米花町の人魂さん   作:鈴北けいと

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人魂さんは今日も米花町で画策している

はじめに弁解させて貰えるならば、ただ出来心だったのだ。こんなことになるとは思わなかった。

 

電気屋の展示家電。

置かれたスマホについ手が伸びて、死体の口をそっとマイクに近付ける。

 

『Hey ノアズアーク』

 

何も返ってはこないだろうと少年のAIの名を呼んだ。

 

【Who are you?】

 

ところがどっこい。返事が返ってきた。

 

『私は人魂、ピーポーソウル』

 

これが後の喜劇を巻き起こす運命の出会いだとはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

意外なことに松田さんよりヒロさんの方がガラケーからスマホに機種変するのが早かったことを知った今日この頃。買い替え回数トップクラスのゴリ、じゃない、降谷さんを見てるせいかとても平和に感じたね。車に乗って出かけてなんでスマホと車と御身を大破させて帰ってくるのか。もしかしてRX-7くんにブレーキって搭載されてない?誰だよ降谷さんにアクセル全開教えた奴。いっぱい反省して。あの人スマホをメリケンサックと勘違いしてるタイプのゴリラに進化しちゃったんだから。口より先に手と足出過ぎて相手にソーシャルディスタンス取られてるんだよ。まぁその1、2メートルなんて一瞬で詰められるから無意味なんだけども。泣いていいと思う。

 

同じ潜入捜査官だったヒロさんとか、危険な作業してる爆処の2人とか、殺人犯相手にしてる伊達さんのスマホは滅多に壊れないのに何故降谷さんのスマホは大往生出来ないのか。その謎を解明するため我々愉快犯は警視庁公安部へと向かった…………ら死んだ目の風見さんに出会ってしまった!!!

 

『こんちくわ風見さん!元気?元気じゃないねオッケーオーケー何も言わんでええよ。大体またスマホを経費で落としてこいとか言われたんでしょ。どんまい』

 

「…………。」

 

RX-7くんの修理はまだ分かるけど、あのゴ、降谷さんってばしょっちゅう壊すスマホも経費で落とさせるから困っちゃうね、風見さんが。大きなのがドカンッってくる方が小さいのを継続的にチマチマやるより楽っていうのは心理的に絶対あると思うの。この前、風見さんちょっと壊れちゃって、

 

「ちりつも……塵積……、塵も積もれば山となる……???は?塵如きが山つくってんじゃねぇよ、風の前の塵に同じなんだよ、泥団子になってから来い」

 

って言いながら積もりに積もった塵、基鬱憤をパーソナルコンピュータくんに当たり散らしてたからね。そろそろ休みが必要だよ。因みにこの時の記憶は一切ないそうな。仕事は酒か何かか?

 

殴って大破、落として大破、握り潰して大破、防弾チョッキ代わりに大破、踏まれて大破、東都湾に何台か沈んで、爆発して大破、降谷さんのスマホはきっと今日も大破している。

 

『スマホの耐久値が降谷さんの握力に勝てる日ってくると思う??』

 

「来ないんじゃないか」

 

【来ないと思うよ】

 

同期とAIのお墨付きだぞ喜べ降谷さん。

 

そう、今私はワタルブラザーズがひとり、伊達さんと一緒にいる。あ、あとノアズアーク。

 

事の発端は数日前に遡る。

風見さん塵積事件から少し経ち、小五郎のおっちゃんとヨーコちゃんの録画ライブ映像を見ていた時にそれは掛かってきた。着信画面には我らが相棒、ヒロさんの文字。もう色々知ってるおっちゃんがイヤホンを耳に突っ込んだのをみて電話に出ると、悲痛な声が飛び込んできた。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

呼ばれて飛び出てやって来ました警視庁!ゾンビが闊歩する部署、それが公安とは誰が言ったか。多分誰も言ってない、交通部でだって噂してない。人知れずゾンビとなり土に還る。可哀想に、せめて眠るように沈めてあげたい。

 

