今日、レッスンが終わり、雛菜と小糸は二人でゲームセンターに来ていたのは、雛菜が急に「会いたいな〜」とか言い出したからだ。
で、未成年の18時以降ゲーセン入場禁止を無視して遊びに来たのだが……目の前にいたのは、今日水をかけてしまった少女だ。名前は覚えていないが。
「どうも〜」
「ど、どうも……」
雛菜が挨拶すると、少し気まずそうな声を漏らされてしまった。……が、雛菜にとって相手のテンションなんかどうでも良い。
気になるのは、何故このゲーセンから出てきたか、だ。
「もしかして〜……ここの店員さん?」
「っ、え、な、なんで……?」
なんかやたらとギョッとしてしまう。普通にゲーセンから出てきたからだが……確かに何でそう思ったのだろうか? 普通、お客さんだと思う所だろうに。
「なんで〜……なんでかな、小糸ちゃん〜?」
「ぴえっ、わ、私? 分からないよ……」
答えながら、小糸は雛菜の背中に隠れてしまう。かわいい。
「もし店員さんだったら〜……ここに、浅沼さんって人いる〜?」
「えっ……あ、え……えっと……い、いると……思いますけど……あ、で……でも、今はいなくて……い、いつかは……!」
「あは〜〜〜♡ 小糸ちゃんみたい〜〜〜」
この子も割とコミュ障なのかもしれない……が、何故か何処かであったような気がする。何処だろうか? いや、クラスメートなのだから当然と言えば当然なのだが……。
「じゃあ、浅沼さん今日はいないの〜?」
「い、いない……と、思います……」
「そうなんだ〜……ちなみに、浅沼さんと仲良かったりする〜?」
「し、しないです。全然。自ぶ……私、友達いないので……!」
「あは〜、浅沼さんと一緒だ〜」
なんか……似てるかもしれない。顔の雰囲気が……何処となく似てる? 特に目元とか。
まぁ、でも今はそんなことより、浅沼の事だ。仲良いわけではないなら、わざわざ絡む理由はない……と、思った時だ。
目に入ったのは、目の前の少女が持っている袋の中。箱の上に「機動戦士ガンダム」と書かれている。
「あは〜? もしかして、ガンダム好きなの〜?」
「えっ……な、なんで?」
「その箱……ガンダムって書いてあるから〜」
「す、好きだけど……それなりに……」
これはチャンスだ。あの人に話を合わせるためにも……ガンダムの事、この子から教えて貰えば良い。
「雛菜ね〜、今ガンダムに興味あるんだ〜」
「そ、そうなん……え、なんで?」
「雛菜の好きな人が、ガンダム好きだからだけど〜?」
それ以外に、そもそもアニメに興味を持つ理由はない。……正直、今からでも全部見るのは少し気が進まないし……なんて思っていると、目の前の地味なクラスメートは少しおどおどした様子で言った。
「あ……あの、差し出がましいかもしれないけど……」
「何〜?」
「好きな人がいるなら……興味がない分野までその方に合わせる事は、ないと思いますよ……。それをすると……相手にも、気を使わせてしまうかもしれませんから。その方が誘ってくれたら、改めて興味を持ってみる……くらいで良いんじゃないかなって……」
「え〜?」
言うことまで小糸と一緒なんて……と、雛菜は少し不満げに唇を尖らせる。本当に差し出がましいことを言ってくるものだ……なんて考えが顔に出ていたのだろうか。
クラスメートの少女は、あまりにも見覚えがあった気がするほど素敵な笑みを浮かべて答えてくれた。
「少なくとも……私が知る浅沼でしたら、市川さんが今持つ魅力で十分、落とせると思いますよ」
「やはっ……」
この……歯が浮くような褒め言葉……真心しか込められていないような優しい声音……そして、その気にさせてしまうような言いよう……似てる。浅沼に。
思わず、浅沼と同じくらい好きになってしまいそうになり……いや、むしろ同性である分、大胆に距離を詰めても問題ないと、本能的に思ってしまった。
それにより、思わずハグをしてしまった。
「あは〜〜〜♡ 雛菜、あーえー……田中さん大好き〜〜〜」
「っ、た、田中じゃないし離れて……近いよ」
「え〜?」
「私、帰んないとだから。頑張ってね」
それだけ話した少女は、逃げるように雛菜達の前から去って行った。
