乙女になった雛菜ちゃん。   作:バナハロ

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可愛い子は愛でよ。

 夏休みが明け、プールの授業が終わり始めた季節、いよいよ学園祭が近づいてくる季節。

 制服も夏服から冬服に切り替わり、雛菜は家を出た。久しぶりの冬服……そして、それを今日初めて好きな人に見せることになるかもしれない事もあり、身嗜みをいつも以上に整えて出発。

 小糸達と一緒に登校し、教室に到着するとまず目に入ったのは、最近仲良くなった少女だ。

 

「緋影ちゃん〜」

「え? わっ……!」

 

 後ろからハグをした。なんか無防備で可愛かったから。案の定、肩をビクッと震わせて振り返る姿は怖がりな猫のようだ。

 

「あは〜♡ ビクッとした〜」

「あ、あの……後ろから抱きつくのは……」

「胸も小さい〜」

「……それは関係ないのでは……」

 

 少ししゅんとしてしまったが、小さいからこそ可愛いみたいなとこある。まぁ、それよりも必要なのはまず連絡先だ。

 

「緋影ちゃん〜、連絡先交換しない〜?」

「えっ……し、してなかったっけ……?」

「へ〜? してないよ〜?」

「あ……し、してなかったね……うん。ごめん……」

 

 誰かと勘違いしているのだろうか? でも、彼女には友達なんていないものだと思っていたが……まぁ良い。

 それより、連絡先……と、思っていると、緋影の方からスマホを取り出した。

 

「あ、あの……チェインでも良いですか……?」

「? 勿論〜?」

 

 浅沼の時は何を思ったか番号にしてしまったが、普通はチェインだろう。しかし、緋影はやたらとホッと胸を撫で下ろしている。

 

「よ、良かった……じゃあ、QRコード……の前に、少し待って……」

「はいはい〜」

 

 少し緋影はスマホをいじってからQRコードを出してくれる。緋影のアカウントが送られてきて、画面に表示された。

 

「……ヒトカゲって……ポケモン〜?」

「な、名前が似てるから……」

「ふーん〜……ヒトカゲちゃん?」

「えっ……い、いや……呼ばれても困るので……」

 

 話しながら、緋影は交換を終えてスマホをポケットにしまう。

 

「あ、そうだ。緋影ちゃん〜」

「な、なんですか……?」

「文化祭もうすぐだけど、何かやりたい事ある〜?」

「え……ど、どうでしょう……」

 

 もうすぐ文化祭なので、雛菜としては色々と楽しみだったりする。初めての高校の文化祭はみんなで楽しみたいものだ。

 ……まぁ、出し物自体にはあまり興味ないわけだが……。アイドルで忙しいし面倒はごめんだが……でも、緋影にやりたい事があるならちょっとだけそれに興味はある。

 

「緋影ちゃんが出し物提案してくれるなら、雛菜もやりたいな〜?」

「い、いや……私は、提案しないよ……別に、やりたいこともないし……」

「え〜、どうして〜?」

「文化祭とか……あまり興味ないから……」

 

 まぁ、わかっていた事だが、あまりアグレッシブなタイプではないようだ。でも、せっかくの高校生活だし……少しは楽しんで欲しい。

 

「ね、緋影ちゃん〜」

「な、何?」

「雛菜と回らない〜? 文化祭〜……」

「え……ふ、二人で……ですか……?」

「文化祭は4日間でしょ〜? 雛菜、ノクチルのみんなと、浅沼さんと〜、あと緋影ちゃんで3日間使いたいんだ〜。残りの1日は〜……まあ、予備日みたいな感じで〜」

「え……い、良いですけど……」

「あは〜、じゃあ決まりね〜?」

 

 その日は楽しませてあげなければ。大丈夫、去年もここの高校の文化祭には来てたし、どんな感じかは何となく理解している。

 そんな話をしていると、先生が教室に入ってきてしまった。

 

「じゃあ、今日もお昼、一緒に食べようね〜……」

「ははは……は、はい……」

 

 それだけ約束しながら、雛菜は席に戻った。

 

 ×××

 

 さて、LHRの時間。緋影はほっと胸を撫で下ろしていた。危なかった、全力で。連絡先を聞かれた時は焦ったが、番号しか交換していなかった事がついていた。

 まぁ、チェインの登録も「浅沼緋影」の本名で登録していた為、慌てて切り替えたわけだが。ちなみに、ヒトカゲになっていたのは、ヒカゲって登録しようとして入力ミスしていただけだが。