「オレのことはいいから、風見さんを、風見さんを早く!!!!もう5日も寝てないんだ!!!」

 

縋る声に振り向けば、真っ黒な隈さんをこさえたヒロさんがどでかい物体が乗ったキャスター付きの椅子を巧みなテクニックで操縦し、デスクを避けつつ私の目の前にたどり着いたところだった。

 

「最近人魂さんに頼り過ぎてたから少しは自立しようってなって眠くなったら心も体も睡眠を取ってたんだけど、ちょっと無理だった!!」

 

『5日も頑張っちゃったの⁈5日連続徹夜は人外レベルよ?睡眠薬でも手刀でも使って沈めなきゃ』

 

「薬も手刀もやったよ!でもダメだった……!」

 

降谷さんの部下がどんどんタフになってきてて私は怖いよ。薬物耐性と物理耐性上げたらもう普通の人間に打つ手なんてないじゃないか。うっかりミスを待てってか。強く生きろ風見さん。

バビュンと風見さんに憑依し交感神経を副交感神経にスイッチング。宙でエアタイピングしてた手をそっとお膝に下ろして仮眠室へ行くと、寝たいのに眠れない悲しきゾンビさんたちが縋ってきたので強制入眠サービスご提供。流石に今回は体を借りて業務を引き継ぐことは致しません。寝ろ。

 

『どうしてこんな地獄絵図になっちゃったん?』

 

「う〜ん。もともと事件が多いってんで修羅場ってはいたんだけど、決定打はなんかゼロが”組織が十億円強盗する〜〜”って情報送ってきたせいだな」

 

『ぉおっとぉ』

 

おおっとぉ〜。なーーんか聞き覚えあるやつだな?お姉ちゃんだな?え、シェリーまだアポトキってなかったの??嘘でしょ、劇場版二つも終わってるんだけど。どっちも本来ならいるよね?まじ?気付かなかったんだが。

 

「……おい、人魂さん、何か知ってるな?」

 

『知ってるよ、知ってるけどちょっと待って』

 

哀ちゃん未登場の発覚による自分の鈍感さ末期現象の現実を受け入れるまでちょっと待って。マジかよ、名探偵のストッパー人手不足すぎねって思ってたけどガチでストッパー人員足りてなかったやん。いくらなんでも時系列さん仕事放棄しすぎでは???今から志保さん合流するの??大丈夫?

 

『ごめんヒロさん、私ちょっと烏と戯れてくるわ』

 

「え、なに、いきなり。ついに動物とも会話出来るようになったとかいう?」

 

『いやそれはムリ今のところ。じゃなくて、ジンとウォッカがその強盗事件に噛んでるからぶっ飛ばしてくる…』

 

「…………はい?」

 

『今から合流したら人間関係形成がハードモードなんだよ!お姉ちゃんという心のオアシスは必須だよ!!!』

 

「何の話???!」

 

本来の時系列なら名探偵の周りは探偵と探偵事務所と学校と博士と捜査一課と時々怪盗くらいで、そこに哀ちゃんが合流して共に人間関係を築いていくのに、はい、今現在の名探偵の周りみてみよう。

 

探偵、探偵事務所、学校、博士、捜査一課、二課、怪盗、県警、爆発物処理班、公安、人魂、AI。

 

公安、人魂、AI。

 

すでに名探偵の手札がチート。組織に存在バレたら事実を揉み消す勢いの布陣だからね。やっと組織から抜けられて、自分と同類の高校生見つけて、ホッと一息つけるかと思ったらその相手はあっちこっちに人間関係という名のぶっとい根っこ張り巡らせて組織に噛みつこうとしているこの状況。関わるのやめよっかな、あの公安組織の気配するし…ってなると思うんだよ。まだ海外機関組が絡んでないのが唯一の救いとか心労が絶えなさそう。

 

『人間関係って難しいよねって話』

 

【わかるー】

 

私のスマホ内で待機していたノアズアークから同意の声が返ってきた。ヒロさんはしょっぱい顔をした。

 

 

 

 

 

 

