

 

「……」

 

 ……何より、可愛かった。はしゃぐ彼女の姿はとっても可愛らしかった。思わず、見惚れてしまうほど。

 

「まぁ……たまに遊ぶくらいなら……また」

 

 なんて声を漏らしたあと、すぐに首を横に振った。ダメだから、仲良くなっては。どんな結果であれ、今は彼女を騙している立場なのだから。

 ……大丈夫。現状、素顔は認知さえされていないのだから。ゲーセンで次に会った時、正直に言おう。素顔は出さずに、正直に実は女の子です、と。

 そう決めて、とりあえずその日は眠ることにした。

 

 ×××

 

 月曜日の登校中、雛菜はニコニコしていた。それはもう普通じゃないレベルでニコニコしていた。

 カバンについているのは、ユアクマのストラップ。好きな人と……お揃い。

 

「やは〜〜〜♡ しあわせ〜〜〜」

 

 ヤバい、もう本当にヤバいくらいに幸せだった。それ故に、昨日の夜から笑顔が止まらず、本人は気づいていなかったが寝ている時もニコニコ笑顔で、朝は親に心配されたほどだ。

 故に、雛菜は当然、透や円香、小糸の前でもニコニコしていた。

 

「雛菜、超楽しそうじゃん」

「怖っ」

「な、何あったの?」

「何もないよ〜?」

 

 絶対あったでしょ、と三人とも思ったのは言うまでもない。

 そう思われてるかも〜、と雛菜は何となく分かっていたが、詳細を言うつもりはない。少なくとも、小糸以外の二人には。

 だから、ご機嫌のまま雛菜は話題を逸らそうとしたが……透が余計な所に気が付いてしまった。

 

「ていうか、新しい奴? そのストラップ」

「あは〜そう〜」

 

 笑顔で返事をしつつ、まずいと思った。……いや、大丈夫。ゲーセンで取った、と言うだけだから。

 

「ゲーセンでとったんだ〜」

「へー、いくらで?」

「300円〜」

「じ、上手になったんだね。雛菜ちゃん……!」

 

 上手にもなった。そうだ、これが突破口になる。

 

「だから、円香先輩が欲しいものも取ってあげられるよ〜」

「別にいいから」

「え〜? 円香先輩、たまにゲーセンで欲しそうに猫のぬいぐるみとか見てるのに〜」

「は? 見てない。適当なこと言わないで」

「あは〜円香先輩、ぬいぐるみにもツンデレ〜」

「雛菜うるさい」

 

 このまま円香をいじっていれば、話は逸れるかも……と、思った時だ。自分達が歩いている歩道の外側を、自転車が通り過ぎた。

 その一瞬だけ見えた横顔が……なんか、どこかで見たような気がして。昨日あたりに……レースゲームをやってる時、自分と対戦していた人と似ていたような……。

 

「雛菜?」

「な、何〜?」

 

 声を掛けられ、ハッとした。気のせいに決まっている。だってあの子、スカート履いてるし。

 

「友達?」

「雛菜、私達以外に友達いるの?」

「違うよ〜?」

「い、一応あの子同じクラスなんだけどね……」

「あんな子いたっけ〜?」

 

 なんて話しながら、4人で登校した。

 

 ×××

 

「へぇ〜……じ、じゃあ……一昨日、デートしてたんだ……」

「あは〜♡ 超楽しかった〜」

 

 そんな話が聞こえてきて、緋影は気まずそうに目を逸らす。雛菜と小糸の声は、何故か耳に届くようになってしまったのだ。だから、元々目を合わせて会話していたわけでもないのに目を逸らしてしまう。

 

「色々やったんだ〜。UFOキャッチャーやって〜、そのあとレースゲームやって〜……」

「ひ、雛菜ちゃんが? 珍しいね」

「面白かったよ〜? マリカーやったんだけど〜……浅沼さんね〜、アイテムを使う度に『そこ!』って雄叫びあげてて〜……なんだか、意外と子供っぽくてとても可愛かったんだ〜」

 

 やめてええええ! と、頭を抱えてしまう。それはもう思い出せば出すほどトラウマになってしまうし、それを他人に言うのは本当に勘弁してほしい。

 

「そ、そうなんだ……意外と、個性的な人なんだね……」

「うん〜。ゲームセンターのゲーム、好きみたいで〜……こっちの攻撃を避ける時も、クールに『当たらなければ……!』って言ってて……逆に可愛かった〜」

 

 それ以上は本当にダメ。今すぐにでも壁に頭を打ち付けて気絶したくなる……という心の中の願いも、聞こえるはずがない。そのまま雛菜は無邪気に思い出を語ってしまう。

 

