乙女になった雛菜ちゃん。   作:バナハロ

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大きなイベントの思い出は長く続く。

 学園祭一日目……雛菜がいないこともあり、今日は緋影は退屈だったが、なんか最近はやたらと兄(仮)のことを探って来られていたので、少し助かってしまったり。

 まぁ、雛菜にとって好きな人が自分の兄ということになっている人物なのだから、当然と言えば当然だろう。……にしても「仲良いの?」とかの質問が多すぎる気がしないでもないが。

 残念ながら、実際に弟がいる身として言えば、別に兄妹だろうと姉弟だろうと恋愛関係になることはない。どう足掻いたって恋愛対象になり得ないものだ。あの日、両手を拘束した状態で弟にビンタしてもらいまくったが、それで精神的には浄化出来た。

 弟にはドン引きされたが、まぁ仕方ない。

 で……金曜日。緋影は、緊張していた。今日は、雛菜と二人で回る日だから。……まぁ、そうは言ってもまずは幽霊のコスプレをするわけだが。

 

「あは〜〜〜♡ 緋影ちゃん、綺麗〜〜〜本当のお化けみたい〜〜〜!」

「それ褒めてるの……?」

 

 ちょっと嬉しいけど、それ以上に縁起でもない。……いやでも本当に嬉しいあたり、自分にとって雛菜の褒め言葉ならなんでも特攻が入るみたいだ。

 

「雛菜はどお〜?」

「あ……う、うん……市川さんも、その……綺麗、です……」

「あは〜♡ ありがと〜」

 

 ……褒めるの、少し照れる。雛菜を褒めるのはちょっと怖かった。

 

「あ、あの……なんで私だけオーバーオールなのかな……」

 

 そう呟くのは小糸。確かに、オーバーオールの下は赤いTシャツ……なんか、ハローキティみたいな服装だ。園児に見える。

 

「多分……呪いの人形なんじゃないかな? 包丁とか持って、捨てた女の子を呪いに行く……みたいな?」

「あは〜〜〜♡ 確かにそれっぽいかも〜〜〜」

「そ、それはー……褒められてる、のかな……?」

 

 雛菜を通して、小糸とも少し話せるようになった。それは、小糸にとっても良いことで、学校にノクチル以外の友達が出来たのは嬉しかった。

 

「でも……緋影ちゃん、着物似合うね〜」

「え、そう?」

「お祭りとか一緒に行って、浴衣デートとかしてみたかったな〜」

「お、お祭りはちょっと……」

 

 あんまり好きではない。何せ、夏祭りの時期、当然ながら外は暑い。その上、一人で祭りなんか見て回っても楽しいことなんてなかったから。

 

「なんで〜?」

「暑いから……汗かくの、好きじゃないし……」

「ほ、ホントに緋影ちゃんってインドア派なんだね……」

 

 小糸にも言われてしまったが、好きじゃないのだから仕方ない。その横から、雛菜が笑顔で聞いてきた。

 

「冬は〜?」

「え、いや冬も寒いから出たくないけど……」

「じゃあ今年の冬は〜……雛菜と雪合戦しようね〜?」

「え、き、聞いてた……?」

「決定〜」

 

 ……空気を読むつもりが全くないあたり、本当に困った人である。……まぁ、雛菜と一緒なら嫌じゃないけど。

 

「ほら、お化け役三人、さっさと準備して」

「あ、は〜い」

「結局、立ってるだけで良いんだっけ……」

「う、うん……そうみたい……」

「誰が一番、驚かせられるか競争ね〜?」

 

 とのことで、お化け屋敷の中に入った。それぞれ設置された場所に立ち、後は驚かせるように顔を出すだけ……なのだが、思ったより暗くないのだ。教室の中は。

 まぁ……昨日、二人より早くお化け役をやることになった身としてはアレなのだが……残念ながら、多く脅かした方が勝ちとか、そういう事にはならないと思う。

 何せ……と、思っていると、お客さんが入ってきた。

 

「ほらほら、見てこれ。お化け、めっちゃ美人!」

「てか、化粧がガチすぎるよね! あと衣装も!」

「あの……写真良いですか?」

「……SNSに載せないのなら」

「あざっす!」

 

 そう言うと、お客さんの女性陣は自分の前に立ち、スマホを自撮りにして構える。運が良いのか悪いのか、元々認知をされていなかったことと、完璧すぎる化粧と衣装のおかげで、緋影だと認知されていない。

 

