地の獄・・・!底の底・・・!
帝愛の抱える劣悪債務者達が・・・借金帳消しのため収容される強制収容施設・・・!債務者達は定められた年数、陽の光に当たることなど出来ず・・・過酷な肉体労働に従事させられる・・・。必然外出することは不可能・・・。
──ある特例を除いて・・・!
「はぁ〜〜、いいなぁ、一日外出券・・・!」
「一日とはいえ・・・解放されたい・・・!この強制労働、地下から・・・!」
この地下収容施設には、物販やギャンブルといった娯楽の他・・・存在する・・・。帝愛が用意する、勤労推奨オプション・・・!
債務者は地下の独自通貨、『ペリカ』を使って束の間の贅沢を享受することが可能・・・!その中でも最も高額なサービスこそ、一日外出券・・・。文字通り、可能・・・!一日外に出ること・・・!
「でもなぁ〜〜っ・・・!」
「無理・・・!とてもじゃないが・・・50万ペリカなんて用意できない・・・!」
無論・・・帝愛の用意するオプションが良心的価格なはずはなく、債務者達のなけなしの収入では、半年以上全ての欲を断ち・・・ようやく手にすることができる。
よって・・・地下に落ちた大半のグズどもに倹約などできるはずもなく、ただオプションを眺めるだけ・・・!傍観・・・!絵に描いた餅・・・!
『ピ──ザザッ なんだ?』
「!」
質の悪いスピーカーから帝愛の職員、黒服の声がする。グズどもが振り返れば・・・オプションを頼もうとする男が一人。
「一日外出券を・・・一枚・・・!」
「えっ・・・!?」
ざわ・・・ざわ・・・
『ガ── わかった。用意しよう』
「ありがとうございます」
「うっ・・・また・・・!?」
「すげぇっ・・・何回目だよ・・・!?」
これは・・・地下にいながらチンチロでグズどもから金を巻き上げ・・・『一日外出券』を利用しては・・・外で悠々自適な一日を送る、E班班長大槻が・・・。
──ウマ娘の世界へ転移してしまった物語である・・・!
「「「んっ〜〜・・・!」」」
大槻、解放・・・!正確には・・・大槻の側近二人、沼川と石和を伴っての外出。
「班長、今回は俺のワガママに付き合ってもらってすみません」
「ん・・・!構わんよ。てか・・・ワシも嫌いじゃない・・・競馬・・・!」
「俺もっス・・・!」
そう・・・大槻一行の今回の目的は、馬嘶き・・・博徒呻く・・・東京競馬場。
日本ダービー・・・!
ことの発端は、沼川の同郷の友人で、地下に落ちてきた債務者・・・黒木。大の競馬好きである黒木の熱意にあてられた沼川が、生でレースを観戦したいと大槻にもらしたため・・・!
「しかし・・・せっかくなら黒木と一緒にくればよかったじゃないか・・・?ワシらじゃなく・・・」
「いやぁ、流石に俺たちみたいにすぐペリカ貯まらないみたいで・・・」
「クク・・・それもそうか・・・!」
雑談しつつ、解放された公園から移動しようと歩き出す大槻。が・・・余所見をしながら歩く大槻は、公園の出口でドン、と少女とぶつかる・・・不注意・・・!
「おっとと・・・!すみません・・・!」
「ハァ・・・ったく、前見ねえと危ねえぞおっさん」
「ははっ・・・いやはや全く・・・?あ・・・?」
大槻、ぶつかった相手を見てしばし困惑・・・!少女の頭に見慣れぬ耳・・・。まるで馬の・・・!
「なんだ?私の顔になんかついてるか?」
「あ・・・、いや、なんでもないです・・・!失敬・・・!」
走り去っていく少女。呆気にとられる大槻一行・・・。
「い、今の女の子にはああいう耳飾りが流行ってるのか・・・?」
「いや・・・耳飾りっていうか・・・付け耳ですかね?」
「でも班長、作り物にしては本物みたいに動いてなかったスか?それに尻尾もあったような・・・」
石和の言うとおり・・・その見た目のみならず、動きもまるで本物。さらに大槻達を困惑させたのは・・・度々すれ違う同様の装いの少女・・・!東京競馬場に近づくほどに増える・・・!
(あ・・・?なんだ・・・?さっきからどいつもこいつも・・・馬の擬人化みたいなコスプレ・・・。前の外出の時にはなかった・・・こんなこと・・・!)