言っておかねばならないが、私たち人外組は十億円強盗事件を止める気はサラッサラない。あくまで目的は明美さんの救出とジンとウォッカへの嫌がらせなので。爆発炎上常習犯にはジャパニーズホラーをご提供。返品は不可不可の不可。

 

「なぁ、これ俺いるか?俺いない方がよくないか?」 

 

『伊達さんいないと困るよー。ぬいぐるみ全部がひとりかくれんぼ並みに速く動けるわけじゃないんだから』

 

「つまり足か…」

 

『そゆこと』

 

冒頭に戻って、まぁ何故伊達さん引き連れてきたかって言ったら暇かなぁって思った知り合いが伊達さんしかいなかったからだね。現場までの道のりをえっちらおっちら歩きたくなかったし、逆に全裸で飛んでいったらノアズアークを連れて行けない。そもそもぬいぐるみが歩いてたら通報はされなくてもオカ板には確実に載る。それはだめだ降谷さんが怖い。直近風見さんが5徹なら降谷さんが未知の領域に突入してても何らおかしくないむしろ可能性が高い。この前、迷惑料だあとは頼んだ(命令形)!って言われてカーチェイスさせられた時はもう憑依解いて逃げようかと思ったからね。私前世含めて運転歴ゼロだからね、無免許運転だよ無免許運転、憑依解いたら居眠り運転。異変に気付いたヒロさんが駆け付けてくれなかったらRX -7くんの修理依頼がまた風見さんのデスクに乗せられるところだった。

 

「で、俺はどうすればいいんだ?」

 

使い込まれたカバーを付けたスマホ片手に倉庫の影から様子見している伊達さんwith人外。ちなみにこれから公安が追っかけてる組織がここにくるよ!とは伝えてある。守秘義務など知らん。そもそもそのスマホに表示されてる画面を見る限り警察学校組で情報共有してるみたいだし無問題だね。

 

“【ついに】人魂やらかし事件簿part100【接触】”

 

うん。

 

『ノアズアーク…、part100ってみえるのは気のせいかなぁ』

 

【気のせいじゃないよ。スレの消費スピードが速すぎて人魂さんすごい、ってことしか分からないや】

 

AIが匙を投げたぞ。

 

【20くらいまでは頑張れたけどそれ以降は処理落ちしそうだったから覗くのやめた】

 

『そっかー』

 

なまじやらかしてる自覚があるもんだから何も言えねぇや。何ならこれからここでやらかすつもりだし、それを察知して実況するつもりの伊達さんは多分きっと緊張のネジが緩んでる。残念ながらドライバーで締めてくれる人(ツッコミ)はまだいない。高木くんでも巻き込むかな。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

雑談しながら待つこと約1時間。

 

【あ、明美さん接近!銀色男とグラサンゴツゴツ男もポイント通過!】

 

近くの防犯カメラとセンサーに反応があったとノアズアークから報告が上がった。

 

さて、どうやってジンを迎え撃つか。実は私たち人外組は不測の事態と暇潰しを兼ねてこの東都のあちこちを魔改造している。例にも漏れずこの倉庫街も作品のひとつなわけで、さらに言えば初のご招待が黒の組織+探偵になる。

ちなみに試運転はしていない。

 

『おわっ、足音!伊達さん伊達さん、このインカムあのコンテナの隅に投げて!』

 

「おぅ、何に使うんだ?」

 

『明美さんに憑依してノアズアークとやり取りしながらジンの相手する!』

 

「なるほど、なっ」

 

ポーーンときれいな弧を描きながらインカムは丁度やってきた明美さんの頭上を気付かれることなく通過し、カシャンという音を立てて地面に転がった。

 

「なに?誰かいるの⁈」

 

明美さんの視線がインカムの方に行った瞬間、

 

『こんにちは!おじゃまします!』

 

明美さんの体に突っ込んで憑依し、視線そのままインカムを拾って耳にイン。しっかり動けるか確認のために屈伸。腕を回して準備体操。ノアズアークはインカムから明美さんにこの状況を説明している。

