垢BANされたらVとピース 作:TEAM-POCO/CHIN
出来は……ウーン
春休み、それは甘美な響き。多めの宿題が伴うとはいえ忙しい学生へと送られる晴れやかな二週間。その初日、その午前にて俺は宿題を全て終わらせた。つまり俺は無敵! 向かうところ敵なしのパーフェクトヒューマン!
そんな無敵すぎる俺なのだが外出していたところ……何故か窮地に陥ってしまっていた! 何故だ!? コレガワカラナイ。無敵なのに……!
「いやぁ〜奇遇だねぇ……心ちゃん?」
「そ、そうですねぇ〜……」
「こ ん な と こ ろであったのも何かの縁だ。ちょっとあそこでお茶しよっか」
俺はただコンビニにおやつを買いに来ただけなんだ……その帰り道、ちょっとゲームソフトが気になって家電量販店にふらっと立ち寄っただけなんだ……
「ん、どしたん立ち止まったままで? ほらすぐそこの喫茶店。奢ってあげるからさぁ」
「ヒュッ……う、うん」
凄く笑顔である。相手さんが。
茶髪のパッツンに黒キャップ、少しダボついた白シャツにジーパン。全体的に気怠げでだらしない、どこか眠たげな目をした美人さん。その赤い瞳の奥には面白いモノを見つけたという好奇の光が見える。
──
「食べたいもの決まったら教えなね。注文するから」
「い、いぇ……私は何もいらないでしゅ」
喫茶店に入り、席についてメニュー表を渡してくる姉。奢ってくれるらしいが正直俺は今この状況で飲み食いできるような精神状態じゃない。生きた心地がしないのだ。
「ふぅん、まあ欲しくなったら言いなよ。遠慮はいらないからさ」
そう吐き捨てるように言うと姉はコーヒーを注文し、机に両肘をついて組んだ手に顎を乗せて顔をずいと俺の方へ出してくる。その顔は笑顔だが、どこか威圧感がある。まるで圧迫面接の場にいるようだ。
「それで、心ちゃんはなーんであんなところにいたのかな?」
「い、いぇ……それはあの……」
早速とばかりに詰めてくる姉。
俺はただゲームソフトを手に持って見ていただけだ。それ自体に何も問題はない。こっそり鞄に入れようとしていたとか窃盗しようとしていたとかそういうわけでもない。単純にゲームソフトを手に取りパッケージ裏を見ていただけ。それが何故ここまで、警察の取り調べのようなやり取りになるのか。これには俺と姉、そして両親の間にある関係性と家の教育理念とでも言うべきものが関係していた。
今世の俺の両親は中々に偏った思想というかなんと言うか……古い考えを持っている。ゲームや漫画、アニメなどのサブカルコンテンツを見ると馬鹿になる、頭が悪くなるというやつだ。だからそういうものを家には置かないし、娘である姉と俺には一切触れることを禁止していた。
そして教育にも熱心で、俺たち二人が学生の身分となってからは学業において常に優秀な成績を収めることを求めてきた。テストなんかじゃ九割五分以上点数を稼がないと文句を言われるし九割をきったら大噴火だ。
俺は前世の記憶があったため小学生の頃から高成績を収めることができて叱責を受けることはまずなかったが、姉は違った。別に姉のおつむが悪いわけではない。寧ろ俺より良いだろう。頭の回転も記憶力も。
俺は半ば強くてニューゲームな状態だったから回避できただけだ。でも姉は人生ニューゲーム。最初から全て好成績など無理強いにも程がある。
だから姉は両親が嫌いだし、何かと姉と比較しながらちやほや褒めそやされる妹も気に入らない。中高あたりでは不良少女だったし高校卒業を機に親と大喧嘩して家を飛び出していった。
そんな姉だ。まだ中学生の、親の庇護下にある俺が……姉の目には親に従順な奴と映っている俺がゲームソフトを手に取っているなど……
「心ちゃん、心ちゃんのご両親は禁止してたはずだよねぇ? ゲームなんてさ」
「ぅ、うん……」
こ、怖い……胃がキリキリしてきた……!