「ありがとうございまーす」

「い、いえいえ……」

 

 これ……絶対にお化け屋敷じゃない。お化けのコスプレ屋敷である……と、思った所でハッとした。このままでは、雛菜も一緒に写真を撮ることになるのでは……? と。

 後を追うと、やはり写真を撮っていた。

 

「はい、チーズ」

「やは〜〜〜♡」

 

 ……あの子、お化けの自覚がかけらもない。随分と堂々とした心霊写真が出来上がりそうなものだ。

 まぁでも……楽しそうだし、自分が口を挟むのも違う。とりあえず、後ろから眺めることにした。

 

 ×××

 

 さて、そんなお化け屋敷とはとても言えないお化け屋敷での勤務が終わり、いよいよ雛菜と文化祭デート……なのだが、まぁすぐには行かない。お化けの化粧を落とす必要があるから。

 雛菜は元が良いので薄く化粧をした程度だが、自分は特に唇の化粧を落とすのにそこそこ時間がかかってしまった。

 その上で……さらに手鏡で前髪や顔にゴミとかついていないかを入念にチェック。鼻毛とかまつ毛、眉毛も見ておいた。

 

「よしっ……」

 

 これで大丈夫そう……! そう思い、決意を新たにして教室を出た。

 教室の前では、雛菜が待機していた。

 

「お待たせ……!」

「ううん、平気〜。じゃあ、行こっか〜」

「う、うん……」

 

 少し緊張しつつも、後を追った。前を歩く雛菜の後ろをついていきながら、パンフレットを確認。

 

「雛菜、お腹すいたな〜」

「あ、じゃあ……何か、食べに行こうか」

「そうだね〜。何か食べたいものある〜?」

「やっぱり……飲食店なら、外でやってる部活のとこから選んだ方が良いかも……こういう売上って部費になるから、美味しいものが多そう」

「……」

「? 市川さん?」

 

 なんか急に足を止めたと思ったら……少し不満げに頬を膨らませてこっちを睨んでいる。かわいい。

 

「何で後ろ歩いてるの〜?」

「え? あ、あー……何でだろ」

「も〜、二人で歩いてるんだから、隣に来て〜。なんでポケモンみたいなことしてるの〜?」

「わっ……!」

 

 雛菜に手を掴まれ、隣に引っ張り出される。そして……そのまま、手を繋がれてしまった。

 

「っ、いっ、いいい市川さん⁉︎」

「これで隣同士だよ〜」

「え……そ、それはそうだけど……!」

 

 ま、まさか手を繋いで学祭を回ることになるなんて……と、少し狼狽える。やばい、手汗とか大丈夫だろうか? 変な汁とか出てないだろうか? 考えれば考えるほど、ネガティブになるのに……繋いでいる手が、そもそも思考を許してくれない……! 

 

「で、何食べよっか〜?」

「え……な、何食べるって……あ、お、お昼?」

「へ〜? さっきからその話じゃなかったっけ〜?」

 

 そ、そうだったけど……そうだ、お腹すいたと言っていたし、何か探さないと。と、片手でパンフレットを見た。当然、そこそこな大きさの冊子を片手で開くと大変なわけだが、雛菜が手を繋いでいない方の手で片方を持ってかれた。

 片手では手を繋いで、片手では同じ冊子を二人で持って……あれ、もしかして自分達は恋人? なんて勘違いしてしまいそうだ。

 

「どこにしよっか〜……雛菜、甘いものが良いな〜」

「あ……甘いものってお昼ご飯になるのかな……良いけど……」

「え、良いの〜?」

「うん? まぁ……極論、人の頭はブドウ糖さえあれば回るらしいし……甘いものなら何でも良いんじゃない?」

 

 知ったかぶりの知識で言ってみたが、どこかで聞いたことある気がしたことを言ってみた。

 すると、雛菜は満面の笑みになった。かわいい。

 

「あは〜〜〜♡ 緋影ちゃん、円香先輩と違って口うるさくないから好き〜〜〜」

「え、あ、どうも……」

「クレープ食べに行こ〜?」

「い、良いね……」

 

 話しながら、二人で靴を履き替えて校庭に出た。こうして見ると、割と人は多くて盛況だ。平日だから一般客は多くないと思っていたのだが、そこそこの人数が揃っていた。

 

「あったよ〜! クレープ〜!」

「お、美味しそうだね。良い匂い」

「並ぼ〜?」

 