しかし……やはり、どこかで見た事あるような気がする。というか……話すのも初めてじゃない気が……なんて思っている時だった。
「あ……も、もしかして……」
「小糸ちゃん〜?」
「あの人……この前、プールで背中にぶつかっちゃった人かも……!」
「……あ〜、そういうことか〜」
その時、少しだけ話したような話なかったような……? まぁ、何にしても「そういうことか〜」と理解しておいて、とりあえず浅沼がいないなら、と帰ることにした。
×××
翌日、緋影はかなり困った様子で、机の上で頭を抱えていた。ダメだ……ほんと、最悪な形で見つかってしまった。あそこで働いている事がバレた上に、同一人物とバレたわけではないにしても、学校でも存在を認知された事だろう。
お陰で大ピンチになってしまった。なんかものすごく面倒臭い演技を強いられる……上に、だ。
そもそも、昨日はとうとう素顔であんなキザな真似をしてしまった。いつも以上に気を遣って言動に注意しなければならない。
「はぁ……恥ずか死ぬ……」
これでゲーセンの浅沼=緋影だとバレたら、もう終わりだ。いじめは間違いなく始まる。
そんな時だった。
「おはよ〜。あー……山田さん〜」
背後から声を掛けてきたのは、市川雛菜。昨日で完全に目をつけられてしまった。名前わからないなら聞いてくれれば……と、思わないでもないが、名前を言って大丈夫なものか? 一応……対抗策は用意できてるけど……。
「っ……や、山田じゃないです……!」
「じゃあ名前何〜?」
「っ……ひ、緋影です……」
「緋影ちゃんね〜?」
ニコニコしながら、机に鞄を置いてきてから、自分の席にやってくる。
「二つ後ろの席にいたんだ〜。全然知らなかった〜」
「あ、あはは……」
この子……基本的に他人には興味ない人なのかもしれない。だとしたら……なおさら自分なんかに興味を持たなくて良いのに……と思わないでもない。まぁ、もう一人の自分に興味を持っただけだというのは分かるのだが。
そんな中、ふと雛菜は自分の机の上に目を向ける。そこにあるのはユアクマのペンケースだ。
「緋影ちゃん、ユアクマちゃん好きなの〜?」
「えっ……あ」
しまった、そこは隠さないといけないところなのに。いや……好きとわざわざ言う事はない。持っているだけだ。
「ち、ちょっと……デザインが、お気に入りで……」
「へ〜? でも昨日、着てた服、私服だよね〜? 全然、感じ違うよ〜?」
確かに割と渋めなボーイッシュ……或いは男装を普段からチョイスしているから、このペンケースは真逆だ。
つまり、デザインが好きなのではなく、ユアクマが好きなのがバレているのだろう。
「あ〜……う、うん……。ユアクマだから、これ持ってます……」
「あは〜、素直なの可愛い〜」
……可愛いと褒められるのは少し慣れない。生まれてこの方、両親以外にそんな風に褒められた事はないから。
「ね〜、緋影ちゃん。今日、お昼一緒に食べよ〜?」
「えっ……ど、どうして?」
「良いでしょ〜、たまには〜」
「い、良いけど……あ、ふ、福丸さんはいいの?」
「一緒に食べるよ〜?」
……三人で、ということだろう。それは、小糸の許可も得ずに決めて良い事なのかは分からないが……とにかく、断ろう。
「あの……悪いんだけど……」
「え〜、だめ〜?」
「……」
だめだ……この顔を見ると断れない……。
「……わ、分かりました……」
「あは〜〜〜やった〜〜〜♡ 緋影ちゃん大好き〜〜〜」
「っ……も、もう……」
だめだ、自分にとってこの子はあまりにも特攻が入り過ぎる。まぁでも……他人と食事するくらい別に良いか、と思うことにして、とりあえず今は雛菜の話に付き合った。
×××
「わぉ、雛菜。友達?」
「……珍しい」
「ぴえ……」
「友達の緋影ちゃん〜」
軽く了承したことを後悔した。まさか、小糸だけでなくみんなセットで食べることになるとは。
「……ど、どうも……」
「浅倉透、雛菜の先輩でーす」
「樋口円香です。よろしく」
……が、顔面偏差値が東大……と、思わず息を呑んでしまう。何だろう、この人達……そしてこの空間。こんな所に、自分みたいな地味でボッチな女がいて良いのだろうか?