「あっ・・・!班長!見てください・・・!あの広告っ・・・!」
電車内、沼川が指差す吊り広告を見れば・・・また馬耳の装いの少女の写った広告。その少女の横に、書いてある・・・!今日のダービーに出てくると聞いていた・・・馬の名前・・・!
「競馬の新しい興行か・・・?沼川、なんか・・・そういうの、あるの?」
「いや・・・俺は聞いたことないですよ・・・。最近始まったんすかね・・・?」
「これ見た感じ、この子が走るんじゃないスか?馬じゃなくて・・・!」
「ははっ・・・!石和、流石にそれはない・・・!それじゃまるでマラソン・・・!ね、班長・・・!」
「・・・」
大槻の脳裏に纏わりつく・・・強烈な違和感・・・!流行りとか・・・そういうレベルでは片付けられない異常さ・・・。まるで、迷い込んだよう・・・!異世界・・・!
「とにかく・・・行ってみるぞ、東京競馬場・・・!そうしたらわかるはず・・・!なにかしら・・・!」
「「は、はい・・・!」」
大槻一行、到着・・・!馬嘶き・・・博徒呻く東京競馬場──
──否・・・!ウマ娘走り・・・歌奏でる・・・東京レース場・・・!
「はっ班長っ・・・!これは一体・・・?」
「がっ・・・!なっ・・・!」
理解不能・・・!光景を目の当たりにして尚・・・!競馬場を少女が走っている・・・!馬と同等の速度で・・・!
唖然・・・!余りの現実感の無さに、ただ呆然とレースを眺める大槻達・・・!やがて日本ダービーの時間になり、観客のボルテージもMAXに達するが・・・。
──大槻、ただ突っ立っているだけ・・・!無論、沼川、石和も・・・!
そのままダービーが終わり、ウイニングライブも終わって・・・客達が帰り始めた頃・・・。
「沼川・・・石和・・・」
「はい」
「なんスか?」
「夢だよな・・・?これ・・・」
「夢でしょう」
「俺もそう思うっス」
大槻一行は・・・夕食もそこそこに、予約していたビジネスホテルへ直行。各々早めの就寝・・・!夢であることを祈って・・・!
ところがどっこい・・・!夢じゃありません・・・!これが現実・・・!
「・・・はっ!?朝っ・・・!」
沼川、起床・・・!いびきを立て、爆睡中の石和に呆れながら・・・部屋を見回す。
ガチャ・・・!部屋の扉が開き、入ってくる大槻・・・。手にはコンビニに行ってきたであろう買い物袋・・・!
「沼川・・・起きてたか・・・」
「班長・・・!その、昨日の・・・あれは・・・」
「うむ・・・まずは・・・見てみろ、これ・・・!」
大槻は沼川に新聞を投げてよこす・・・。沼川がそれを広げ・・・一面を見ると──
「うっ・・・!これ、日本ダービーの・・・!?」
「ああ・・・。どうやら昨日ワシたちが見た少女たちはウマ娘と言う存在らしい・・・」
沼川が新聞を見回せば・・・さも当たり前のように扱われるウマ娘という存在。
「どういうことですか・・・!これじゃあ俺たち、まるで流行りの異世界転生したみたいじゃないですか・・・!?」
「異世界転生・・・。まあ、別にワシら死んだ訳じゃないし・・・転生ではないが、異常事態なのは事実・・・!」
「そんなのどっちでもいいですよ!どうするんです、俺たち・・・!?」
「落ち着け・・・!今日のワシらの監視は宮本さんだったろ・・・!もしワシらが地下にいる間に外が変わっていたなら、宮本さんに聞いてみればいい・・・!」
宮本・・・。帝愛の黒服にして、大槻の一日外出の監視役を名目に、度々大槻たちと共に出かけることを楽しみにしている男。黒服の中では最も親しく、大槻としても信頼を置いている・・・。宮本に話を聞けば間違いないという考えが、大槻にあった。
「とりあえず石和を起こして、宮本さんに話を聞きに行くぞ・・・!」
「そ、そっすね・・・!そうしましょう・・・!」
石和をたたき起こした後、大槻一行は・・・宮本の待つはずのホテルロビーへ向かう。ロビーには、コーヒー片手にスマホをいじる宮本。大槻、見慣れた顔に安堵・・・!
