私がこの地を訪れるのは三回目。
一回目と二回目は敵として
今回は味方として日本に来た。
URAは日本のウマ娘の全体強化を目的に
世界で活躍したウマ娘たちを呼び寄せていた。
私もジャパンCの成績を評価され
教師として招かれる事になった。
「しかし、ホンマ人気者やなー」
オグリキャップ最大の宿敵。タマモクロス。
彼女がそう呟いたのも無理はない。
オグリの周りに出来た人集りを見れば。
私が来日したその日
京都、カサマツに続いて東京で行われる
オグリの引退式の前夜祭が開かれていた。
業界関係者が集められ、その全員が
オグリ一人の元へ詰めかけていた。
「空港からココまで来る時も
彼女の写真やグッズを見ない時は無かったよ」
「相方としては嬉しいけど、ちょっち寂しい気もするわ」
「何があっても彼女は君の事が一番だろう。
君の一番がいつも彼女であるように」
私たちとは違って。
その一言を思い留める事はできた。
誰にもこの気持ちを打ち明けるべきではないから。
「アンタにそう言ってもらえると嬉しいわ」
タマモクロスが笑う。
やっぱり似ている。
サニーとは全く違うはずなのに。
サニーの髪は絵に描かれた太陽のようなオレンジ色で
星を宿した瞳は夕日のようだった。
背は私よりも高くて、図々しい性格で
いつも笑ってるくせに、私よりも負けず嫌いで……
未練を断ち切ってここに来たと思い込んでいたのに
でも、彼女の残した光は私を焼き続けている。
もう日は沈んでいるのに。
「どうないしたん……?」
タマモクロスが心配してくれる声がする。
私がおぼつかない返事をするよりも先に
聞き覚えのない声がした。
「おい」
声の主は私達の目の前に居た。
成長途中の体ではあるけど
確かな力を周囲に発している黒鹿毛のウマ娘。
彼女の金色の瞳が私を捉えている。
「アンタがオベイユアマスターか」
凛とした声が私の名を呼ぶけれど
すぐに返事ができない。
オグリやタマモと違って
私は自分の名前を呼ばれ慣れていないから。
「ちょい!そこの若いの!
いきなり失礼やろ!」
「アンタがそうなんだな」
「人の話を聞けーや!」
タマモクロスが怒鳴っていると
一人の大人のウマ娘が駆けて来て
凄い勢いで頭を下げた。
「す、すみませんでした!!この娘が勝手に!!」
「いえ、そんな、頭を上げて下さい」
「うう……」
顔を上げた彼女の顔は
私の名前を呼んだウマ娘と瓜二つ。
同じ黒鹿毛に金色の瞳。
違うのは歳と髪型と表情ぐらい。
そんな彼女の姿には心当たりがあった。
「貴女がブライアン?」
「なぜ、私の名を知っている」
「へ?なんで私の名前を?」
二人のウマ娘が同時に首を傾げた。
やっぱり、似ている。
「なんや、知り合いやったんか」
「日本に来る前に私の――
私が対戦した事のあるサニーという娘と
同じチームで黒鹿毛に金色の瞳が特徴の
ブライアンオブライフというウマ娘も
日本で先生になったと聞いていてね」
ブライアンオブライフ。
本国アメリカのダートG1を2勝した優駿。
彼女も去年から日本に招かれていた。
オファーを断ったサニーの代理となる形で。
そんな彼女の顔は余計に青ざめていく。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。
「も、もしかして……貴女がオベイさん!?
すみません!気づかなくて……!」
「昔から地味な存在だから気にしないで」
「そんなことないです!
貴女のお話はサニーさんからよく聞いていましたし!
ジャパンCも2回とも生放送をみんなと観ました!!」
「君の事はサニーから聞いていたよ。
とても頑張り屋な娘だと」
オベイのようにね。
サニーはいつもの笑顔でそう語っていた。
私達は同じ学園に居たのにも関わらず
顔を合わせた事が無かった。
チームも、走るレースも違う私達は
サニーを通じて互いの強さだけを知っていた。
「ダービーの時の映像も見せてもらった。
最期の追い切り。あれは凄かった」
「えへへ……オベイさんに褒めてもらうと
嬉しいです……」
「世間は狭いもんやなー。
というか、こっちの娘は?」
ブライアンオブライフの横にいる娘は
静かに私を見つめたままだった。
「そうそう!この娘の名前もブライアンなんですよー!
今年トレセン学園に入学する予定なんです!」
私たちに依頼された仕事は
教室で授業をしたり、練習の手伝いだけでは無かった。
各地の才能を秘めた幼いウマ娘たちを
トレセン学園へ勧誘する役割も担っていた。
このブライアンもブライアンが見つけたのだろう。
「ほら!オベイさんもナリブちゃんの先生になるんだから
きちんと挨拶しなきゃ!」
彼女が諭すと、もう一人のブライアンが口を開いた。
「ナリタブライアンだ」
「改めまして、私がオベイユアマスター。
これからよろしくお願いね。ナリタブライアン」
私が頭を下げると
幼さを残した彼女も浅く頭を下げ返した。
「どうして貴女は私を探していたの?」
「姉貴の憧れに勝ったヤツの姿を見ておきたかった。
それだけだ」
「姉貴……?」
「ナリブちゃんのお姉さん。ハヤヒデちゃんも去年入学したんです」
ふと、フランスに残した妹の顔が思い浮かぶ。
父と母と楽しく暮らせているかな?
どんなに時間が過ぎても私の心は三つに分かれままだ。
「私はアンタたちも姉貴も超えるつもりだ。
今はおよばなくてもな」
「ちょ、ちょっと!?ナリブちゃん!!」
私がぼんやりと自分の妹を思い浮かべている間に
立ち去るナリタブライアンを
ブライアンオブライフが追いかけて行った。
「生意気なちびっ子やったなー」
「でも、彼女は強くなりそうだね」
「せやな。完成されたアイツと走れたら
楽しいかもなって考えてもうたわ」
引退して二年が過ぎたタマモクロスは
あの時のような闘志を再び燃やしている。
彼女の宿敵の復活により再び灯された炎を。
やっぱり、私たちとは違う。
私は太陽を再び灯せなかったのだから。