 

「はぁ……」

 

 まぁでも、一緒に遊びに行くのは構わないかも……平穏は欲していたが、高校生らしい青春を送りたいな、と思わないでもないわけだったし、せっかくなら楽しみたい。

 ……だからと言って、別にクラスの出し物に進んで協力しようと思えるわけでもないが。

 とりあえず、緋影はこの時間はのんびりボーッとすることにした。やりたい事がある人にその辺は任せれば良い。

 そう決めて、しっかりと眠りについた。

 

 〜50分後〜

 

「……て〜。緋影ちゃん〜……」

「……?」

「…………てくれないと……ハグしちゃうよ〜……」

「……んっ……好きにして……」

「え、じゃあ〜……ぎゅ〜っ」

 

 背中に当たるパイ圧と……そして、明らかに意図的に胸に当てられた両手の少しえっちな揉み方に、一気に目が覚めた。

 

「〜〜〜っ⁉︎」

 

 飛び跳ねるように起き上がると同時に、後頭部に硬い感触。雛菜のおでことクラッシュしたらしい。

 

「いっ……かはっ……!」

「あは〜大丈夫〜?」

「平気です……い、市川さんは……」

「雛菜は全然、平気だよ〜?」

 

 この子、強過ぎる……と、少し驚きつつも、とりあえず身体を起こした。

 

「緋影ちゃん意外と不真面目なんだ〜。爆睡だったもんね〜」

「ま、まぁ……」

 

 恥ずかしい話、授業中もたまにスマホをいじっているし、体育もトイレや水飲むふりしてサボることもある。目立たない人間だから、先生にも認知されづらいのだ。

 けど、今恥ずかしいのは寝ぼけて「好きにして」とか言ってしまった事である。

 

「寝顔、かわいかったよ〜?」

「っ……そ、そんな……やめて下さい……」

「あは〜〜〜照れてる〜〜〜♡」

 

 やかましい……と、恥ずかしさが増した。本当に褒められ慣れていないのだ。何が困るって、嬉しいのが困る。こんな地味な見た目をした自分を「可愛い」なんて言ってくれる人、雛菜くらいだろう。

 でも、やっぱり恥ずかしいので話を逸らした。

 

「そ、それより……どうかした……?」

「あ、そうそう〜。文化祭でやること決まったよ〜?」

「そ、そうなんだ……」

 

 そこは正直、どうでも良い。興味ないが、わざわざ話に来てくれた以上、聞いておく必要がある。

 

「な、何やるの……?」

「何だと思う〜?」

「さ、さぁ……メイド喫茶とか……?」

「ハズレ〜」

 

 正直、ハズレであることを期待しながら聞いたわけだが、本当にハズレで助かった。雛菜のメイド服姿を見たら、自分がどうなるのかわからない。

 じゃあ何だろう、と思っていると、雛菜はすぐに笑顔で答えた。

 

「正解は〜……お化け屋敷でした〜」

「そ、そうなんだ……」

 

 困った。全く怖くない……。雛菜とゲーセンでゾンビを撃つ銃のゲームもやったが、二人とも全く怖がらなかった。ひたすらにハイスコアを目指していたくらいだ。

 

「私達には、無縁かもね……」

「何言ってるの〜? 緋影ちゃん、お化け役だよ〜?」

「えっ……」

 

 な、なんだそれ、聞いてないんですけど、と冷や汗をかく。いやまぁ寝ていたわけだし、当然だが。

 

「な、なんで……?」

「雛菜が推薦したんだ〜。目つきがカッコ良くて、肌が白くて、胸が小さいからお化けっぽいな〜って」

「な、何してくれてるの⁉︎」

 

 人が寝てる間にとんでもないことしてくれた! どうして急にそんな真似をするのか、小一時間ほど問い詰めたいまである。

 その考えを隠す余裕も無かった緋影に、雛菜はニコニコしたまま答えた。

 

「お化けの格好した緋影ちゃん、可愛いだろうな〜って思ったから〜」

「か、かわいくないよ……私なんか……」

 

 というか、目つきがカッコ良いって自分が言っていただろうに。可愛さのかけらもないはずだ。

 

「大丈夫〜、雛菜と小糸ちゃんもお化け役になったから〜」

「そ、そうなんだ……」

「一緒に頑張ろうね〜?」

 

 そんな風に言われても……と、緋影は目を逸らす。正直、嫌だ……いや、仕事がある分、悪目立ちをする事はないかもしれないが……。

 

「お……お化けって、何したら良いの……?」

「驚かすんでしょ〜?」

「や、だからどうやって……」

「わぁ〜っ、て〜!」

「あ、かわいい」

「やは……!」

「あ……」

 

 しまった、声から漏れた。まだ知り合った間も無いインキャ風情が馴れ馴れしい口を叩いてすみませんでした、と謝らないと……! 