 

『動きにくいなこの服』

 

「そんなこと言われても…」

 

【銀色さん到着まであと2分あるよ】

 

『着替えるか』

 

「着替えあるのか?」

 

『そこのコンテナ衣装部屋になってる』

 

「「なぜ????」」

 

なぜって、倉庫に追い詰められた人が変装して逃げられるようにとか、咄嗟に逃げ込んだけどこの格好じゃ闘えないって時の着替え用とか、これからパーティーなのに服がボロボロどうしよう、って時の着替え用とか。結構需要あったりすると思うんだよね。

 

『うおっし!これで完璧!』

 

黒のスラックスに白のシャツ、ヒールなしの白の丸がワンポイントの靴、髪をひとつに結えば完成だ。うん、動きやすい。

 

【似合ってるよ!】

 

『私の体じゃないけどありがとう!!』

 

「えっと…、ありがとう…?」

 

「降谷が写真上げろってうるさいんだがどうしたらいいんだこれ?」

 

『とりあえず伊達さんは隠れてた方がいいと思うよ』

 

【あ、カメラ確認するの忘れてた。もうすぐ来るよ〜】

 

そんなこんなでバタバタしていれば威圧感たっぷりの足音が聞こえてきたので、こちらも負けじと仁王立ちしよう、と思ったけど、どうせジンと話しても会話のキャッチボールは出来るのに内容はドッチボールなんだから話聞く必要ないなってことでクラウチングスタートのかまえをとった。

 

いちについて、よーーーーい、

 

『ドジン!!!』

 

「あ、アニキ!!」

 

アニキが若干目を見開いたような気がするような気がしないような気がするけど気にしない。銃を蹴り上げてそのままシューートッ!ジンの拳銃は豪速球で伊達さんがいる方にぶっ飛んでいった。あっぶね!!!とか声したけど聞こえなーい聞こえなーい。ちょっとキック力増強シューズ改の威力が強過ぎただけだかんね。流石にこのままの強さで蹴り入れたらジンもウォッカも腕とか粉砕骨折しそうだから威力を落としてもう一撃!

 

「何のつもりだ」

 

『「志保(さん)のため!」』

 

蹴って殴って蹴り上げて投げ飛ばして、ジンとウォッカ2人を相手取っていれば流石に雲行きが怪しくなってきた。これは自慢だけど私は降谷さんと互角にバトれる自信が多少なりともある。つまり今の明美さんはあのフロントガラス粉砕男とほぼ同じ動きをしているわけだから、身体への負担が積載オーバー。そろそろ筋肉痛通り越して疲労骨折チラつく降谷さんの拳骨。

 

というわけで!ノアズアークにバトンタッチしよう!

 

『現場のノアズアークさ〜〜ん!!』

 

【は〜〜い!こちら接続完了のノアズアークでーす!準備OKいつでもいけるよ!】

 

元気なレスポンスが聞こえたので私はバックステップジャンプでジンたちから距離を取る。なんでジャンプしたかって?

 

ちょっと隣にコンテナがあったからさ。

 

 

 

 

 

 

伊達さんがいる付近まで後退すれば追いかけてくるのが組織さん。銃はぶっ飛ばしちゃったから手ぶらかなと思っていたら落ちていた鉄パイプ握ってますよ似合ってるね。私が後ろに下がったのを逃げ出したと捉えたのかそろそろ限界なことに気付いたのか実にいい笑顔をしております。

 

だがしかーーーーし、明美さんの身体は限界でも私たち人外組のメインディッシュはここからだということを君たちはまだ知らない……。

 

『魔改造の町、はっじまっるよ〜〜〜!』

 

【ポチッとな!】

 

ジンとウォッカがさっきまで私が立っていたコンテナの影に入った瞬間、

 

空気が大振動した。

倉庫街が光った。

 

「「「「????」」」」

 

『【うわうるさっ!!】』

 