「あと〜、音ゲーの時とかも可愛くてね〜。ボタン押しながら歌を口ずさんでて〜……その歌い方が、なんかちょっと可愛くて〜……本当に男の子? ってくらい〜……」

「あ、あはは……そうなんだ。私も、見てみたかったかも……」

 

 思い出一つ一つ辿っていくつもり⁉︎ と、唖然としてしまう。もうトイレ行くふりして逃げたい所だが、もう時間的にいつ教員が来てもおかしくない。教室から出られないのだ。

 しかし……可愛いと褒められるのがまさかここまで恥ずかしいとは……なんか、カッコ良いって言われるより、こう……悶えたくなってしまう。

 

「あと〜、ガンダ厶の格ゲーでチームを組んだ時は、雛菜のことたくさん守ってくれたんだ〜。ガンダム好きみたいで〜、たまにキャラのセリフ口から漏れてたりしてて〜」

 

 それは普通に痛々しい奴だからやめて! つい出ちゃうの、テンションが上がったり調子が良かったりすると! と、前髪をぎゅっと掴んでしまう。

 

「か、カッコ良い人なんじゃないの……?」

「そこが可愛いんだよ〜。小糸ちゃん、分かってないな〜」

「あ、あはは……そうなんだ」

 

 ていうか、大体ガンダムとか好きじゃない。シリーズだって全部見てるわけじゃない。たまに父親の影響でプラモ作ったり、ゲーセンでプライズが出たら取ったりする程度だ。アーセナルベースもやってる程度。

 

「雛菜もガンダム……見てみようかな〜……」

「そ、そこまで合わせなくても良いんじゃないかな……ほら、ユアクマちゃんで趣味一致してるし」

 

 それはそう。自分だってゲーセンのゲームからガンダムに入っただけだし……何より、自分の所為でメチャクチャお洒落なJKアイドルがガノタになるのはちょっと嫌だ。

 

「でも……好きな人と、少しでも多くのことで幸せになりたいし〜……」

「ひ、雛菜ちゃん……!」

 

 っ……じ、自分みたいな奴のために、なんでそんなに……と、また恥ずかしさが込み上げてきた。

 ダメだ、やはり言おう。次にゲーセンで会った時に。素顔がバレてないんだから、学校でいじめが始まることもないだろうし、誠心誠意謝ろう。

 

「あ、その後ね、ゾンビ撃つゲームでも協力したんだけど、その時も〜……」

 

 やめて、と頭を抱えながら、もうイヤホンを耳に突っ込んで聞こえないようにすることにした。

 

 ×××

 

 今日もプールの授業……なのだが、緋影はやってしまった。水着を忘れた。

 

「……あっつ……」

 

 おかげで、体操服のまま見学である。これ、楽出来ると思ったけど思った以上の地獄である。

 汗だくのまま体操服はどちらにせよ濡れるし、お陰で下着は透けてしまうわけだが、正直男子は自分のブラ透けより女子の水着に夢中だし、見られるわけでもないので別にいい。

 とにかく、水の中に浸かりたい……と、思ってしまう。

 

「あー……」

 

 にしても……正直、自分の目が行くのは、男子の筋肉よりも女子の水着なのは何故だろうか? なんていうか、こう……特に雛菜の水着姿がちょっと……目のやり場に困る程度にはキラキラと光って見えてしまう。何であんなに胸大きいの……。

 この前……自分はあんな綺麗な子とデートしたんだよなぁ……それも、一目惚れされて。そんな男子からしたらとっても名誉なことを、女の子の自分が受けられている。

 現在、プールの中も自由時間で、生徒達がはしゃいでいるのを眺めているのに、雛菜ばかり目で追ってしまっていた。

 

「小糸ちゃ〜ん、喰らえ〜」

「わっぷ……! ひ、雛菜ちゃん……かけてくる水の量が多いよ……!」

 

 ……あの手加減無しの様子も綺麗……あ、やばい、なんか頭がぼーっとしてきた。

 

「……」

 

 本当暑い……死ぬ……。正直、自分は身体が強い方ではない。日陰とはいえ、何も飲まずにここにいるのは……ちょっと……。

 そんな風に思ったときには、身体は自動で真横に倒れ込んでしまっ……た時だ。

 

「雛菜スプラッシュ〜!」

「ぴえっ……!」

 

 プールから飛んできた特大の水が、頭から被せられた。モロである。

 

「っ……」

「あ、やばっ」

「ひ、雛菜ちゃん……人にかけちゃダメだよ……!」

「あは〜」

「あ、謝ってこないと……!」

 

 おかげで意識が戻った。というか……ちょっと、気持ち良かった。少し生き返った心地がして、頭が戻ってくる。危なかった、もしかして熱中症になりそうだったのかもしれない。

 

「大丈夫〜?」

 

 そんな自分に声が掛かる。顔を上げると、市川雛菜が膝に手を置いて立っていた。

 まずい、と狼狽える。存在が認知されるのは困る。流石にバレる事はないだろうが、情報は与えないに限るのだ。

 