 

「ち、ちがっ……今のは……!」

「あは〜〜〜♡ 緋影ちゃんに褒められた〜〜〜」

「ふぎゅ……⁉︎」

 

 抱き締められてしまった。顔面に胸が直撃し、圧迫される。

 

「お礼に、雛菜が緋影ちゃんより大きいおっぱいで撫でてあげるね〜!」

「っ〜! っ〜!」

 

 喧嘩売ってるのかさっきから⁉︎ と、抱き締められる腕をバンバンと叩く。困る、柔らかい、良い匂い! と、煩悩が浮かんでしまっていた。

 

 ×××

 

 雛菜がご機嫌のままお昼の時間になった。今日は二人で食事。雛菜は一つ後ろの席の人に椅子を借りて、腰を下ろした。

 で、緋影の机の上にお弁当を置く。一方の緋影は、またカロリーメイトだった。想像通りだが。

 

「またカロリーメイト〜?」

「あ……う、うん。安いし、美味しいから……」

「そう言うと思って〜……じゃーん!」

 

 笑顔で、お弁当の二つ目を置いてあげた。そんなに量はないが、わざわざ二人分用意してきた。昨日、透が気になっていた通り、自分も気になったからだ。

 

「え……じ、女子高生の……手作り弁当……?」

「? 自分もJKだよ〜?」

「え、いやまぁそうだけど……」

「ちゃ〜んと栄養摂れるように作ってきたから〜、味わって食べてね〜?」

 

 そう言いながら、緋影に箸を手渡す。少し遠慮気味に手を引っ込めかけたのが見えたので、強引に持たせる。

 すると、緋影は少し渋々ながら、お弁当の蓋を開けてくれた。自分的には美味しく出来ていると思う。唐揚げ、ミニトマト、ほうれん草のバター炒めを少量ずつ入れ、白米にはふりかけをかけてあげたから。

 でも……これが口に合うかはわからない……と、思いながら眺めていると、緋影は食べる前に少し笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、お弁当……とっても美味しそうで、嬉しい」

「っ……」

 

 あ……まずい。またハグしたくなってしまった。この子の褒め言葉は、やたらと嬉しく感じる。浅沼に似ているからか、どうしても顔がにやけてしまうのだ。まだ食べてもらってもないのに。

 

「も、も〜! いいから食べて〜!」

「え、あ……ご、ごめんなさい……。いただきます……」

 

 挨拶した緋影は、そのまま食べ始める。メインの唐揚げを箸でつまむと、そのまま口に運んだ。

 

「あ……美味しい」

「……ほ、ほんと〜⁉︎」

「うん。とっても……」

 

 あ、やばい。死ぬほど嬉しい。早起きした甲斐があった。

 

「あ、あは〜〜〜♡ ありがと〜〜〜」

「だ、抱きつくのはやめてって……ていうか、お礼を言うのはこっち……!」

 

 それはそうかもしれない。じゃあ、と代わりにテンションのまま要求した。

 

「明日は緋影ちゃんが作ってきてね〜?」

「いや、私料理出来ないんで……」

「え〜? じゃあ、ちゃんと食べられるもの作ってきてね〜?」

「え、いやだから料理……」

「それより、早く食べて〜?」

「……」

 

 こういう割と勝手なところ、やはり陽キャの光はあまりに眩しすぎる。こうなったら……もう覚悟を決めるしかない。お弁当……明日、作るしかない。

 そう思いながら、お弁当の中身をありがたくいただく。

 

「やっぱり美味ひい……」

「あは〜ありがと〜。……じゃあ、もっと美味しく食べる〜?」

「え、どういうこ……」

 

 こちらの質問に答える前に、雛菜は箸で緋影のお弁当箱から唐揚げをつまみ、そしてこちらの口元に運んでくる。

 