「あ・・・!宮本さん・・・!」
「お、早いなお前ら!昨日ダービー見に行ったんだろ?いいな~!俺も行きたかったな~」
「それがおかしいんですよ!俺たち競馬を見に行ったはずなのに、走ってたのはウマ娘っていう女の子で・・・!」
食い気味に言う沼川に、しかし宮本は怪訝な表情。
「はぁ?何言ってんだ、レース場なんだからウマ娘が走ってるのは当然だろ?」
「ぐっ・・・!そんな、いつから・・・?」
「いつからってお前・・・。ずっと昔からだろ」
(ちっ・・・!覚悟はしていたが・・・やはりワシらが地下にいる間に外が変わったわけではない・・・。本当に来てしまったのか?異世界・・・!)
大槻は・・・声には出さないが、内心強いショックを感じていた。異世界に転移してしまったという事実もあるが・・・何気に一番気落ちしたのは、宮本がこちらサイドの認識を持つ状態ではなかったということ・・・!
沼川と石和が自分と同じく異世界に来たとして、なんとなく宮本もそうなのではないかという、根拠のない淡い期待があった。が・・・無情にも宮本はこの世界側の人間。
「班長っ・・・!やっぱり俺たち・・・」
「ああ・・・。だが今はそんなことを言ってる場合じゃない。沼川、地下に戻る前にできることをしておくぞ」
「え・・・!?できることって・・・?」
「知っておく必要がある・・・!この世界の常識・・・!」
大槻に連れられ一行は・・・やってきた・・・!図書館・・・!
「いいか、お前ら・・・!地下に戻るまでの残された時間、とにかくウマ娘について調べるんだ・・・!どんなことでも・・・!」
「そ、そんな・・・!メシはどうするんですか、班長っ・・・!」
「うろたえるな石和・・・!ある・・・!図書館内にもカフェや食堂が・・・!」
そんなわけで・・・大槻一行は図書館にてウマ娘についての情報を調べにかかる。大槻が危惧するのは、この世界の常識がないことによる弊害が生まれること・・・。ダービーのその時こそ呆然としていたが、思い返せば、その熱狂は競馬以上に凄まじい。それに、街を見回せばウマ娘、ウマ娘、ウマ娘・・・。
(そう・・・。この世界のウマ娘の存在は大きい・・・。大きすぎるほどに・・・!街中の広告や、テレビでも、まるでタレントや国民的アスリートのような扱い・・・!となれば必然・・・地下の物販などにも影響があるはず・・・!)
大槻は、児童書から歴史書まであらゆる『ウマ娘』を題材にした本を読みふけっていく。途中・・・カフェで遅めの朝食を楽しみながら、昼時になるまでにはかなりの情報を集めることに成功していた。
(ウマ娘は、人に近しい姿をしているが、反面超人的な身体能力を備えた神秘的生物・・・。容姿に優れた者が多く・・・彼女たちが行うレース競技と、ウイニングライブなどのアイドル的活動は熱狂的人気・・・。そして、競馬とは違い、そこに一切の賭け事は行われていない)
「班長!どうですか、そちらはわかりましたか、『ウマ娘』について・・・!」
「ああ、おおよそのことは分かった。が・・・そろそろ時間だな」
大槻と沼川が同時に腕のタイマーに目を落とすと、一日外出の時間はもう残り数分まで迫っていた。
「タイムアップ、ですね・・・」
「地下に戻ったらお互いに調べたことのすり合わせをするぞ。よく覚えておけよ」
やがてタイマーがゼロになり、大槻たちは迎えの黒服が来るのを待つが・・・待てども一向に来る様子がない。しびれを切らして宮本のもとへ向かうと、宮本は大槻たちを連れ戻そうとする様子もなく、パラパラと雑誌を読んでいた。
「あ・・・?なんだ、用事は終わったか?」
「いや、終わったも何も・・・時間じゃないですか?地下に戻る・・・」
「は?なんだよ地下って・・・。もうやることないなら帰るぞ、トレセン学園に・・・!」
大槻、再び衝撃・・・!想定外の地下強制労働者という身分、消失・・・!代わりに宮本の口から飛び出したのは、トレセン学園という名・・・ウマ娘がレースを走るために入学し、切磋琢磨する学園施設。
「な、なんで俺たちがトレセン学園に・・・?」
「あ~!?なんだ沼川、お前今日ちょっとおかしいぞ・・・!お前ら債務者トレーナーがトレセン学園に帰るのは当然・・・!自明の理・・・!」
「なっ・・・!債務者は事実にしても・・・俺たちが、トレーナー・・・!?」
「は・・・はああぁぁ~~~~っ!?」
ウマ娘の存在だけでなく・・・自身の身分さえも変わったということをようやく知った大槻たち・・・。
大槻の異世界トレーナー録は、まだ始まったばかりである・・・!