しかし……本当にみんな綺麗な顔立ちをしている。浅倉透は爽やかでクリアな美少女……クールで大人しそうな雰囲気があって、耳にピアスをしているにも関わらずチャラチャラしたギャルなオーラはカケラも感じさせない。
その隣の樋口円香は、同じようにクールなイメージはあるが、タイプは全く違う。ホワホワ系女子の代名詞とも言えるタレ目なのに、クールなイメージを保つどころか、この中で一番、クールなのは彼女なのではないか、と思ってしまう程だ。
その上で、福丸小糸と市川雛菜も一緒……こんなの、緊張するなと言う方が無理だった。
「でも、珍しいね。雛菜が友達連れてくるの」
「でしょ〜? この子、雛菜のこと褒めてくれるから好き〜」
「お世辞でしょ」
「円香先輩、お世辞も言えないから嫌い〜」
「は? 言う相手を選んでるだけ」
「ふ、二人とも……あんまり喧嘩しちゃ、緋影さんが困っちゃうよ……!」
しかもなんかギスギスし始めるし……何なのこの人達、と少し冷や汗をかいてしまう。
そんな中、浅倉透が真顔に近い笑みを浮かべながら、口を開いた。もしかして、仲裁してくれるのかな……なんて期待したのだが、何故か透の視線は自分に向いている。
「それだけ?」
「え?」
「お昼」
そう言う通り、自分の昼はカロリーメイトだけだが……何かまずいだろうか?
「は、はい……」
「体壊すよ」
「だ……大丈夫です……壊れて困る体じゃないので……」
「え? なんて?」
「あ、いえ……」
ボソボソ喋り過ぎていたからか、聞き取られなかったらしいが……まぁ、ドン引きされる分には別に……なんて思っていると、目の前に箸で挟んだミートボールが突き出てきた。
「はい、あーん」
「ひょえっ⁉︎」
あーんって……食べさせてくれる、と言う意味で言っているのだろうか? それ、普通に間接キス……同性同士とはいえ、嫌がる人は嫌がる。
「おいしいよ、樋口が作ったやつ」
「え……あ……す、すみませっ……!」
あ、いや待て、落ち着け落ち着け。食べて良い、とは言われていない。この手や虐められ方は散々されてきた。
好きなのだ、人間は人を嵌めるのが。つまり、この場合は……ミートボールの形状的に見て、自分の目に叩き込もうとしてた……のかもしれない。
「あ、あの……目玉は二つあれば十分なので……」
「何言ってんの? 食べてよ」
全然違った。なんかウケ狙いが滑ったみたいな感じを自覚し、どちらにせよ顔を真っ赤にしてしまう。
断った方が……いや、食べてよ、と言われてるし、先輩の誘いを邪険にしても怒られる……いや「は? 本気で言ってるわけないじゃん。冗談くらい理解したら?」となる可能性も……そう、断ればとりあえず間違いはないんだ。
そう思って口を開きかけたときだ。雛菜が自分の前に顔を出して、ミートボールを食べてしまった。
「ホントだ〜、透先輩が食べさせてくれたから美味しい〜」
「誰が食べさせても味は一緒」
「え〜? 円香先輩が食べさせてくれても美味しくなさそう〜」
「まず私が雛菜にものを食べさせる機会は未来永劫訪れない」
助かったけど、何故喧嘩腰なのか……正直、いづらさは変わらない。まぁ、そもそも雛菜は助ける気がなかったのかもしれないが。
もしかして……この二人が仲悪いのって、自分がここにいるからなのでは……いや、流石にそれは自意識過剰かも……なんて思っている時だ。今度は目の前にきんぴらごぼうが突き出された。
「ほら、緋影ちゃん。あーん」
「……」
何でこの人も放っておいて自分を照れさせようとしてくるのだろう……と、冷や汗をかく。いや、まぁもう二度目だし、流石にいただくけど。