「はい、あ〜ん……」

「えっ⁉︎」

「あは〜、すごい驚いてる〜」

 

 あは〜、じゃない。……というか、今気づいたけど他のクラスメート(特に男子)が、超こっちを見ている。

 

「っ……ち、ちょっと……市川さん……」

「食べないの〜? 昨日、透先輩からは食べさせてもらってたのに〜……」

 

 そ、そうだった。冷静に考えれば、昨日の自分は割と恥ずかしい真似をしていた気もする。

 ……いや、だからと言って開き直る気にはなれないが。

 

「ひ、人前でそれはちょっと……普通に、恥ずかしいし……」

「人前とか関係ないよ〜? 雛菜は雛菜だし〜……緋影ちゃんは緋影ちゃんでしょ〜?」

「っ……ど、どうしても……?」

「どうしても〜」

 

 ダメだ、逃げられそうにない。仕方なくため息をついた緋影は、うなだれて控えめに口を開いた。

 

「あ〜ん〜……?」

「あ、あ〜ん……」

 

 ……食べた、食べてしまった……でも、味なんて分からない。周りのバカ男ども「ヒナヒカだ」「ヒナヒカ尊い」とか言うな、殺すぞ、と念を送る。

 

「美味しい〜?」

「……お、美味しいです……」

「なら良かった〜。明日は、緋影ちゃんが食べさせてね〜?」

「ええっ⁉︎」

 

 何でそう言うことになるのか……と、緋影はため息をついた。

 

「大丈夫、緋影ちゃんが作って食べさせてくれたものなら、絶対美味しいから〜」

「っ……わ、分かったよ……」

 

 そういう問題じゃないんだけど……と、思いながらも、とりあえず今日はバイトも無いし、家に帰ったら簡単な料理を探すことにした。

 

 ×××

 

 さて、放課後。雛菜はお仕事みたいで小糸と先に下校してしまった。

 一方で、緋影はスーパーに立ち寄った。下校してから着替えて、帽子だけないけどマスクとピアスだけ装備。

 で、スマホで色々と検索したが、簡単なお弁当のレシピを探していたのに、なんか回鍋肉弁当とか青椒肉絲弁当とか難しそうなものばかり出てきたので、もう単純に冷食にでもする事にした。

 雛菜には申し訳ないけど、もう仕方ない。それに、冷食のが自分で作るよりはうまいと思うし。

 そう思いながら、スーパーの中を見て回っている時だった。

 

「あ」

 

 前から歩いてくる人影が、自分を見て声を漏らした。そこにいたのは、樋口円香。雛菜の先輩だ。

 いつも通りの服装で自分の事など認知はされない……と、思ったのだが、円香は確かに自分を見て声を漏らしてはずだ。

 ……多分、自分があまりにも顔を隠していて、不審者か何かと勘違いしたのだろう。

 なので、軽く会釈して立ち去ろうとした時だ。

 

「緋影さんでしょ?」

「ーっ⁉︎ ーっ⁉︎ ーっ⁉︎」

 

 バレてる! と、狼狽えてしまう。帽子がないからか? 完全にバレていた。これだから普段、変装はやめられない……なんて、変なテンションになったことを考えつつも、とりあえずマスクを外した。失礼にあたる。

 

「あ……は、はい……」

「お使い?」

「あ、い、いえ……そういうわけじゃ……」

 

 円香の視線は、緋影が持っているカゴの中に向けられる。

 

「……冷凍食品ばかり……身体壊すよ」

「あ、あはは……私、料理できないので……」

「そうなんだ」

「ま、まぁ……いつもこうじゃないので……明日、ちょっと……」

「明日……雛菜とお弁当の交換でもするの?」

「えっ」

 

 な、何でわかるのこの人……と、思ったのも束の間、円香は「当たりか」とすぐに理解し、腕を組んだまま鼻息を漏らす。

 

「分かりやす……」

「うぐっ……す、すみません……」

「謝ることじゃない」

 

 そんなことより、と円香は続けていった。

 

「それなら、ちゃんと作った方が良くない?」

「で、でも……私、料理出来ないので……美味しくないものを食べさせるくらいなら、嘘ついてでも美味しいものを用意した方が良いかなって……」

「……」

 

 すると、円香は腕を組んだまま黙り込んだ後、小さくため息をついてから言った。

 

「それ、全部元の場所に置いてきて」

「え、嫌です……」

「料理、私が教えるから。うちで」

「え……う、うちって……?」

「私のうち」

「…………えっ?」

 

 遠慮したい! よりにもよって、一番怖そうな樋口先輩とか、胃がねじ切れそう……! 