 とのことで、二人で並んだ。流石に購入の時まで手を繋ぎっぱなしにすると買えないので、雛菜が手を離そうとしたのを察して緋影も離す。……少し勿体無い気もしたが、まぁ仕方ない。

 

「緋影ちゃん、何味にするの〜?」

「え? あ、あー……何が良いかな……」

「雛菜、チョコバナナ〜」

「美味しそうだね」

「あ〜……でも、イチゴチョコも美味しそうだな〜……」

 

 定番ではあるが、確かにどちらも悩みどころだ。まぁ、そもそも学祭のクレープだから無難になるのは仕方ないといえば仕方ないのだが……。

 

「両方買っちゃお〜」

「両方⁉︎」

 

 怖いものなしか! と、唖然とする。主に、体重的に。

 

「だ……大丈夫なの……? 体重とか……」

「大丈夫だよ〜。雛菜、いくら食べても胸にしか栄養行かないから〜」

「……」

 

 それを貧乳である自分と、男子部員もいるバスケ部の前で言う勇気を讃えるまである。

 だが……自分はともかくそれをアイドルをやっている他のメンバーが許すだろうか? 胸以外が太ってしまい、透……は怒らなさそうだけど、円香と小糸に怒られ……で、ゲーセンに来て愚痴られ、仕事が出来なくなってまた「電話で」と諭す必要が出てくる未来が見え……。

 

「わ、私がイチゴチョコにするから、一口ずつ食べて気に入った方を食べなよっ」

「あは〜〜〜♡ 良いの〜〜〜?」

「うん……どっちも、私も好きだから」

 

 そもそも甘いものがあまり好きではないのは黙っておく。子供の頃からブラックコーヒーが大好きで、親から割とドン引きされていた。

 

「じゃあ、イチゴチョコとバナナチョコひとつずつで〜」

「かしこまりました」

 

 そう言われて、待機する事しばらく……その間に、二人でお金を出しておく。同じ金額だったので、その辺は計算が楽だった。

 先にお会計だけ済ませて待っていると、クレープが出てきた。

 

「お待たせしましたー」

「ありがとうございます〜。はい、緋影ちゃん〜」

「先に食べて。市川さんがいらない方もらうから」

「は〜い」

 

 話しながら、とりあえず二人で屋台の通りを歩きながら、クレープを食べる。雛菜がまずはチョコバナナを頬張る。

 

「あま〜い、美味しい〜♡」

 

 ……ちょっと緋影もお腹減ってきた。割と拷問だこれ。

 そんな緋影のことを特に気にした様子を見せる事なく、雛菜はイチゴチョコを食べる。

 

「こっちも美味しい〜♡」

 

 この子、食レポの才能ないな……と、思いながらも、そのまま黙って歩く。……甘いものは好きじゃないのに、この子がやたらと美味しそうに食べるため、普通に食べたくなって来てしまっていた。

 そんな視線も気にしない。雛菜はあくまでもマイペースに自分の手元にある二つのクレープを見下ろした後「ん〜……」と小さく悩む。

 そして、イチゴチョコを差し出してきた。

 

「はい、雛菜はチョコバナナにするね〜?」

「分かった」

 

 話しながら、緋影はクレープを受け取る。さて、いただこう……と、思って下を見ると、目にまず入ったのは雛菜が齧った痕だった。あれ、これ間接キスじゃん、と今更思った。

 

「っ⁉︎」

 

 やばっ、全然考えてなかった……と、顔が熱くなる緋影に、雛菜はさらに自分のクレープを差し出す。

 

「はい、緋影ちゃん」

「えっ……な、何……?」

「緋影ちゃんの分、一口もらっちゃったから〜」

「え……い、いやそんな気にしなくても……」

「あーん?」

 

 なんてこった、間接キスか間接キスかの二択しかない。どうしよう、良いのだろうか? これもう、行っちゃって良いのだろうか? 