「あ、あの……では、いただきます……」
「どうぞー」
「あの……でも、箸に口つけちゃ悪いので……手の上に」
「りょ」
と、いうわけで、手の上に乗せて一口もらった。……あ、本当に美味しい。
「おいしい?」
「は、はい……ありがとう、ございます……」
「うん。樋口のご飯美味しいから」
たまにはこう言うお昼ご飯も悪くないかも……大学生になったら一人暮らしになるかもしれないし、今のうちに自分もお弁当くらい用意出来る様になって良いかもしれない……なんて思っていると、円香が口を挟んだ。
「ちょっと、ていうかそれさっきから私のお弁当箱」
「良いでしょ。樋口、私より太りやすいのに胸大きくならないし」
「喧嘩売ってんの?」
やばっ、そうなのかよ、何なのこの人たち……! と、冷や汗をかいてしまう。
いや、焦る前にやるべき事は多くある。まず、謝らないと。
「ご、ごめんなさい! あ、あの……お昼買ってくるので……!」
「……いや、別にあなたが謝らなくても……」
「は〜? 円香先輩、何緋影ちゃん脅してんの〜?」
「脅してない」
「知らな〜い、円香先輩嫌い〜」
「あ、ちょっと私の飲み物……!」
と、また勝手になんかギスギスし始めてしまう……のより先に気になったのは、雛菜が円香の飲み物に口をつけて飲んだこと。なんていうか……自分のこと好きだって言ってたのに、割と普通に他の人と間接キスするんだな……と、ちょっと複雑になってしまった。
「っ……」
そういえば、小糸はずっと黙ったままだけど……どうかしたのかな、と思って視線を向ける。
「ぴぇっ……」
が、目を逸らしてしまった。恐れられてしまっているのだろうか? 何かした覚えはないが、コミュ障とはそういうものだ、と緋影は理解している。
「緋影ちゃん、今度はウインナー」
本当に浅倉透は何も変わらない人! と、頭を抱える。ダメだ、ちょっと一旦、楽になりたい。この人達の間にいると、頭がおかしくなりそうだ。
そう思い、席を立った。
「ス、スミマセン……飲み物、買ってきます……」
「じゃあ私、お茶で」
浅倉透貴様……と、奥歯を噛みたくなってしまったが、まぁ一人になれる時間が増えるし別に良い。パシリも慣れてるし……なんて思いながら立ち上がると、雛菜も立ち上がった。
「雛菜もトイレ行く〜。小糸ちゃんも何か飲む〜?」
「え? あ……じ、じゃあ……私も、お茶かな……」
「了解〜」
もしかして、他の人の飲み物のために? と、意外な気遣いに驚きつつ……残る二人の飲み物を買うのに、あのちょっと怖そうな人の分だけ買わないのは気がひける。
「じゃ、いこ〜? 緋影ちゃん〜」
「え、あ、あの……樋口先輩の分は……」
「円香先輩は平気〜」
「は?」
何でいちいち、その人には意地悪するの……と、少しまたいづらさを感じてしまった。
「あ、あの……私で良ければ、買って来ますけど……」
「大丈夫。私はあるから」
「え〜? じゃあ、雛菜が買ってきてあげる〜」
「流れぶった切り」
「行こ〜?」
「あ……うん」
そのまま教室を出て行った。
二人で廊下を歩いていると、隣の雛菜が声を掛けてきた。
「ど〜? 雛菜の幼馴染達〜」
「う、うん……良い人達、かな……?」
「あは〜〜〜♡ でしょ〜〜〜?」
「……みんな、個性的だね……」
「そう〜?」
