プラン・ソレイユ   作:ろめ~る

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08-12:テオ・トリアッテ

目を覚ますと

大口を開けて寝るサニーが視界いっぱいに広がる。

まだ日が昇りきっていないけど

その顔はハッキリ見えた。

 

朝が苦手な私にとって、寝顔を覗きこんでくる

サニーがいつもの目覚めの光景なのに。

なんだか新鮮な朝。

 

眠気はもう無いので、サニーを起こさないように

彼女に絡んでいた四肢をゆっくり、ほどきながら

ベッドを出て、リビングへ降りて行く。

 

そこには微かな光が灯り

小さいけど騒がしい音がしてきた。

 

パジャマ姿のナリタブライアンが

ソファにもたれてタブレットで何かを見ている。

おそらく何らかのレース映像。

 

その正体は聞こえて来たある言葉でわかった。

 

『大接戦ドゴーン!!』

 

 

私がアメリカの母校への移籍がきかっけだった。

 

最初はサニーが私とずっと一緒に居たいと言ってくれて

それから、同じ時期にアメリカに戻る予定だった

ヒシアマゾンがどうせなら一緒に住めば経済的と提案して

暇をしていたナリタブライアンも付いて来た結果

4人でシェアハウスを借りる事になった。

 

 

それから短くない月日が流れ

 

ブライアンオブライフの弟子の一人だった

タニノギムレットが現役引退後に育てた娘。

ウオッカ。

 

彼女が秋の天皇賞とジャパンCへの出場を決め

私たち4人は彼女の走りを見届ける目的で

11月を日本で過ごす事にした。

 

私たちはウオッカが走るレースを欠かさず確認し

大きなレースなら現地に赴いていたけれど

今回の秋の天皇賞はウオッカが挑んできた

レースの中で最大の激戦が繰り広げられた。

 

彼女にとって最高の宿敵が参戦した事によって。

 

ドリフターハートの後継者の一人アグネスタキオン。

オグリキャップの基礎を作り上げたトレーナーの北原。

その二人から夢を教わったウマ娘。

ダイワスカーレット。

 

二人の今までの対戦成績は

昨年の3月の初対決でウオッカが勝利し

その翌月の桜花賞ではダイワスカーレットがリベンジ

秋華賞でも勝利し、有マ記念では2着ながらも先着を果たした。

 

今回は1年以上の歳月を経た五戦目にして

シニア級での初対決。二人にとって負けられない戦い。

 

後輩ダービーウマ娘を定石にし外から差すウオッカ。

追い抜かれた瞬間、差し返すダイワスカーレット。

 

レコードを刻みながら二人でゴールを駆け抜けた姿は

19年と前に同じレース場で私が一番近くで目撃した

あの事件を思い出して少しだけ苦い気持ちになってしまった。

 

レース本番の6.6倍の時間を費やし

ウオッカの勝利が掲示板に刻まれた事で

新たなる伝説の一つが完成した。

 

数々の歴史を過去にしながら。

 

 

電源を切ったタブレットをテーブルに置きながら

ブライアンが呟くように語りかける。

 

「アイツはもうウオッカなんだな」

 

「そうだね」

 

「もうナリタブライアンは必要ないな」

 

12年前の彼女なら口にしない

悲しい問いに私は淀みなく答えられた。

 

「確かに私たちは今はもう必要ない。

 でも、私たちが走っていたから

 みんなが走っているんだと思うよ」

 

 

私は5枠ゼッケン5の5番人気だったあの娘を想う。

 

初勝利からずっと勝利に恵まれなかったけど

1年と1ヶ月の後、大井で4連勝して

中央に入り2年間で3勝を上げた。

 

その内、2勝は函館レース場での勝利だった為か

引退後の彼女は北海道に移住し結婚し

子宝にも恵まれ幸せに暮らしている。

そう風の便りで耳にした。

 

 

「私たちは用済みなのは確かなんだな」

 

「今の走っているあの娘たちの中で

 私たちは走り続けていると私は信じているよ」

 

「オマエらしくない言葉だな。

 アイツに似たのか?」

 

「元々サニーのエミュレートは得意だよ」

 

「そうだったな」

 

 

私とブライアンは静かに笑い合う。

上で寝ている二人を起こさないように。

 

「オマエを初めて見た時

 雰囲気が似ていると思ったな」

 

「誰に?」

 

「姉貴にな」

 

「それはナリタブライアンにとって

 最高の評価だと受け取っていい?」

 

「好きにしろ」

 

思い出の終わりを告げる様に

カーテンから朝日が顔を覗かせた。

 

「アマさんが起きてもいい時間のハズだが……」

 

「昨日はサニーと一緒にクリスマスの準備で

 張り切っていたから仕方ないよ」

 

「まだ12月が始まったばかりだというのに……」

 

「今日は私たちが朝ごはん作らないとね」

 

「仕方ないな」

 

昨日の残り物の肉とブライアンが克服した

数少ない野菜類をパンの上に積み重ねていく。

 

 

調理中、ふと思う。

私の存在をサンドイッチに例えるなら

必須じゃないソースの一種だと。

 

オグリキャップ、ナリタブライアン、ウオッカ達のような

挟むパンの様に物語の骨格には到底なれない。

 

タマモクロス、ヒシアマゾンダイワスカーレット達

みたいに物語を彩る色鮮やかな具材のような存在でもない。

 

私はいても、いなくても

歴史を語る上では問題の無い存在。

 

それでも

居ないと寂しいと思うヒトも居てほしい。

 

私はそう願いながら大きく口を開けて

カットしていない挟み立てのサンドイッチにかぶり付いた。

 

「……なにをしている」

 

「ごめん。つい美味しそうで」

 

「本当にアイツに似てきたな……

 オマエ……」

 

呆れるブライアンに向かって

私は太陽みたいな笑顔を返してやった。

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