 いや、分かっている。行くしかないのは。でも、こう……何だろう。心の準備が……。

 

「あーん!」

「もがっ……!」

 

 先制攻撃をいただいた。口の中に捩じ込まれ、口の周りがクリームまみれになる。

 で、しばらく押し付けられた後に離れたが……口の周りがベタベタするし、かろうじて入ってきたバナナも恥ずかしさのあまり味を感じない。

 雛菜は笑顔で聞いてくる。

 

「美味しい〜?」

「……美味しいよ……」

 

 味なんてわからない……恥ずかしいし……ていうか、この口の周りを見られるのは女の子的にも恥ずかし過ぎる。

 とりあえず、周りに見えないように手で覆いながら、口の周りを舐めて取った後、ティッシュで拭いた。

 

「あは〜♡ じゃあ良かった〜」

「……うん」

 

 さて、間接キスを終えた後に、お代わりの間接キスである。……いや、あんまもう気にする気にならなくなってきてしまっているが。流石にこの後、食べるのに意識なんてしていられない。

 

「あむっ」

 

 一口、クレープを齧った。気にしてなんていないけど……やはり少し気恥ずかしくて、味なんて分からない。

 さて、そのまま二人でパクパクとクレープを食べ終える。ゴミをくしゃっと丸めつつ、雛菜にも手を差し出す。

 

「もらうよ、ゴミ」

「ありがと〜」

「……ん」

 

 お礼を言われるだけで少し照れつつも、とりあえずその辺に設置されているゴミ箱に捨てると、空いている片手を繋がれた。

 

「はい〜。手、繋ごうね〜?」

「あ……いや、もう後ろ歩いたりは……」

「ダメ〜。……緋影ちゃんは、雛菜と手繋ぐの嫌〜……?」

「そ、そんなことないよ……」

 

 そのまま手を繋いで学祭を回った。

 

 ×××

 

 やっぱり、可愛いな、と雛菜は隣の少女を見て思った。せっかく事前に学祭で行くお店を決めていたのに全部頭から抜けているし、何故か分からないけどテンパっている。

 間接キスくらいで照れるのが本当にもう……と、雛菜はニコニコする。でも……やっぱりそろそろあまり緊張しないで欲しい。

 そのために手を繋げば落ち着くと思ったんだけど……なんかもっと緊張が強くなっている気がする。

 

「緋影ちゃん〜、次はたこ焼き食べよ〜?」

「え? あ……う、うん。そろそろおかず食べたいよね……たこ焼きはー……あ、野球部がやってる。……めちゃデカたこ焼きだって」

「面白そ〜。雛菜もそれ食べる〜」

 

 よし、決まり。そのまま二人でたこ焼きを食べに行った。

 野球部の屋台は割と盛況で、並ぶ必要があった。その屋台から購入を終えて帰る人達の手元にあるのは……割とデカいボールみたいなたこ焼きだった。

 

「……お、大きいね……」

「あは〜面白い〜」

「お、面白いかな……?」

 

 エンタメとしては結構面白いし、食べてみたい。普通、大きい系の食べ物は汚く見えるが、たこ焼きはやたらと美味しそうに見えた。

 

「緋影ちゃん〜、色々味あるみたいだけどどうする〜?」

「え? あ、あー……普通ので良いかな」

「じゃあ、雛菜は明太チーズにしようかな〜。また、半分こする〜?」

「いや……たこ焼き半分こは厳しいよ……」

 

 まぁ、確かにこれは普通に食べたいかもしれない。なんかたこ焼きを半分に分けるのは大変そうだし。

 さて、購入を終えて、それを持ったまま近くのベンチに座った。

 

「食べよっか〜」

「ん」

 

 もらった箸で、たこ焼きを食べる……が、一口は無理だ。これ、どう食べよう。

 

「緋影ちゃん〜、これどう食べる〜?」

「わ、私も困ってる……大きいしなんか……」

「とりあえず〜……齧ってみよっか〜」

 

 それしかない。食べるには口に入れるしかないし。そう言いつつも、雛菜は何となく緋影が食べる様子を見学した。

 

「……あむっ、あっつ……!」

 

 表面を噛み砕いたと思ったら、熱々の中身が出てきて驚いたのだろう。可愛い。

 すぐに飲み物を飲んで、口の中を冷やしている。可愛い……なんか、少しドジな猫みたい……なんて少しクスッと笑みを浮かべてしまった。

 そんな雛菜に、緋影は気がつき、少しだけ頬を赤らめる。

 

「な……何?」

「あは〜♡ 可愛いな〜って〜」

「っ……わ、分からないこと言ってないで食べて早く……」

 

 そう、そういう照れてる顔がバカみたいに可愛い。なんというか……愛でてあげたくなるほど可愛い。

 そんな事を思いながらのんびりしている時だ。さっきまで並んでいた野球部の男子が一人、屋台から出てくる。後ろでニヤニヤしながら見ている男子がいる辺り、もしかしたらジャン負けでもしたのかもしれない。

 何にしても、してくることは目に見える。

 