……もう、本当に個性的と言うか……なんなら、ちょっと話が通じそうにないと言うか。透は何も考えていなさそうだし、小糸は自分がいるからか全然喋らないし、唯一話が通じそうな円香も、すぐに雛菜の言葉に食いかかるし……正直、もう二度と一緒にご飯を食べたくない。男性陣がこのグループにちょっかいをかけない理由が分かる気がした。
「じゃあ、明日からずーっと一緒に食べよ〜?」
「え……」
いやそれは勘弁して欲しい。マジで。断りたいけど……なんて言えば……と、少し悩みながら直球で言った。
「それも楽しそうだけど……わ、私は市川さんと二人で食べたいな?」
「やはっ……」
言ったから後悔した。なんか、デートのお誘いみたいに言ってしまったが……そんな気はなかった。
「な、なーんちゃって……! ご、ごめん変なこと言って。私……」
「……わ、分かった〜」
「え?」
「一緒に食べる〜……」
「ほ、ほんとに……?」
助かるけど……でも、良いのだろうか? というか、雛菜と二人でも普通に困る気がしないでもない。
「え……あ、あの……私なんかと、二人でも……?」
「そうだよ〜? もちろん、毎日じゃないけど」
「そ、そうですか……」
というか……何故、そんなに恥ずかしそうにするのか。たかだか女同士のお昼ご飯で……いや、それは自分も一緒なので何も言わないでおく。
「じゃあ、明日から二人で食べようね〜?」
「は、はい……」
約束しながら、飲み物を飲んだ。
×××
その日の放課後。
「それで〜、こちらのバイトの緋影ちゃんって子がクラスメートだったみたいで〜、お友達になったんです〜」
「そ、そうですか……」
「はい〜。でも、本当緋影ちゃんって浅沼さんに似てますよね〜」
「あ、あはは……そうかな……」
バイト先にやってきた雛菜が、緋影にニコニコと語る。一度、出掛けてから、割と積極的に声をかけられるようになってしまった。
嫌なわけではない……が、どうしても少し申し訳ないと言うか、変に意識してまうことも多いというか……。
そもそも、そっくりなのは当たり前だ。本人なんだから。
つまり、非常にややこしい事だが、雛菜には浅沼と緋影は別人で同じバイト先で働いている、と思われているのだ。
「……その子、友達いない子なんですけど〜……なんか、大人しめで静かですぐに照れる可愛い子なのに、たまにとーっても嬉しいこと言ってくれるキザな子で〜……」
「そ、そうなんだ……」
し、死ぬほど恥ずかしい……目の前でそんなわけわからんクールツンデレみたいな褒められ方をされるなんて……。
何が困るってこの惚気話、聞かされたまま逃げるわけにいかないって事だ。怪しまれない為には、その話に付き合ってあげないといけない。
「女の子が褒められたら嬉しい所、全部気が付いてくれる子なんですよ〜? 雛菜と趣味も合うし〜……あ、そうそう。ユアクマちゃんが好きって点も浅沼さんと一緒な子で〜、もうホント本人なんじゃないかな〜って思う程〜」
「うえっ⁉︎ ち、違うと思いますよ?」
「? 分かってますけど〜? 緋影ちゃん、女の子ですし〜」
危なかった。下手なことを言うと何もかもがバレる。でも浅沼さんも女の子です。
「それで〜……でも、その子が雛菜と二人でお弁当食べたいって言ってくれて〜……」
「そ、そうなんですか……」
言った、確かに言ったが……そういう、デート的な意味で伝えたわけじゃない……なんて訂正できるわけもない。
「雛菜、いっつも幼馴染四人で食べてたから……ちょっと、迷っちゃったんです〜、二人で食べるの〜……今日から仲良くなりたい〜って思ったばかりだったし〜……」
「っ……」
しまった、と少し後悔。もしかして、本当は嫌だったのだろうか? 自分が誘った事で、もしかしたら遠慮させてしまったのかも……。