「だ、大丈夫……身体、拭いて来るから……」

「じゃあ、雛菜のタオル貸してあげるね〜?」

「え? え、いや別にそこまでしてくれなくても……」

「だって、タオル更衣室にないでしょ〜? 体操服透けてブラジャー見えてるけど、そのまま教室戻るの〜?」

 

 そう言われればそうかもしれない。別に隠す価値もないし見られても気にしないけど、わざわざその道を進むほど露出に抵抗が無いわけでもない。

 

「じ、じゃあ……借りるね」

「うん〜。まってて〜」

「あ……いや、私も行く。水飲みたいから」

「ん〜」

 

 それだけ話して、一緒に更衣室に戻った。その間、特に会話することはなく、雛菜は更衣室に入り、自分は水道水に口をつけた。

 

「っ、はぁ……」

 

 なんか……生き返った心地だ。水って美味しいんだな……と、実感してしまう。やはり、この炎天下で日光を浴び続けるのは危なかったようだ。そう考えると、水で叩き起こしてくれた雛菜には感謝である。

 

「はい、タオル〜」

「あ、ありがと……」

 

 後ろから声をかけてくれて、素直にタオルを受け取った。お言葉に甘えて、タオルで頭から拭いていく。

 

「じゃあ、拭き終わったら雛菜のロッカーに入れておいてね〜?」

「え、それどこ?」

「一番右上〜」

 

 それだけ言って、雛菜はプールに戻った。その様子を眺めつつ、身体をタオルで拭いていく。……あ、良い匂い。というか……今にして思えば、このあと雛菜がこのタオル使うんだよな……と、少し変に興奮してしまう。

 って、ダメだ。変な想像するな。善意で貸してくれているのに、それを無碍にするつもりか。

 とりあえず、早めに拭き終えて早くロッカーに出そうと思いながら、体操服の下を見る。

 パンツは平気そうだけど、ブラはダメだ。ぐしょ濡れ……。

 

「あっ」

 

 しまった。下着、どうしよう。替えなんて持ってきていない。体操服でさえ、体育の内容が切り替わった時に持って来るの面倒だから、夏休み後にロッカーに放り込んでおいたのを着ていただけだし、替えの下着なんて持って来ていない。

 ……ノーブラで、平気だろうか? 一応、この学校のブラウスは慣れることさえなければ下は透けないようになっているし、自分の胸はブラがないと困るほど育っていない。

 

「……ま、平気か」

 

 多分平気。夜中、コンビニに行く時とか、面倒な時はノーブラで行っちゃうし。

 とりあえず、濡れたままいるわけにもいかないので、先生に着替えの許可をもらいに行った。

 タオルを被ったまま、プールを眺めている先生に声をかける。

 

「先生」

「どした? てか大丈夫?」

「大丈夫です。あの、濡れたんで制服に着替えて良いですか?」

「ああ。良いよ。風邪ひかないようにね」

 

 それだけ話して、着替えに行った。

 ま、顔は覚えられてしまったかもしれないが、とりあえず良かった。どうせマスク姿の自分と同一人物なんて思われていないだろうし、とりあえずホッとしておこう。

 

 ×××

 

 さて、放課後。今日のバイトを終えた緋影は、更衣室で着替え。バイト先に来る前に着替えてきたから、ちゃんとブラジャーもしてある。

 しかし……面倒なものだ。女というのは。男よりも下着は多いし、その上で髪や肌もケアしないといけない、体重にだって男の人より増えやすい。

 別に彼氏が欲しいとかではないんだからそんなの気を使わなきゃ良いじゃん、と思われるかもしれないが、だらしない女になるのも嫌なので、やらなきゃいけないのだ。

 

「はぁ……男に生まれたかったな……」

 

 男に生まれていれば、雛菜に自分の正体を隠すことも……そういえば、今日は雛菜来なかったな……なんて思いながら、着替えを終えてマスクを外し、フードを下ろして出て行こうとした時だ。

 そういえば、今日はガンダムのプライズがまた出る日だ。それも、セイラさんのスク水フィギュア。取らないと。

 そう思って、筐体の元に向かった。

 

「ちゃっちゃと取っちゃおう」

 

 何せ、ここの店員だ。クレーンの仕組みはおさえている。さっさとそれを実行し、景品を手中に収め、袋の中に入れた。

 帰ろう、そう思ってお店から出た時だった。

 

「雛菜ちゃん……もう、流石にいないんじゃ……」

「ちょっと顔出すだけ〜」

 

 やばっ、と身を隠したかったが遅い。顔を合わせてしまった。

 

「あれ〜?」

「っ……!」

「あ……クラスの……」

 

 最悪に近い形で邂逅してしまった。

 

 

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