 そんな風に思っている間に、円香は続けて言う。

 

「ま、断るならどっちでも良いけど。……でも、雛菜もお弁当作ってくるんでしょ? あなたは、作らなくて良いの?」

「っ……」

 

 それは……そうかもしれないけど……でも、あなたといるのは正直怖い……いや、それって結局、自分の為に約束を破るのと同じ事な気がする……。

 正確に言えば、交換というより今日もらったから明日返すお返しのような感じなわけだが、何にしても約束した以上は、ちゃんと叶えてやらないといけない。

 

「わ、分かりました……じゃあ、よろしくお願いします……」

「ん。まずは買い物からね」

「あ、はい」

 

 そのまま二人で円香の家に向かうことになった。

 

 ×××

 

 円香には、割と色々と教わってしまった。まずは買い物のコツから。なるべく重たいものを選ぶとか、肉を選ぶときはグラム数を見るだとか、すぐに使うのなら値引き商品を選ぶとかそう言うことを教わった。

 その後で、料理を教わった。ズカズカと友達にもなっていない間柄で家に上がらせてもらい、料理を教わってしまった。

 お弁当の作り方に関しても、どんな料理がお弁当に向いているか、雛菜の好きな食べ物などを教えてもらってしまった。この人、花嫁修行の経験があるんじゃないか、というほど教え方も上手だった。

 

「で、出来ました……」

「ん」

 

 お皿の上に並んだ弁当箱に入っていない生姜焼き弁当に、円香は箸を伸ばして一口、食べる。

 

「……うん、美味しい。浅倉と違って、教え甲斐がある」

「ーっ……そ、そうですか……」

 

 嬉しい、かもしれない……いや、お世辞の可能性も……と、思い、自分も摘んでみる。

 あ、ほんとに美味しい。てことは、お世辞じゃなかったのか……あ、やばい嬉しい。自分の料理が褒められるのって、結構嬉しい……。

 そんな考えが、顔に出ていたのだろうか? 円香が、咀嚼しながら自分を見上げて呟いた。

 

「……雛菜が気に入るのも分かるかも」

「え?」

「何でもない。今日のこれをお弁当に詰めれば、雛菜も喜ぶと思う」

「あ、ありがとうございます……ほんと、お世話になりました……」

「……別にあなたのためじゃない」

「あ……そ、そうですよね……市川さんに、変なもの食べさせられませんよね……」

「違う、雛菜のためはもっとありえない。嘘、あなたのため」

「え? あ、は、はい……」

 

 急になんか前言撤回し始めた……と、思っていると、円香は生姜焼きを引き続きつまみながら聞いてきた。

 

「で、どうして学校外では顔を隠してるの?」

「ひょーっ!」

「え……うるさっ」

 

 冷たく言われてしまったが、本当に驚いたのだから仕方ない。え……ま、まさか……バレているのだろうか? いや、バレているのかもしれない。でも、なんて言い訳すれば……なんて少しワタワタしていると、すぐに円香は口を開いた。

 

「せっかく綺麗な顔してるんだから、わざわざ隠さなくても良いと思うけど」

「……え?」

「? 隠してるわけじゃなかった? 風邪引いてるわけでもないのに、マスクしてたから」

「……そ、それだけですか……?」

「? 他に何かある?」

 

 ……ゲーセンでもあの姿でいることもバレてるわけではない……? だとしたら……助かったかもしれない……。心臓、飛び出るかと思った……。

 

「べ、別に顔を隠してるわけじゃないんですが……あまり、顔を出すのが好きじゃなくて……」

「ふーん……ま、良いけど。でも、雛菜と二人で出かけるときは、マスクどうするの?」

「え……ど、どうでしょう……」

 

 あまり二人で出かける、という発想にはなった事がないが……確かにそんな機会もあるかもしれない。次、学祭を回るときは流石にマスクは外すが……浅沼の時は当然、外すわけにはいかない

 

「外してあげた方が良いよ。その方が……雛菜も喜ぶと思うし」

「あ……は、はい……」

「じゃあ、明日頑張ってね」

「が、頑張ります……!」

 