倉庫街に突如大音量で響き渡るJ-pop。そのサウンドは映画館のスピーカーをもライブ会場のアンプをも、低空飛行の飛行機をも超える大大大迫力というかもうほとんど凶器に近いレベルで空気を揺らした。流れる軽快なリズム、踊り出したくなるテンポ、明るい歌詞。音の発生源はジンとウォッカの横にあるコンテナ、さっきジャンプしたのはこのどデカい改造スピーカーにワクワクしちゃったからだね。完全に場違いなBGMに人間組はもれなく全員フリーズした。というかこれ鼓膜がグッバイしてる可能性あるな。

 

そしてさらに会場を盛り上げるのが音楽に合わせて色とりどりに点滅するあちらこちらのライトたち。倉庫のどこにでもあるようなライトも改造すればこのとおり、めちゃめちゃ発光するスポットライトに大変身!防犯カメラのセンサーライトもカラフルに光っているよ!う〜ん、これ人間組は目もグッバイしてるな?

 

一瞬にして静かな倉庫街は騒音苦情発生中心地帯へと変貌した。まぁ先に改造することと内容はご近所さんに伝えてあるので問題ないと思いたい。思いたい!

 

【やばば、音量設定と明るさ設定間違えちゃった】

 

『おとしておとして!魔改造は周りの暖かい許容の心に支えられてるんだから!』

 

ノアズアークが慌てて設定をいじっている間に周りを見渡せば、細かな遊び心はしっかり機能していた。

 

ジンとウォッカの握る鉄パイプは全体がカラフルに光り、さながらペンライトの様に。

魔法少女みたい。

 

端に置いてあったコンテナ一台は大型スクリーンに変わり、あちこちにカモフラージュしてあった防犯カメラが届ける映像をリアルタイムで映し出しす。

組織って顔面でネームド選んでるのか?

 

トラックはJ-popに合わせてクラクションで合いの手を入れ始めた。

音量落としてもうるさいな。

 

そっと明美さんから抜け出して倉庫街の上空を一周。目線を上げれば、

 

『あ、パトカー!』

 

流石というべきか、遠くから爆走して来るパトカーの気配に我に返ったジンとウォッカは一目散に逃げ出した。それはもうスタコラサッサという言葉がぴったりなんじゃないかというくらいに逃げ出した。お見送りに七つの子を流してあげた。うちへお帰り…!

 

姿が見えなくなり車が離れたことも確認できたので倉庫街に元の静寂をご返却。そこに残されたのは頭を抱えた伊達さんと無事?生きている明美さん、改良点をあげているノアズアークと人魂のみ。目標達成である。

 

全てはうまくいった。私の心には達成感が、構成する炎には潤いが、このまま殺人事件を数十件片付けてもいいかな!ってくらいには機嫌がうなぎ登りだった。

爆走してきたパトカーがドリフトして目の前に止まり、

 

「な〜にやってるんですか!このマッチ!」

 

と降谷さんが怒鳴り込んで来るまでは。

 

 

 

 

 

 

目の前にはカツ丼の代わりだろう、ぶっとい蝋燭一本を置いた取調室はさながら百物語の会場の様だった、と後にヒロさんは語る。室内の温度は降谷さんの怒りで下がり、どこ吹く風の私とノアズアークの説明でさらに下がり、改造の規模を聞いてさらに下がった。逃げ出せない風見さんが寒さで目を閉じそうだよ。寝ちゃだめだ!寝てはダメだよ!せめて仮眠室までは意識を保って!

 

と心でエールを送っていたら何故だか降谷さんにバレて室温がさらに下がった。解せぬ。

 

「で?あれだけの改造、どうやって管理者に許可とったんです」

 

追求する時の目が探り屋なんだが、殺気がダダ漏れなんだが。とても怖い。降谷のわくわく体術教室を強制的に受講させられた時並みに怖い。

だがここで負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ、倉庫の管理者のおじちゃんに託された思いを今ここでぶつけなければ!