「ねぇ、キミタチ一年生? 俺もうすぐ休憩だからさぁ、一緒に回らない?」

 

 まぁ、雛菜はこういう絡まれ方をするのは慣れたものだ。というか、なんならアイドルになる前、それを利用してナンパ男をアホほど奢らせたことならあるが……今は緋影が一緒だし、今は追い返す……と、思っている時だ。

 

「……は?」

「え〜……?」

 

 雛菜が反応する前に、緋影が声を漏らした。

 

「市川さんに絡んでる暇があったら、店番に戻ったら? この人、君らの誰にも見合わないから」

 

 そう言う緋影の視線はあまりにも鋭く……そして、やたらとマスク越しのあの人の瞳に似ていた。

 

「……お、おう……ごめん……」

「いや、別に気にしないで。こっちこそ嫌な言い方してごめん」

「や……気にしてない……」

 

 ……思ったよりキッパリと断っていたが……この子、カッコ良いのかも……なんて思ってしまう。普段の感じとのギャップがすごい。

 ちゃんと後になって気が付いたのか、謝罪しているのがまたかわいい。

 追い返してから、緋影は「ふぅ……」と一息つく。

 

「ごめん……場所、移そうか」

「あは〜♡ 緋影ちゃん、カッコよかった〜」

「っ、や、やめてよ……必要以上に、邪険にしちゃったし……」

「ああいうの、ハッキリ言えるところがカッコ良かったのに〜、雛菜褒めちゃいけないの〜?」

 

 あ、照れた。やっぱり可愛い。

 さて、そのまま場所を離れて、別のベンチに座り、たこ焼きを食べ終えた。大きさの割に普通の美味しさだった。大体、ビッグサイズとかだと味が落ちるから、学祭の食べ物としては100点かもしれない。

 

「次、どこに行こっか〜?」

「あ、うん……お腹は?」

「結構、いっぱいになった〜」

「じゃあ……ちょっと、ゆっくりしよっか。今の時間だと……あ、体育館でダンスやってる」

「じゃあ、ちょっと食休みしよっか〜」

 

 パンフレットを見ながら提案してくれたので乗らせてもらう。体育館に向かって歩き始めると、ふと女子バレー部の屋台が目に入った。

 

「あ〜りんご飴売ってる〜♡」

「し、食休みしながら食べるの……?」

「緋影ちゃんの分も奢ってあげる〜」

「え、いやいいよ。自分で出すから……!」

「雛菜、これでもアイドルだから〜、りんご飴の一つくらい大丈夫だよ〜」

「うっ……あ、ありがとう……」

 

 素直にお礼を言ってくれた。こういうとこが、緋影を甘やかしてあげたくなる所以だ。

 さて、それはさておき、そのままリンゴ飴を購入して、あと適当に飲み物を買って体育館に入った。

 パイプ椅子がいくつかあって、全部埋まっているわけでもなかったので、適当に二人で並んで座った。

 ダンスでは、アイドルの踊りを1年の別のクラスの子達が踊っていた。男子は女装までしているし、これでこそ学祭という感じだ。

 

「あは〜、面白い〜」

「よ、よく女装とか出来るよね……」

「なんで〜?」

「いや、女の子の格好した男とか見れたもんじゃないし……」

「あは〜、それはそうかも〜。でも、だからキテレツで面白いよね〜?」

「それはー……そうかもね」

 

 でも、少なくとも今、女装している人達はフィジカルが強そうで最悪である。まぁ、笑えるが。

 しばらく眺めながら、リンゴ飴を齧る。

 

「美味しいね〜」

「うん。ベタってしてるのに美味しい」

 

 ニコニコしながら声をかけるけど、緋影はやはり少し遠慮気味に見える。まぁ、人付き合いとかしたことない人っぽいし、他人との距離の詰め方がわからないのだろう。

 だからこそ、強引に距離を詰めてみたりしたが……一歩踏み込めば半歩離れられている気がする……そんな感じだ。

 まぁでも、大丈夫。世の中には「押してダメなら引いてみろ」なんて言葉があるのだから。

 

「……ね、緋影ちゃん〜?」

「な、何……?」

「雛菜と一緒にいて、楽しい〜……?」

「えっ、な、なんで?」

「なーんか……ちっともはしゃいでる感じしないから〜」

「そ、そうかな……」

 

 大袈裟に大きな声ではしゃぐタイプではないのはわかるが、いつもとあまり変わらない様子なのは少し気に入らない。

 