 それだけ話して、とりあえずその日は食べ終わるまでのんびりした後、帰宅した。

 

 ×××

 

 翌日。雛菜にとって、これほど昼休みが待ち遠しく感じた事はなかった。ずーっとソワソワしたままの様子で授業を終えて、体育を終えて、そして今に至る。

 作ってきてくれてるかな〜、と楽しみに思っている反面……作ってこなかった可能性にも備えて、今日は学食も考えて多めに財布にお金を入れていた。

 結構、彼女と仲良くなるために強引な手段に出ている自覚はあった。だから……もしかしたら、緋影に無理をさせているのかもしれない……と、思わないこともない。

 それでも、雛菜は緋影と仲良くなりたいと思って、少し距離を近くしている。

 さて……でも昼休みだし、そろそろ緋影の元に……と、思っている時だった。とんっ、と後ろから自分の机の上に、お弁当を乗せられた。

 

「……んっ」

 

 顔を真っ赤にして、眉間に皺を寄せて、巾着袋に包まれたそれを突き出してくる。一瞬、何か分からないほど衝撃だった。何せ……彼女から自分に声をかけてくれたのは初めてだ。

 

「あ、緋影ちゃん〜……」

「食べて」

「え〜……?」

「いらないならいいけど……」

「い、いる〜。意地悪言わないで〜」

 

 話しながら、お弁当を受け取った。すると、緋影は自分の席に戻ってしまう。

 

「え、い、一緒に食べないの〜?」

「…………いから……で……」

「え?」

「…………恥ずかしいから、別で…………」

 

 ……な、何その可愛い理由……と、雛菜にも照れが伝染する。どうしよう……というか、この照れた感じの目……浅沼にそっくりだ。

 とにかく、このまま照れさせたまま別で食べるなんて嫌だ。お弁当箱を受け取った雛菜は、それ持って緋影の前の席に座る。

 

「一緒に食べても良いでしょ〜?」

「……好きにして」

「あは〜、そうする〜」

 

 意外とすんなり受け入れられた。おかげで、雛菜はすぐにお弁当箱を開ける。中に盛り付けられたものを見て……少し目を丸くしてしまった。

 生姜焼き弁当……意外と凝ったものが出てきた……。てっきり、炒め物だけかおにぎりだけか、冷食の可能性が高いと思ってたんだけど……。

 

「美味しそう〜……料理出来ないって言ってなかった〜?」

「だから……昨日、教わった……」

「へ〜、誰に〜?」

「ひ、樋口先輩……」

「……ふ〜ん」

 

 なんだろう、嬉しかったのに少しだけムッとしてしまった。どういう関係なんだろう、わざわざ料理を教わるなんて……と、少し気になる。まぁ、どんな関係でも良いけど。

 いや……でも料理が出来ないのに、わざわざ教わってまで頑張ってくれた、と思えばそこまで嫌な気分にもならない。

 なので、気にせずに食べてみることにした。中に入っていたお箸を使い、肉を一枚、口に運ぶ。……美味しい。普通に。

 

「あは〜〜〜♡ 美味しい〜〜〜」

「っ……ほ、ホント……⁉︎」

「ホント〜〜〜」

 

 こう言うことで嘘はつかない……と言うより、嘘をつけない。不味いものは不味いと言ってしまう性格だから。白米も合うように少し濃いめの味付けが完璧で、永遠にご飯を食べられてしまう。

 そんなわけで、パクパクと箸を口に運んでいると、ふと気がついたのは目の前の緋影。なんか、固まっている。ていうか、目尻に水滴が浮かんでいる。

 

「どうしたの〜……って、泣いてる〜?」

「っ、な、泣いてない……!」

「あは〜〜〜♡ そんなに嬉しかったの〜〜〜?」

「な、泣いてないってば……」

 

 や、やばい……何でこんなに可愛いのか。まさか、ご飯が美味しいと褒めてあげただけで泣かれてしまうとは……この子、本当にどこまで可愛い子なのか。

 

「緋影ちゃん、ホント純情で可愛い〜」

「っ……や、やめてってば〜……」

 

 あまりに可愛くて、思わずハグしてしまった。やっぱり、この子は異様に可愛い子だった。

 やはり、この子は異常に可愛い。もう大好きだ。今日のこと、ゲーセンで会えたら浅沼に報告しよう、そう思いながら、二人での食事を楽しんだ。

 

 

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