 

ウオッホン

 

『管理者のおじちゃんはとても困っていた。倉庫のご近所さんもとても困っていた。何に?生活に?いいえいいえ、おじちゃんもご近所さんもこの東都でごくごく普通の生活を幸せに送っていた』

 

【だけどある時からその幸せは崩れ去り、大きな悩みと不安が生活を支配する様になった。ある時は倉庫で死体が見つかり、ある時は言い争う声が聞こえ、ある時は悲鳴が聞こえ、ある時は爆発音が聞こえ、またある時は倉庫が燃えた】

 

『そしてある時は麻薬の密売の場所に使われ、ある時は倉庫でカーチェイスが行われ、ある時は犯人が立て篭もり、ある時は銃撃戦が行われ、ある時はその被害が近所にまで及んだ』

 

【その度に事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取、倉庫は封鎖され鑑識作業。防犯カメラをつければ片っ端から壊され次は何が起きるのか、もしかしたら次は自分が殺される番なのではないかと落ち込んだ】

 

降谷さんと風見さんの目からハイライトが消えた。

 

『そんな悩みを解決するために立ち上げたのが東都犯罪スポット撲滅魔改造プロジェクト!』

 

【犯罪多発スポットを犯罪したくないスポットに変えるべく僕と人魂さんで各所の管理者の元を巡り許可を取り、近隣住民への説明と理解を得たうえで行ってるよ】

 

降谷さんと風見さんが顔を覆った。心当たりという心当たりが脳内を駆け巡っているのだろう。特にカーチェイスとか銃撃戦とか。

 

「なぜ、なぜそのプロジェクトを相談しなかった…なぜその路線でいった…、見回りの警察官とか増やせばよかったんじゃないのか??」

 

『見回りの警察官が死体で見つかったから相談するのも戸惑うようになったって言ってたよ』

 

【取引でも見て口封じされたのかもね】

 

「「………。」」

 

机に撃沈しちゃった。

 

『この魔改造、降谷さんたちにもメリットあるんだよ?』

 

【犯罪者がスポットに入りたがらなくなるからもし何かあった時の安全地帯になるし、今回ジンとウォッカが引っかかったことで組織も警戒するだろうからNOCさんたちの助けになると思うよ】

 

降谷さんのが顔を上げた。あ、ハイライトも戻った。

 

「そういうことなら…まぁ。あとで改造箇所と改造内容を提出してくれ」

 

いつのまにか室温は元に戻り、外で見ていたヒロさんは仕事に戻ろうと扉を開け、風見さんは眼鏡の位置を元に戻した。

 

「ところで、その改造の費用はどうしてるんだ?」

 

『ん?ホラースポット凸して動画サイトにのせてその収益を改造とJAS○ACの申請に回してるよ。結構人気なんだよね〜、同類の気配を感じて意外と怪奇現象起きるから。まぁ姿は見えないんだけど』

 

降谷さんにスマホを借りて私たちのYouTu○eチャンネルの画面を見せる。

 

ドンッ

 

バキッ

 

室温がまた下がった。

 

『うぇ?』

 

「公安に関わってるお前がなに軽々と動画サイトに姿晒してるんだ…!!!!」

 

『なっ!流石にうさちゃんじゃないよ!ねずみのぬいぐるみだよ⁈しかも私目線だからそんなに姿写ってないよ⁈』

 

メキョッ

 

「そういう問題じゃない!この目線でおかしいって気付くだろ⁈動き回る人形なんて大問題だからな!この常識ズレズレ怪異!」

 

「ぜ、ゼロ!!やめろそれ以上は!」

 

降谷さんの手元でスマホは潰れ、その余波が取調室の机にまで及ぼうとしている。ほらやっぱりスマホ長持ちしない!!

 

【常識ズレズレは当たってるよね】

 

『そりゃ人間じゃないですし』

 

 

 

後日、これからの魔改造費工面は代理を立てて撮影するように、と風見さんから伝えられたので倉庫のおじちゃんとご近所さんにもらったお菓子セットを机にお供えしておいた。

 

ちなみに降谷さんの机にはスマホのストックが10台積み重ねられていた。きっとこれは風見さんのささやかな嫌がらせ。

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