「いけないなぁ心ちゃん。いけない子だよ。親不孝なんじゃないかなぁ? そんなんじゃ心ちゃんの親が言うろくでなしな姉になっちゃうんじゃないかな?」
「お、お姉ちゃんはろくでなしなんかじゃないよ……」
「ふーん? それはお母さんの言うことが間違ってたってこと?」
「う、うん。何も悪いことしてないのにそんなこと言うのはよくないよ……」
「へー……なんか私のご機嫌とりでもしてんの? 親にも私にも……心ちゃんって八方美人なんだ」
「ち、違うよ……!」
情けない。仮にも前世含めて俺は大人なはずなのに。実質年下な子の姉にただ縮こまって何も言えないでいるなんて。
「まぁいいや。それで? 心ちゃんは禁止されてるはずのゲームを眺めてたけどどうしてなのかな? もしかして隠れてゲームとかやってるの?」
「それは、その……」
「あぁ、もしかしてちくられると思ってる? 大丈夫大丈夫。別にちくったりしないよ。そもそも顔も見たくないんだから」
俯いて無言のままでいる俺。そして届いたコーヒーを飲みながら目を細めてこちらを見つめてくる姉。話すまで帰さないと無言の重圧がのしかかる。
いつまで黙ってるんだと飲み干したコーヒーのカップを受け皿にカチャリと置く姉。俺はついに耐えかねて姉に白状してしまった。
「その……」
「うん」
「隠れて、ゲーム……してます」
「ふぅん、あの家でどうやって?」
「い、今アパートで一人暮らし……」
「はぁ!?」
突然の大声にひゅっと喉が詰まる。
そうか、姉は俺が一人暮らしするってことを知る前に家を出て行ったから知らなかったんだ。
大声をあげてしまったことを周囲に詫びると徐に姉は席を立つ。
「ちょっと家まで着いてくから……行くよ」
「え」
「中学生の女の子を一人暮らしさせるなんて馬鹿でしょ……しかも実年齢より幼く見えるような子を……ちょっと色々心配だよ私は」
「い、いや私から一人暮らししたいって……」
「だとしても普通許可しないから」
そう言うと伝票を持って姉はすたすたと会計に向かっていく。慌てて荷物を持ち、後を追いかけると姉は既に会計を終わらせ、外で待っていた。
さっさと案内しろと催促され、俺は仕方なく家まで足を進める。
この際、ゲームハードを見られるだけなら問題ではあるが問題はない。しかし俺のデスク周りは配信機材やペンタブなどゲームに関係ないものまで大量にある。そんなものを見られたらいったい……そんなことを考えるだけで心なしか足が重くなってくる。俺は今ドロローサへの道を歩んでいるのか? 心なしかアパートの階段なんかは十三階段に見えてくる。
「ほら何ぼーっとしてんの。早く鍵開けて」
考えごとをしていたらいつの間にか玄関前に着いていた。扉の鍵を開けたくない。もういいだろ俺を解放してくれ。頼む今日のことは忘れて帰ってくれ……そう願うも無慈悲にも姉は痺れを切らしたのか俺の手から鍵を奪うと解錠して家主よりも先に家に上がっていきやがった。
「あっ! ま、待って……!」
遠慮なしにトイレ風呂、キッチンと目につく場所や物を物色しながら歩き回る姉。その後を追い、引き止めようとするも姉はお構いなしだ。そうして無駄な抵抗だったとばかりについには俺の聖域である寝室に侵入されてしまった。まずい!
「ん? ゲーミングPCにディスプレイ2つ。んでトラッキングカメラ、マイク、キャプチャーボードに……何? もしかして配信かなんかしてんのお前? というかまず機材買うための資金はどう集めたの?」
「あっあっ……」
「もう観念して全部吐きな。今更隠し事なんて通じないよ」
姉の怪訝な視線が俺を射抜く。
あぁ、俺の配信生活、終わった……