「緋影ちゃんが雛菜といて楽しくないなら〜……雛菜と回るの、ここまでにする〜……?」

「え……」

 

 あれ、なんか思ったより泣きそうな顔をされてしまった。あれ……ていうか、どうしよう。その泣きそうな顔が死ぬほど可愛く見えてしまった。この子、他人にちょっかいを出させたくなる顔をしてる気がする。

 その少女は、その泣きそうな顔のままポツリポツリと呟いた。

 

「わ、私は……楽しいけど……市川さんが、そうしたいなら……」

「……」

 

 本当はそういう所だ、ちょっとむすっとするのは。一緒にいたいならそう言ってくれれば良いのに「あなたがそう言うなら私は我慢します」みたいな感じが嫌だったが……でも、本当に泣きそうだし、泣かしてしまったらしあわせではないので、笑顔を浮かべた。

 

「冗談だよ〜。雛菜も緋影ちゃんといたいから〜、そんな泣きそうな顔しないで〜?」

「っ……そ、そっか……」

 

 あ、あからさまにホッとした。分かりやすい、可愛い。なんて率直な感想が漏れる。

 でも……言うべきことは言わないと。

 

「でも〜……せっかく友達同士と一緒にいるんだから、楽しそうにしてくれないと、雛菜も楽しく無くなっちゃうよ〜?」

「っ、ご、ごめん……でも、ほんとに楽しいんだ……市川さんが、初めての友達で……こういう催しに進んで参加するのも初めてで、どんな顔したら良いのか分からないんだけど……本当に」

 

 そう言いながら、緋影は雛菜の手の上に手を置いた。少しだけ、ドキッとしてしまった? 

 実はさっきの発言が半分、冗談ではないことを見透かしたのだろうか? 少し真剣な表情で、頬を赤らめながらも告げてきた。

 

「だ、だから……その、今日一日だけでも……一緒に、いて欲しいなって……」

「……」

 

 意外と積極性ある……と、今度は雛菜も少し頬を赤くする番だった。それと同時に、こちらが言いたかったことが伝わったみたいで、ちゃんと自分の意思を伝えてくれた。

 

「っ、も、も〜……緋影ちゃんってば、雛菜のこと大好きだな〜」

「ブフォっ! げほっ……えほっ……!」

「え〜……せ、咳き込むほど嫌〜?」

「ち、違うよ違う! ちょっとびっくりしただけ……!」

「雛菜、そんなに緋影ちゃんに嫌われてたなんてショック〜」

「ち、違うってば……!」

 

 なんてイチャイチャしながら、周りの視線に気付かないまま体育館でのんびりした。

 

 ×××

 

 その日の放課後。今日まではまだまだ学園祭は楽勝だった。何せ、一般客が少ないから。

 それだけあって、緋影は今日も放課後、家に帰ってからゲーセンに寄ることにした。

 雛菜と一緒にいられて楽しかったなーなんて、一人なら鼻歌を歌っているほどウキウキしながら帰りの準備をしている時だった。

 

「緋影ちゃん〜」

「アパパパっ⁉︎」

 

 後ろからハグをされ、変な声が漏れてしまう。

 

「あは〜変な声〜」

「な、何……かな?」

「放課後、一緒に帰ろ〜?」

「へ? な、なんで……?」

「え〜? だって、緋影ちゃんが言ったんだよ〜? 今日一日一緒にいたいって〜」

「あ……」

 

 言った、確かに言ったが……いや、チャンスと言えばチャンスかも。まだ元気はあったし、また雛菜と思い出を作れる。

 

「うん……じ、じゃあ……帰ろっか」

「あは〜♡ また、手繋ぐ〜?」

「え……い、良いの?」

「あ、ほんとに繋ぐんだ〜。もしかして、繋ぎたがりちゃんなの〜?」

「〜〜〜っ!」

 

 この野郎……と、顔が赤くなる。よくもまぁ上手いことこっちを操ろうとしてくれるものだ。見事に弄ばれてしまう。

 

「い、市川さん〜……!」

「あは〜怒った〜」

「怒らせたんでしょうが……!」

「まぁね〜?」

 

 この野郎、普通に認めてくれやがって……と、奥歯を噛み締めてしまう。

 

「それより、帰ろ〜? 緋影ちゃんの家まで送るから〜」

「うん……じゃあ、帰ろっか」

 

 その日は、放課後まで楽しい時間が続いた。

 

 

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