サキュバスが魔王になるのは変ですか?   作:一 白

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第二話

魔王になると言ったが、やり方はいろいろある。

第一に、魔天一族である悪魔の領主を殺し、実力を見せつけるやり方。だがこれはほぼ不可能だろう。魔天族の中でも悪魔はとりわけプライドが高い上に野心の塊のような奴ばかりだ。今の領主が死んだところで、新しい領主になる奴が出てくるだけに決まっている。しばらく第一席は空くが、大したダメージにはならないだろう。

そこで第二の手段だ。現在の魔界は魔天一族から魔天六族までの、代表六人による合議制を取っている。その代表をすべて叩き潰し、力を証明するというやり方だ。代表を皆殺しにすれば、魔界の合議も、各レギオンの運営も立ち行かなくなる。そうなれば、反乱を起こす者も出てくるだろう。

そうして混沌の世代を作り出し、群雄が割拠する世界になれば、あとはシンプルだ。個人の力のみに頼った、真なる意味での弱肉強食の世界。すなわち、たった一人の強き者が弱者を従える、今や文献にしか残っていない本来の魔界を取り戻すのだ。

 

「ふふふ……くっくっくっく……」

「おや、またお得意の悪だくみですかい?精が出ますねぇ。」

「お得意とは失礼な。悪だくみは君たちゴブリンの専売特許だろう。」

「はっは、確かに。違いありませんな。」

「まったく。それで、今日はどんなものを持って来たんだ?」

「おぉ、そうでした。旦那の好きそうなブツを仕入れてきましたよ。」

 

彼は私が懇意にしているゴブリンの商人だ。ゴブリンは本来魔天六族であり、魔天族の中でもカーストの最下層に位置している。そのため私達レネゲイドを狙う尖兵として使われることが多いのだが、彼は商売をするために自分からゴブリンのレギオン【コバロス】を抜けたのだという。そんな彼が仕入れた『ブツ』は、ある意味私の予想の範囲外にあるモノだった。

 

「これは……奴隷か、女の。」

「ええ、しかも若い吸血鬼です。ここまでの上玉はそうありませんよ。」

「なるほど、確かに上玉だ。そして私好みの顔と血だな。それで?何が必要だ?」

「さすがは旦那、話が速い。解呪石を10個と、障石を20個ほど、でいかがでしょう?」

「それくらいは容易いが……貴様、いったい何をするつもりだ?」

 

レネゲイドでの私は独学で学んだ技術を使い、解呪屋を営んでいる。レネゲイドに来る者の中には、自らのレギオンを抜ける際に恨みを買い、呪われている者も少なくない。そういった者をまず解放するのが私の仕事だ。

ちなみに解呪石とは、言わば簡易的な私だ。これを触媒とすることで、中程度の呪いなら魔術の才能がなくとも解呪することができる。そして障石は、これも簡易的だが魔術的な盾を発生させることができる。自衛手段として私が開発し、レネゲイドに暮らす者たちに持たせている。

 

「いや何、最近は魔界も物騒ですからね。持っておいて損はありませんや。」

「ふむ、そういうものか?私は生まれてからずっと物騒だったからとんと分からないが。」

「……これはここだけの話ですがね、ダークエルフが獣人共に戦争を仕掛けようとしているようで。その関係で、獣人共がそこいらじゅうに検問を仕掛けてやがるんですよ。」

「ふむ……なるほど、そいつは面倒だな。私たちの頭も獣人だ、狙われないとも限らない。結界を強化するように言っておくか。」

「ええ、それが賢明かと。」

「……まあ、それはともかく。今は商売の話だ、解呪石10個と障石を20個だったな。今取って来よう。」

「ありがとうございます、旦那。」

 

「ダークエルフが、獣人に戦争を仕掛ける?いったい、何が目的で……」

 

私は倉庫の中でなるべく上質な解呪石を選別しながら考えを巡らせる。そもそもダークエルフは魔天二族、獣人は魔天四族。獣人がダークエルフに、ならばともかく、ダークエルフ側から戦争を仕掛けるメリットは無い。

強いて挙げるのならば───

 

「鉱物資源、か。」

 

【デックアールヴ】周辺には、豊富な鉱物資源を有する鉱山がいくつもあったと記憶している。しかし、もしそれが尽きたら?

ダークエルフはレギオンの機械化を推し進めているという。そんな彼らにとって、鉱物資源の枯渇は文字通り死活問題だろう。

それが原因で、鉱山利権を割譲している獣人のレギオン……【シュターデル】に戦争を仕掛ける、というシナリオは十分に考えられる。

まあ、今ここで私がうだうだと考えても仕方あるまい。私は最後の障石を木箱に放り込み、彼の元へと戻る。

 

「ほら、注文の品だ。ついでに護身用のナイフもつけておいたぞ。ダークエルフ謹製の業物だ。」

「おお、これはどうもありがたい限りで。では、こちらを。」

 

私は鎖と手錠で縛られた奴隷を受け取り、帰路に就いた。

自宅に着き、まず私は奴隷の身体を検める。こういった非正規の奴隷には、罠として遅効性の呪いが仕込まれていることも少なくない。しかし見たところ、そのような痕跡は見当たらなかった。念のため魔力回路も調べたが、すべて異常なし。見た目の割に魔力回路が貧弱なのが気になったが、それ以外は全てまっ更な只の奴隷だった。

 

「ふむ……おい、君。」

 

薬か何かで眠らされているのであろう奴隷を軽く揺する。すると奴隷は意外にも早く目を開けた。病的なまでに白い肌と、それに等しく白い髪でなんとなく察してはいたが…瞳の色で確信が持てた。この奴隷は白化個体だ。

魔界ではこういった個体を『呪われ子』として忌避する風潮が未だに残っている。この吸血鬼が奴隷となったのも、そういった理由からだろう。

 

「君、名前は?」

「……ワタシに名前はありません。どうぞご主人様のお好きにお呼びください。」

「はぁ……それは奴隷としての君が仕込まれた言葉だろう。私は君自身の名前を聞いているんだ。」

「……ネシェル。ネシェル・ヴィッツォーラです。でも、もうこの苗字は名乗れません。」

「そうか。ではネシェル、今後はカットラスの姓を名乗るといい。私の苗字だ。」

「え……」

 

奴隷、いやネシェルは愕然としている。ふむ、確かに他人から苗字を貰うというのは結婚でもしていない限り不快か。

 

「すまない、私の考えが浅はかだったな。何か新しいものを考えよう。」

「い、いえそうではなく!ご主人様は、なぜそこまでしてくださるのですか?しかも、今さっき会ったばかりの奴隷に……」

「ふむ。家族になる者に愛を注ぐことに、理由が必要かな?」

「……!」

 

軽く微笑みながら言葉を投げかける。そもそも私は奴隷制に反対だ。将来力を持つ可能性のある者を、むざむざ潰す理由は私には無い。が、あのプライドばかり高くて脳の無い魔天族共の考えることだ。波乱の萌芽を早いうちに摘もうとでも思ったのだろう。まったく、度し難い。しかし、それはそれとして、だ。家族になるからには、しっかり筋を通さなければ。

 

「では、きちんと自己紹介をしよう。私は淫魔フォルゴーレ・カットラス。今のところは、ただのしがない解呪屋さ。」

 




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