なんて、少しの後悔がフツフツと大きくなって……なんて思っていると、雛菜は続けていった。
「正直……とっても嬉しかったんです〜。雛菜ばっかりじゃなくて、緋影ちゃんも雛菜に懐いてくれたんだな〜って思えたから〜……」
「っ……」
全然、違った。この子……気を使うとかではなかった。別人に話している体だからこそ、本音である事がわかってしまい、激烈に恥ずかしくなってしまう。
そんな風に思ってくれる人は初めてなので、なんとかお礼を言いたい気分になってしまう……が、今は別人だ。だから、別人として感謝の意を伝えてあげたい。
「良かったですね、市川さん。緋影もきっと……市川さんが初めての友達になってくれて、とても喜ばれていると思いますよ」
「やはっ……」
あ、言い過ぎだったかも、とすぐに理解した。何故なら、雛菜は顔を真っ赤にして俯くように目を逸らしてしまう。
どうして、マスクをしている時は何でも言えてしまうのだろうか? 正直、自分という人間も分からない。ここ最近の身の回りで起こる出来事も分からない。何もかも分からない。
「あ、あは〜……雛菜、浅沼さんも好き〜…………」
「え?」
「な、なな何でもないです〜!」
よく聞こえなかったが……まぁ、照れているのだろう。その顔が、何だかとても可愛らしくて、こっちも照れてしまうのを必死に抑えるしかなかった。
誤魔化したかったのか、雛菜は逃げるように走りながら緋影の手首を掴んだ。
「あ……そ、そうだ〜。欲しい景品があるので、取ってもらえませんか〜?」
「いや、自分は取れませんよ。アドバイスをするだけで……」
「どっちでもいいから来て下さい〜!」
……ダメだ、可愛い。ホント……こんな子に好かれるのが男ではなく女の自分だなんて……正直、かなり罪な気がするなぁ……なんて、実感しながら後をついて回った。
×××
ゲーセンを満喫した雛菜は帰宅。今日も楽しかった〜、と言うように、お風呂を終えてベッドに寝転がった。
自由奔放に見えるかもしれないし、実際雛菜は自由奔放な性格だが、それでも浅沼と緋影の前ではやたらと相手のことを思うようになってしまっているのは、自分でも不思議だった。
いや……浅沼はともかく、緋影の時は特に不思議だ。あの子は、ただのクラスメート。彼女にまで気を遣ったり親切に接してあげようと思うのは何故だろうか?
いや、何故かは分かる。浅沼と緋影が……あまりにも似ているからだ。顔や声、体格が。
その上、バイト先も一緒……と、少し困ってしまう。
「まぁ、ないと思うけど〜……」
何せ、性別の壁があるから。それが一緒でない限り、同じ人という事はない。
それに、不思議であったとしても、緋影と仲良くなりたいと思うのはどんな理由であっても悪いことではないだろう。
次の休みは、緋影と一緒にお出かけしても良いかもしれない。せっかく久しく見ない新しい同性のお友達なのだから。
うん、決めた。次の休みはあの子を遊びに誘ってみよう。何処に行くかは軽くショッピングにするとしよう……あっ、そうだ。
「……連絡先、交換してなかったな〜」
携帯番号……は、今度にするとして、チェインのIDでも交換しておかなければならない。……というか、浅沼にもまだ携帯の番号しか交換していなかったし、そのうちチェインを交換しなければ……と、思いながら、とりあえず明日の学校に備えて早めに眠る。不思議と、緋影の前で枝毛も肌荒れも見せたくないと思ってしまうから。夜ふかしは、美容の大敵である。